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D04.美容皮膚科学 皮膚バリア V1.1

D04.美容皮膚科学-皮膚バリア-V1.1

皮膚バリアの形成機構

皮膚の構造と各層の機能

皮膚は大きく表皮真皮皮下組織の三層からなりますhealthcosme.uminomori.com表皮は外界と接する最も外側の層で、体を守る防御の壁(盾)として働きます。表皮は0.1~0.3mm程度の厚さで、角化細胞(ケラチノサイト)と色素細胞・ランゲルハンス細胞などから構成されます。表皮の最下層である基底層では角化細胞が盛んに分裂増殖し、上方の有棘層顆粒層へと押し上げられながら徐々に分化します。最表面の角質層(角層)は約0.01~0.02mmの厚みで、扁平で核のない角質細胞(コルネオサイト)がレンガ状に重層し、その間隙を脂質が満たす構造になっていますhealthcosme.uminomori.comjci.org。表皮の主な機能は、紫外線・病原体・化学物質など外部刺激の侵入を防ぎ、体内の水分の蒸散を防ぐバリア機能ですhealthcosme.uminomori.comjci.org。特に角質層がその主力として働きます。また表皮にはメラニン産生による紫外線防御機能や、ランゲルハンス細胞による免疫監視機能も備わっています。

真皮は表皮の下に位置する厚さ数mmの結合組織層で、皮膚の強さと柔軟性を支える基盤ですhealthcosme.uminomori.com。真皮にはコラーゲン線維やエラスチン線維が豊富に含まれ、皮膚に弾力と強度を与えて衝撃から身体を守りますhealthcosme.uminomori.com。さらに毛細血管網によって表皮に栄養や酸素を供給し、皮膚の温度調節にも寄与しています。真皮には毛包、皮脂腺、汗腺などの皮膚付属器や知覚神経も存在し、これらが皮膚の感覚機能や分泌機能を担います。

皮下組織(皮下脂肪層)は皮膚の最深部に位置し、皮下の脂肪細胞がクッションのように体を支えていますhealthcosme.uminomori.com。外部からの物理的衝撃を緩衝するとともに、体熱を保ちエネルギーを蓄える役割を果たします。以上のように、皮膚は解剖学的に多層構造をなし、バリア感覚体温調節防御など多様な生理機能を営む重要な臓器ですdsr-skincare.jp

皮膚バリアの定義と機能

皮膚バリアとは、皮膚が外界と生体内部との境界面で果たす保護機能を指します。半透膜的な表皮バリアにより、体内からの水分蒸散の防止と、外界からの有害物質・病原体の侵入阻止が同時に実現されていますjci.org。正常な皮膚では角質層がバリアとして働き、水分を皮膚内部に保持するとともに、外部からの異物侵入を防いでいますerca.go.jpdsr-skincare.jp。一方、バリア機能が低下すると経皮水分蒸散(TEWL)の増大や刺激物質の侵入が起こり、乾燥や炎症、感染のリスクが高まります。例えば新生児の極めてまれな先天性バリア欠損症では、生体は水分喪失や感染にさらされ、出生後すみやかにバリアを再構築しなければ生存が難しくなることが知られています。それほど皮膚バリアは生命維持に必須の機能です。

皮膚バリア機能にはいくつかの側面があります。物理的バリアとは角質層や細胞間結合(タイトジャンクションなど)による機械的な壁で、主に表皮の構造によって水分喪失防止や異物侵入阻止が行われますjstage.jst.go.jp化学的バリアとしては皮膚表面を覆う酸性の皮脂膜や、汗中の抗菌ペプチド・リゾチームなどが微生物の繁殖を抑えていますjstage.jst.go.jp。正常皮膚表面はpH4.5〜6の弱酸性に保たれ、この酸性環境が皮膚常在菌叢のバランス維持や病原菌の増殖抑制に重要ですdsr-skincare.jp。さらに表皮細胞から分泌されるβディフェンシンやカテリシジン(LL-37)といった抗菌ペプチドが、細菌・ウイルス・真菌に対する防御に寄与し、化学的なバリアを形成しますjstage.jst.go.jppmc.ncbi.nlm.nih.gov。加えて、表皮のランゲルハンス細胞や真皮の樹状細胞・リンパ球・肥満細胞などによる免疫学的バリアも不可欠ですjstage.jst.go.jp。皮膚は異物侵入時にただちに免疫応答を発動し、炎症反応を介して生体を防御します。以上の物理的・化学的・免疫学的バリアは相互に密接に連携しながら健康な皮膚環境を維持しており、いずれか一つが破綻しても皮膚全体のバリア機能低下につながりますjstage.jst.go.jp

なお、皮膚は選択的透過性も備えており、脂溶性物質など一部の経皮吸収は生じます。しかし本来、皮膚バリアは外来物質の侵入を最小限に留めるよう進化した機構であり、外用薬や経皮投与製剤はこのバリアをいかに透過させるか工夫が凝らされています。一方で「皮膚呼吸」という言葉がありますが、皮膚のガス交換機能はごく微小であり、人体の呼吸はほぼ肺に依存していますdsr-skincare.jp。皮膚バリアという観点では、むしろ汗腺や皮脂腺からの分泌・排泄機能が老廃物除去などに寄与しています。

バリア形成に関与する細胞と分化過程

皮膚バリアの主役となる細胞は角化細胞(ケラチノサイト)です。角化細胞は表皮の基底細胞層で生まれ、分裂増殖した娘細胞が次第に上層へ移行し分化していきます。基底層の細胞は円形に近い形態でメラノサイト(色素細胞)との接触や基底膜への接着を保っていますが、有棘層へ進むにつれて細胞は大型化し、トノフィラメント(ケラチン中間径フィラメント)の束が発達して細胞同士がデスモソームで強固に結合しますjci.org。この時期にはケラチン5・14(基底層に多いタイプ)からケラチン1・10(表層に多いタイプ)への発現切り替えなど、角化細胞の性質が「増殖モード」から「分化モード」へ転換しますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。さらに上層の顆粒層(顆粒細胞層)では、角化細胞内にケラトヒアリン顆粒と呼ばれる粗大顆粒が出現します。これがプロフィラグリン(フィラグリン前駆体)を主成分とする顆粒で、後述するようにフィラグリンは角質層で天然保湿因子(NMF)を生み出す重要タンパク質ですdsr-skincare.jp。同じく顆粒層の角化細胞内にはラメラ顆粒(膜コーティング顆粒)と呼ばれる小胞が多数存在し、各種**極性脂質(二層膜を形成する脂質)**や加水分解酵素(プロテアーゼやリパーゼ)、抗菌ペプチドなどが蓄えられていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov

やがて角化細胞は終末分化の段階に入り、細胞核を含む細胞小器官は酵素作用により崩壊・消失します。また細胞質内のケラチンフィラメントはフィラグリンによって凝集され、細胞は扁平化して丈夫な構造へと変化しますnationaleczema.org。細胞膜の内側ではインボルクリンロリクリンスモールプロリンリッチプロテイン(SPRR)といったコーニファイドエンベロープ(CE; 角質細胞包)の構成前駆タンパク質が次々と結合して層板を形成しますshiseido.co.jp。顆粒層上層では既存の細胞膜に裏打ちする形でCEが成熟し、角質層に達する頃には細胞膜自体が消失して代わりにタンパク質性の外壁(CE)が角質細胞一つ一つの外周を包むようになりますshiseido.co.jp。この過程で細胞内カルシウム濃度の上昇が引き金となり、トランスグルタミナーゼ1(TGM1)という酵素が活性化されてCE構成タンパク質同士をグルタミルリジン結合で架橋(クロスリンク)します。その結果、ケラチンフィラメント束を取り囲むように不溶性で強靭な殻(角質細胞包、CE)が形成されますjci.org。以上の変化により角化細胞は角質細胞(コルネオサイト)として角質層に積層し、外界に対するバリアを担う終末細胞となります。角質細胞間には前述のラメラ顆粒から放出された脂質が満たされ、細胞同士をモルタル(しっくい)のように接着して水分の透過を防ぐ脂質二重層が構築されますjci.org。このように角質層は**「レンガとモルタル」構造**(レンガ=角質細胞、モルタル=細胞間脂質)をとり、強固なバリア機能を発揮しますjci.org。さらに角質層直下の顆粒層では、細胞間を密着させるタイトジャンクション(TJ)という結合装置が発達し、水分やイオンの漏出を防ぐ補助的バリア帯となっていますdsr-skincare.jp。表皮の角化細胞はこのような一定の分化プログラムに従って絶えず新生・脱落を繰り返しており、通常は約4週間(細胞分裂から角質細胞として垢となり剥離するまで)でターンオーバーしていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov

表皮ケラチノサイトの分化段階とバリア形成の模式図。jci.org表皮の基底細胞(Basal)は分裂増殖して有棘層(Spinous)へ移行し、顆粒層(Granular)で顆粒や脂質小胞を形成しながら終末分化します。最終的に無核化した角質細胞(Squame)が角質層(Stratum corneum)を構成し、ケラチンフィラメント束とそれを包む架橋タンパク質殻(コーニファイドエンベロープ)が細胞間脂質に埋め込まれた「レンガとモルタル」構造のバリアを形成しています。なお、顆粒層には細胞間を密着させるタイトジャンクション(Tight junction)が存在し、水分保持に重要ですjci.org

皮膚バリアの分子構成成分

皮膚バリアを支える角質層には、角質細胞(コルネオサイト)とそれを取り巻く細胞間脂質、および細胞間結合や天然保湿成分など様々な分子成分が存在します。

角質細胞と角質細胞包(コーニファイドエンベロープ)

角質細胞そのものは、内部に大量のケラチンフィラメント束を含み、外側はコーニファイドエンベロープ(CE)と呼ばれる固いタンパク質の殻で覆われていますshiseido.co.jpshiseido.co.jp。CEの主要構成分はインボルクリンロリクリンエンボプレキンペリプレキンSPRR(Late Cornified Envelopeタンパク質を含む)など複数のタンパク質で、ロリクリンが角質細胞包タンパクの70–85%を占めるともいわれます。このCE形成には前述したトランスグルタミナーゼ1(TGM1)が中心的役割を果たし、Ca<sup>2+</sup>依存的にこれら基質タンパクを次々と共有結合で架橋しますanndermatol.org。さらにTGM1は、長鎖のω-ヒドロキシセラミド(後述するセラミドEOSなど)をインボルクリンなどCEタンパクにエステル結合させる触媒でもあり、角質細胞表面にコーニファイド脂質エンベロープ(CLE)と呼ばれる脂質の外層を形成しますmdpi.com。このCLEは角質細胞と細胞間脂質層との境界を接着させる“のり”のような役割を果たし、バリア機能を一層高めます。近年の研究では、セラミドを主体とする細胞間脂質も実は角質細胞の外側を覆うCEというしっかりした足場があってこそ秩序だって積層配置されることが明らかとなっており、むしろCEこそが皮膚バリア機能の主役とも言われていますshiseido.co.jp。事実、アトピー性皮膚炎患者皮膚では未成熟なCEしか持たない角質細胞が多いことが確認されており、CEの成熟度とバリア機能の密接な関係が示唆されていますshiseido.co.jp

角質層の構造模式図。角質細胞(黄)はフィラグリン由来の天然保湿因子(NMF、水色)を内部に保持し、細胞膜内側にはロリクリンやインボルクリンからなる硬い角質細胞包(赤)が形成されている。角質細胞同士の間隙は、セラミド・コレステロール・脂肪酸からなる細胞間脂質(青)で満たされ、ラメラ(層状)構造を形成して水分を保持するモルタルとして機能するshiseido.co.jp

フィラグリンと天然保湿因子(NMF)

フィラグリン(filaggrin)は表皮終末分化において極めて重要なタンパク質です。約400kDaの巨大なプロフィラグリン前駆体として顆粒層のケラトヒアリン顆粒に蓄えられ、角質層へ移行するとプロテアーゼによる部分的切断で32kDa前後のフィラグリン単量体が生成されますdsr-skincare.jp。フィラグリンはケラチン線維に結合・架橋して凝集させることで角質細胞内のケラチン束形成を助け、角質細胞を平板状で強固な構造へと成熟させますnationaleczema.org。その後フィラグリンは角質層でゆっくりとプロテアーゼによって分解され、遊離アミノ酸やその誘導体であるピロリドンカルボン酸(PCA)ウロカニン酸(UCA)などへ変化しますdsr-skincare.jp。これら低分子の水溶性成分は角質層中の水分と結合して保持する性質が高く、天然保湿因子(Natural Moisturizing Factor; NMF)と総称されます。NMFの主成分はアミノ酸類(40%以上)で、特にフィラグリン由来のPCAやUCA、さらに乳酸、尿素、無機塩類などが含まれますdsr-skincare.jp。NMFは角質層の吸湿性を高め、乾燥を防ぐとともに角質層の適切な水分量(約20〜30%)維持に寄与します。またNMF中のUCAは紫外線を一部吸収する性質があり、角質層での紫外線防御にも役立っています。フィラグリン遺伝子(FLG)の変異によるフィラグリン欠損は皮膚乾燥とバリア障害を招き、アトピー性皮膚炎や魚鱗癬(尋常性魚鱗癬)の発症要因となりますdsr-skincare.jpnationaleczema.org。実際に欧米人のアトピー性皮膚炎患者の約20–30%にFLG遺伝子変異が認められるとの報告もありnationaleczema.org、フィラグリンはバリア機能維持に不可欠な分子といえます。なお、フィラグリン単量体の分解にはカスパーゼ14というシステインプロテアーゼが重要な役割を果たし、カスパーゼ14欠損マウスでは角質中のアミノ酸(NMF)量の低下と皮膚乾燥、UVB感受性亢進が生じることが報告されていますmdpi.commdpi.com。すなわちカスパーゼ14はフィラグリンのNMFへの変換に必須であり、その活性低下はバリア機能の低下を招きます。

角質細胞間脂質とラメラ構造

角質層の細胞間脂質は、角質細胞同士のすき間を埋めるモルタルとして重要です。主成分はセラミドコレステロール遊離脂肪酸の3種類で、重量比でおよそセラミド40〜60%、コレステロール20〜30%、脂肪酸20〜30%を占めますdsr-skincare.jp。これら脂質は角質層内で層状に積み重なったラメラ構造(ラメラシート)を形成し、疎水性バリアを構築して水分保持と異物の透過防止に働きますdsr-skincare.jp。中でもセラミドはスフィンゴイド塩基(長鎖アミノアルコール)と脂肪酸とがアミド結合した脂質で、角質細胞間の主要脂質として10種類以上の分子種が存在し、バリア機能に必須ですjstage.jst.go.jp。セラミドの一部(EOS型など)は極長のω-ヒドロキシ脂肪酸を含み、上記の通り角質細胞包に共有結合して脂質エンベロープを形成する特殊な役割も担いますmdpi.com。セラミドは水分を挟み込む性質が強く、不足すると皮膚の乾燥と刺激透過性の亢進(バリア低下)を招きますjstage.jst.go.jpnationaleczema.org。実際アトピー性皮膚炎肌ではセラミド含量の低下(特にEOS型セラミドの減少)が一貫して報告されており、セラミド補充療法によるバリア改善が試みられていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov

コレステロールは細胞膜成分として知られるステロールで、角質細胞間にも約25%含まれラメラ構造の流動性や安定性を調節します。遊離脂肪酸は主に炭素数16〜26程度の長鎖直鎖の飽和脂肪酸(パルミチン酸やステアリン酸、オレイン酸など)で、セラミド・コレステロールとともにラメラ層を構成しますdsr-skincare.jp。脂肪酸はまた、表皮のリン脂質が酵素分解されて生成する経路もあり、生成する遊離脂肪酸は角質層を弱酸性に保つ酸性因子として働きますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。これら細胞間脂質は表皮顆粒層の角化細胞内でラメラ顆粒に合成・蓄積され、角質層への変化に伴い顆粒から放出されて層板構造を形成しますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。細胞間脂質を適切な種類と比率で産生するには表皮の細胞分化が正常に進行する必要があり、例えばNMF不足などで角質層の水分が低下すると合成酵素活性が乱れてセラミド組成の異常が生じることが報告されていますjstage.jst.go.jp。細胞間脂質産生に関わる代表的な酵素にはβグルコシダーゼ、スフィンゴミエリンデアシラーゼ、ホスホリパーゼA<sub>2</sub>などがあり、これらはpH4.5〜5.5付近で最適に働きますpmc.ncbi.nlm.nih.gov(皮膚が弱酸性を保つ理由の一つ)。細胞間脂質の量や構造は年齢や季節によっても変動し、高齢者や冬季にはセラミド量の低下が知られています。

タイトジャンクション(密着結合)

角質層直下の顆粒層には、上皮細胞同士を帯状に強固に接着させる**タイトジャンクション(TJ)**という構造があります。TJはクラウディンやオクルディンなどの膜タンパクからなる細胞間閉鎖装置で、隣接する細胞間をまるで“Oリング”のように塞ぎ、水やイオンの過剰な透過を防いでいますdsr-skincare.jp。表皮のTJは主に顆粒層に局在し、経細胞間経路での水分喪失を制限する第二のバリアとして機能しますjci.org。TJを構成するクラウディン-1遺伝子に変異があると著明な皮膚乾燥・脱水を呈する遺伝性疾患(魚鱗癬様紅皮症)が起こることからも、表皮バリアにおけるTJの重要性が示唆されています。またアトピー性皮膚炎患者では顆粒層でのTJタンパク発現低下が認められ、バリア機能障害との関連が研究されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov

皮脂膜と酸性皮膚表面

皮膚表面は毛穴から分泌される皮脂と汗が混ざりあった皮脂膜に覆われています。皮脂の主成分はトリグリセリド、ワックスエステル、スクワレンなどの脂質で、皮脂膜は皮膚表面を油膜でコーティングして外的刺激や微生物から皮膚を保護し、水分の蒸発を緩和する働きを持ちますdsr-skincare.jp。もっとも、水分保持という観点では皮脂の寄与は角質層NMFや細胞間脂質に比べて小さいと考えられていますdsr-skincare.jp。しかし皮脂由来の脂肪酸は皮膚表面を弱酸性に保つ上で重要ですdsr-skincare.jp。皮脂中のトリグリセリドが常在菌によって分解され遊離脂肪酸になると皮膚表面はpH4〜6の酸性となり、これが**「酸性皮膜」**(acid mantle)として病原菌の繁殖を抑制しますdsr-skincare.jp。皮膚バリア機能にはこのような化学的側面も含まれており、石鹸の使いすぎなどで皮脂や汗が除去され皮膚がアルカリ性になると、細菌感染や刺激のリスクが高まることが知られていますpmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov

バリア形成の分子機構と調節因子

皮膚バリアが正しく形成され維持されるためには、前節で述べた分子成分が適切なタイミングで産生・制御される必要があります。その鍵となるのが表皮の分化シグナル酵素活性の調節機構です。

表皮内カルシウム勾配と分化制御

表皮では基底層から顆粒層にかけて細胞外カルシウム濃度が低濃度→高濃度の勾配を形成しており、このカルシウム勾配が角化細胞の分化誘導に重要な役割を担っていますanndermatol.org。培養細胞を用いた研究で、カルシウム濃度を上昇させるとケラチノサイトが増殖から分化へスイッチし、ケラチン、ロリクリン、インボルクリン、プロフィラグリン、トランスグルタミナーゼなど分化関連遺伝子の発現が誘導されることが示されていますanndermatol.org。実際、表皮のカルシウム勾配が消失すると(例:カルシウム応答性受容体CaSR欠損マウス)、表皮の分化マーカー(インボルクリンやフィラグリンなど)が著減し、ラメラ顆粒の分泌不全やバリア機能障害が生じることが報告されていますanndermatol.org。このことから表皮カルシウム勾配は正常な表皮分化とバリア形成に必須と考えられていますanndermatol.org。カルシウムはまた、終末分化におけるプロフィラグリンからフィラグリンへの切り替えにも関与します。プロフィラグリンのN末端ドメインには多数のCa<sup>2+</sup>結合モチーフ(EFハンド様ドメイン)があり、高カルシウム環境ではこの部位にCa<sup>2+</sup>が結合してプロフィラグリン分子内に構造変化を起こしますanndermatol.org。その結果、プロフィラグリンの自己切断に必要なプロテアーゼ認識部位が露出し、カスパーゼ14などの酵素による切断が開始されると考えられていますanndermatol.org。一方、細胞内のCa<sup>2+</sup>ストアである小胞体由来のCa<sup>2+</sup>もバリア調節に重要です。小胞体ストアのCa<sup>2+</sup>が枯渇すると角化細胞の小胞体ストレス応答が活性化し、カスパーゼ14やロリクリンの発現が促進されラメラ顆粒の分泌が刺激されることが報告されていますanndermatol.organndermatol.org。これは表皮バリアに障害が生じた際、角化細胞内ストアCa<sup>2+</sup>の放出によってバリア修復がスイッチオンされる仕組みであり、実際に外用薬で人工的に表皮に微小なカルシウム変化を与えるとバリア機能が強化される可能性が示唆されていますanndermatol.organndermatol.org

カルシウムシグナルの上流には**カルシウム感知受容体(CaSR)**が存在します。CaSRは顆粒層の角化細胞膜上に発現するGタンパク共役受容体で、細胞外Ca<sup>2+</sup>濃度の上昇を検知してホスホリパーゼC経路(IP3生成)を活性化し、小胞体からのCa<sup>2+</sup>放出とストア作動性カルシウム流入を引き起こしますanndermatol.org。この経路によって顆粒層角化細胞の細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度が上昇すると、核内転写因子が活性化され前述の分化関連遺伝子群(TGM1、ロリクリン、インボルクリン、プロフィラグリン、ケラチンなど)の発現が誘導されますanndermatol.org。したがってCaSRは「表皮のカルシウム勾配を察知して角化細胞の分化・バリア形成を司るセンサー」として機能しており、CaSR欠損マウスでは表皮カルシウム勾配の消失と分化マーカーの大幅減少、ラメラ顆粒分泌不全を来すことが確認されていますanndermatol.org

トランスグルタミナーゼとコーニファイドエンベロープ形成

トランスグルタミナーゼ(transglutaminase; TG)はグルタミン残基とリシン残基を架橋してタンパク質同士を共有結合させる酵素ファミリーです。表皮には主にトランスグルタミナーゼ1(TGM1)、2(TGM2)、3(TGM3)が発現しますが、中でもTGM1は角質細胞のCE形成に必須で、その遺伝子異常は致死性不全角化症(Lamellar型魚鱗癬)を引き起こしますmdpi.com。TGM1は顆粒層で発現し、細胞終末分化時に細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度の上昇とリン酸化を受けて活性化し、インボルクリン、ロリクリン、エンボプレキン、ペリプレキン、フィラグリン、ケラチンなど多数の基質を次々と架橋して不溶性の角質細胞包(CE)を形成しますanndermatol.org。また前述のようにTGM1はω-ヒドロキシセラミドをCEタンパクに結合させる機能も持つため、TGM1欠損では細胞表面の脂質エンベロープ形成が不能となりバリア不全に陥りますmdpi.commdpi.com。TGM1以外ではTGM3も主に毛包付属器で発現しますが一部表皮にも存在し、角質細胞同士の接着斑(コルネオデスモソーム)の硬化や脱落に関与するとされています。TGM2は基底層で発現し傷害時の表皮修復に関与するなど、各アイソフォームで機能が異なります。TGM1発現は上記のカルシウムやビタミンA・D、また種々のサイトカインや転写因子の影響を受けます。例えばビタミンD受容体欠損マウスではTGM1やロリクリンの発現低下で軽度のバリア機能障害が起こり、逆にレチノイン酸(ビタミンA誘導体)外用でTGM1遺伝子発現が上昇するといった報告があります。また炎症性サイトカイン(IL-4やIL-13などTh2サイトカイン)はTGM1やフィラグリン、ロリクリンの発現を抑制することが分かっており、後述のアトピー性皮膚炎では問題となりますpmc.ncbi.nlm.nih.gov

プロテアーゼによる剥離とバリア恒常性

角質層では、古い角質細胞が最終的に垢となって自然剥離するターンオーバー(角質剥脱)が起こります。この剥脱は、角質細胞間の接着装置であるコルネオデスモソームを分解するプロテアーゼ群によって制御されています。代表的なものはカリクレイン関連ペプチダーゼというセリンプロテアーゼ群(KLK5KLK7など)で、角質細胞間でコルネオデスモシンなど接着分子を切断し、角質細胞を一枚ずつ剥がしていきますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。KLKの活性は皮膚表面の水分量やpHに大きく依存しており、通常は皮膚が潤って弱酸性に保たれることで過度な剥離が起こらないよう抑制されていますpmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov。具体的には角質細胞中のLEKTI(Serine Protease Inhibitor Kazal Type 5; SPINK5遺伝子産物)と呼ばれる内因性セリンプロテアーゼインヒビターがKLKを不活性化し、またpH5前後の環境下ではKLK酵素自体の活性も弱いためですpmc.ncbi.nlm.nih.gov。しかし皮膚がアルカリ性に傾いたり乾燥したりすると、KLKの活性が亢進し角質剥脱が促進されすぎてバリアが破綻する一因となりますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。実際、皮膚表面pHを実験的に7以上に上昇させるとKLK5が活性化してマウスにアトピー様皮膚炎を生じること、KLK7がIL-1βを活性化して炎症を惹起することなどが報告されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。一方で、カスパーゼ14(フィラグリン分解)、カルパインやキャテプシン類(角質細胞包内タンパクの処理)など、角質層には複数種類のプロテアーゼが存在し、それぞれがバリア恒常性維持に関与しています。プロテアーゼ活性の異常は魚鱗癬や剥脱性皮膚炎などの病態につながるため、その制御もバリア機能の重要な要素です。

外的因子によるバリア機能破綻のメカニズム

皮膚バリアは外部環境から様々な影響を受けます。紫外線(UV)乾燥環境物理・化学的刺激物などの外的要因は、バリア機能を低下させる主要な誘因です。

  • 紫外線(UV): 紫外線は皮膚に多面的な障害を与えますが、特にUVB(波長290–320nm)は表皮にエネルギーを吸収されやすく、表皮細胞や細胞間脂質に直接ダメージを与えます。UVB照射により角質層では**共有結合型セラミド(ω-ヒドロキシセラミド)のレベル低下が起こり、それに比例してTEWL(経皮水分蒸散量)が有意に増大することが報告されていますpdfs.semanticscholar.org。これはUVBが角質細胞包に結合したセラミドを減少させ、バリアの“モルタル”を損なうためと考えられます。実際、UVB照射後の皮膚ではバリア機能の指標である角層水分量が低下し、顕微鏡的にも角質細胞に空隙が生じるなどバリア破綻が観察されますuspharmacist.com。またUVBは表皮細胞のDNAを傷つけて日焼け(サンバーン)炎症を引き起こし、その二次的影響で角化異常や剥脱亢進が生じることもバリア機能低下につながります。一方、UVA(320–400nm)は真皮まで到達してコラーゲン線維を変性させますが、バリア機能そのものへの直接影響はUVBほど大きくありません。しかしUVAも活性酸素種を発生させ皮膚の酸化ストレスを高め、セラミドの過酸化分解などで間接的にバリアを乱す可能性があります。紫外線によるバリア障害を防ぐには日常的な光防御(サンスクリーン剤の使用や遮光)**が重要であり、近年ではセラミド含有日焼け止めなどバリア保護効果を併せ持つ製品も有用性が示されていますuspharmacist.comuspharmacist.com
  • 乾燥・低湿度: 大気の湿度が低い環境では皮膚からの水分蒸散が増え、角質層が乾燥状態に陥ります。すると角質細胞内のプロテアーゼ活性の調節が変化し、フィラグリンの分解が過度に進行してNMFが減少することが報告されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。実験的にも相対湿度が低い環境では角層のフィラグリン分解産物(アミノ酸など)が減少し、高湿度環境ではそれが抑制されることが示されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。NMFが不足すると角質層の吸湿性が低下し、角質細胞間の水素結合ネットワークが脆弱化して微小な亀裂が生じるなど、バリア機能が低下します。また乾燥によって角質層の水分量が極端に減ると、角層細胞間に存在すべき結合水が減少し代わりに空隙だらけの自由水が増加しますjstage.jst.go.jp。この自由水は角層からNMF成分や一部の脂質を溶出させてしまうため、さらに乾燥とバリア障害を悪化させる悪循環を招きますjstage.jst.go.jp。したがって皮膚の乾燥を防ぎ適切な湿度環境を保つことは、バリア機能維持にとって基本です。季節的に湿度の下がる冬場や、エアコンの効いた低湿度室内では、加湿器の使用や保湿剤の積極的な応用で皮膚の乾燥を予防することが推奨されます。
  • 物理的・化学的刺激物: 外部からの摩擦・洗浄・化学物質曝露といった刺激もバリア障害を引き起こします。例えば界面活性剤を含む石鹸やボディソープでゴシゴシと洗いすぎると、皮脂膜や角質細胞間脂質が過剰に除去されてしまいます。アルカリ性の石鹸の場合、皮膚表面pHが上昇して角質層中のプロテアーゼ阻害剤(LEKTI)の機能低下とKLK5/7などの異常活性化を招き、角質の過剰剥脱と炎症をもたらすことがありますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。結果として皮膚バリアが大きく損なわれ、刺激物質やアレルゲンの侵入しやすい“漏れ穴”だらけの状態になる可能性があります。また有機溶媒や強酸・強アルカリ薬品などの化学物質は角質細胞間脂質を溶解・変性させ、短時間の接触でも急性のバリア破綻(接触皮膚炎や化学熱傷)を起こします。物理的刺激では、ナイロンタオル等で皮膚を擦りすぎると角質層が薄くなり、一時的にバリア機能が低下します。テープ剥離試験(セロハンテープで角質層を剥離する刺激試験)では皮膚が急激なバリア障害を生じますが、それに対して表皮はサイトカイン放出や増殖亢進などバリア修復反応を直ちに開始することが知られています。しかし慢性的な刺激の繰り返しはバリア機能を慢性的に低下させ、いわゆる敏感肌(外的刺激に過敏に反応する不安定な皮膚状態)を招きます。日常生活では摩擦・洗浄はできるだけ優しく行い、刺激性の強い化粧品・洗剤は避けることがバリア維持に重要です。また高濃度の塩素を含むプール水や極端な温熱・冷却刺激なども皮膚バリアにはストレスとなるため、注意が必要です。逆に**過度の湿潤(マセレーション)**も皮膚バリアを低下させます。おむつ皮膚炎や滲出性皮膚障害では、角質層が水分を含みすぎて膨潤・破綻し、NMFや脂質が溶出して易刺激性の高いふやけた皮膚となりますjstage.jst.go.jp。このような場合は速やかな乾燥と皮膚保護剤による処置が必要です。

内的要因によるバリア機能破綻のメカニズム

皮膚バリア機能は体内の要因、すなわち加齢遺伝素因・疾患によっても低下しやすくなります。

  • 加齢(エイジング): 加齢に伴い皮膚のバリア機能は徐々に脆弱化します。高齢者の皮膚では表皮のターンオーバーが遅延し、皮脂分泌量の減少やNMF量の低下、角質層セラミドの減少などが生じますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。加えて皮膚表面pHの上昇(アルカリ化)も加齢皮膚の特徴ですpmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov。これは皮脂産生低下による脂肪酸減少や、汗腺のsPLA<sub>2</sub>(ホスホリパーゼA<sub>2</sub>)活性低下pmc.ncbi.nlm.nih.gov、さらには表皮のNHE1(ナトリウム・水素交換輸送体)の発現低下pmc.ncbi.nlm.nih.gov、フィラグリン発現低下によるUCA減少pmc.ncbi.nlm.nih.govなど複数の要因で説明されています。皮膚がアルカリ化すると角質層の脂質加工酵素の活性低下pmc.ncbi.nlm.nih.govや、前述のKLK5/7の異常活性化による角質剥脱・炎症誘発pmc.ncbi.nlm.nih.gov、常在菌叢の乱れ(黄色ブドウ球菌や真菌の増殖)pmc.ncbi.nlm.nih.govなど、バリア機能に悪影響が及びます。その結果、高齢者では皮膚の水分保持力低下と慢性皮膚炎(いわゆる「乾皮症」や「皮膚掻痒症」)が生じやすくなりますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。加齢皮膚では外的刺激に対するバリア回復能も低下しており、一度バリアが破綻すると若年者よりも修復に時間がかかりますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。そのため掻破や軽微な外傷から慢性湿疹や難治性皮膚炎に移行しやすく、いわゆる**「治りにくい皮膚」となりますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。高齢者でアトピー性皮膚炎や接触皮膚炎が増悪しやすい一因も、こうしたバリア機能の加齢変化にあります。従って高齢の皮膚では若年時以上に保湿ケア低刺激性製品の使用**、**皮膚の酸性度維持(pHケア)**などが重要になります。例えば高齢者に酸性の保湿剤(pH4程度)を1ヶ月間使用すると、角質水分量の改善やバリア機能指標の上昇が報告されておりpmc.ncbi.nlm.nih.gov、皮膚の積極的な酸性化・保湿が推奨されています。
  • アトピー性皮膚炎(AD): アトピー性皮膚炎は代表的なバリア機能破綻を伴う皮膚疾患です。AD患者では生まれつきまたは後天的に角質層のバリアが弱く、外的刺激やアレルゲンの侵入による湿疹・炎症を繰り返します。その主な要因の一つはフィラグリン遺伝子(FLG)の変異で、欧米人では患者の約30%にFLG変異が見られますnationaleczema.org(日本人でも10%前後との報告あり)。フィラグリン不足は前述のように角質層の保湿力低下とpH上昇、角質構造の緩みを招き、経皮感作(アレルゲン侵入)を許す根本要因となりますnationaleczema.org。さらにAD皮膚では角質層セラミド(特にEOS型)の有意な欠乏があり、NMF低下との相乗で顕著な乾燥肌となりますpmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov。加えて慢性的なTh2型炎症が表皮に存在するため、IL-4やIL-13などのサイトカインがケラチノサイトの分化を乱し、フィラグリンやロリクリン、インボルクリンの発現低下を引き起こしますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。このように遺伝要因+環境要因+免疫要因の複合的作用で皮膚バリア障害が生じ、さらにバリア破綻による刺激抗原侵入が免疫応答を亢進させて皮膚炎を維持・増悪させるという悪循環が形成されます。実際、AD患者では健常皮膚と比べ黄色ブドウ球菌の異常増殖がほぼ常に認められますが、これはバリア障害による抗菌ペプチド産生低下と皮膚pH上昇が一因と考えられますerca.go.jperca.go.jp。AD治療では炎症を抑えることと同時に**スキンケア(皮膚を清潔に保ち保湿すること)**でバリア機能を増強することが極めて重要ですerca.go.jperca.go.jp。これによりアレルゲン侵入と炎症の悪循環を断ち切り、薬物治療の効果も高めることができます。実際、皮膚のバリア機能を正常に保つ保湿スキンケアはAD治療の基本であり、ガイドラインでもステロイドなど薬物療法と並ぶ柱と位置付けられていますhc.mochida.co.jp
  • その他の疾患・要因: 魚鱗癬をはじめとする先天性角化症では、遺伝子異常によりフィラグリン欠損やTGM1欠損、ABCA12脂質輸送体異常などがあり、生来のバリア機能不全を呈しますpmc.ncbi.nlm.nih.gov乾癬では表皮細胞の過剰増殖・分化不全により未熟な角質細胞が蓄積し、バリア不全から炎症が悪循環しています(ケラチノサイトの異常分化を正常化するビタミンD外用はバリア回復に寄与する治療です)。接触皮膚炎刺激性皮膚炎は外的刺激で生じますが、個人差としてバリア機能が低い人は発症しやすく、そこに免疫反応が加わるとアレルギー性皮膚炎として固定化します。近年注目される皮膚マイクロバイオーム(常在菌叢)の乱れもバリア機能と関係が深いです。皮膚常在菌は病原菌の排除や皮膚免疫調節に関与し、特に黄色ブドウ球菌の異常増殖はADやざ瘡など様々な皮膚病態を悪化させますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。バリア障害があると常在菌叢バランスが崩れやすく、逆に特定菌の異常増殖がバリア機能をさらに低下させる悪循環も起こり得ます。以上のように、皮膚バリアは内的・外的因子による破綻のメカニズムが多岐にわたるため、その改善には包括的な対応が求められます。

美容皮膚科領域での臨床応用

皮膚バリアに関する知見は美容皮膚科の臨床にも広く応用されています。スキンケアの基本は皮膚を清潔に保ちつつバリアを損ねないよう優しく洗浄し、十分な保湿で角質層の水分量を高めてバリア機能を維持・補強することですerca.go.jp。具体的には、石鹸を使う場合は低刺激性・弱酸性の洗浄料を用いて泡でなでるように洗い、すすぎもぬるま湯で優しく行いますadvancedcosmeticsurgery-sc.comnationaleczema.org。洗浄後は時間をおかずに保湿剤を全身に塗布します。保湿剤は角質層に水分を補給・保持し、さらに油分でフタをして水分蒸発を防ぐ目的で用いますerca.go.jp。代表的なものにワセリン(白色ワセリン)や亜鉛華軟膏(皮膚保護軟膏)などの油脂性基剤、ヘパリン類似物質(ヒルドイド等)や尿素製剤などの保湿成分配合剤、そしてセラミド天然保湿因子類似成分を含む機能性保湿剤がありますdisease.jp.lilly.com。患者の皮膚状態に合わせて最適な基剤・成分を選択し、入浴後など皮膚が潤っているタイミングで塗布すると浸透効果が高まりますdisease.jp.lilly.com。アトピー性皮膚炎ではこのような保湿スキンケアが標準治療の一つであり、炎症を抑える薬物療法と並行して継続することで症状悪化を防ぎますhc.mochida.co.jp。実際、乳幼児期からの保湿ケアでアトピー性皮膚炎発症リスクを低減できるとの報告もあり、バリア機能の健全化は美容のみならず疾病予防の観点からも重要です。

バリア機能の改善・修復を目的とした新たな製品開発も進んでいます。セラミドを人工的に合成した擬似セラミド配合の化粧品や、フィトスフィンゴシン・コレステロール・脂肪酸を皮膚に補給する高機能クリームなどは、市販品として敏感肌向けに提供されていますjci.orgshiseido.co.jp。またバリア機能促進成分の研究も盛んで、近年では資生堂が角質細胞包(CE)の成熟を促進するH-スタビライジングAという美容成分を開発し、未成熟CEが多いデリケート肌のバリア機能を改善できる可能性を示していますshiseido.co.jpshiseido.co.jp。その他、ナイアシンアミド(ビタミンB<sub>3</sub>誘導体)はセラミド合成を高める作用があり、保湿化粧品に配合されてバリア改善効果を発揮しますcerave.comuspharmacist.com。このように皮膚バリアを強化するスキンケアは美容皮膚科領域の基盤と言えます。

一方、ケミカルピーリングレーザー治療といった美容施術では、施術後に一時的な皮膚バリア障害が生じます。ピーリング(AHAやトリクロロ酢酸など)では表皮の角質層を意図的に剥離するため、術後の皮膚はバリアが低下し外界刺激に過敏になりますkenbishin.net。そのため施術後のアフターケアとして、保湿剤のこまめな塗布と紫外線防御(日焼け止め、帽子の着用など)を徹底し、肌が再生するまで刺激物を避けることが重要ですkenbishin.net。レーザー治療後も同様で、照射部位の表皮に微小な炎症と一過的なバリア低下が生じます。特にフラクショナルレーザーシミ取りレーザーでは点状に表皮に微小損傷を与えるため、施術後48時間程度は皮膚の赤み・乾燥がみられますomotesando.info。この間に適切な保湿と外用薬による炎症鎮静を行わないと、色素沈着(炎症後色素沈着: PIH)のリスクが高まりますflalu.com。したがってレーザー後はバリア機能が低下したデリケートな状態であることを念頭に置き、紫外線対策保湿ケアを徹底して肌の回復を促す必要がありますtsubaki-grp.com。具体的には照射当日から低刺激性の保湿クリームを頻回に塗布し、外出時は日焼け止め・帽子・日傘で紫外線を遮断します。また入浴もぬるめのシャワー程度に留めて長湯は避け、こすらないよう優しく洗うことが推奨されますtouchi-c.comtouchi-c.com。美容皮膚科クリニックではこれらアフターケア指導も含めて施術効果を最大限にし、副作用を防ぐよう努めています。

皮膚バリア機能の維持・修復は美肌づくりの基本であり、肌荒れ・敏感肌の予防からエイジングケアまで幅広く寄与します。バリア機能が健全な肌は水分保持力が高くキメが整ってトラブルが起こりにくいため、結果的にハリ・ツヤのある美しい肌となりますhealthcosme.uminomori.com。逆にバリア機能の低下した肌では乾燥や刺激により炎症・くすみ・シワが生じやすく、美容施術のダウンタイムも長引きやすくなります。したがって美容皮膚科においてもまずはスキンケアで肌の土台を整えること(バリア機能を健全化すること)が重視されますhealthcosme.uminomori.com。患者への指導としても、「正しい洗浄と保湿」「紫外線対策」「十分な睡眠・栄養」など生活面でバリア機能を高める習慣を促していますhealthcosme.uminomori.comhealthcosme.uminomori.com。今後もバリア機能を分子レベルで制御する研究が進めば、新たな美容・治療法の開発につながると期待されますshiseido.co.jp。皮膚バリアは美容と健康の架け橋であり、専門家にとっても常に最新の知見を学び実践に活かすべき重要なテーマです。

References: バリア機能の基礎から応用まで幅広い文献を参照しましたhealthcosme.uminomori.comjci.orgjstage.jst.go.jpjci.orgjci.orgshiseido.co.jpdsr-skincare.jpmdpi.comdsr-skincare.jpdsr-skincare.jppmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.govpdfs.semanticscholar.orgpmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.govhc.mochida.co.jpdisease.jp.lilly.comkenbishin.nettsubaki-grp.com。各節で出典を示しています。

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