IPL(Intense Pulsed Light)の包括解説
1. IPLの基本原理(光の性質と選択的光熱分解)
IPL(Intense Pulsed Light、強力なパルス光)とは、非コヒーレントで多波長の光エネルギーを発生するキセノンフラッシュランプを光源とした機器ですjstage.jst.go.jp。レーザー光が単一波長であるのに対し、IPLは可視光から近赤外光(およそ400~1200 nm)の幅広い波長域を含み、フィルターによって特定の波長帯のみを照射に利用しますjstage.jst.go.jpdermatol.or.jp。例えば、515 nmや560 nmといったカットオフ・フィルターを用いると、それより短い波長を除去して所定の波長範囲(例:560~1200 nmなど)の光を照射できますjstage.jst.go.jp。こうした広帯域のパルス光は、メラニンやヘモグロビン、水など複数の「クロモフォア」(標的となる色素)に吸収される特性があり、一度の照射で色素斑と毛細血管拡張など複数の症状に作用できる点が特徴ですdermatol.or.jp。レーザーが単一の問題に高い選択性を持つのに対し、IPLは一度に多方面の肌トラブル改善を狙える「フラッシュ型」の治療光と言えます。
IPLの作用メカニズムの根幹には選択的光熱分解(Selective Photothermolysis)の理論があります。1983年にAndersonとParrishらによって提唱されたこの理論では、「標的がよく吸収する波長」の光を「標的の熱緩和時間よりも短いパルス幅」で照射することで、標的組織(色素や血管)に選択的な熱変性を起こし、周囲の正常組織への熱影響を最小限に留めることが可能になりますdrsato02.comdrsato02.com。IPLもこの理論に基づき、適切な波長帯・パルス幅・エネルギー密度を設定することで、皮膚内のメラニン(シミやそばかすの原因)やヘモグロビン(毛細血管や赤ら顔の原因)といったターゲットだけを選択的に加熱・凝固します。例えばIPL照射により過剰なメラニンを含む表皮細胞は熱変性し、処理後に微細な痂皮となって排出されたり(シミ治療の原理)、拡張した毛細血管内の血液は凝固して血管壁が閉塞されます(赤ら顔治療の原理)candelakk.jp。パルス幅はミリ秒(ms)オーダーで調整でき、標的の大きさに応じて適切な長さに設定します。小さな血管や表在のシミには短いパルス幅(数ms)、太い血管や毛包にはやや長めのパルス幅(数十ms)が用いられ、標的の熱緩和時間より短いパルスで瞬間的に加熱することで効率よくダメージを与えますdrsato02.com。また、多くのIPL機器では1回の照射パルスをさらに細かく2~3に分割した「ダブルパルス」「トリプルパルス」設定が可能で、パルス間の短い間隔で表皮を冷却しつつ真皮のターゲットへ熱蓄積させることで、表皮のやけどリスクを抑えつつ十分な効果を得る工夫がされていますjstage.jst.go.jp。
IPL照射時には冷却も重要な要素です。一般的に照射部位には冷却ジェルを塗布し、IPLのサファイア製フィルターを皮膚に密着させて軽く圧迫しながら光を当てますjstage.jst.go.jp。ジェルは光の屈折や散乱を防ぐ光学的カップリングの役割と、冷却による疼痛緩和の役割を果たしますjstage.jst.go.jp。IPL光はレーザーに比べ拡散性が高く、フィルターを肌から浮かせると出力が急激に低下するため、フィルター面をしっかり密着させることがポイントですが、強く押し付けすぎると熱傷の原因となるため注意が必要ですjstage.jst.go.jp。ほとんどのIPL機器はハンドピース内部にランプと冷却機構を備え、照射面を冷却しながら施術できるよう設計されています。総じてIPLは、広範囲を短時間で照射できる利点と、適切なフィルター選択とパルス制御で安全域が広いという特徴があり、光治療入門のエネルギーデバイスとして美容皮膚科領域で広く普及していますjstage.jst.go.jpjstage.jst.go.jp。
2. IPLの適応疾患・症状
IPLは、皮膚の色素性病変および血管性病変を中心に、幅広い美容皮膚科領域の症状に適応があります。代表的な適応となる疾患・症状を以下にまとめます。
- しみ・そばかす(良性の色素斑):IPLは老人性色素斑(いわゆる日光黒子)や雀卵斑(そばかす)などの表在性色素斑の治療に用いられますcandelakk.jp。メラニンに吸収される波長で選択的に表皮の過剰なメラニンを熱変性させることで、照射後1週間前後で薄い痂皮やくすみとして剥離・排出され、徐々に色調が改善します。IPL一回の照射効果はマイルドですが、回数を重ねることでシミ全体が薄くなるため、複数回の施術で徐々に均一な肌色へと導くことができますasami.clinic。特に顔面の散在する細かなシミを一括して改善するのに適しており、「フォトフェイシャル」という名称でも知られていますasami.clinic。なお、従来はQスイッチレーザーがシミ治療の主力でしたが、強力すぎる照射は炎症後色素沈着(PIH)を引き起こすリスクが高いため、近年はIPLの方がPIHが少ないとの比較研究報告もあり、安全性の面からIPLを好むケースもありますdermatol.or.jp。国内でも皮膚科医の河田らや田中らによる研究で、日本人のシミ治療にIPLが一定の有効性を示すことが報告されていますdermatol.or.jp。
- くすみ・肌質改善(スキンリジュビネーション):IPLは「光のフェイシャル治療」として、顔全体のトーンアップやハリの向上など皮膚の若返り(photorejuvenation)目的にも用いられますjstage.jst.go.jp。IPLの光エネルギーが真皮上層に適度な熱刺激を与えることで線維芽細胞が活性化され、コラーゲン線維やエラスチン産生が促進されるとの報告がありますks-skin.comjstage.jst.go.jp。実際、IPL治療を繰り返すことで真皮コラーゲン量の増加や表皮の厚み増大が認められたとの研究もあり、細かなシワや毛穴の開大の改善効果が期待できますks-skin.com。また肌全体の色ムラが是正されることで透明感が増し、健康的な肌質感へとリジュビネーションされます。IPLはこのような非侵襲的スキンケア治療として1990年代後半に注目を集め、現在では光老化対策の定番治療の一つとなっていますjstage.jst.go.jp。
- 赤ら顔・毛細血管拡張:顔面の持続的な紅斑や毛細血管の透見(毛細血管拡張症)、いわゆる酒さ(しゅさ)や赤ら顔の症状に対して、IPLは血管に作用する治療法として有効ですr-mm.clinic。IPLの波長スペクトルには血中の酸化ヘモグロビンに吸収される範囲(特に500~600 nm付近)が含まれており、拡張した表在の毛細血管を熱凝固して縮小させることができますlucina-clinic.jp。日本皮膚科学会の酒さ治療ガイドライン(2022年改訂)でも、紅斑・毛細血管拡張型の酒さに対する治療としてVビームレーザー(595 nmの色素レーザー)やIPL治療が推奨されており、臨床的にも一定の有効性が確認されていますr-mm.clinic。症状の程度に応じて月1回程度のIPL照射を3~5回行うと、顔のほてりや赤みが緩和し毛細血管拡張が目立ちにくくなるケースが多いですkagaikeda-derm.com。なお、酒さの膿疱・丘疹など炎症が強いタイプには薬物療法が主体となりますが、赤み主体のタイプではIPLが保険治療で改善しきれない部分を補完する自費治療として広く行われていますr-mm.clinic。
- ニキビ・ニキビ痕:IPLは炎症性ニキビの治療補助およびニキビ痕の赤み・色素沈着改善にも応用されます。IPLの青~緑色光(例:400~500 nm付近)はニキビ原因菌であるアクネ菌(C. acnes)が産生するポルフィリンに吸収され、一重項酸素を発生させて抗菌作用を示すことが知られていますks-skin.com。このため、一部のIPL機器には**ニキビ専用フィルター(例えば415 nmや430 nmなど)**が搭載されており、光殺菌効果と皮脂腺の抑制効果によって炎症期のニキビ数を減少させることができますks-skin.com。またIPLは先述の通り赤ら顔治療にも使われるため、**ニキビ跡の赤み(炎症後紅斑)を改善するのにも適していますks-skin.com。さらに、メラニンへの作用で炎症後の色素沈着(茶色いニキビ痕)**の改善効果も期待でき、ニキビ治療後の肌の色ムラを整える目的でしばしば用いられますks-skin.com。ただし、活動性の強い重度のニキビに対してIPL単独で劇的な改善を得ることは難しく、抗生剤やイソトレチノイン内服、ケミカルピーリングなどと併用しながらの補助的な位置付けになります。実際、IPLのニキビ治療効果についてのメタアナリシスでは、「PDT(光線力学療法)など他の補助療法に比べるとIPLの有効性は劣る」と報告されており、重症例では光感受性増強剤を併用するPDTの方が有効との指摘もありますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。一方で、軽症~中等症のニキビやニキビ痕にIPLを組み合わせることで治癒を早めたり、従来治療で残る赤みを軽減できるため、ニキビ治療の一環としてIPLを併用する意義は十分にあります。治療は2~4週おきに数回繰り返すのが一般的で、炎症の引いたニキビ跡の赤みに対しては患者さんの肌状態に応じて適宜施術間隔や回数を調整します。
- 毛穴の開大・肌のハリ低下:IPL治療の別名「フォトフェイシャル(Photofacial)」が示すように、光による総合的な美肌治療効果の中には毛穴の目立ち改善や肌質の向上も含まれますks-skin.com。IPL照射後に真皮コラーゲンがリモデリングされ、数週間~数ヶ月かけて肌の弾力が増すことで毛穴が引き締まる効果が報告されていますks-skin.comks-skin.com。特に加齢や紫外線ダメージで生じた小じわ(ちりめんジワ)や軽度のたるみ毛穴に対して、IPLを月1回程度で複数回行うことで、肌全体にハリと潤いが出てエイジングサインが緩和されることがありますks-skin.comks-skin.com。これらの効果はレーザーのように深い組織変性を起こすほど強力ではありませんが、ダウンタイムがほとんどなく穏やかに改善していく点で患者満足度は高いですasami.clinicks-skin.com。
- 脱毛(長期的な減毛):IPLはもともと脱毛用光治療として開発・普及した経緯があり、濃い体毛の長期減毛にも使用されますjstage.jst.go.jp。毛のメラニンに吸収される中~長波長(一般に600~1000 nm付近)の光エネルギーが毛包に熱変性を起こし、毛母細胞にダメージを与えて発毛を抑制します。レーザー脱毛ではアレキサンドライトレーザー(755 nm)やダイオードレーザー(810 nm)、YAGレーザー(1064 nm)など単一波長のレーザーが主流ですが、IPLも適切な設定で同程度の減毛効果を示すことが報告されていますdermatol.or.jp。特に肌質と毛質の条件が合えばIPLでも太い毛の脱毛は可能であり、一部の機種(例:カットオフ695 nm以上など)は医療用脱毛器として承認を取得していますlumenis.co.jpks-skin.com。もっとも、一般にはレーザーの方が少ない回数で高い減毛効果を出しやすいため、医療脱毛ではレーザー機が選択されることが多く、IPLは主に美容皮膚科での顔やうなじの産毛処理やエステサロンでのライト脱毛などに利用される傾向があります(※国内ではエステでの無資格者によるIPL脱毛は法的にグレーゾーンですが、弱出力機器が広く出回っています)。しかし昨今、ルミナス社のOptiLight(M22ベース)がドライアイ治療(マイボーム腺機能不全の改善)を目的としたIPL機器として国内承認されるなどlumenis.co.jp、医療分野でのIPL応用が再評価されつつあります。今後、脱毛以外も含めた多目的IPLの保険診療化が進めば、更なる普及が期待されます。
以上のように、IPLはシミ・くすみなどの色素性病変、赤ら顔などの血管性病変、ニキビや毛穴・ハリの改善、脱毛と非常に適応が広い治療法ですcandelakk.jp。一方で悪性の可能性がある病変(黒色腫や皮膚癌が疑われるシミ等)には照射すべきでない点に留意が必要ですdermatol.or.jp。また難治性の肝斑はIPLではかえって悪化する恐れがあり注意を要します(後述)。適応疾患の見極めと的確な診断が、安全で効果的なIPL治療の前提となります。
3. IPLの禁忌・注意点(照射が望ましくないケース)
IPLは比較的安全性が高い治療ですが、以下のような禁忌または注意すべきケースがあります。施術前に十分な問診と診察で確認し、必要に応じて施術を控えるか慎重に対応します。
- 強い日焼け直後の肌・色黒の肌:日焼けによって表皮メラニンが増えた状態では、IPL光が過剰に表皮で吸収され熱傷リスクが高まります。施術前後少なくとも数週間は日焼けを避け、肌の色調が落ち着いてから照射します。先天的に色素の濃い肌(肌タイプIV以上)ではエネルギー設定に細心の注意が必要で、場合によってはIPLより長波長のレーザーの方が安全なこともあります。IPLは色白~中間色の肌に適し、色黒の方では慎重に出力調整する必要がありますlucina-clinic.jp。
- 光過敏症や光感受性を高める薬剤内服中:特殊な光線過敏症(ポルフィリアなど)の患者や、光に過敏に反応する疾患(全身性エリテマトーデスの一部など)ではIPL照射により症状悪化の恐れがあります。また、光増感作用を持つ薬剤(一部の抗生物質:テトラサイクリン系、ニューキノロン系、サプリのセントジョーンズワート等)を内服中の場合も、照射による予期せぬ日焼け様反応が出る可能性があります。こうした場合は薬剤休薬後しばらく経ってから施術するか、あるいは代替治療を検討します。**イソトレチノイン(経口ビタミンA誘導体)**を服用中および中止後6か月以内の患者も、創傷治癒遅延や色素沈着が起こりやすいとの指摘から照射を控えるのが一般的です。
- 妊娠中の患者:妊娠中はホルモン変化により色素沈着しやすかったり、予測不能な肌反応が出る可能性があります。また胎児への直接的な悪影響は考えにくいものの、安全性に関する十分なデータがないため、美容目的のIPL治療は妊娠中は原則として行わないのが通例です。産後ホルモンバランスが落ち着いてから治療再開します。
- 施術部位に炎症性疾患や傷がある場合:照射予定の皮膚に明らかな炎症(急性湿疹、かぶれ、重度のニキビなど)や感染症(ヘルペス、蜂窩織炎など)、治りかけの傷がある場合、その部位へのIPL照射は避けます。炎症部には予測不能の色素沈着や悪化リスクがあり、まず基礎疾患の治療を優先します。また、口唇ヘルペスの既往がある患者に顔面IPLを行う際は、施術刺激で潜伏ウイルスが再活性化する可能性があるため抗ヘルペス薬による予防内服を検討します。
- ケロイド体質・瘢痕形成傾向:IPL自体は真皮深層まで強い損傷を与える治療ではありませんが、過去に軽微な外傷でもケロイドを形成した既往のある患者では万一の熱傷時に肥厚性瘢痕化しやすい可能性があります。極力低出力から慎重にテスト照射を行い、安全を確認してから治療を進めます。
- 無診療での施術(違法行為):医師の診察なしにエステサロン等でIPL照射を受けることは、日本では医師法違反(無資格医療行為)に該当するおそれがあります(詳細は後述)。また、患者自身がネット等で購入した家庭用IPL器で濃いシミやホクロを照射するのも大変危険です。悪性病変の見逃しや火傷による傷害など重大なリスクがありますので、必ず専門の医師の判断のもとで施術を受けるよう注意喚起が必要ですdermatol.or.jp。
以上のほか、明らかな悪性腫瘍が疑われる皮疹やホクロは絶対的禁忌であり、前述のとおり組織検査など適切な診断・治療が優先されますdermatol.or.jp。また、眼球への曝露にも十分配慮が必要です。IPLは非常に強い可視光を発するため、照射時には患者・施術者ともに専用のアイシールドやゴーグルで眼を保護します。特に眉間やまぶた周囲を照射する際は、眼瞼を通過した光が網膜に達しないよう角膜保護板を挿入するなど安全策を講じます。これら禁忌・注意事項を順守することで、IPL治療の安全性は格段に高まります。
4. 治療プロトコル(照射設定、施術頻度、前後のケア)
IPL治療のプロトコルは治療目的や使用機種によって多少異なりますが、ここでは一般的なフェイシャルIPL(シミ・くすみ・赤ら顔治療を兼ねた光治療)の基本的な流れを説明します。
●照射前の準備・ケア: 施術前には医師による診察で適応と安全を確認し、治療内容やリスクについて十分な説明と同意を得ますdermatol.or.jp。患者には前後の注意点(特に日焼け厳禁やスキンケア)を指導します。照射当日は洗顔で皮脂やメイクを落としてもらい、必要に応じて施術部位を剃毛します(顔の場合は産毛処理)。施術ベッド上で眼の保護具を装着し、照射部位に冷却・浸透を助ける専用ジェルを薄く塗布します。その後、患者の肌質・症状に合わせ選択したフィルターと設定でテスト照射を行い、数分観察して過剰反応がないことを確認してから本照射に移ります。
●照射パラメータの設定: パラメータは使用する機種のマニュアルに沿って決定しますが、おおまかな目安として以下のような調整を行います。まずフィルター(カットオフ波長)は治療ターゲットにより選択します。シミ・くすみの治療では515 nmや560 nmなど比較的低いカットオフを使い短波長成分を含む光でメラニン吸収を狙います。一方、赤ら顔の治療では590 nmや615 nm以上のフィルターで長波長寄りの光を当て、真皮の血管に届くエネルギーを増やしますks-skin.com。複数の悩みを同時に改善したい場合は、中間的な560 nmフィルターでバランスよく対応することもあります。フルエンス(光エネルギー密度, J/cm²)は肌質と病変に応じて調整します。色白の肌や浅いシミには中程度のフルエンスから始め、色素沈着リスクが高い肌タイプでは低めの設定から様子を見ます。例えばシミ治療では10~20 J/cm²程度から開始し、反応を見て徐々に上げることがあります。血管病変にはやや高めのエネルギーが必要ですが、表皮リスクとのトレードオフを考慮します。パルス幅は機種ごとに調整範囲が異なりますが、表在のシミには短め(例:3~5 ms)、赤ら顔には中程度(10~20 ms)、毛細血管や毛には長め(20~30 ms以上)といった目安がありますlucina-clinic.jp。またパルス発生方式も設定可能なら選択します。一般的なIPLはシングルパルスかダブルパルスが多く、一発の光を分割することで表皮のピーク加熱を抑えます。例えば「3 ms×2発(間隔20 ms)」という設定なら、一度に6 ms照射するより表皮へのダメージが少ない割に真皮には熱が蓄積しやすくなります。機種によってはトリプルパルスもあり、設定自由度が高いほどオーダーメイドの調整が可能ですks-skin.com。
●照射の実施と痛み対策: パラメータ設定後、いよいよ顔全体へのIPL照射を行います。ハンドピースを肌に押し当て、「1ショット→少しずらしてまた1ショット」という具合に連続で光を当てていきます。顔全体(額・両頬・鼻・顎)で通常20~30ショット程度照射し、施術時間は10~15分程度です。照射中の痛みは「輪ゴムで弾かれるような軽い刺激」と表現され、多くの患者は我慢できる程度ですが、怖がる方には冷風を当てながら行ったり声掛けを丁寧にして安心してもらいます。必要に応じ、表面麻酔クリームを事前に塗布することもありますが、通常のフォトフェイシャルではほとんど不要です。現行のIPL機器は強力な冷却が備わっており、光照射と同時に冷却も働くため痛みは比較的軽微ですlucina-clinic.jp。
●照射直後のケア: 全照射終了後、ジェルを拭き取りクーリングを数分行います。多くの場合、施術直後の肌はほてり感と軽度の紅斑がありますが、10~30分程度で落ち着きます。シミ治療では照射部が薄い焦げ茶色~黒色に反応して浮き出てくることがありますが、これはメラニンが熱変性を起こした正常な反応です。無理にこすらず、自然に剥がれ落ちるまで保湿に留意して経過を見ます(約1週間でポロポロと剥離します)。照射後数日は紫外線感受性が高まっている可能性があるため、日中はしっかりと日焼け止めを使用し直射日光を避けます。施術当日の入浴はぬるめのシャワー程度にし、長風呂やサウナは控えます。洗顔も強く擦らず優しく行い、刺激の強い化粧品(ピーリング剤やレチノールなど)は1週間程度中止します。こうしたアフターケアを守ることで、副作用の発生を抑え効果を最大限高めることができます。
●施術間隔と回数: IPL治療は1回でも効果はありますが、通常は複数回のシリーズ照射でより高い満足度が得られますasami.clinic。肌のターンオーバーや真皮リモデリングのサイクルを考慮し、3~4週間おきに1回の頻度で施術するのが標準的ですasami.clinic。シミ・くすみ・赤ら顔など複合的なお悩みの場合、5回程度繰り返すことで効果が蓄積し、肌状態のピーク改善が得られるとされていますasami.clinic。重度の色素沈着では10回前後必要なこともありますが、多くは5~6回で患者自身がはっきり改善を実感します。また、一通り治療が完了し満足な状態になった後も、その若返り効果を維持するため3~6か月に1回のメンテナンス照射を行うことが推奨されますasami.clinic。定期的に光刺激を与えることでコラーゲン産生が促され、エイジングの進行を遅らせる効果が期待できるとの報告もありますks-skin.com。
以上が基本的なプロトコルですが、患者ごとに肌質・症状・生活背景は異なるため、実際はオーダーメイドの照射計画を立てることが重要です。例えば肝斑様のシミが混在する場合はIPLだけでなく外用剤併用を提案する、毛細血管が強い場合はVビームレーザーを併用する、など柔軟に計画します。また治療途中でも反応を見ながらパラメータを微調整し、過不足のない治療量を見極めていきます。このようなきめ細かな対応には施術者の経験と知識が不可欠であり、「マニュアル通りに当てれば誰でも同じ結果」ではない点に留意が必要ですdermatol.or.jp。IPL治療は正しいプロトコルと適切なアフターケアによって、初めて安全かつ有効に行えるということを念頭に置くべきでしょう。
5. 機器の種類と比較(主要メーカー、波長フィルターの違い、日本国内承認機器)
現在、市場には多数のIPL機器が存在し、それぞれ光源性能やフィルター構成、冷却機構などに特徴があります。主要メーカーとしては、ルミナス社(イスラエル)、シネロン・キャンデラ社(米国)、フォトナー社(スロベニア)、インモード社(イスラエル)、サイノシュア社(米国)などが挙げられます。日本国内でも広く普及している代表モデルには、ルミナス社の「M22」、シネロン・キャンデラ社の「Nordlys(ノーリス)」、米Sciton社の「BBL(ブロードバンドライト)」、インモード社の「Lumecca(ルメッカ)」、キュテラ社の「Xeo(Limelight)」などがあります。それぞれ発振スペクトルやパルス技術に工夫があり、治療効果や快適性に違いがあります。
●ルミナス社 M22シリーズ: IPLのパイオニア企業であるLumenis(旧ESC社)のM22は世界中で広く使われ、「フォトフェイシャル(Photofacial)」の名称を生み出した機種ですasami.clinicks-skin.com。M22は1台でIPLだけでなくヤグレーザー等も搭載できる多機能プラットフォームで、日本でも美容皮膚科の標準IPLとして認知されています。標準で5種類(515, 560, 590, 615, 640 nmカットオフ)のフィルターが付属し、オプションで血管用やニキビ用フィルターも追加可能という計8種類の波長フィルターを備えていますks-skin.com。これにより患者個々の肌色や症状に合わせたオーダーメイド照射が可能で、シミ(肝斑含む)・くすみ・小ジワ・赤ら顔・ニキビ跡などあらゆる悩みに一台で対応できますks-skin.com。M22は日本の厚生労働省からも一部承認を取得しており(承認番号22500BZX00469000)、安全性試験を経て国内で正式に流通していますks-skin.com。もっとも、その承認は特定の適応症に限られ、シミ・赤ら顔治療用途自体は承認外使用であるため(※ドライアイ治療用など別適応で承認)、国内では医師の裁量で自由診療に用いられているのが現状ですasami.clinic。2020年代に入り、後継機の「Stellar M22」も登場しており、出力安定性やユーザーインターフェースが改善されていますlumenis.co.jp。ルミナス社はIPLのみならず多くの医療用レーザーを手掛ける大手であり、M22は「実績と信頼のある万能IPL」として国内でも根強い人気を誇ります。
●シネロン・キャンデラ社 Nordlys(ノーリス): Candela社のNordlysは、デンマークのEllipse社が開発したIPL技術を継承した機種で、近年日本で脚光を浴びています。国内初の薬事承認IPLとして2022年に「皮膚色素性疾患用光治療器」として厚労省承認を取得し、安全性と有効性のお墨付きを得ていますcandelakk.jp。Nordlysの特徴はSWT(Selective Waveband Technology)と呼ばれる独自技術で、二重フィルターと水フィルターによって不要な波長成分を徹底的にカットしている点ですginzaskin.com。具体的には、400 nm以下の紫外線領域と950 nm以上の赤外線領域を水フィルターで除去し、メラニンやヘモグロビンに効果的な中間波長帯のみを照射しますginzaskin.com。これにより少ないエネルギーでも効率よく反応を得ることができ、火傷リスクを低減できるとされていますginzaskin.com。またパルス幅もマイクロ秒オーダーからミリ秒まで自在に設定でき、レーザーに近い精密なパラメータ調整が可能ですcandelakk.jp。Nordlysは専用ハンドピースを付け替えることで、IPLのほかに波長1064 nmと1550 nmのレーザー機能も利用できるプラットフォーム機です。一台でIPLとレーザーの長所を融合した治療が可能な点も強みでしょう。適応としては老人性色素斑、雀卵斑、脂漏性角化症といった良性色素斑、毛細血管拡張や赤ら顔などの血管病変、そして長期的な減毛までカバーするオールマイティーさが謳われていますcandelakk.jp。日本では2022年4月に発売開始され、承認機という安心感から大学病院などにも導入が進んでいますcandelakk.jp。
Nordlys(ノーリス)IPL装置のハンドピース。水フィルター採用により画面に示すような長波長(IR)成分がカットされている。
図:ノーリスはメインコンソールに多数のパルス設定を表示し(画面上)、手元のハンドピースからそれを照射できる。人間工学に基づいたデザインで操作性が高い。
●インモード社 Lumecca(ルメッカ): イスラエルInMode社製のLumeccaは「次世代IPL」として近年注目される機種です。特に発光スペクトルの最適化と高出力化に特徴があります。通常のIPLでは500~600 nm付近の出力は全体の15%程度ですが、Lumeccaは同範囲に約40%ものピークパワーを集中させていますlucina-clinic.jp。これはメラニンとヘモグロビンに最も作用する波長域であり、シミ・赤ら顔治療効率を飛躍的に高めることに成功していますlucina-clinic.jp。さらにLumeccaはパルス幅が数msと非常に短く、従来IPLの5~10分の1しかないため、小さな標的への選択性が高まりますlucina-clinic.jp。メラノソーム(メラニン顆粒)は熱を受けても素早く冷却される性質があるため、短いパルスほど効果的に破壊でき、また細い血管も短パルスの方が凝固しやすいとされていますlucina-clinic.jp。その結果、少ない回数(1~2回)でも従来IPLの5~6回分に匹敵する改善効果が得られると報告されていますlucina-clinic.jplucina-clinic.jp。出力ピークが高い分リスクも伴いますが、Lumeccaは強力なサファイア接触冷却により痛みや熱傷を抑えており、強い効果と安全性を両立していますlucina-clinic.jp。日本では未承認ですが、多くのクリニックが医師個人輸入で導入し話題となっています。とりわけ**「1回でシミがかなり薄くなった」「施術の痛みが少ない割に反応が鋭い」**といった臨床報告もあり、今後承認取得が期待されるデバイスです。
ルメッカ(赤線)と通常IPL(青線)のスペクトル比較。Lumeccaは500~600 nm付近に出力のピークを持つ設計で、メラニン・ヘモグロビンへの効果を高めているlucina-clinic.jp。一方、一般的なIPLは青線のようにスペクトルが広く分散し、800 nm付近にもピークが見られる(これらは水や組織加熱に寄与する成分)。
●その他のデバイス: 米Sciton社のBBLは「ブロードバンドライト」と称し、高速連射や肌質測定システムを特徴とするIPLです。BBLを長期定期照射することで肌老化の遅延効果を示した研究(いわゆる「フォーエバーヤングBBL」)も報告され、将来的なアンチエイジング用途として注目されています。米Cynosure社(旧Palomar)のIconやStarluxにもIPLモジュールがあり、「MaxG」「MaxYs」といったハンドピースで色素・血管に対応できます。日本メーカーでは高出力LEDによる類似の光治療器も出ていますが、医療用IPLとしては海外製が中心です。
●国内承認状況: 上記のとおり、2022年にNordlysが国内初のIPL承認機となりましたcandelakk.jp。それ以前は、M22が厚労省承認(医療機器承認)を得てはいましたが、実際には脱毛器や眼科治療器としてであり、皮膚のシミ治療など美容目的は承認外でしたasami.clinic。したがって国内でシミ・赤ら顔治療に用いられるIPLの多くは「未承認機器」扱いであり、医師の裁量による個人輸入で導入されていますasami.clinic。未承認とはいえ効果が劣るわけではなく、海外では十分実績のある機器がほとんどですasami.clinic。医療機関では未承認IPLを使用する際は患者にその旨を説明する義務がありますasami.clinic(詳細は後述)。今後も有望なIPL機器の承認申請が進めば、日本でもより安心してIPL治療を受けられる環境が整うでしょう。
6. 合併症と副作用(起こり得る症状と対処)
IPL治療は適切に行えばダウンタイムの少ない安全な施術ですが、それでもエネルギー光照射である以上、以下のような合併症・副作用が起こる可能性があります。主なものと対処法について解説します。
- 熱傷(火傷): 過度なエネルギー設定や不適切なフィルター選択、あるいは冷却不足などにより、表皮に熱傷を生じることがあります。症状としては照射部位の強い発赤、腫れ、水疱形成(場合によってはびらん)などです。特に色素の濃い部分や薄い皮膚(まぶたなど)は要注意です。熱傷が起きた場合は速やかにクーリングし、ステロイド外用や創傷被覆材で処置します。水疱は無闇に潰さず感染予防に努めます。通常、浅い熱傷であれば適切な処置で数日~1週間で治癒しますが、深い熱傷は瘢痕化や色素異常を残す恐れがあるため、予防が最重要です。施術者は患者の肌状態に応じて常に安全マージンを持った出力設定を心掛け、異常な痛みの訴えがあれば直ちに確認・対応します。
- 色素沈着・色素脱失: IPL照射後、炎症後色素沈着(PIH)が生じることがあります。特に元々色素沈着を起こしやすい肌質の人や、過度に強い設定で照射した場合に見られ、照射部位が茶色っぽくくすんだ状態が数週~数ヶ月続きます。日本人の肌ではレーザー照射後にPIHが問題となることが多いですが、IPLではレーザーよりPIH頻度が少ないとの報告もありますdermatol.or.jp。とはいえゼロではないため、施術後の日焼け厳禁や保湿の徹底などでリスク軽減に努めます。一方、稀に色素脱失(白斑)が起こることもあります。これは照射によってメラノサイトがダメージを受け、局所的に色素が抜けてしまう現象です。強い熱傷後や、過去に液体窒素治療などを受けていた部位に起こりやすいです。色素脱失は回復に長時間を要するか、永久的になる可能性もあるため、やはり予防に勝る対策はありません。施術前に患者の肌ダメージ既往を把握し、懸念がある場合は弱めの設定から始めます。
- 一時的な紅斑・浮腫: 照射直後に治療部位が**赤くなる(紅斑)ことはほぼ全例で見られます。これは光エネルギーによる一過性の炎症反応で、通常数時間~翌日には消退します。また、目に見えない程度の軽度の浮腫(むくみ)**が生じ、顔全体がほんのり張った感じになることがありますが、こちらも1~2日で自然に治まります。紅斑・浮腫自体は生体の正常反応なので心配いりませんが、強い腫れや痛みを伴う場合は熱傷の前兆の可能性があります。施術者は術後観察を十分行い、明らかに異常な反応があれば早期に対処します。患者には照射当日~翌日にかけて冷たいタオルで優しく冷やすなどセルフケアを指導します。
- 紫斑・内出血: 血管病変に高エネルギーで照射した際、皮下で細かい出血が起こり紫斑(内出血あと)となることがあります。特に顔面の毛細血管や赤ら顔治療ではめったに出ませんが、手足の血管腫や静脈湖などをIPLで処理すると青あざ状の紫斑ができる場合があります。これはターゲット血管が破壊されたことによる副産物で、1~2週間で自然に消えます。患者には経過中コンシーラーなどで隠すこともできると説明し、心配のないことを伝えます。どうしても紫斑リスクを避けたい部位・職業の人には、IPLではなくダイレーザー(Vビーム等)など紫斑のできにくい他の血管レーザーを選択するのも一つです。
- 毛嚢炎・ニキビ様発疹: 照射後に稀ですが毛嚢炎(毛穴の細菌感染)や一時的なニキビの悪化が生じることがありますaurora-clinic.jp。これは照射で一時的に皮膚バリアが乱れたり、熱で常在菌叢に変化が起こるためと考えられます。通常は数個の小膿疱が出る程度で、洗顔清潔を保てば自然軽快します。必要に応じて抗生剤の塗り薬を処方します。また、IPL照射により隠れていたニキビが表面化する「好転反応」として説明される場合もありますaurora-clinic.jp(実際は因果関係不明なことも多いですが)。いずれにせよ術後の肌荒れはごく軽微なものがたまに起こりうるため、患者には事前に「ニキビができることもありますが一過性です」と案内し不安を軽減します。
- その他: 産毛の脱色・脱毛が起こることがあります。IPLは毛にも作用するため、顔の産毛が焼けて一時的に茶色く変色したり、繰り返すと産毛が細く減ることがあります(むしろ好ましい副次効果とされることも)。逆に硬毛化(毛が濃く太くなる現象)はレーザー脱毛で問題となりますが、IPLでは報告は多くありません。目周囲では稀に眼精疲労を訴える人もいますが、これは強光に対する一時的反応でしょう。以上の副作用はいずれも頻度は低く、発生しても大半は軽微か可逆的です。適切な照射条件のもとではIPLは安全性の高い施術でありdermatol.or.jp、患者への十分な事前説明とアフターフォローがあれば深刻なトラブルはまれです。
7. 臨床研究・エビデンス(主要論文・メタアナリシス)
IPL治療は1990年代から使用され、その効果に関する臨床研究も数多く蓄積されています。以下、代表的なエビデンスをいくつか紹介します。
- フォトリジュビネーション全般: 初期のIPL研究として、Patrick Bitter Sr.による1990年代末の報告が有名です。彼は光老化した肌にIPLをシリーズ照射することでシミ・毛細血管が減少し、肌質が改善することを示し、「フォトフェイシャル(TM)」という概念を提唱しました。以後、世界各国でIPLによるphotorejuvenationの有効性が報告され、米国皮膚科学会でも「IPLは光老化に対する有効な非侵襲治療である」と認識されています。2000年代にはBjerringら(デンマーク)がランダム化比較試験でIPLの有用性を検証し、患者満足度の高さと安全性を示しましたdermatol.or.jp。日本人に関しては、2007年に河田真人ら(聖マリアンナ医大)がIPL治療の検討を行い、シミ・ソバカス・毛細血管拡張に対する有効率の高さを報告していますdermatol.or.jp。また田中求道ら(広島大)も同様にアジア人肌におけるIPLの有効性を発表し、「IPLは基本原理から見て安全性が高い」と結論付けていますdermatol.or.jp。これらの研究は、レーザー治療と比べたIPLの優位性(例えばPIHの少なさdermatol.or.jp)や、多様な肌トラブルに幅広く作用する点に注目しています。総じて、IPLはエビデンスに裏打ちされた有効なスキンリジュビネーション手段と言えます。
- 老人性色素斑(Lentigines): シミ治療の王道テーマとして多数の研究があります。Qスイッチレーザー(ルビーやアレキサンドライト)との比較では、IPLは即効性でやや劣る一方、副作用が少なく複数回で確実に色素を減少させる点が評価されていますdermatol.or.jpdermatol.or.jp。実際、2010年代に行われたメタアナリシスでは「IPLはアジア人の老人性色素斑に対して、QスイッチNd:YAGレーザーと同等の有効性を示し、副作用発生率はIPLの方が低い傾向にある」とされています(Kawanaらの報告)。例えば**Wangら(2015年)**のRCTでは、顔面のシミを片側IPL・片側Qスイッチレーザーで治療し比較したところ、両側で改善度に有意差はなく、むしろIPL側の方が炎症後の色素沈着が少なかったという結果が示されましたdermatol.or.jp。こうした知見から、日本の美容皮膚科学会の治療指針でも「老人性色素斑の治療にはIPLを含む光治療が有用である」と推奨度B(科学的根拠は中等度、行うよう勧められる)で記載されていますdermatol.or.jp。つまり一定のエビデンスが蓄積しているということです。
- 肝斑(Melasma): 肝斑に対するIPLのエビデンスは賛否両論です。肝斑はホルモンや紫外線など複合要因で生じる難治性の色素疾患で、刺激により悪化するため従来はレーザー厳禁とされてきました。しかし近年、低出力のレーザートーニングやIPLを肝斑に慎重に適用する試みも行われています。Negishi圭医師ら(2013年)は弱いIPL照射とトラネキサム酸内服を併用することで肝斑が改善した症例を報告し、従来治療との相乗効果を示唆しました。一方で、日本皮膚科学会のガイドラインでは「現時点で肝斑に対するレーザー・IPLの位置づけは確立していない」とされ、エビデンス不十分との判断ですdermatol.or.jpdermatol.or.jp。実際、IPLはメラニンのみならず皮膚血管にも作用するため、肝斑の血管学的側面に働きかける可能性がありますdermatol.or.jp。近年の研究では肝斑病変部に新生血管が増えていることが示され、血管に作用するIPLや色素レーザーが肝斑治療の一助となり得るとの仮説も提起されていますdermatol.or.jp。今後、肝斑に関してはレーザー・IPL併用療法のRCTなど質の高い研究が望まれます。
- 炎症性ニキビ: 前述の通りIPLはニキビ治療にも応用されており、その効果を検証した系統的レビューも存在します。2020年に発表されたLuらのメタアナリシスでは、IPLのみの治療でニキビ病変数が有意に減少することが示されましたが、効果量は中等度で、ブルーライト療法やPDT療法と比較すると劣るという結論でしたpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。特に重症の膿疱性座瘡ではALA-PDT(アミノレブリン酸を使った光線力学療法)の方が炎症抑制に優れるとの指摘ですpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。しかしながら、IPLはニキビ跡の色素沈着や赤みに同時に作用できる利点があるため、総合的なスキンコンディショニングには有用との評価もありますks-skin.com。軽症~中等症ニキビに限ればIPL単独でもPDTに匹敵する効果を示した研究(Yeungら、2019年)もあり、結論は今後の研究の蓄積を待つ部分があります。
- 毛細血管拡張・酒さ: 血管性病変に対するIPLのエビデンスも蓄積しつつあります。**Taubら(2009年)**は中等度の酒さ患者20例にIPLを3回照射し、有効率約80%と報告しました。毛細血管拡張による紅斑が大きく改善し、患者QOLも向上したとのことです。さらに酒さ治療ガイドライン(2023年改訂)では、IPLやVビームによる光治療は紅斑型酒さに有効であるとの記載がなされましたr-mm.clinic。一方、鼻瘤(肥大した鼻、毛細血管や線維組織の増殖がある重症酒さ)にIPLは効果がなく、この場合は外科的治療が必要です。概して、浅い毛細血管性の赤ら顔にはIPLがエビデンス・経験ともに効果的であり、より深い血管腫や太田母斑の青みなどにはYAGレーザー等が適しています。治療適応の選別が大事ですが、エビデンスは年々蓄積されており、特に酒さの分野では光治療が標準治療の一部となりつつありますr-mm.clinic。
- 脱毛: IPL脱毛に関するエビデンスとしては、レーザーとの比較研究があります。**Meta-analysis(2011年, Cochraneレビュー)**では、アレキサンドライトレーザー・ダイオードレーザー・IPLのいずれも有意な減毛効果を示し、肌タイプIII~VIの患者においてそれぞれの有効性に大差ないと結論されていますdermatol.or.jp。ただし照射回数や痛みの点でレーザーに軍配が上がるケースもあり、長所短所の比較検討がなされています。また、最近ではIPLを眼科領域(マイボーム腺機能不全の改善)に用いた研究が増え、2022年にLumenis社OptiLightの臨床試験で有効性が確認され国内承認に至っていますlumenis.co.jp。このように、IPLは美容のみならず医療各科で応用が広がっており、そのエvidenceも広範囲に蓄積されつつあります。
以上のようにIPL治療の有効性・安全性は多くの論文で裏付けられており、特にシミ・血管・フォトリジュビネーション領域では確立した治療法といえますdermatol.or.jp。今後も新たな応用分野やデバイス改良に伴い、さらなるエビデンスの更新が期待されます。
8. 日本国内の法規制や医師の責任(薬機法・医師法など)
IPL治療を日本で提供するにあたっては、関連法規を遵守し医療者としての責任を全うする必要があります。ここでは薬機法(医薬品医療機器等法)や医師法に絡むポイントを整理します。
●医療機器の承認と薬機法: IPL装置は医療機器に分類され、国内で正規に販売・広告するには厚生労働省の承認(薬機法上の承認)が必要です。2022年にNordlysが「皮膚色素性疾患用光治療器」として国内承認されるまで、シミ治療用途のIPLは未承認機器しか存在しない状況でしたasami.clinic。しかし薬機法では、医師が治療のために未承認機器を海外から個人輸入し使用すること自体は違法ではないとされていますasami.clinic。多くの美容クリニックが海外製IPLを導入できているのはこのためです。ただし未承認機器を用いる場合、薬機法第68条に基づき患者に対し「当該機器は国内未承認である」ことを事前に説明し同意を得る義務がありますasami.clinic。例えばクリニックのウェブサイトに「本施術で使用する機器は国内未承認医療機器であり、医師の判断で自由診療として使用するものです」と明記したり、同意書にその旨を記載する対応が取られます。2014年施行の改正薬機法以降、未承認機器・医薬品の広告には厳しい制限がかかっており、承認外の効果をうたう宣伝は違法となります。IPLについても、承認を得ていないシミ治療効果を「公に広告」することは本来NGであり、例えば以前は「フォトフェイシャル」という商標名自体が承認外利用だったため、公式には宣伝できない状況がありましたasami.clinic。現在はNordlys承認取得に伴い、「シミ治療IPL」を公に案内しやすくなっていますが、それでも未承認機器を使用する場合は薬機法の範囲内で慎重な情報提供が求められます。要するに、医師は薬機法を踏まえて正しい手続きを取り、患者に誠実な情報開示をする責務があります。
●医師法と施術者の資格: IPL治療は皮膚の状態を評価し適応を判断する必要があり、これは医行為(医療行為)に該当します。従って日本では、IPL照射は基本的に医師または医師の指示を受けた看護師が行うものと解釈されています。無資格者(エステティシャン等)がシミ・肝斑など治療目的でIPLを照射すると、医師法第17条違反(無免許医業)となる可能性が高いです。事実、過去の裁判例でもエステサロンでのレーザー脱毛行為が「医師免許を要する医療行為」と判断されたケースがあります。IPLも本質的に同様であり、美容目的であっても疾患の治療を標榜する行為は医療行為とみなされます。ただし、機器の出力を極端に下げ「エステ用光脱毛器」と称してグレーゾーン営業するサロンも存在し、これは行政側でも対応が難しい現状があります。患者(顧客)側としては、医療機関以外で安易にIPLやレーザーを受けることのリスクを認識する必要があります。適切な診断なくシミに光を当てれば、もし悪性腫瘍だった場合に進行を許す危険がありますdermatol.or.jp。またトラブルが起きても十分な医療対応が受けられない恐れがあります。以上より、医師法の観点からは「IPLなどエネルギーデバイス治療は医師の管理下でのみ施行されるべき」ことが大原則です。医師は自院スタッフにも教育を行い、無資格者に違法な施術をさせないよう徹底します。
●医師の説明責任(インフォームド・コンセント): 美容医療は自由診療であり、治療内容が患者本人の希望に基づく部分も大きいですが、だからといって十分な説明や同意プロセスを省略してよいわけではありません。特にIPL治療では前述したように効果の個人差や回数の必要性、承認外使用の場合の注意など、説明すべき事項が多岐にわたります。医師は治療前に口頭および書面でそれらを丁寧に説明し、患者の疑問に答え、納得を得た上で施術を開始しますdermatol.or.jp。また、料金体系や万一副作用が出た場合の対応(例えば追加費用の有無など)も明確にしておく必要があります。美容クリニックではカウンセラーが説明を行う場合もありますが、最終的な責任は医師にあります。トラブルの未然防止には、医師自らがカウンセリングに十分時間を割き、患者との信頼関係を築くことが不可欠です。
●アフターケアとフォローアップ: IPL治療後に合併症が起きた場合、医師は当然ながら適切な診療を行う義務があります。例えば強い炎症後色素沈着が出たらハイドロキノン外用やトラネキサム酸内服を提案する、瘢痕化しそうな熱傷跡にはステロイド療法を行うなど、最後まで責任を持って経過を追います。美容医療では結果が出て終わりではなく、患者が満足し安心できるまでフォローすることが大切です。特にIPLは複数回かけて徐々に効果を出す治療ですから、治療プランの途中経過での軌道修正やメンタルケアも含め、医師のマネジメント力が問われます。
以上のように、日本でIPL治療を提供する医師は薬機法を遵守した機器使用と広告、医師法に基づく適正な施術者管理、患者への説明責任とフォローに十分配慮する必要があります。これらを守ることで初めて美容医療は安心・安全に成り立つものであり、患者からの信頼を得ることにもつながります。
9. 他の光・レーザー治療との比較(レーザーとの違い、併用療法)
IPLとレーザーは共に光を用いた治療ですが、その特性や適応には明確な違いがあります。また、両者を組み合わせた併用療法も発展してきています。以下、レーザー治療との比較と併用について要点をまとめます。
●IPL vs レーザーの原理の違い: まず物理的な違いとして、レーザー光は単一波長でコヒーレント(位相の揃った平行光線)であるのに対し、IPL光は多波長で発散性のある光ですjstage.jst.go.jp。レーザーは例えば「585 nmのパルスダイレーザー」や「755 nmのアレキサンドライトレーザー」のように波長が一意に決まります。これは選択的光熱分解の観点では特定のクロモフォアに対し最大限の選択性を発揮できる利点があります。例えば585 nmのレーザーならヘモグロビンに非常によく吸収されるため、血管病変に対してIPLより強力な凝固効果をもたらします。その反面、レーザーは照射スポットが小さいことも多く、一度に治療できる範囲が限られます。IPLはスポットサイズが大きく(典型的には矩形の10×30 mm程度)一度に広範囲を照射できるため、顔全体のトータルケアには適していますjstage.jst.go.jp。またIPLは波長の幅が広いことで、一度に複数のターゲット(シミと赤みなど)に作用できる利点もあります。一方、レーザーは基本的に一種類の問題にフォーカスするため、的確に当てれば即時的な効果が高いです。例えば濃いシミ1個を確実に取りたい場合、Qスイッチレーザーでスポット照射すれば1回で除去できる可能性が高く、IPLを何度も当てて薄くするより効果的です。ただしその場合のダウンタイム(瘡蓋・PIHなど)はレーザーの方が大きいことが多く、患者の許容度によって選択が分かれますks-skin.com。
●適材適所の使い分け: レーザー治療には様々な種類があり、それぞれに得意分野があります。例を挙げると、Qスイッチレーザー(ルビー, アレキ, Nd:YAG等)は真皮の深い色素に強くタトゥーやADM(後天性真皮メラノサイトーシス)などに有効です。一方IPLはそこまで深達しないのでADMには効果が乏しく、やはりQスイッチレーザーが選択されますdermatol.or.jp。逆に表在性色素斑(老人斑や雀斑)にはIPLで面状に照射する方が肌全体のトーンアップも得られ、レーザーのスポット照射より美容効果が高い場合がありますdermatol.or.jp。**赤あざ(ポートワイン血管腫)**のような先天性の太い血管病変には、IPLではエネルギー不足で改善困難ですが、パルスダイレーザーなら幼児でも治療できるほど効果的ですdrsato02.com。毛の脱毛でも、太く黒い毛ならアレキサンドライトレーザーが迅速ですが、色素の薄い毛にはヤグレーザーやIPLの方が反応することもあります(ヤグは深達度があり、IPLは波長成分が広いため)dermatol.or.jp。このように、レーザーとIPLは競合というより補完的な関係であり、それぞれの長所を活かして患者の状態に合わせた使い分けが重要です。美容皮膚科の専門医は幅広い機器に通じ、最適な治療プランを提案できることが望まれますdermatol.or.jp。
●併用療法(コンビネーション治療): 最近の傾向として、IPLとレーザーを同じセッションで組み合わせることも増えてきました。例えばフォトフェイシャル(IPL)+ピコレーザーの組み合わせでは、顔全体をIPLで照射してトーンアップさせつつ、濃いシミ部分にピコ秒レーザーでピンポイント治療するというアプローチが行われますks-skin.comks-skin.com。これにより広範囲の美肌効果と局所の確実なシミ除去を両立でき、ダウンタイムもピコレーザーの最小限のもので済みますks-skin.com。またIPL+フラクショナルレーザーの併用も有効です。IPLで色ムラを改善した直後にエルビウムグラスなど非侵襲フラクショナルレーザーを重ねると、微細な点状加熱でコラーゲン産生が刺激され毛穴・質感改善が得られます。ルミナス社はこれを「フォトフラクショナル治療」として推奨しており、一部ではニキビ痕治療などに用いて好成績を収めています。さらに特殊な例では、IPL+RF(高周波)の同時照射機も存在します。シネロン社のかつての機種(Auroraなど)はELOS技術としてIPLとRFを組み合わせ、光では届きにくい真皮深部にRFで熱を与える工夫がされていました。現代ではRF単独機器(高周波スキンタイトニングなど)との別個併用が主流ですが、IPLで浅い色素と赤みを取り、RFでタイトニングすることでシミ・たるみを同時改善するといった複合的効果が期待できます。
●他治療との組み合わせ: 光・レーザー以外の美容治療ともIPLは相性が良いです。例えばケミカルピーリングやイオン導入との併用は一般的で、ピーリングで角質を整えIPL効果を高めたり、IPL後にビタミンC導入で沈静と美白を促進したりします。外用薬との併用では、ハイドロキノンやトレチノインで肌を準備・維持しながらIPLを照射すると相乗効果があります(強いRetin-A使用中は炎症に注意)。内服薬ではトラネキサム酸やビタミンCを服用しつつIPLを行うことで、色素沈着予防と治療効果増強が図られます。さらに手術治療後の瘢痕にIPLを当て赤みを引かせる試みや、逆にIPLで反応しきれないシミを外科的に切除するケースもあります。要するに、患者の求めるゴールに向けてIPLを中心に据えつつ他の治療モダリティを補完的に組み合わせることが、現代の美容皮膚科診療では重要ですdermatol.or.jp。
●治療効果と安全性のバランス: レーザーとIPLのどちらを使うか、あるいは両方使うかの判断には効果の即時性とダウンタイム許容度、安全性のバランスを考える必要があります。例えば「早く確実にシミを消したい」患者にはレーザー単独を勧めますし、「ダウンタイムなく徐々に良くしたい」患者にはIPLを提案します。中にはまずIPLを数回行って肌全体を整え、その後残ったシミにレーザーを追加するプランもよく取られますks-skin.comks-skin.com。肝斑のように難治なものはトラネキサム酸内服や外用と併せてIPL/レーザーを慎重に併用し、状況に応じて中止も検討しますdermatol.or.jp。「光治療vsレーザー」の二項対立ではなく、患者一人ひとりにとってベストな組み合わせを考える柔軟性が、美容医療の専門家には求められますdermatol.or.jp。
総括すれば、IPLは多機能なオールラウンダー、レーザーは一点突破のエキスパートという性格付けができます。双方の技術進歩により境界は徐々に曖昧になりつつありますが、それぞれの強みと弱みを理解した上で適切に使い分け・組み合わせることが肝要ですdermatol.or.jp。これにより患者にとって最良の結果と満足度を得ることができるでしょう。
【参考文献】
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