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はじめに
近年、美容皮膚科領域では非エネルギーデバイス(レーザーや高周波機器などを用いない)による美容治療が世界的に注目されている。日本においても、外用薬や内服薬、サプリメント、スキンケア製品などを活用した美容治療が発達してきた。本章では、日本を中心に韓国・米国・欧州の状況も比較しながら、「機器を使わない美容皮膚科学」の現況と動向について概説する。トレチノインやハイドロキノンといった外用療法から、トラネキサム酸などの内服療法、サプリメント、ドクターズコスメ、さらには成長因子・幹細胞由来成分の応用まで、各トピックを最新の知見と市場動向に基づき解説する。また、美容皮膚科で用いられる未承認医薬品・サプリの輸入実態や、承認医薬品との区別・規制のトレンドについても触れる。美容医療の自由診療が広がる中、安全かつ効果的な治療を提供するために必要な知識を整理する。
1. 外用療法:外用薬と成分の現況
トレチノイン(レチノイン酸)とハイドロキノンは、皮膚のアンチエイジングや色素性疾患治療の分野で古典的かつ有効な外用薬である。米国ではトレチノイン外用薬はにきび治療薬や光老化対策として広く承認・使用されており、4%ハイドロキノン外用も肝斑・しみ治療の標準的処方の一つであるzoedraelos.commedestheticsmag.com。一方、日本ではトレチノインおよびハイドロキノン製剤は公的には承認されておらず、保険適用外の自由診療で医師の裁量のもとに処方されているのが現状であるaimed.jpoogaki.or.jp。例えばトレチノイン外用剤は国内未承認医薬品であり、提携クリニックの医師が厚生局届出の下で海外から個人輸入して調剤・処方する形が一般的であるaimed.jp。ハイドロキノンについても、2001年以前は医師管理下でのみ使用されていたが、2001年の薬事法改正後に濃度2%以下であれば化粧品への配合が許可され、市販美白化粧品に低濃度ハイドロキノンが用いられるようになったcosmetic-ingredients.org。しかし高濃度(4%前後)のハイドロキノンクリームは引き続き医療機関処方の院内製剤や個人輸入製剤に限られるcocoro-hihuka.com。欧州連合(EU)では2001年以降、発がん性リスクなど安全性への懸念からハイドロキノンの化粧品配合を禁止しており、多くの国でOTC使用が制限されているresearchgate.net。米国でも2020年の法律改正(CARES法)によりOTCハイドロキノンの販売が禁止され、以後はFDA承認を経た製品のみが流通可能となったmedestheticsmag.com。このようにハイドロキノンの規制動向は各国で異なるため、日本では患者への十分な注意喚起と医師管理下での使用が求められる。
トレチノイン療法は、皮膚のターンオーバー促進とコラーゲン産生亢進による抗加齢効果と表皮色素の排出促進作用を有し、しわ・肝斑治療に有効であるzoedraelos.com。日本の美容皮膚科では米国にならったKligman配合(トレチノイン+ハイドロキノン+ステロイド)を用いた肝斑治療も行われているが、トレチノイン製剤が未承認であるため、効果と副作用管理に習熟した医師のもとでのみ実施されるzoedraelos.comaimed.jp。一方、レチノール(ビタミンAアルコール)はトレチノインの誘導体として市販化粧品(いわゆるコスメシューティカル)に広く配合され、穏やかな抗しわ効果が期待できる。近年、日本でもレチノールを有効成分とするシワ改善効果を標榜できる薬用化粧品(医薬部外品)が承認され、市販されている。
ナイアシンアミド(ニコチンアミド)はビタミンB3誘導体で、外用により抗酸化・抗炎症作用や角質バリア機能改善作用を示す新鋭の成分である。臨床試験ではナイアシンアミド外用によって小じわや色素沈着の改善が認められており、皮膚に対する安全性も高いpmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov。例えば5%ナイアシンアミド配合乳液の12週間使用で細かいしわが21%軽減し、肌の明るさが改善したとの報告があるnature.com。こうした確かなエビデンスに支えられ、日本でもナイアシンアミドは近年「抗シワ作用」の効能で医薬部外品有効成分に承認され、多くのドクターズコスメや高機能スキンケア製品に配合されているpmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov。ナイアシンアミドは国際的にも人気成分であり、米国・欧州の市販製品(例:OlayやLa Roche-Posayなど)にも広範に含有されている。
その他の外用有効成分として、日本で美容効果が認められた医薬部外品の美白有効成分にはアルブチン、コウジ酸、4MSK(4-メトキシサリチル酸カリウム塩)、ルシノール(4-n-ブチルレゾルシノール)、ビタミンC誘導体(リン酸アスコルビルMgなど)等が挙げられるresearchgate.netencyclopedia.pub。これらは主にチロシナーゼ活性を阻害することによりメラニン生成を抑制し、シミ・そばかす予防効果を発揮する。有効成分の開発は日本が先行しており、この35年間で美白有効成分が約20種類も開発承認されてきたencyclopedia.pub。近年ではメラニン産生抑制だけでなく、表皮細胞のターンオーバー促進による排出促進作用(例:デクスパンテノールやアデノシン一リン酸二ナトリウム)も重視されるようになっているencyclopedia.pub。なお、トラネキサム酸も日本では美白有効成分として一部の外用剤(医薬部外品)に配合されている。複数の研究でトラネキサム酸外用は肝斑や炎症後色素沈着の改善に有効との報告がありnature.com、市販の美白美容液(例:資生堂HAKUなど)にも配合されている。ただし効果は内服に比べマイルドであり、外用では角質バリアを通す工夫(イオントフォレーシス等)がないと浸透が限られるとの指摘もある。
さらに、成長因子配合製剤や幹細胞培養上清含有コスメといった新顔の外用剤も登場している。ヒト上皮成長因子(EGF)や線維芽細胞成長因子(FGF)等を添加した美容液・クリームは、日本や韓国で肌再生や創傷治癒促進を謳ってクリニック等で販売されているvisea.jpallure-group.jp。しかし、科学的に見るとコスメ中にヒト由来の生きた幹細胞そのものを配合することは不可能であり、それら製品は実際には「幹細胞培養液中の成長因子やサイトカイン」を含むに過ぎないvogue.co.uk。植物由来の幹細胞エキスも抗酸化作用などはあるものの、人の肌で幹細胞そのもののような再生効果を示すエビデンスは無いとされるvogue.co.uk。一方で、ヒト幹細胞由来の成長因子やエクソソーム(細胞外小胞)については、創傷治癒やエイジングケアへの有用性を示す初期研究が報告されておりvogue.co.uk、成分の安定化や浸透技術の開発が進めば将来的に有望な外用アプローチとなり得る。実際、バクチルス培養液から抽出したEGF様物質を配合した美容液(アイスランド発の製品など)は、表皮細胞を活性化しコラーゲン産生を促す働きが示唆されているvogue.co.uk。総じて、外用療法においては古典的なレチノイド・ハイドロキノン療法から、ビタミン類、和漢植物エキス、成長因子・エクソソーム応用まで幅広い選択肢が存在し、日本では医療機関処方と市販コスメの二層で発展を遂げている。
2. 内服療法:経口薬による美容アプローチ
経口薬(内服薬)を用いた美容治療も、日本やアジアで広く行われている代表的な非機器療法である。特にトラネキサム酸(TXA)内服療法は日本発の肝斑治療法として知られ、1970年代に岡田らが偶然に効果を発見して以来、アジア各国で広く普及したkoenji.clinic。トラネキサム酸は抗プラスミン作用によりメラニン生成を間接的に抑制し、肝斑の色調改善に有効であるshinagawa-skin.com。日本ではトラネキサム酸は本来「止血剤」として承認された医薬品だが、肝斑治療目的では保険適用外で医師の判断により処方される(自由診療)hibiya-skin.com。典型的な処方は1回250mgを1日3回(総計750mg/日)、4〜8週間以上継続する方法で、多くの患者で肝斑の淡明化が報告されているkoenji.clinicshinagawa.com。実際、過去の研究において経口トラネキサム酸500〜1500mg/日を8〜12週間投与すると、肝斑面積・色調がプラセボに比べ有意に改善したとされるkoenji.clinic。韓国や中国でも経口TXAのRCTが行われ、その有効性が確認されており、近年では欧米の専門家からも「アジアで有望な新治療」として注目され始めているnature.comonlinelibrary.wiley.com。日本国内ではトラネキサム酸含有の一般用医薬品(OTC医薬品)「トランシーノII」が2017年に発売され、肝斑改善効果を標榜して薬局で販売されている。これは1回Tranexamic acid 750mg/日を含み、2ヶ月間の服用で肝斑が改善するとの効能で承認されたもので、医療用から一般用までTXA内服が普及している点は日本の特色であるencyclopedia.pub。一方、欧米ではトラネキサム酸は主に月経過多治療薬として認識されており、美容目的での内服利用はまだ広くは浸透していない。しかしながら近年は米国皮膚科学会誌などでも肝斑治療へのTXA内服の有用性が紹介され始め、徐々に認知が高まっている。
L-システインおよびビタミンC内服も、日本で伝統的に美白目的で用いられてきた内服療法であるjcss.jp。L-システインはメラニン合成経路においてフェオメラニン産生を促進するアミノ酸で、高用量内服によりメラニンの黒色化を抑制する可能性が指摘されているijdvl.comijdvl.com。また、抗酸化物質として紫外線後の炎症を緩和する作用も期待される。ビタミンC(アスコルビン酸)はチロシナーゼ活性を直接抑制し、コラーゲン合成を促進する作用がある。これらの知見から、日本ではシミ・そばかす改善薬として「ビタミンC 2000mg+L-システイン 240mg」を1日量とする一般用医薬品(例:ハイチオールCホワイティアなど)が販売されている。臨床的なエビデンスは限定的だが、長期服用により肌のくすみ軽減や軽度の色素斑改善が報告されている。実際、日本の美白製品評価ガイドラインでも治験中に被験者がこれらビタミンC製剤・ビタミンE製剤・システイン製剤を併用することは美白効果を左右するため避けるよう規定されておりjcss.jp、裏を返せば一定の色素改善効果が公的にも認知されていることがうかがえる。
抗酸化サプリメントとしては、近年グルタチオンやカルノシン、コエンザイムQ10、松樹皮由来ポリフェノールなど多様な製品が登場している。なかでもグルタチオンは東南アジアを中心に「飲む美白剤」としてブームになり、経口摂取や静脈注射により全身の美白効果をうたう施術が流行した。しかし、グルタチオン大量投与による劇的な美白効果には科学的根拠が乏しく、静脈投与は重篤な副作用報告も相次いだため、米国FDAは美容目的の静脈用グルタチオン製剤の使用に警告を発しているijdvl.comijdvl.com。日本でも美容クリニックで高濃度ビタミンC点滴と共にグルタチオン点滴を行う例があるが、こちらも未承認医薬品であり十分なインフォームドコンセントとリスク説明が必要である。経口摂取については、タイで行われた500mg/日グルタチオン内服のRCTで4週間後に有意な肌の明るさ向上が報告されたものの、サンプルサイズや観察期間の限界が指摘されているijdvl.com。こうしたことから、抗酸化サプリによる美白・抗老化効果は「補助的な位置づけ」と考え、紫外線対策や外用療法と併用する形で指導されることが多い。
総じて、内服療法ではトラネキサム酸の肝斑治療がエビデンス・普及度ともに突出しており、次いでビタミンC・L-システイン併用療法が日本独自の伝統的アプローチとして根付いている。他にも各種ビタミン・ミネラル(ビタミンE・亜鉛など)や漢方薬(当帰芍薬散や桂枝茯苓丸による肌質改善目的)を併用するケースもみられる。韓国でも肝斑治療にトラネキサム酸やビタミンC点滴を組み合わせることが一般的であり、米国でも近年「Beauty from within(体の内側からの美容)」というコンセプトで経口サプリメントの市場が拡大しているfuji-keizai.co.jpbiyouhifuko.com。このように内服療法は、比較的侵襲が少なく患者の受容性が高い反面、外用や機器治療に比べエビデンスが限られるものも多いため、医師は最新の知見とエビデンス水準を把握した上で患者に提案する必要がある。
3. サプリメント:美容・美白・抗老化目的の栄養補助
美容サプリメント市場は世界的に拡大を続けており、日本でも健康志向・美容志向の高まりと共に多種多様なサプリメントが流通しているwellnesslife.co.jpbiyouhifuko.com。美容目的のサプリメントは、実質的には前述の内服療法と重なる部分があるが、医薬品ではなく**「健康食品」として販売される点で異なる。本節では特にコラーゲン、ヒアルロン酸、プラセンタ**など、日本で人気の美容サプリとそのエビデンスを概説する。
日本で圧倒的な認知度を持つ美容サプリと言えばコラーゲンペプチドであろう。コラーゲン含有飲料や粉末は、「肌のハリや潤いを保つ」目的で長年愛用されている。経口摂取されたコラーゲンペプチドがどの程度皮膚に作用するかについては議論があるものの、近年、一部のプラセボ対照試験で肌の水分量や弾力性の改善が報告されている(例えばコラーゲン5g/日を8週間摂取で経皮水分蒸散量の有意な低下を認めた等)。日本ではコラーゲンペプチドを含む食品は機能性表示食品制度の下で「肌の潤いを維持する」などの機能性を表示した商品も存在する。矢野経済研究所の調査によれば、美容意識が高まる中でヒアルロン酸やコラーゲン、グリコシルセラミドなどを配合したサプリメント形状の機能性表示食品が特に人気で、市場を牽引しているbiyouhifuko.com。ヒアルロン酸やセラミドの経口摂取も、角質層の水分量を高めバリア機能をサポートする可能性が示唆されており、経口美容保湿という概念が注目されているbiyouhifuko.com。
**プラセンタ(胎盤由来エキス)**は、元々医療用注射薬(ラエンネック・メルスモン)として更年期障害や肝機能改善に使われてきたが、美容目的での利用も広まった。近年は豚由来プラセンタエキス含有のドリンクやサプリメントが「美容プラセンタ」の名で市販されている。胎盤にはアミノ酸、ビタミン、成長因子様物質が豊富に含まれるため、美白・抗老化効果が期待されるが、エビデンスは限定的である。ただ、動物実験レベルではプラセンタエキス投与により紫外線誘発色素沈着の軽減や真皮厚の維持が報告されている。日本皮膚科学会の肝斑ガイドラインでもプラセンタ療法は「試みることもできる治療」として言及されるなど、一定の支持はあるものの、有効性については賛否が分かれるところである。
さらに、抗酸化・抗炎症系の美容サプリも数多く存在する。代表例として、アスタキサンチン(強力なカロテノイド抗酸化剤)は「飲む日焼け止め」としてUVダメージ軽減効果を謳う商品がある。また、高濃度ビタミンCやビタミンEを含むカプセルは、光老化の予防補助として提案されることがある。ポリフェノール類では松樹皮抽出物(ピクノジェノール)や白葡萄抽出物(OPC)がメラニン産生抑制効果を訴求するサプリに使われている。ただし、これらの多くは食品扱いであり、医薬品ほどの厳密な臨床試験データはない。医師が患者に推奨する際には、「食生活の補助」という位置づけで効果を過大に期待しすぎないよう説明することが望ましい。
市場規模の点では、日本の健康食品市場は年々拡大しており、2022年度には8860億円に達した。その中で美容・健康目的のサプリメントが占める割合も増加しており、特に機能性表示食品(科学的根拠データをもとに機能訴求表示を行う届出制の食品)が市場を押し上げているbiyouhifuko.combiyouhifuko.com。消費者の美容意識高まりと相まって、「外から塗る+中から摂る」統合的な美容法が定着しつつある。ただし、サプリメントはあくまで補助的手段であり、その品質や安全性は玉石混交であるため、医療従事者はエビデンスの有無や過剰摂取リスクにも目を配り、患者に適切な指導を行う必要がある。
4. スキンケア:医療用化粧品・ホームケア・ドクターズコスメ
スキンケア指導は美容皮膚科診療の基礎であり、近年では医師が関与して開発された高機能スキンケア製品、いわゆるドクターズコスメ(医師監修化粧品)が充実している。ドクターズコスメに明確な定義があるわけではないが、多くは皮膚科学的エビデンスのある成分を高濃度配合し、専門クリニックやオンライン診療を通じて販売されるコスメシューティカル(cosmeceutical)製品であるaimed.jp。日本国内では、米国発のゼオスキンヘルス(ZO Skin Health)やスキンシューティカルズ、国産のレカルカ、シスペラ(cyspera)(システアミン配合クリーム)など、多彩なブランドが医療機関経由で提供されているaimed.jp。これらはシミ・シワ・ニキビなど症状別にラインナップされており、例としてゼオスキンではトレチノインとハイドロキノンを用いた集中プログラムが知られる。
医療機関専売コスメは法律上はあくまで化粧品または医薬部外品であり、医薬品成分は配合できない。しかし先述のようにハイドロキノン2%以下やレチノール、ナイアシンアミド、高濃度ビタミンC誘導体、ペプチドなど作用機序が明らかな有効成分を高濃度に配合することで、実質的に治療的効果を狙っているaimed.jpaimed.jp。たとえばあるドクターズコスメの美白美容液にはビタミンC誘導体 20%とアルブチン、トラネキサム酸が含有され、肝斑治療中の維持療法として処方されるケースがある。ホームケアとして患者自身が日々使うスキンケアは、美容施術の効果を最大化し維持する上で極めて重要であり、医師が患者の肌質・症状に合わせて製品を選択・指導することが望ましい。
海外に目を向けると、米国では皮膚科医が自院で化粧品を販売することが一般的で、「Physician-dispensed Cosmeceuticals(医師調剤化粧品)」という市場カテゴリが確立している。世界の医師調剤コスメ市場規模は2024年時点で約115.9億ドル(約1.6兆円)と推定され、2033年には237.5億ドルに達すると予測されているstraitsresearch.com。特に北米が市場を牽引する一方で、アジア太平洋地域が最も成長率が高いとされるstraitsresearch.comstraitsresearch.com。これはアジアの美容需要拡大と専門的スキンケア志向の高まりによるものだ。韓国においても、皮膚科でドクターズコスメを処方・販売することは日常的であり、韓国産のガルーダ(Galderma Koreaの一部門)やDMKなどの専門ラインが存在する。欧州でも医師が特定ブランドを推奨するケースはあるものの、薬局主体のスキンケア文化が強い。
ドクターズコスメの利点は、医師の管理下で肌質や治療経過に合わせてカスタマイズできる点である。患者にとっても「医師お墨付き」の安心感があり、実際に臨床試験データを持つ製品も多い。一方で価格が高価になりがちであること、誤用すると強い反応(例:レチノール反応による皮剥け)が出る可能性があることには留意が必要であるstraitsresearch.comstraitsresearch.com。医師は製品知識をアップデートし、適切な使用方法・スケジュールを指導する役割を担う。また、患者の経済的負担にも配慮し、市販品との併用や段階的な導入を検討することも重要である。
5. 成長因子・幹細胞由来成分の応用動向
再生医療的手法を美容に応用する動きも活発化している。特に成長因子(グロスファクター)や幹細胞培養上清、エクソソームといった「細胞由来成分」を利用した治療・製品の開発が近年のトレンドであるpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。美容皮膚科領域で注目される具体的手法としては、以下が挙げられる:
- PRP療法(多血小板血漿療法):患者自身の血液から血小板濃縮液を作製し、皮内注射またはマイクロニードリングで皮膚に導入する治療。血小板から放出されるPDGFやTGF-βなど多数の成長因子によりコラーゲン新生や創傷治癒が促され、肌質改善や毛髪再生に効果があるとされるpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。日本でも再生医療等安全確保法に基づき、適切な手続きを経た医療機関で行われている。PRPは自己血由来のため安全性が高く、欧米でもヴァンパイアフェイシャルとして人気だが、効果は施術者の技術や患者の状態に依存し、個人差が大きい。
- 幹細胞由来培養上清・エクソソーム療法:ヒト脂肪由来や骨髄由来の**間葉系幹細胞(MSC)**を培養し、その上清中に分泌されたサイトカインやエクソソームを抽出して肌に用いる方法であるpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。幹細胞そのものではなく、細胞フリー療法に分類され、細胞を扱うよりも安全かつ手軽に再生効果を得ることを目指しているpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。研究段階では、MSC由来エクソソームの局所投与により創傷治癒促進や皮膚弾力改善が認められたとの報告もあり、将来のエイジングケアにおけるキー技術と目されるpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。韓国や米国では既にエクソソーム含有の美容液や、エクソソームを使った施術(マイクロニードリングと併用)が一部のクリニックで導入され始めている。
- 培養真皮線維芽細胞移植:患者自身の皮膚から線維芽細胞を培養し、増やした細胞をシワ部位などに注入して組織再生を図る治療。これは日本では再生医療等の分類に該当し、現状あまり普及していないが、米国ではFibrocell社の「ラボフェル(LaViv)」が既にFDA承認を取得し、ほうれい線治療に用いられた経緯がある。ただし効果は限定的で、現在は主流ではない。
- サイトカイン療法:成長因子単剤を注射・塗布する試みもなされている。例として**bFGF(塩基性線維芽細胞成長因子)**注射は陥凹性瘢痕治療として以前日本でも一部クリニックで行われていたが、過剰な肉芽増生による有害事象報告があり、現在は厚労省から通知が出て実施されなくなっている。成長因子は強力で制御が難しく、安全域の確立が課題である。
成長因子や幹細胞由来成分の応用に関して、日本は慎重な姿勢を保ちつつも着実に臨床研究を積み重ねている。琉球大学などのグループは、MSC由来エクソソームを用いた皮膚治療の有効性について報告を行っているpubmed.ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。また、一部の美容クリニックではヒト幹細胞培養上清配合の導入剤をマイクロニードルと組み合わせて施術するケースも出てきた。ただし、これらは未だエビデンス蓄積途上の先端的試みであり、標準治療として確立しているものではない。医師は患者に最新の知見と不確実性を正確に伝え、過度な期待を煽らない姿勢が求められる。
国際比較すると、韓国はこの分野で先行しており、幹細胞クリニックを称する施設で脂肪幹細胞培養液注射やPRPを応用する例が多い。米国でも、FDA規制をすり抜けた施術として一部で「stem cell facial」なるものが提供され社会問題化した経緯がある。幹細胞や成長因子は医薬品としての規制境界が曖昧になりやすく、安全管理とエビデンス確立が重要な課題である。日本では再生医療安全確保法の下、計画届出・委員会審査を経た医療機関でのみ細胞を用いる治療は許可されており、比較的厳格に管理されている。このように、成長因子・幹細胞由来成分の応用は「未来の美容医療」を切り拓く可能性を秘める一方、科学的根拠と安全性エビデンスの蓄積が不可欠な領域である。
6. 自由診療における未承認医薬品・サプリの輸入実態
美容皮膚科の自由診療では、国内未承認の医薬品やサプリメントを海外から輸入して使用するケースが少なくない。医薬品医療機器等法上、日本で承認を取得していない薬剤(または承認された薬剤の承認外の用法・効能による使用)は**「未承認医薬品等」**とみなされるmhlw.go.jp。医師による個人輸入制度を利用すれば、患者ごとに必要量の未承認薬を海外より取り寄せて使用することが法的に可能であるが(いわゆる医師個人輸入)、その際には患者への十分なインフォームドコンセントと情報開示が求められるmhlw.go.jpmhlw.go.jp。本節では、美容目的で使用される主な未承認薬剤の例と、輸入・使用に関するルールを概説する。
代表的な未承認医薬品としてまず挙げられるのは、イソトレチノイン(13-cisレチノイン酸、商品名Accutane等)である。これは重症の嚢胞性座瘡(ニキビ)に対する劇的な効果を有する内服ビタミンA誘導体で、米国FDAを含む諸外国では承認済みだが、日本では催奇形性などの重篤な副作用リスクを懸念して未承認の状態が続いているtokyoderm.comokachimachihihuka.com。しかし、日本の重症ニキビ患者に対しても海外ガイドラインに準じてイソトレチノイン治療を希望する声は多く、一部の皮膚科専門医は治療上やむを得ない場合に個人輸入したイソトレチノインを自由診療で処方しているans-skin.com。実際、欧米で40年以上の使用実績があり標準治療とされる本剤が日本で使えない現状に対し、患者団体や専門家から承認を求める声も上がっている。
ハイドロキノン4%以上やトレチノイン外用も、前述のように日本では未承認のため、クリニックが輸入した原末から院内製剤として調合・処方している場合が多いaimed.jp。特にトレチノイン外用は、米国では0.05%クリームなどが医療用医薬品として承認されているが、日本では承認されていないため、各医療機関がインド等の製薬会社から原薬を輸入し調製しているaimed.jp。患者には「国内未承認であるが海外では標準治療であり、医師の責任の下で使用する」旨を説明し、使用同意を得る必要があるmhlw.go.jpmhlw.go.jp。
システアミン(Cyspera)クリームは近年欧米で肝斑治療の新外用薬として注目されている。システアミンはメラニン生成経路の末端であるチオール化合物で、ヒドロキノンに代わる新たな美白外用剤として2020年代に脚光を浴びた。日本では未承認だが、一部の美容皮膚科が正規輸入代理店経由で入手し、肝斑患者に自由診療で処方しているケースがある。臨床研究ではシステアミンクリーム5%の適用で約半数の患者に肝斑の改善がみられたと報告されているが、刺激感など副反応もあり、今後の動向が注目される。
**経口NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)**は抗老化サプリメントとして話題の成分である。NMNは体内でNAD+に変換され細胞のエネルギー代謝やDNA修復に関与する物質で、マウス実験で寿命延長効果が示唆され、一部では「若返り薬」とも称された。日本では2020年頃から高額サプリとして市場に出回ったが、当初食品としての安全性評価が不十分として行政指導もあり、議論を呼んだ経緯がある。しかし2023年6月に食品としての規格基準が整備され、現在は条件付きで国内製造販売が可能となっている。一方、米国では著名研究者の発見以降、NMNサプリが爆発的に普及したが、FDAは2022年に「NMNは医薬品の研究対象となったため、もはやサプリメント扱いできない」との見解を示し市販サプリからの撤去を求める動きもある。抗老化領域のサプリは法規制の隙間にあるため、国ごとに対応が分かれている。
その他の未承認薬・サプリの例として、例えばグルタチオン点滴(前述)、メラトニン内服(米国ではサプリ、日本では医薬品未承認だがアンチエイジング目的で輸入使用する医師もいる)、ビオチン高用量療法(爪髪の美容目的; 未承認用量を処方)などが挙げられる。また、美容目的でのホルモン補充療法(HRT)や甲状腺ホルモン補充も、適応外処方として行われるケースがある。これらはいずれも医師の裁量の範疇だが、科学的根拠が確立していない場合も多いため注意が必要である。
日本の制度上、医師が未承認薬を使用すること自体は違法ではないが、その情報提供と広告表示には厳しいルールがある。厚生労働省の「医療広告ガイドライン」では、未承認医薬品等を用いる場合には以下の点を明示するよう求めているmhlw.go.jpmhlw.go.jp:
- 当該薬剤が国内未承認であること
- 入手経路(医師の個人輸入である旨)mhlw.go.jp
- 国内に同一成分・同等性能の承認医薬品が存在するか否かmhlw.go.jp
- 主要な欧米各国での承認状況・副作用情報(承認されている場合は各国の添付文書上の重大な副作用等の情報提示)mhlw.go.jp
- 主要国で未承認の場合はリスク不明の可能性がある旨mhlw.go.jp
- 副作用被害救済制度の対象外である旨mhlw.go.jp
これらを患者にわかりやすく説明・明示しなければならないと規定されているmhlw.go.jp。特に副作用救済制度については、日本で承認された医薬品を適正使用して生じた健康被害には公的救済があるが、未承認薬や適応外使用ではその補償が受けられないことを患者が理解する必要があるmhlw.go.jp。しかし実際には、多くのクリニックでウェブサイト上に未承認である旨の記載が不十分であったり、メリットばかりを強調してリスク情報が小さく表示されるケースが後を絶たないmhlw.go.jpmhlw.go.jp。2024年にはガイドラインの更なる厳格化が行われ、違反広告への取り締まりが強化されているmhlw.go.jpmhlw.go.jp。
医師は自由診療で未承認薬等を扱う際、治療上の有用性と安全性エビデンスを吟味した上で、代替の承認治療がないかを検討することが大前提となる。また、患者に対しては「未承認ゆえに生じ得る不確実性」を正直に伝え、同意を得ることが不可欠である。海外で入手容易な薬剤でも、日本では法の網をかいくぐっているに過ぎない場合もあるため、学会等が中心となって安全情報を共有し、必要なら承認に向けた働きかけを行うことも求められるだろう。
7. 承認医薬品と未承認製品の区別・規制動向
美容皮膚科の文脈では、承認医薬品(国内承認済み医薬品)と未承認製品(未承認医薬品や未承認の化粧品成分等)を明確に区別することが重要である。前節で述べたように、未承認薬の使用自体は医師の裁量で可能だが、患者や消費者が誤解しないよう適切な情報提供が不可欠であるcl-mirai-lab.doctorsfile.jpcl-mirai-lab.doctorsfile.jp。本節では、承認医薬品と未承認製品の違い、および日本と諸外国における規制動向のポイントをまとめる。
承認医薬品とは、厚生労働省(医薬品医療機器総合機構:PMDA)の審査を経て有効性・安全性が認められ、製造販売承認を取得した医薬品である。添付文書に記載された効能・効果、用法・用量の範囲内で使用される限り、公的な医薬品副作用被害救済制度の対象にもなるmhlw.go.jp。一方で、その範囲を逸脱した適応外使用(オフラベルユース)を行った場合、承認医薬品であっても救済制度の対象外となる点に注意が必要であるmhlw.go.jp。美容皮膚科領域ではプラセンタ注射が典型例で、ラエンネック・メルスモンは承認医薬品だが美容目的は承認適応ではないため、例えば「美肌目的に厚労省認可のプラセンタ注射薬を使用」と広告することは誤解を招き違法となるcl-mirai-lab.doctorsfile.jpcl-mirai-lab.doctorsfile.jp。実際、2024年現在、美容目的でのプラセンタ注射は未承認の用途であり、その有効性を広告することは医療広告ガイドライン違反となるcl-mirai-lab.doctorsfile.jp。このように承認品でも適応外なら未承認と同等の扱いを受けるため、医療者側の正しい理解と情報発信が求められる。
未承認製品には二種類ある。一つは医薬品・医療機器そのものが未承認の場合、もう一つは医薬品ではない製品(例えば化粧品やサプリ)で日本の基準では認可されていない成分を含む場合である。前者については第6節で詳述した通り、近年はウェブサイト上で紛らわしい表現(「当院では厚労省認可の○○を使用」等)で患者を誘引するケースが問題視されているcl-mirai-lab.doctorsfile.jpcl-mirai-lab.doctorsfile.jp。行政はこうした誤認リスクのある表示を取り締まる方向にあり、クリニックには誠実な情報開示が求められるcl-mirai-lab.doctorsfile.jpcl-mirai-lab.doctorsfile.jp。具体的には薬剤名を広告する際は一般名表記とし、承認外使用である場合はその旨を明示するなどの配慮が必要であるcl-mirai-lab.doctorsfile.jp。
後者の、「化粧品やサプリにおける未承認成分」の例としては、ヒドロキノンが挙げられる。先述のように日本では2%以下の濃度であれば化粧品配合が許可されているが、それ以上は医薬品相当となり一般流通できない。一方、海外通販などで高濃度ヒドロキノン配合クリームが入手可能な状況があり、これを個人輸入する消費者も存在する。しかし品質管理や偽造品のリスクが伴うため、医療者は「海外では容易に買える」と安易に推奨すべきではない。欧州では上述の通りヒドロキノンは化粧品全面禁止であり、ASEAN諸国(韓国・フィリピン・タイ等)でも化粧品配合禁止リストに入っているrakuten.ne.jp。このような国際規制の差がある成分は他にも、コウジ酸(一時日本でも禁止されたが安全性再評価で復活)researchgate.netやモノベンゾン(脱色剤で米国ではVitiligo治療薬、日本では未承認)などがある。医師は国外の文献や行政情報にも目を配り、自院で扱う製品・成分の法的位置づけと規制動向を把握しておかねばならない。
規制動向として、日本ではここ数年、美容医療に関する制度整備が進んでいる。2014年には再生医療等安全確保法が施行され、PRP療法など細胞・組織を用いる治療にルールが設けられた。2021年には薬機法改正で誇大広告への罰則強化が行われ、違法な美容医療広告に是正命令や罰金が科される事例も出ている。また、2024年には前述の医療広告ガイドラインの改訂で、ウェブ上での未承認治療の情報提供方法が細かく規定されたmhlw.go.jpmhlw.go.jp。一方、消費者保護の観点から通信販売される医薬品や個人輸入代行業者への監視も強化されている。例えば2023年には、未承認ダイエット薬(GLP-1受容体作動薬の美容用途)をオンライン診療で処方する事例が社会問題化し、国民生活センター等が注意喚起を行ったmhlw.go.jpmhlw.go.jp。こうした中で、医師が正規のプロセスを踏んで輸入し適正使用する場合と、患者自身が自己責任で個人輸入する場合を明確に区別し、前者には一定の規制緩和(条件付き早期承認など)を図るべきとの議論もある。将来的には、美容目的の医薬品適応追加や、新規有効成分の承認審査の迅速化が期待される。
8. 市場規模・成長性・トレンド
美容医療市場は世界的な成長産業であり、その中で美容皮膚科領域(非手術系の皮膚治療)は特に高い成長率を示している。ヤノ経済研究所の調査によれば、日本の美容医療市場規模は2023年に5,940億円(対前年比108.8%)に達し、コロナ禍後の反動もあって急成長しているnote.com。この市場には美容外科的手術も含まれるが、美容皮膚科(レーザー・注入・外用内服など非外科)分野の需要拡大が全体を牽引していると分析されているcareer.medicalplus.info。実際、2011年から2019年にかけて日本の美容医療市場は年平均5%以上で拡大し、コロナ禍で一時落ち込んだ後もオンライン診療の活用などで早期に回復・拡大に転じたnote.com。
国際的に見ても、美容医療市場は2023年時点で約576億7,000万米ドル(約8兆円)と推計され、2030年代初頭まで毎年5〜7%の成長が予測されているbcg-jp.comnote.com。地域別では米国・中国が巨大市場であり、韓国も人口当たり利用率が高い。一方、日本は市場規模こそ大きいものの一人当たりの美容医療利用率が主要国中最低水準であることが報告されているnote.comnote.com。BCGの消費者調査によれば、日本人は美容医療への効果に懐疑的、知識不足で単発施術にとどまりがち、といった傾向が指摘されているnote.com。しかし裏を返せば、今後信頼できる「かかりつけ美容クリニック」が増え、継続利用する顧客が増えれば、日本市場にはさらなる成長余地があるとも言えるnote.com。
消費者動向のトレンドとして、まず挙げられるのはターゲット層の拡大である。従来、美容皮膚科の顧客は20〜40代女性が中心であったが、近年は高年齢層(60代以上)のアンチエイジング需要や、若年層の予防的ケア需要が増えている。また、男性の参入も著しい。インテージの市場調査によれば、日本の男性化粧品市場は2024年に約497億円と2019年比1.8倍に急拡大し、そのうち男性用スキンケア(化粧水・乳液・美容液など基礎化粧品)が438億円を占めるdime.jp。特に美容液の男性市場は2019年比で4.9倍にも成長しており、若年男性を中心に「化粧水や乳液の一歩先」の高度なスキンケアを取り入れる層が増加していることが示されたdime.jpdime.jp。男性は皮脂が多く毛穴ケア需要も高いため、クレンジング用品の売上も伸びているdime.jp。この流れは世界的にも共通しており、欧米でもメンズグルーミング市場が年率10%以上で成長、韓国では男性の美容クリニック利用が一般化している。ジェンダーニュートラルな美容の時代に突入し、クリニック側も男性患者へのきめ細かな対応が求められる。
人気の施術・成分トレンドにも変化が見られる。機器を使わない美容皮膚科領域では、依然としてケミカルピーリングやビタミンC導入など基本メニューが根強い人気だが、新たなトレンドとして美容点滴・注射の多様化がある。高濃度ビタミンC点滴はがん補完療法から派生して美容目的に定着しつつあり、グルタチオン点滴やプラセンタ注射も含め、クリニックの点滴メニューはコロナ禍以降に需要が高まったと言われる。また韓国発の白玉点滴(グルタチオン主成分)や水光注射向けカクテル製剤の流入もあり、患者に新たな選択肢を提供している。
外用・内服のトレンド成分では、前述したナイアシンアミドやレチノールの人気が世界的に高まっている。またピーリング剤としてはマイルドなPHA(ポリヒドロキシ酸)や乳酸が敏感肌向けに注目され、マイクロニードリング後に成長因子やビタミンを導入する「コラーゲンピンチェ療法」のような新手法も現れた。抗糖化という観点では、カルノシンやアルギニンなどAGEs生成を抑える成分を含む化粧品・サプリが登場し、中高年にアピールしている。消費者の意識調査では、「エイジングケア」と「美白」は日本人の関心事トップであり続けておりencyclopedia.pub、特にシミ予防カテゴリの市場は過去35年で飛躍的に拡大しスキンケア市場の約30%を占めるまでになったencyclopedia.pub。これは、日本人の肌質・嗜好に合った美白有効成分の開発が奏功した結果とも言える。
マーケティング面のトレンドとして、SNSの影響力も無視できない。美容皮膚科クリニックや医師自らがInstagramやYouTubeで症例写真や治療解説を発信し、従来は美容雑誌主体だった情報源が大きく変化した。口コミサイトやクリニック検索アプリの台頭も、患者行動に影響を与えている。また、韓国コスメや韓国美容医療の情報がリアルタイムで日本に輸入され、患者から「韓国で流行っている〇〇治療をしたい」と相談されるケースも増えた。実際、韓国発の糸リフトやハイフ(HIFU)は日本でも一般名詞化するほど普及した。同様に、機器を使わない分野でも韓国製の美容注射薬・経口薬(例えば美白注射の成分セットやダイエット薬など)の存在感が高まっており、厚労省もそうした未承認製剤の流通状況を注視しているnote.com。
以上のように、市場規模・トレンドの観点からは、ターゲット層の多様化(男性・高齢者・若年予防層)、人気成分・治療の移り変わり(ナイアシンアミド等の台頭)、そして情報流通の変化(SNS時代)というキーワードが浮かび上がる。美容皮膚科に関わる医療者は、患者ニーズの変化を敏感に捉えつつ、エビデンスに基づく適切な治療を提供していく姿勢が求められる。
9. 医療機関での導入実態:美容皮膚科・一般内科での応用
最後に、機器を使わない美容皮膚科治療の医療機関への導入実態について述べる。日本では美容皮膚科クリニックが全国に数多く存在し、ここまで解説した外用・内服療法やサプリ指導、スキンケア指導は日常診療に組み込まれている。専門クリニックでは、患者一人ひとりにカスタマイズしたスキンケアプログラムを処方し、定期的な内服薬フォローや血液検査(必要に応じビタミンレベルや肝機能チェック)を行っている。また、ドクターズコスメの取扱強化は昨今のクリニック経営のトレンドであり、多くの施設でオリジナルブランドや提携ブランドのコスメを販売・通信販売して患者のホームケアを支援しているnote.com。
興味深い動向として、近年は保険診療中心のクリニック(一般皮膚科や内科)が美容皮膚科領域に新規参入するケースも増えているnote.com。例えば町の皮膚科医院が自由診療メニューとしてケミカルピーリングやビタミンC処方を始めたり、内科クリニックが美容点滴外来を設置したりする例が各地でみられる。これは患者側の美容医療への心理的ハードルが下がり、「ついでに美容の相談もしたい」というニーズに対応する動きといえるnote.com。実際、今後の展望として保険診療クリニックの美容医療市場への参入増加が見込まれており、市場拡大に寄与すると予測されているnote.comnote.com。医師側も、従来の疾患治療だけでなくQOLを高める美容ケアを提供することで患者満足度を向上させ、クリニック経営の多角化を図れるメリットがある。ただし、その際には専門的知識・技術の習得が不可欠であり、学会やセミナーでの研鑽が求められる。
美容皮膚科学は本来、「健康な皮膚をより美しく保つ」領域であり、疾患治療とは異なるアプローチと患者心理への配慮が必要となる。美容領域になじみのない医師・看護師にとっては、カウンセリング手法や接遇など新たに学ぶべき点も多いnote.comnote.com。逆に言えば、美容皮膚科診療を通じて患者とのコミュニケーションが深化し、信頼関係が強まることで、保険診療へのコンプライアンス向上やクリニック全体の評価向上につながるという好循環も期待できるnote.comnote.com。そのためには、院内スタッフへの教育やチーム連携(医師-看護師-カウンセラーの情報共有)の強化が重要であるnote.com。美容医療関連企業もまた、研修プログラムや情報提供を通じてクリニックを支援し、患者体験の質向上に寄与することが求められているnote.com。
実際の導入事例としては、一般皮膚科でのハイドロキノン・トレチノイン療法が挙げられる。保険診療では難治性の炎症後色素沈着などに対し、医師が院内調剤でハイドロキノン軟膏を調製し自由診療で提供するケースがある。また、ニキビ治療の延長でビタミン剤内服(ビタミンB2・B6やビタミンC)の指導を行い、美肌ケアとして位置づけることも一般的だ。栄養療法に詳しい内科医の場合、血液検査データから抗酸化サプリの提案やホルモンバランス調整を兼ねた美容アプローチを行うこともある。これらは統合医療的側面も持つが、患者にとっては「美容も相談できるかかりつけ医」として貴重な存在になり得る。
国際的には、米国では皮膚科専門医が自院でエステティシャンを雇用し、ケミカルピーリングやスキンケア指導を包括的に提供する形が一般的である。さらに家庭医や婦人科医がボトックスやケミカルピーリングを手掛ける例も多い。韓国では皮膚科・整形外科の垣根が低く、一般内科クリニックが美容メニューを扱うことは少ないが、美容皮膚科クリニック自体が非常に多いため、患者は気軽に専門施設へアクセスできる環境にある。
まとめると、機器を使わない美容皮膚科学の知見と手法は、従来の専門クリニックのみならず幅広い医療機関で活用され始めている。日本の美容医療利用率はまだ伸びしろがありnote.com、適切な知識を持つ医療者が増えることで、安全で効果的な美容ケアがより多くの国民に届くことが期待される。その実現のためには、医療者側の研鑽と誠実な情報提供、そしてエビデンスに基づいた製品・薬剤の選択がますます重要になるだろう。
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