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D11.美容皮膚科学 レーザー治療 V1.1


D11.美容皮膚科学-レーザー治療-V1.1

美容医療におけるレーザー治療

美容皮膚科・美容外科領域では、レーザーを用いた治療が幅広く発展してきました。日本国内でも1990年代以降、各種レーザー機器が導入され、選択的光熱融解理論(Selective Photothermolysis)に基づく安全かつ効果的な治療が普及していますjstage.jst.go.jp。本章では、日本の現状を踏まえ、美容医療で使用されるレーザー治療について以下の観点から専門的かつ実践的に解説します。

1. 主な治療分野別のレーザー分類

美容領域でレーザーが応用される主な治療分野には、色素性病変血管病変脱毛しわ・たるみ・肌の若返りニキビ跡・瘢痕刺青除去があります。それぞれの分野で効果を発揮するレーザーの種類と特徴を分類して述べます。

色素性病変に対するレーザー治療

しみ・そばかす・肝斑・太田母斑・ADM(後天性真皮メラノサイトーシス)などの色素性病変に対しては、メラニン色素を標的とするレーザーが用いられます。代表的なのはQスイッチレーザー(QSレーザー)で、ナノ秒台の超短パルスによってメラニン顆粒を選択的に破壊しますkagaikeda-derm.com。波長はメラニン吸収の強い694nm(ルビーレーザー)755nm(アレキサンドライトレーザー)、**1064nm(Nd:YAGレーザー)などが使われ、必要に応じて532nm(Nd:YAGの倍波)**も浅在性のシミや赤みを帯びた色素に用いられますkagaikeda-derm.comkagaikeda-derm.com。これらのレーザーはメラニンに対し高い選択性を持つため、周囲組織へのダメージを最小限に抑えつつ病変部の色素を破砕できますtsk-onishi-iin.com。特にルビーレーザー(694nm)はメラニンへの反応性が極めて高く、濃いシミやADM、太田母斑などに対し強力な治療効果を示しますkagaikeda-derm.com。一方、1064nm Nd:YAGレーザーは皮膚深部まで到達しやすく真皮内の色素に有効で、太田母斑や異所性蒙古斑など真皮メラノサイトーシスの治療に適しています。755nmアレキサンドライトはその中間的な特性で、多くの老人性色素斑やそばかす除去に汎用されています。

近年ではピコ秒レーザーも登場し、ピコシュア(PicoSure)やピコウェイ(PicoWay)などが色素性病変治療に用いられます。ピコ秒レーザーはパルス幅が数百ピコ秒とさらに短く、ナノ秒レーザーよりも微細にメラニンを粉砕できるため、従来治療で取り切れなかった薄いシミや難治性の色素斑に対して少ない回数で効果を発揮する可能性がありますmitakabiyou.com。またピコ秒レーザーは「レーザートーニング」と呼ばれる低出力反復照射による肝斑治療や、美肌目的の照射(リジュビネーション)にも応用されています。

治療手技: 一般的に、局所麻酔は小範囲のシミ治療では不要ですが、広範囲を照射する場合や痛みに弱い患者では表面麻酔クリームを併用します。照射時にはシングルパルスで病変部にスポット照射し、反応として白色化現象(Immediate whitening)が見られれば適切なエネルギーと言えます。術後は照射部位に痂皮(かさぶた)が1〜2週間形成されるため、軟膏塗布と保護テープで創部を保護しますkagaikeda-derm.com。顔の濃いシミ・そばかすは通常1回の照射で除去可能ですが、真皮病変である太田母斑やADMは3ヶ月以上間隔をあけて4~5回程度の照射が必要になることが多いですkagaikeda-derm.com。照射後1ヶ月ほどで一時的に元のシミより濃く見える炎症後色素沈着(PIH)が約40%の頻度で発生しますが、多くは2~3ヶ月で薄くなり最終的に元の病変よりも改善しますkagaikeda-derm.com。PIHを軽減する目的で、治療前後にトラネキサム酸の外用・内服やハイドロキノン外用を併用することもありますkagaikeda-derm.com。患者には治療前後の厳重な紫外線回避を指導し、色素沈着予防のスキンケアも重要ですkagaikeda-derm.com

適応と効果: Qスイッチレーザーは老人性色素斑、雀卵斑(そばかす)、太田母斑、ADM、異所性蒙古斑、扁平母斑(カフェオレ斑)などに適応しますkagaikeda-derm.com。特に境界明瞭な老人斑やそばかすは1回照射で高い効果が得られます。また口唇メラノーシス(唇の色素斑)や外傷性刺青にも有効ですkagaikeda-derm.com。肝斑は難治であり、強いレーザー照射は悪化リスクがあるため原則慎重に扱います。肝斑にはレーザートーニング(低出力反復照射)療法が行われることがありますが、効果は一時的で内服治療(トラネキサム酸等)や外用との併用が推奨されています。

副作用: 色素性病変レーザーの主な副作用は熱傷(水疱形成)と炎症後色素沈着です。適切なエネルギー設定でもアジア人ではPIHが比較的高頻度に起こりますが一過性ですkagaikeda-derm.com。過度なエネルギー照射や不適切な術後管理により瘢痕形成低色素斑(色抜け)を生じるリスクもあります。特にルビーレーザーは効果が強力な反面PIHリスクが高いため、色黒の患者や肝斑には避ける傾向があります。一方Nd:YAG 1064nmは色素への作用がマイルドでPIHリスクはやや低いため、肌色の濃い患者にも選択されます。

国内の状況: 日本では1996年に太田母斑など一部の先天性のアザに対しレーザー治療が保険適用となり、乳幼児期から治療が可能になりましたjstage.jst.go.jp。保険適用となる太田母斑、異所性蒙古斑、ADM、扁平母斑の治療には主にQスイッチレーザーが用いられます。なかでもQスイッチルビーレーザーは扁平母斑に対する保険適用を取得している唯一の機種ですkagaikeda-derm.com。現在国内で流通しているQスイッチレーザーには、日本製のもの(例:ジェイメック社のNanoQなど)や輸入機で承認を取得したもの(独Asclepion社のNanoStar R等)がありますkagaikeda-derm.com。また近年ではピコ秒レーザーの一部機種(ピコシュア等)が「太田母斑・異所性蒙古斑」を適応として薬事承認されましたmitakabiyou.com。保険適用外の老人性色素斑や雀卵斑治療も、自費診療として広く行われています。

血管病変に対するレーザー治療

赤あざ(毛細血管奇形、いわゆるポートワイン母斑)や苺状血管腫、顔面の毛細血管拡張(赤ら顔・酒さ)などの血管病変には、血管内のヘモグロビンをターゲットとするレーザーが有効です。代表的なのは**パルス染料レーザー (PDL)**で、波長585nmまたは595nmのレーザー光を0.45~20ミリ秒程度のパルス幅で照射します。585~595nmの光は酸化ヘモグロビンに対する吸収が高く、拡張した細血管を選択的に熱凝固できますtsk-onishi-iin.com。Candela社のVビームシリーズがその代表で、日本でも赤あざ治療の標準機器として広く導入されています。

また**KTPレーザー(532nm)**も血液中ヘモグロビンへの吸収が強く、表在の細い血管に効果があります。これはNd:YAGレーザー(1064nm)の波長を倍頻化したもので、代表機種にCutera社Excel VのKTPモード(532nm, 10-50ms)などがあります。**長尺パルスNd:YAGレーザー(1064nm)**は皮膚深達度が深く、青黒く見える太めの静脈や深部の血管病変に有用ですtsk-onishi-iin.com。例えば顔面の青筋静脈や下肢の網目状静脈に1064nmレーザーを照射すると、深部まで到達した熱で血管を閉塞させられます。Nd:YAGはメラニンへの吸収が低いため色素沈着のリスクが少なく、色素沈着を起こしやすい部位(目の周囲の青静脈など)や色黒の患者にも比較的安全に使用できます。

治療手技: 血管レーザーでは冷却が重要です。特にPDLやKTPは表皮のメラニンへの作用もあるため、接触冷却や冷却ジェルを併用して表皮保護します。Vビームではダイナミッククーリング(DCD)により照射直前に冷却ガスを吹き付ける機構があります。照射時の痛みは輪ゴムではじかれるような感覚で、必要に応じて表面麻酔を施します(乳幼児の血管腫治療では鎮静や全麻を行うこともあります)。PDLではパルス幅を病変の血管径に合わせ設定し(例:浅い毛細血管には短いパルス、太い血管には長めのパルス)、均一に照射します。適切に反応すると照射直後に紫斑や発赤が生じます。術後は圧迫や冷却で炎症を抑え、患部の摩擦を避けます。

適応と効果: PDLは単純性血管腫(ポートワイン母斑)の第一選択で、生後早期から治療を開始すると病変の肥厚を抑えつつ色調の改善が得られます。また乳幼児血管腫(いちご状血管腫)に対しても増殖抑制や退縮促進の効果があり、潰瘍予防目的でも用いられます。成人の毛細血管拡張症(赤ら顔、酒さ様皮膚炎)にもPDLやKTPが有効で、拡張した血管が縮小し赤みが軽減しますdoctorsfile.jp。一方、青色の静脈湖や下肢静脈には1064nmレーザーが適しています。いずれも数回の照射で徐々に改善し、完全消失しない場合も薄く目立たなくなります。

副作用: 血管レーザー照射後は紫斑(内出血による点状出血斑)が生じることがあります。特に従来型PDL(585nm, 0.45ms)は施術後に顕著な紫斑が1~2週間続きましたが、最新のVビームはパルス幅調整により紫斑を抑えるモードも可能です。それでも一時的な腫れ発赤は避けられず、冷却や軟膏塗布で対処します。色素沈着は稀ですが、強い炎症が起きた場合や日焼けした肌ではPIHを起こすことがあります。逆に色素脱失(低色素斑)はほとんど起こりません。稀な合併症として瘢痕化がありますが、適切な設定とクーリングでリスクは極めて低くなります。また照射部位によっては毛が脱色・脱毛したり、一過性の神経障害(例えば顔面PDLで知覚鈍麻)が報告されることもありますが通常は可逆的です。

国内の状況: 日本では単純性血管腫や苺状血管腫、毛細血管拡張症に対するレーザー治療が保険適用ですtsk-onishi-iin.com。乳幼児の血管腫治療は保険で行われ、小児病院等でVビームレーザーが活躍しています。PDL機器はCandela社Vbeam以外にも国内承認機があり、複合波長レーザー(例:Cynergy: PDL+1064nm)なども使用されています。顔面の酒さや赤ら顔に対しては、根本治療ではありませんが自費診療でPDL照射が行われています。近年、黄色レーザー(577nm)など新たな血管レーザーも登場しましたが、一部は未承認のため個人輸入機として使用されています。

医療レーザー脱毛(長期脱毛)

医療用レーザー脱毛は、美容クリニックや皮膚科で極めてポピュラーな治療です。レーザーの選択的熱作用により毛包のメラニンを加熱・破壊し、毛の再生能力を低下させますtsk-onishi-iin.com。1990年代後半に米国で実用化され、日本でも厚生省(当時)の承認を経て医療行為として定着しましたjstage.jst.go.jp。主に使われるレーザーは以下の通りです。

  • アレキサンドライトレーザー (755nm): 黒色メラニンへの反応が良く、I~III型(色白~やや色白)程度の肌質で太く濃い毛に高い効果を示します。Candela社ジェントルレーズProなどが代表機で、冷却ガス噴射により表皮を保護しつつ約3ms程度のパルスで照射します。1ショットで直径約15~18mm領域を処理でき、短時間で広範囲の脱毛が可能です。
  • ダイオードレーザー (800~810nm): 蓄熱式からショット式まで機種多彩ですが、メラニン吸収と深達性のバランスが良く、現在世界的に主流の脱毛レーザーです。代表例としてLumenis社ライトシェアデュエット(805nm)や、熱破壊ではなく蓄熱式のAlma社ソプラノICE(810nm)などがあります。ダイオードは波長がやや長いためアレキサンドライトより深部まで届き、黒人ほどの色黒肌でなければ安全に使用可能です。ハンドピースに冷却サファイアチップを備えた機器が多く、痛みを軽減しながら高速連射が可能です。
  • 長尺パルスNd:YAGレーザー (1064nm): 波長が長く皮膚深部まで届く一方、メラニンへの選択性は低いレーザーです。そのため色黒の肌(肌タイプIV~V)や日焼けした皮膚でも表皮ダメージ少なく毛根まで到達できますtsk-onishi-iin.com。ただしメラニン吸収が弱いため毛包への熱量確保が難しく、アレキやダイオードに比べ効果発現に回数を要することがあります。Candela社ジェントルヤグProやCutera社Xeo(1064nmモード)などがあり、特に男性のヒゲ色の薄い産毛への追加照射に用いることもあります(他のレーザーで抜け残った毛へのアプローチ)。1064nmは表在血管にも吸収されるため、脱毛と同時に赤みが改善する副次効果もあります。
  • ルビーレーザー (694nm): メラニンへの吸収は極めて高いですが、波長が短い分浅い層でエネルギーが減衰します。日本では初期に導入されたものの、色素沈着を起こしやすいこと、スポットサイズが小さく広範囲処理に時間がかかることから、近年はほとんど使用されていません。

治療手技: 医療脱毛では施術者・患者ともアイシールド(保護眼鏡)を着用し、安全に配慮します。照射部位は事前にシェービングし毛根にレーザーが届くようにします。適切なフルエンス(エネルギー密度)は、毛幹が熱収縮し毛穴周囲に軽度の膨隆・発赤が生じる程度です。一部位に重複照射しすぎると熱傷リスクがあるため、基本は一度きりのパスで打ち漏れなく照射します(機種により重ね打ちする「蓄熱式」は低フルエンスを高速連射する特殊手法です)。冷却については、装置内蔵の冷風や冷却チップ、冷却ジェルを用いて表皮を守り痛みを和らげます。痛みは輪ゴムではじかれる程度ですが、敏感な部位(ワキ、VIOなど)は強い痛みを伴うため、必要なら表面麻酔クリームや笑気麻酔を併用することもあります。

回数と効果: 毛には成長周期があるため、一度のレーザー照射で破壊できるのは成長期の毛のみです。休止期の毛はメラニンが少なく効果が及びません。そのため部位にもよりますが5回前後(顔面ではもう少し多くなることも)の照射を1~2ヶ月間隔で繰り返す必要があります。例えばワキや脚では1.5~2ヶ月間隔で5~6回、顔や首は毛周期が短いので4~6週間隔で8~10回ほどが目安です。回数を経るごとに生える毛は細く色も薄くなり、生えてくるスピードも遅くなります。最終的に「永久脱毛」(定義上は1回治療後2年間生えない状態)はほぼ達成できますが、産毛など色素の薄い毛は残存することがあります。

副作用: 脱毛レーザーの副作用で注意すべきは熱傷色素沈着です。エネルギー設定や肌質によっては照射部位に水ぶくれを伴うやけどを起こすことがあります。特に日焼け直後の肌や色素沈着の濃い部分はリスクが高く、照射前の肌状態チェックが重要ですkagaikeda-derm.com。万一水疱ができた際は軟膏外用とガーゼ保護で瘢痕化を防ぎます。また炎症後の色素沈着は軽度なら数ヶ月で消退しますが、予防のため術後の紫外線回避は厳守させます。その他、一時的な毛嚢炎(毛穴の軽い炎症)やニキビ悪化が起こることがあり、清潔保持と場合によって抗生剤軟膏で対応します。極めて稀ですが、硬毛化・増毛化(産毛が刺激で濃く太くなる現象)が報告されており、特に顔の顎下や首で起こることがあります。その際は波長を変える(Alex→YAGに切り替え等)などの対策をとります。

国内の状況: 医療脱毛用レーザーは多数の機種が厚生労働省の承認を取得しており、安全性・有効性が確認された機器が普及しています。Candela社GentleMax Pro(755nm+1064nm)は長期的な減毛を目的とした承認機器であり、アレキサンドライトレーザーは表在性の良性色素性疾患治療にも適応があるとされていますpmda.go.jp。他にLumenis社のLightSheerシリーズ、国内メーカーでは東芝ホリスティックのソプラノICE、ルミナス社のクラリティツイン(755+1064nm)などが知られています。エステティックサロンの光脱毛(IPL)は出力が弱く一時的減耗に留まるため、確実な永久脱毛には医療用レーザーが必要です。現在、医療脱毛は美容クリニックだけでなく皮膚科や形成外科でも一般的なメニューとなっており、日本全国で広く提供されています。

しわ・たるみ・肌の若返り(リジュビネーション)に対するレーザー治療

皮膚の老化現象(小ジわ、たるみ、くすみ、毛穴の開大など)に対しては、レーザーにより皮膚に微細な損傷を与えて創傷治癒を促すことでコラーゲン産生を高め、肌の再生・引き締めを図る治療が行われますmitakabiyou.com。この分野ではフラクショナルレーザー技術の登場が革命的でした。フラクショナルレーザーはレーザー光を点状(ドット状)の微小なビームに分割し、皮膚の一部(フラクション)にのみ微少な熱損傷を与えることで、正常組織が損傷部位の治癒を迅速に行うコンセプトですmitakabiyou.com。2000年代半ばに登場して以来、肌の若返り(リサーフェシング)やニキビ跡治療の主力となっています。

フラクショナルレーザーの種類:

  • 非侵襲的フラクショナルレーザー(非剥脱型): 真皮内に微細な凝固損傷を与え表皮は温存するタイプです。代表的なのは**Er:Glassレーザー(1540~1550nm)Thuliumレーザー(1927nm)で、Fraxel Dualの1550nmモードや1927nmモード、またはレーザーカーボンピール装置などがあります。これらは水への吸収が比較的弱く、真皮中層まで達して熱柱(マイクロサーマルゾーン)**を形成し、コラーゲン産生を誘導します。ダウンタイムは短く(発赤が数日程度)済みますが、一度に得られる効果もマイルドで、3~5回程度の継続治療が必要です。
  • 侵襲的フラクショナルレーザー(剥脱型): 表皮から真皮にかけて微小な穴(マイクロアブレージョン)を開けるタイプです。炭酸ガスレーザー (10,600nm)やエルビウムヤグレーザー (2,940nm)をフラクショナル照射します。炭酸ガスは水への吸収が非常に強く、組織を瞬時に蒸散させます。フラクショナルCO2レーザーでは直径数百μm・深さ数百μmのドット状の穴が皮膚に開き、その周囲組織が熱凝固しますmitakabiyou.com。1週間程度で表皮は再生し、数ヶ月かけて真皮のリモデリングが進みシワ・瘢痕が改善します。ダウンタイムは1週間前後で、その間は点状のかさぶたと発赤が生じるためメイクで隠す必要があります。Er:YAGレーザー(2940nm)はCO2に比べ浅い層を削るためダウンタイムはやや短いですが効果もマイルドです。侵襲的フラクショナルは1~3回の施術で大きな効果を得られる反面、PIHのリスクが非侵襲型より高くなります。
  • ピコ秒レーザーのフラクショナルモード: 最新のピコレーザーでは、レンズアレイでビームを分散させLIOB(Laser Induced Optical Breakdown)と呼ばれる真皮内での極微小な空泡変性を起こす手法があります。ピコシュアのFocusレンズやPicoWay Resolveが該当します。これは肌表面のダメージを最小に抑えつつ真皮に点状のダメージを与えられ、ニキビ跡の質的改善や毛穴縮小に有効とされます。ダウンタイムは発赤数時間程度と軽微ですが、複数回の治療が必要です。

治療手技: フラクショナルレーザー施術時は十分な麻酔が重要です。CO2フラクショナルでは施術30~60分前に麻酔クリームを厚く塗布しラップで覆う表面麻酔を行います。痛みに敏感な患者では局所浸潤麻酔や神経ブロックを併用することもあります。照射はスキャナー制御で皮膚全体に均一なドットを作るよう行います。設定パラメータはドット密度(カバー率)と出力エネルギーです。例えば面積の10~20%にドットを開ける設定で一回照射し、残りの健常皮膚が治癒を促します。施術後は皮膚表面に多数の点状出血や滲出が出ますので、クーリングし軟膏を塗布し保護膜で覆います。患者には洗顔・メイクは翌日以降とし、それまでは軟膏保持療法を指導します。非侵襲フラクショナルの場合は施術直後の発赤・熱感程度で済むため、冷却後は保湿と日焼け止めで通常生活に戻れます。

適応と効果: 小ジわ(特に目周囲のちりめんジワ)や肌の質感改善(毛穴縮小・キメ改善)には、フラクショナルレーザーが有効です。複数回治療によりコラーゲンの増生で肌のハリが出てきます。深いシワ(ほうれい線など)には限界がありますが、口周りの細かいシワなどはフラクショナルCO2でかなり浅くできます。またにきび跡(クレーター状瘢痕)の治療にフラクショナルCO2/Er:YAGは標準的治療です。3~5回の照射で凹凸が目立たなくなり、赤みも減退します。肥厚性瘢痕やケロイドにはレーザー単独では難しいですが、PDL照射で発赤軽減+フラクショナルで質感改善など組み合わせることがあります。肌のたるみに対しては、レーザー単独での引き上げ効果は限定的です。真皮の加熱による軽度の引き締めは期待できますが、HIFU(高密度焦点式超音波)やRF(高周波)治療のほうがリフトアップには向いています。ただしフラクショナルCO2で顔全体の皮膚再生を図ると、結果的に肌がなめらかになりたるみ毛穴などが改善して若返った印象を与えることが可能です。

なお全顔のフルフェイスのレーザーリサーフェシング(従来型:皮膚表面を全て削る治療)は、ダウンタイムや副作用の観点から現在ほとんど行われません。フラクショナル技術のおかげで安全域が広がり、多くの患者に施術可能となりました。ガイドライン上も、フラクショナルレーザー治療はシワ・たるみに有効であるとエビデンスが示されていますminds.jcqhc.or.jp

副作用: 発赤と浮腫はフラクショナル照射後必発です。非侵襲型では数日、侵襲型では1~2週間の赤みが出ます。メイクで隠せる程度ですが、患者には事前説明が必要です。色素沈着はアジア人では無視できない副作用で、特に侵襲型フラクショナル後に一過性のPIHが起こりえます(頻度は照射エネルギーに依存し、高出力・高密度照射では起こりやすい)。予防には術後の遮光ハイドロキノン外用などが有効とされています。万一PIHが生じても大半は3~6ヶ月で改善します。感染リスクもあります。CO2フラクショナル後は表皮バリアが一時的に破綻するため、処置の際は清潔操作を心がけ、患者にも施術当日は洗顔禁止とするなど指導します。まれにヘルペス再発が口周囲などで起こることがあり、既往がある患者には予防的に抗ヘルペス薬内服を考慮します。瘢痕化は稀ですが、過剰なエネルギー設定や重複照射により局所的に熱傷を負えば陥凹や肥厚性の瘢痕を残す恐れがあります。適切な設定と均一な照射技術が求められます。

国内の状況: 従来、日本ではフラクショナルレーザー機器の多くが未承認で、クリニックが医師個人輸入の形で使用する状況が続いてきましたtakamiclinic.or.jp。しかし近年、厚労省承認のフラクショナルレーザーも登場しています。たとえばCandela社の炭酸ガスフラクショナル「CO2RE(コア2)」は国内で初めて承認を取得したフラクショナルレーザーであり、シワ・瘢痕治療用の医療機器として認可されていますmitakabiyou.com。一方、多くのクリニックで使われているFraxel Dual(1550/1927nm)やeCO2(Lutronic社CO2レーザー)等は依然未承認機ですが、医師の裁量で使用が認められています(未承認機器使用の際は患者へのインフォームドコンセントと同意書が必要です)。日本皮膚科学会の美容皮膚科ガイドライン(旧版2020)でも、フラクショナルレーザー治療(FLSR)はシワ・たるみに有効であるとの見解が示されておりminds.jcqhc.or.jp、エビデンスの蓄積とともに今後さらに承認機種が増えることが期待されます。

ニキビ跡・瘢痕に対するレーザー治療

ニキビ跡(座瘡瘢痕)は、美容皮膚科で相談の多いお悩みです。凹凸状の萎縮性瘢痕に対しては、前述のフラクショナルレーザーが治療の中心となります。特に炭酸ガスフラクショナルはニキビ跡治療のゴールドスタンダードで、凹んだ瘢痕組織を部分的に蒸散させ再生させることで滑らかな肌理(きめ)を取り戻します。3~5回の照射で瘢痕の深さが徐々に浅くなり、6割以上の患者で良好な改善が得られたとの報告もあります。一方、ダウンタイムの長さや色素沈着リスクから、非侵襲フラクショナル(1540nm等)によるマイルドな治療を好むケースもあります。軽度のニキビ跡であれば非侵襲レーザーを5~6回行うことで毛穴縮小や瘢痕浅薄化が期待できます。

瘢痕の種類別対策: ニキビ跡にはアイスピック型(深い点状の穴)、ローリング型(なだらかな陥凹)、ボックス型(境界明瞭な陥凹)があります。フラクショナルレーザーは全体的な凹凸改善に適しますが、アイスピック型にはTCA CROSS法(高濃度トリクロル酢酸を点滴する治療)やパンチ切除など外科的手法の併用が望ましい場合もあります。ボックス型瘢痕ではフラクショナルに加えサブシジョン(皮下瘢痕を針で剥離する手技)を組み合わせると効果的です。しかし本章ではレーザー治療に焦点を当てるため、これらの併用療法の詳細は割愛します。

肥厚性瘢痕・ケロイドに対してレーザーは補助的役割です。赤みを帯び盛り上がった瘢痕にはPDL照射が有効で、赤色の改善および瘢痕の柔軟性向上が期待できます。また盛り上がり部分にフラクショナルCO2を当てて繰り返し表面をリサーフェシングすることで、徐々に平坦化させる試みもあります。ただし大きなケロイドではステロイド局注などの標準治療が優先され、レーザーはあくまで一部位への瘢痕拘縮の緩和色調改善に留まります。

術後ケアと効果判定: ニキビ跡治療では複数回照射が前提となるため、治療計画の立案が重要です。患者にダウンタイムや必要回数を十分説明し、期待しすぎない現実的なゴール設定を共有します。例えば「完全に元通りの平滑肌には戻らないが、光の当たり方で目立つ凹凸がかなり改善する」といった目標を伝えます。照射間隔は創傷治癒とコラーゲン再構築に時間がかかるため4~6週以上空けます。写真記録を取っておくと微妙な改善も確認しやすくなります。

刺青・タトゥー除去も瘢痕治療と並びレーザーの典型的用途です。刺青の色素は真皮に存在し自然には消えませんが、Qスイッチレーザーによって粒子を破砕し免疫細胞に除去させることで徐々に薄くできます。基本的な考え方・使用機器は色素性病変治療に準じますが、刺青は色や入れ方によって反応が大きく異なります。

刺青除去に用いるレーザーと色ごとの対応:

  • 黒色インク: 1064nm QスイッチNd:YAGが最適です。深部まで届き黒インクに吸収されるため、黒単色のタトゥーなら比較的きれいに除去できますmitakabiyou.com。ピコ秒レーザー(1064nm)は黒に対しナノ秒より効率的で、セッション回数を減らせるとされていますmitakabiyou.com
  • 赤色インク: 赤系には**532nm (KTP/YAGの倍波)**が有効です。赤の補色である緑光が赤インクに強く吸収され、オレンジや紫も532nmで反応します。ただし532nmは表皮メラニンも吸収するため、強く当てると色抜けや痂皮形成しやすく注意が必要です。
  • 青・緑インク: これらは除去が難しい色ですが、694nmルビー755nmアレキサンドライトのQスイッチレーザーが比較的反応します。特にエメラルドグリーンは波長選択が難しく、ルビーレーザーでも残存しがちです。近年は一部のピコ秒レーザー機で785nm前後の波長や、複数波長発振可能な装置が登場し、難治色への対応が試みられています。
  • 黄色・白インク: 非常に吸収が弱く、現状レーザーではほとんど反応しません。白はレーザー照射で黒化する現象(酸化チタン顔料が還元され酸化鉄となる)があり注意が必要です。

治療手技: 刺青は広範囲・多色に及ぶことが多く、一度に全てを処理すると炎症が強く出るため、領域を分割して順次照射することがありますnihonbashi-f-laser.com。痛みは強く、場合によって局所麻酔注射を併用します。照射後は色素が破壊され霜焼け状の白色変化が起こり、その後腫れと点状出血を伴うこともあります。軟膏処置と被覆で保護し、処置後数日は安静にします。刺青レーザーでは治療回数が最大の課題で、プロの入れ墨ほどインク量が多く深いため5~10回以上の照射を2~3ヶ月毎に続ける必要がありますluce-tokyobiyo.comshinosaka-chuoh.com。一方、アマチュアの浅いタトゥーなら3~5回程度でかなり目立たなくなる例もありますfuna-biyou.com。治療を繰り返すごとに徐々に薄くなりますが、完全に消えずに薄い影が残るケースもあります。

副作用: 刺青除去では瘢痕化色素異常に特に留意します。高出力で何度も照射するとその部位の皮膚構造自体が損傷を受け、盛り上がったり凹んだりする瘢痕になる恐れがあります。また破壊された色素の炎症で肉芽腫を生じることも極稀にあります。色素沈着や脱失も、タトゥー周囲の皮膚メラノサイトがダメージを受けるため起こり得ます。これらを防ぐには、一度の照射で無理に抜こうとせず適切なエネルギーで回数を重ねること、照射間隔を十分に空け皮膚が回復するのを待つことが重要ですas-cl.com。患者には長期戦になること、完全には消えない可能性、瘢痕が残り得ることを事前に説明し同意を得ます。

国内の状況: 刺青除去は完全に自費診療であり、美容クリニックや皮膚科で対応しています。社会的背景として、日本では入れ墨に対する視線が厳しい場面もあり、就職や結婚、温泉利用等を契機に除去を希望する人が少なくありません。そのニーズに応えるべく各種レーザーが用いられていますが、前述のようにピコ秒レーザー機器の一部は国内未承認の適応で使用されているのが現状です(例えばピコシュアは太田母斑用途で承認されていますが、「刺青除去」「シワ改善」などは国内未承認用途ですmitakabiyou.com)。とはいえ刺青除去へのピコレーザーの有効性はFDAなど海外当局でも認められておりmitakabiyou.com、国内でも安全性を確保しつつ使用が広がっています。

2. 各レーザー機種の原理・波長・パルス幅・特徴

美容医療で用いられるレーザー機器には様々な種類があり、それぞれ発振原理や波長、パルス幅(照射時間)、特性が異なります。代表的なレーザー種別について、原理・仕様と特徴をまとめます(表12-1参照)。

表12-1 美容医療で使用される主なレーザー種とその特徴

レーザー種(機種例)波長パルス幅(目安)特徴・主な適応例
Qスイッチルビーレーザー
(例: NanoStar R等)
694 nm(赤色光)ナノ秒(約20ns)メラニン吸収が非常に強い短波長レーザー。極短パルスで色素を選択的に破壊kagaikeda-derm.com。主に濃いシミ(老人性色素斑)、ADM太田母斑青黒い刺青に有効。日本で初めて承認された色素レーザーの一つで、扁平母斑の保険治療にも用いられるkagaikeda-derm.com。照射後1週間程度痂皮形成あり。PIHを生じやすいkagaikeda-derm.comため色素沈着リスクの高い肝斑等には不向き。
Qスイッチアレキサンドライトレーザー
(例: Alex II 等)
755 nm(赤色光)ナノ秒(約50ns)メラニンへの選択的作用が強い中波長レーザー。太田母斑ADM老人性色素斑青・緑系刺青に広く使用。694nmより深部まで届き、色素性病変治療のスタンダード機種。国内では2014年にAlex II(755nmQSレーザー)が承認取得されているnishihori-k.com。Rubyに比べPIHがやや少ないが、濃い色の病変にはRubyほどの即効性はない場合も。
QスイッチNd:YAGレーザー
(例: Medlite C6 等)
1064 nm(赤外光)
※532 nmに変換可
ナノ秒(約5~10ns)波長1064nmは皮膚深達度が最も深く、真皮内の青あざ(太田母斑・蒙古斑)や黒色刺青に最適mitakabiyou.com。532nm(KTP変換)は赤・橙色刺青や浅い表在性のシミに用いる。1064nmはメラニン吸収が控えめで色素沈着のリスクが低く色黒肌にも安全tsk-onishi-iin.com。ただし効果発現には複数回照射が必要になる傾向。Medliteなどは国内で広く使われてきた機種で、肝斑治療のレーザートーニング(1064nm低出力反復照射)にも応用される。
ピコ秒レーザー
(例: PicoSure, PicoWay等)
機種により複数:
532nm, 755nm, 1064nm 他
ピコ秒(数百ps)世界初の商用ピコ秒レーザーPicoSure(755nm)登場以降、複数波長発振可能な機種もあり。**超短パルス(ナノ秒の1/1000)**により色素粒子をより微細に粉砕mitakabiyou.comし、刺青除去回数の短縮や難治性色素斑への有効性が期待される。米国FDAではピコシュアがシミ・シワ・ニキビ跡・刺青除去すべてに効果ありと承認mizuhoclinic.jp。日本ではピコシュアが太田母斑等で承認取得mitakabiyou.comピコ秒の衝撃波効果で真皮コラーゲン増生を促す独自のリジュビネーション用途(フラクショナルレンズ使用)も可能。
パルス染料レーザー (PDL)
(例: Vbeam, Cynergy等)
585nm or 595nm(可視黄~橙色光)ミリ秒(0.45~40ms)血中ヘモグロビンへの吸収が極めて高いtsk-onishi-iin.com赤あざ(血管奇形)毛細血管拡張症(赤ら顔)血管腫の治療に第一選択。短パルスでは血管を瞬時に凝固させ紫斑が出るが、高度の病変に有効。長パルス設定により紫斑を軽減しつつ徐々に改善させることも可能。表皮保護のためDCD冷却機構を搭載。副次効果で瘢痕や肥厚したケロイドの発赤・疼痛軽減にも用いられる。日本で保険適用治療機として広く普及。
KTPレーザー (Nd:YAG 532nm)
(例: Cutera Excel V等)
532 nm(可視緑色光)ミリ秒(1~50ms)Nd:YAGレーザーの倍波を利用した緑色レーザー。浅在性の細い血管病変(顔の毛細血管拡張、赤いスポット状血管腫)に適する。PDLと比べるとスポットサイズが小さく限局病変向き。メラニン吸収もあるため表在的なシミにも使われることがあるが、表皮ダメージに注意が必要。Excel VではKTPとNd:YAGを切替えて血管の太さ・深さに対応している。
長パルスNd:YAGレーザー
(例: GentleYAG Pro 等)
1064 nm(赤外光)ミリ秒(5~50ms)深部組織への到達性に優れる赤外レーザー。太い深部静脈青あざに対する血管凝固、および色黒皮膚の脱毛に用いられるtsk-onishi-iin.com。表在への作用は弱いが、真皮深層の加熱によりコラーゲン収縮・リモデリング効果も期待でき、スキンタイトニング用途(例: 1064nmレーザーフェイシャル「ジェネシス」)にも使用。メラニンへの影響が少ない分、痛みは相対的に強い(深部加熱のため)。冷却を十分行い安全域を確保する。
アレキサンドライトレーザー(ロングパルス)
(例: GentleLase Pro)
755 nm(赤色光)ミリ秒(3~20ms)黒色メラニンに対し強力な熱効果を発揮。医療脱毛の代表的レーザーtsk-onishi-iin.comで、剛毛の永久減毛に極めて有効。毛幹のメラニンに吸収され毛乳頭を凝固壊死させる。冷却ガスとの併用で表皮ダメージを防ぎつつ高出力照射可能。日焼け肌には不適だが、肌質が合えば1回でも減耗効果が明らか。シミ治療に長パルスを応用することもあり(光子治療に近い感覚で肝斑以外の薄いシミに照射)、「フォトフェイシャル」の一環として用いるクリニックもある。
ダイオードレーザー(ロングパルス)
(例: LightSheer, Vectus等)
800~810 nm(赤外光)ミリ秒(5~100ms)半導体レーザーで効率よく高出力を発生可能。医療脱毛の世界標準で、多くの国産機種も存在。波長が中間のため様々な肌タイプに適応し、太い毛から細めの毛まで幅広く効果がある。ハンドピース大型化により背中など広範囲も短時間で処理できる(Vectusは大スポット照射が特徴)。蓄熱式ダイオード(SHR方式)は連続照射で毛包をじわじわ加熱する方法で痛みが少なく産毛向き。脱毛以外への応用として、ニキビの原因菌P.acnesの産生するポルフィリンに反応し殺菌・抗炎症効果を出す試み(アクネレーザー)もある。
炭酸ガスレーザー (CO<sub>2</sub>)
(例: SmartXide, CO2RE等)
10,600 nm(遠赤外)(連続 or 超パルス)水に極めて強く吸収される赤外レーザー。照射された組織の水分が瞬間蒸発し切開・蒸散が可能。メス代わりに皮膚腫瘍・ホクロ除去に使用されるほか、フラクショナル照射により皮膚の若返り(リサーフェシング)に応用mitakabiyou.com。フラクショナルCO2では微小ドット状に皮膚を蒸散し創傷治癒を促す。強力だがダウンタイムあり。日本ではCO2REがフラクショナル用途で承認取得mitakabiyou.com。連続波を当てると熱ダメージが大きいので、多くは超パルスやスーパーパルス(極短いパルスの連続)で使用し熱影響を最小限にする工夫がある。
エルビウムヤグレーザー (Er:YAG)
(例: Fotona Dynamis 等)
2,940 nm(中赤外)マイクロ秒~ミリ秒水への吸収がCO2よりさらに高いレーザー。ごく浅い層を繊細に削ることができ、瘢痕やシワの表層をアブレートするのに適する。熱拡散が少ないため周囲組織へのダメージが少なくダウンタイムが短い利点がある。ただし深部まで熱が届かないため、劇的な引き締め効果はCO2に劣る。フラクショナルEr:YAGも存在し、ダウンタイムの短さから浅めのニキビ跡・毛穴治療に用いることがある。
エルビウムグラスレーザー
(例: Fraxel Dual(1550) 等)
1,540 nm前後(中赤外)ミリ秒(数~10ms)ガラスを媒質としたEr:Glassの中赤外レーザー。水への中程度の吸収で非剥脱フラクショナルに用いられる。真皮に径数十μmの凝固カラムを形成し、表皮は保たれるmitakabiyou.com毛穴・小ジワ・浅いクレーターなどに適し、回復が早い反面複数回治療が前提。Fraxel Restore/Dual(1550nm)やLux1540などが著名。1927nmツリウムレーザーも表在色素に作用し肝斑やくすみの改善目的で併用される(Fraxel Dualのもう一つの波長が1927nm)。

上記のように、レーザー機器ごとに波長・パルス幅が異なり、適したターゲットや用途も決まっています。医師は各レーザーの特性を理解し、患者の症状・皮膚タイプに最も適した機種と設定を選択します。

3. 日本国内での承認状況および使用実態

美容目的のレーザー機器の多くは海外で開発され日本に輸入されてきましたが、国内で使用するには原則として薬機法上の承認(医療機器承認)を得る必要があります。しかし実際には、承認取得前の機器が医師の判断で使用されてきた歴史もあります。そのため日本の美容医療分野では、「承認機器」と「未承認機器」が混在しているのが実情です。

承認機器とその適応: 保険診療で使われる可能性のあるレーザーは比較的承認が早く、国産化や正式輸入が行われました。例えばQスイッチルビーレーザーは日本企業によって開発・製造され、効果と安全性が評価され厚生労働省の承認を取得していますmayumi-beautifulskin.com。ルビーレーザーは一部の黒あざ(太田母斑等)や茶あざ(扁平母斑)治療で健康保険適用も認められており、厚労省からも有用性が認められた機器ですkagaikeda-derm.com。同様にQスイッチアレキサンドライトレーザーも1990年代後半から国内使用され、2014年に最新モデルが承認を取得しましたnishihori-k.comパルス染料レーザーも1990年代に血管腫治療用として承認され、小児の血管腫治療に使われていますtsk-onishi-iin.com脱毛レーザーもCandela社GentleLase/GentleMaxやLumenis社LightSheerなど主要機種は次々と承認され、現在では「医療用レーザー脱毛機器」として多数が上市されていますpmda.go.jp

未承認機器の扱い: 一方で、新しい技術の機器(特に美容目的が主のもの)は、必ずしも迅速に承認が下りないケースがあります。そのような機器でも「より効果的な治療を提供したい」との現場ニーズから、医師個人が輸入し自費診療で使用することが認められていますtakamiclinic.or.jp。薬機法上、未承認医療機器であっても患者個人の治療のために医師が輸入すること(いわゆる個人輸入)は可能であり、医療機関単位で輸入許可(厚労省の輸入確認)を得て使用されていますshinagawa.com。この場合、患者への十分な説明と同意取得が必要で、クリニックのWebサイト等でも「本施術で使用する機器は国内未承認であり医師の責任の下で使用しています」といった表示が見られますtakamiclinic.or.jp

具体例: フラクショナルCO2レーザーは長らく未承認機器しかなく、多くのクリニックが米国製や韓国製の機器を個人輸入していましたtakamiclinic.or.jp。しかし近年になりCandela社のCO2REが国内承認を取得し、2020年代現在唯一の承認フラクショナルレーザーとして位置づけられていますmitakabiyou.com。ピコ秒レーザーについても、最初はすべて未承認でしたが、2018年に米国Cynosure社のピコシュアが「太田母斑・異所性蒙古斑治療用」として承認されましたmitakabiyou.com。もっとも承認適応は限られており、シミや刺青除去への使用は正式適応外ですmitakabiyou.com。他のピコレーザー(PicoWay、エンライトン等)はまだ未承認のものもあります。国内メーカーも開発を進めており、2021年には古河電工グループが国産ピコ秒レーザー「PicoLaser S」で承認申請中との報もあり、今後増えていく見込みです。

承認の有無にかかわらず、日本の美容クリニックでは世界中の最新レーザー機器が導入されています。メーカーや輸入代理店による講習会・セミナーも頻繁に開かれ、安全使用の啓発が図られていますcandelakk.jp。医師は承認機器であっても適応症以外に使う場合(いわゆる適応外使用)は慎重な判断が求められます。例えばピコシュアを太田母斑以外のシミ治療に使うのは適応外ですが、エビデンスがあり安全性も確認されているため多くの医師が行っています。その際も患者に「国内未承認の使い方である」ことを説明するクリニックもありますmitakabiyou.com

総じて、日本国内では保険診療に関わるレーザー(アザ治療用、血管腫用、脱毛用など)は承認機器が使われ、美容目的の自費レーザー(シミ・シワ改善用の最新機器等)は一部未承認機器も使われるという状況です。ただし未承認とはいえ違法ではなく、医師の裁量で正しく用いれば患者利益になるため容認されています。学会等でも未承認機器の使用実績や安全性報告がなされており、順次エビデンスを蓄積して正式承認へと繋げる流れになっています。

4. 臨床技術に関する実用知識

レーザー治療を安全かつ効果的に行うには、機器ごとの特性理解に加え適切な設定確実な手技、そして合併症予防策が不可欠です。ここではレーザー照射の実践面について、具体的なポイントを解説します。

レーザーの設定と照射モード

  • 波長の選択: 患者の病変ターゲットにマッチした波長を選びます。メラニンには500~800nm帯、ヘモグロビンには黄~緑の500~600nm帯、水には3000nm前後(中赤外~遠赤外)が効率良いですtsk-onishi-iin.com。例えば、黒っぽいシミには755nmや694nm、赤い毛細血管には595nm、深い青あざには1064nm、といった具合に吸収スペクトル深達度を考慮して決定します。マルチ波長機では切替やフィルター交換で最適波長を照射します。
  • パルス幅の調整: パルス幅(照射時間)は標的組織の熱緩和時間に合わせます。一般に、標的が大きいほど熱が逃げにくく長めのパルスでゆっくり加熱するほうが周囲組織を傷めません。一方、小さな標的(メラニン顆粒やタトゥー粒子)は短いパルスで瞬間的に破壊します。例えば細い血管には短いパルス、太い血管には長いパルスに設定します。Qスイッチレーザーやピコレーザーは極限までパルス幅を短くした特殊例で、主に色素粒子用です。
  • エネルギー密度(fluence)の設定: 単位面積あたりのエネルギー(J/cm²)を調整します。基本は最小有効エネルギーを狙います。高すぎれば熱傷を生じ、低すぎれば効果が出ません。適正値は経験と試行で掴む必要がありますが、例えばシミ取りでは7~10J/cm²程度から試し、反応を見て上下させます。毛細血管の場合、径や肌色に応じて6~12J/cm²程度を設定することが多いです。スポットサイズ(照射径)も関係し、同じエネルギーでもスポットが大きいほど深達度が増しピークパワー密度は下がります。大きなスポットで照射したほうがビーム拡散が少なく深部に届くため、できるだけ大きいスポットかつ必要十分なエネルギーを使うのが鉄則です。
  • 照射モード: 照射方式にはシングルショット(1発ずつ照射)、スタンピング(連続照射だが位置をずらしながら当てる)、スキャナー走査(自動で面状にドットを配置)などがあります。シミ一発取りではシングルショット、脱毛ではスタンプ法でヘアラインを重ねつつ全体をカバー、フラクショナルではスキャナーで均一ドット配置、と目的によって異なります。また一部レーザーには連続発振モードトレインパルス(複数パルス連射)モードがあります。例えばGentleYAGのトリプルパルスは3連続パルスで皮下をじんわり加熱し表皮ダメージ減を図る機能です。機器ごとの特殊モードも理解し使いこなします。

照射手技と施術プロトコル

  • マーキングとテスト照射: 広範囲を照射する際は、事前にエリアをわかりやすくマーキング(白色ペン等で格子状にライン)します。こうすることで打ち漏れを防ぎ、同じ所に二度打ちしにくくなります。初めてレーザーを当てる患者や境界が曖昧な病変にはテストスポット照射を行うことも推奨されます。例えば肝斑患者にレーザートーニングする前に、目立たない部位で小スポットを試し反応や副作用を観察します。
  • 照射手順: 治療部位の皮膚を清潔にし、必要に応じてシェービング・角質除去を行った後、患者・術者とも該当波長に適合したアイプロテクションを着用します。レーザーハンドピースは皮膚に垂直に当て、均一な間隔でショットを打っていきます。スポット間は通常**やや重ね気味(オーバーラップ率10~20%)にしますが、重複照射は避けます。ただしQスイッチトーニングのように複数パス(何往復も照射)**する特殊な手技もあります。この場合は1パスごとのエネルギーを低く抑えてあります。
  • ターゲットのリアクション: 照射中は組織の反応を随時チェックします。シミ治療なら照射直後にグレーor白色変化(タンパク変性)が起これば適切です。血管治療なら血管の暗転または紫斑化を確認します。脱毛なら毛幹の焦燥臭や立毛筋付着部の赤い丘疹形成(フォリキュラーエデマ)を指標にします。反応が不十分なら設定を微調整しますが、一度で劇的に変化しなくても炎症が遅発して効くこともあるので、特に血管・脱毛では少し弱め設定から始め様子を見る慎重さが必要です。
  • 照射終了後の処置: 照射が完了したら、すみやかに**クーリング(冷却)**を行います。濡れタオル、アイスパック、冷風などで数分~10分程度冷やすことで疼痛と炎症を緩和できます。シミ取り後は軟膏を塗り、保護テープで覆いますkagaikeda-derm.com。フラクショナル後も同様に軟膏保護をします。血管レーザー後は軟膏とワセリンで保湿し、必要に応じて圧迫を加えます。脱毛後は炎症止めにステロイド軟膏を塗ることもあります。最後に患部を清潔ガーゼで覆うか、顔ならマスク着用を勧めて帰宅とします。術後ケアの説明も忘れず行います。

麻酔の有無と痛み対策

レーザー治療の痛みは機種・部位によって様々です。Qスイッチによるシミ取り脱毛では輪ゴムではじく程度の瞬間痛ですが、繰り返し当てると累積してかなり痛みます。PDLは比較的痛みが少ないレーザーですが、フラクショナルCO2刺青除去は強い痛みを伴います。対策として以下を講じます。

  • 表面麻酔: エムラクリーム(リドカイン・プリロカイン配合クリーム)やペンレステープを、施術30分~1時間前に貼付します。顔全体のフラクショナルではクリームを厚めに塗りラップで密閉することで麻酔効果を高めます。麻酔テープは小範囲の施術(ほくろレーザー等)に便利です。
  • 冷却: 麻酔が使えない場合や補助的に、冷却が最も有効な鎮痛策です。強力な冷風を当て続けながらレーザーを打つ(Zimmer社Cryo6等の装置利用)と痛みは半減します。氷嚢やアイスパックで事前冷却も効果的です。ただし過度に冷やしすぎると血流が減って効果が落ちる可能性もあるため加減が必要です(特に血管レーザーでは適度な温度で)。
  • 笑気麻酔・鎮静: 痛みへの不安が強い患者には笑気ガス(30~50%濃度)を吸入させリラックスさせる方法もあります。刺青除去など広範囲の場合、静脈鎮静で半分眠った状態にして行うことも考慮します。ただし美容クリニックではあまり鎮静までは行わず、スタッフが声掛け・呼吸法指導などで痛みを和らげる工夫をしていることが多いです。
  • 局所麻酔注射: 極小範囲の治療では注射のほうが早く確実です。CO2レーザーでイボを取る場合など、麻酔注射してしまえば無痛で施術できます。ただ注射自体の痛みや腫れもあり、範囲が広いと現実的ではありません。また顔への局所麻酔は血管収縮でレーザー効果に影響を与える懸念も多少あります(例えば血管腫治療にリドカイン+エピネフリン局注すると一時的に血管径が縮小してレーザー効果が落ちる可能性)。
  • 鎮痛剤: 処置中の痛みにはあまり意味がありませんが、施術後痛みが続く場合にはNSAIDsの内服やアセトアミノフェンを頓用します。特にフラクショナル後はヒリヒリ感が数時間続くので、希望者には痛み止めを処方します。

照射回数・間隔と術後ケア

  • 治療回数と間隔: 各治療ごとに適切な回数設定があります。シミ一発取りは1回で終了することが多いですが、薄く残る場合は1~3ヶ月後に追加照射します。肝斑のトーニングは週1回で10回以上と回数を要しますが、状況次第で間隔を伸ばしたり中断も考慮します。脱毛は前述のように5回前後を1~2ヶ月おきに行います。血管腫は病変や年齢によりますが6~8週間隔で数回、ポートワイン母斑なら10回以上の長期計画になることもあります。ニキビ跡のフラクショナルは4~8週おきに3~5回が目安です。刺青は2~3ヶ月間隔で数~十数回と最も長期戦になりますshinosaka-chuoh.com。治療間隔は、レーザーによる炎症が完全に収まり組織リモデリングが一巡するまで待つという意味があります。急いでも色素沈着や瘢痕リスクが増えるだけなので、患者の事情と照らしつつ適切な間隔を守りますas-cl.com
  • アフターケア: 紫外線遮断は全ての患者に指導します。レーザー後は一時的に色素細胞が不安定になり過敏な状態で、日焼けすると容易に色素沈着しますkagaikeda-derm.com。日常的に日焼け止め(SPF50+)を塗り、帽子や日傘を使うよう徹底します。保湿も大切です。特にフラクショナル後は経皮水分蒸散が亢進し易く、朝晩の保湿剤塗布でバリア回復を促します。メイクについては、シミ取り直後は患部保護のテープ上からファンデーション可と案内します。フラクショナル後の赤みはグリーン系のコントロールカラーで隠す方法もあります。入浴・洗顔も当日から可否を決めておきます。例えばシミ取りでは当日から洗顔OK(擦らない)、湯船もぬるめなら可。ただしフラクショナル当日はシャワーのみにするなど制限します。
  • 内服・外用の併用: レーザー効果を高めたり副作用防止のため、治療前後に以下の薬剤を使うケースがあります。ハイドロキノントレチノインの外用はシミ治療の下地作り・術後の色素沈着予防に有用です。特にハイドロキノンは照射後のPIH予防に数ヶ月継続することもありますkagaikeda-derm.comトラネキサム酸内服は肝斑治療補助や炎症抑制目的で用いられますkagaikeda-derm.comビタミンC内服も創傷治癒と美白補助に処方されることがあります。フラクショナルや深いピーリング後に抗生剤軟膏を処方することもあります(感染予防)。PDL照射では、術後の浮腫を減らす目的でステロイド軟膏内服を短期間使うこともあります。

合併症・副作用とその対策

レーザー治療に付きまとう代表的な合併症には、熱傷炎症後色素沈着(PIH)低色素斑瘢痕形成紫斑感染などがあります。それぞれの対策を述べます。

  • 熱傷(やけど): レーザー照射直後に強い発赤、水疱形成、びらんが起これば熱傷です。主因はエネルギー過多またはクーリング不足です。対応としては速やかに冷却し、ステロイド軟膏やワセリンで被覆します。水疱は無理に破かず自然に吸収させます(大きいものは無菌的に穿刺し内容液を出す)。感染予防に抗生剤軟膏を使うこともあります。色素沈着や瘢痕のリスクが高まるため、以後の照射設定を見直します。肌状態(乾燥や日焼け)も再確認し、次回までに改善させます。
  • 炎症後色素沈着 (PIH): アジア人では非常によく見られる副作用で、レーザー照射部位が一時的に濃色化しますkagaikeda-derm.com。例えばシミ治療後1ヶ月で元のシミより濃く見える現象ですkagaikeda-derm.com。対策として事前の美白ケア術後の遮光徹底が第一です。それでも起きた場合は、ハイドロキノン外用やトラネキサム酸内服で早期改善を促しますkagaikeda-derm.com。強いPIHには低出力のQスイッチレーザーでトーニングする手もありますが、さらなる炎症リスクも伴うため慎重に検討します。大半のPIHは時間薬で、患者に経過を説明し焦らず待つことも重要です。
  • 低色素斑(脱色素): 繰り返しのQスイッチ照射や強力なCO2照射後に、メラノサイトがダメージを受け色抜けが起こることがあります。白斑状になると回復は難しいため、予防が肝要です。特に濃い肌に高出力を当てない、同じ部位に短期間で何度も当てないことが大切です。発生してしまったらメイク等でカバーしつつ経過を見るしかなく、患者への事前説明が必要な副作用です。
  • 瘢痕形成: 過度の炎症や感染により萎縮性または肥厚性の瘢痕が残ることがあります。エネルギー設定ミスや術後管理不良(引っ掻き・日光暴露・感染など)が主因です。瘢痕になると元に戻すのは困難なので、何としても防ぎたい事象です。対策として、リスクの高い部位(骨突出部や創傷治癒の遅い部位)では出力を控えめにし、患者にも術後の保護を厳重にお願いすることです。特に鼻や額は瘢痕化しやすいので注意します。瘢痕ができてしまった場合、早期にステロイド外用やトラニラスト内服などで肥厚を抑えます。必要なら形成外科的治療やフラクショナルでの修正を検討します。
  • 紫斑・内出血: 血管レーザー(PDL等)では想定内の副作用です。事前に患者へ紫斑期間について説明し、予定を調整してもらいます。顔の場合は男性ならヒゲで隠れる場所を優先するなど配慮します。強い紫斑には軟膏+圧迫をすると多少早く引くことがあります。ヘパリン類軟膏も有用という意見がありますが、施術直後は刺激になるので避けます。内出血は1~2週間で自然消退します。どうしても早めたい場合はVビタミンKクリーム等を処方することもあります。
  • 感染: レーザー後の皮膚バリア低下により、細菌感染(とびひ様)やウイルス再活性(単純ヘルペス)が起こることがあります。予防には術前に感染巣がないか確認し、ニキビがあれば先に治療する、口唇ヘルペス既往者には前もって抗ヘルペス薬内服を指示するなどします。術後は処置部位を清潔に保ち、顔なら洗顔前によく手指消毒するよう教えます。万一感染したら早期に抗生剤投与や抗ウイルス薬投与を行い、重症化させないようにします。CO2レーザー後の傷が膿んできたらすぐ培養検査に出し、適切な抗生剤に切り替えます。
  • 眼障害: レーザー照射で目を防護しないと深刻な網膜損傷や角膜炎を起こします。必ず患者にはアイシールドやゴーグルを装着し、自分やスタッフも波長に合ったゴーグルを着けます。顔面照射の際、眼球直上の皮膚にレーザーを当てる場合は角膜保護用コンタクトシェルを入れることもあります。特にYAGレーザーやKTPレーザー(可視光)は散乱しやすく盲点になりがちなので注意です。
  • レーザー煙・臭気: CO2レーザーなど組織を蒸散させる施術では、有害な**煙霧(plume)が出ます。ウイルス粒子や有機物が含まれるため、必ずサージカルマスクとスモーク evacuator(吸引装置)**を使用します。電気メスと同様の配慮です。臭いも強いので適宜室内換気も行います。

これら合併症を防ぐには、適切な機器選択・設定緻密な術後フォローが欠かせません。万一問題が生じた際も、早めに対処すれば重篤化を防げます。患者とは常に連絡が取れる体制を整え、不安があればすぐ診察する姿勢が信頼に繋がります。

機器選定の基準と治療計画の立て方

美容レーザー治療を成功させるには、患者ごとに最適な機器を選び、無理のない治療計画を立案することが重要です。以下の点に留意します。

  • 皮膚タイプの評価: レーザー適応を考える前に**スキンタイプ(肌の色素傾向)**を確認します。色白~やや色白(I~III型)なら比較的自由に機器を選べますが、色黒(IV~V型)ではルビーレーザーや高出力アレキサンドライトは避け、Nd:YAG系や低出力設定を選択します。日焼けの有無もチェックし、最近日焼けしている場合はレーザーを延期する判断も必要です。
  • 病変の性状: 病変の色、深さ、大きさで機種を決めます。例えば同じ「シミ」でも、表皮内の老人性色素斑はQスイッチで一発除去できますが、肝斑は広範囲で真皮要素もありピコトーニング+内服が良い、といった選択になります。ADM(真皮斑)はNd:YAGが向き、扁平母斑はルビーが第一選択kagaikeda-derm.com。血管でも、毛細血管拡張症(細く赤い)はPDL、青い静脈様ならNd:YAG、紫斑が混じるならKTP、と細分類します。刺青も、単色ならYAG系、多色なら複数レーザー併用を視野に入れます。
  • 患者の要望とライフスタイル: 患者がダウンタイムを取れるかどうか、痛みに強いか、すぐ効果が欲しいか、費用はどの程度許容か等も考慮します。例えば「長期休暇が取れないのでテープ保護できない」という人にはQスイッチで濃いシミを一発で取るより、IPLや低出力レーザーで徐々に薄くする方針を提案することがあります。結婚式を控えている人には、それまでに赤みや痂皮が取れる期間逆算で治療スケジュールを組みます。
  • 治療の組み合わせ: 一つの機器ですべて対処できないケースでは、コンビネーション治療を計画します。例えばニキビ跡の赤み部分にまずPDLを当ててから、質感改善にフラクショナルCO2を行う、といった順序です。シミと肝斑が混在する人では、肝斑部はトーニング、他はスポット照射、と分けて処置します。またレーザー以外の施術(薬剤ピーリングや注入療法など)との兼ね合いも考え、両者のインターバル(例えばレーザー後2週間はピーリング避ける等)を計算に入れます。
  • 機種選定: クリニックに複数のレーザーがある場合、操作性やコストも考慮して選びます。消耗品コストが高い機器(色素レーザーのダイは高価等)の場合、患者の予算と見合うか検討します。大きなシミ一つ取るならQスイッチRubyでもNd:YAGでも効果は出るので、持っている機器で最も自分が慣れたものを選ぶのも一理あります。重要なのは自院で用いる機種の特性を熟知することです。機器ごとに適した設定値やテクニックが異なるためです。同じレーザー種でもメーカーが違えば操作感も違うので、使いこなせる機器で勝負するのが安全です。
  • 治療計画書の作成: 患者毎に治療プランを書面化すると親切です。初回カウンセリング時に、使用予定機器、回数、間隔、見込まれる効果と副作用、費用見積などをまとめて渡します。患者もゴールを共有しやすくなり、途中経過で不安が出た時も「あらかじめ説明があった」と納得感が高まります。

以上のように、レーザー治療は高度なテクニックと計画性を要しますが、適切に行えば患者満足度の高い結果が得られます。臨床医は常に最新の知見と技術をアップデートし、安全第一で治療にあたることが求められます。

5. 日本国内で使用される代表的なレーザー機器

日本で美容医療に使われているレーザー機器には多種多様なものがあります。ここでは代表的な機種名をいくつか挙げ、その用途と特徴を紹介します。

  • メドライトC6 (MedLite C6) – アメリカConBio社製のQスイッチNd:YAGレーザー(1064/532nm)です。シミ・あざ治療や刺青除去の定番機種として長く用いられました。1064nmと532nmの2波長モードを持ち、太田母斑から雀卵斑、黒・赤のタトゥーまで幅広く対応可能です。現在は後継機のRevLiteやSpectraなども登場しています。
  • ピコシュア (PicoSure) – 米国Cynosure社の世界初の市販ピコ秒レーザー。755nmアレキサンドライトをピコ秒(550ps)で発振し、色素性病変と刺青除去に高い効果を示しますmitakabiyou.com。専用の集光レンズ(Focus Lens Array)を装着するとフラクショナルピコ照射が可能で、ニキビ跡や毛孔改善のリジュビネーションにも使用されています。国内承認番号30200BZX00153000を取得済みcynosure.co.jpで、安全性・有効性が確認された機種です(国内適応は太田母斑等に限られるmitakabiyou.com)。
  • ピコウェイ (PicoWay) – イスラエル製(現Candela社)ピコ秒レーザー。1064nmと532nmの二波長に加え、一部機種では730nm近辺の手術用レーザーも搭載。パルス幅は最短300ピコ秒台と業界最短クラスです。特に刺青除去に実績が多く、黒・青・緑・赤のマルチカラータトゥーにも効果を示します。症例写真ではPicoWay 2~3回で従来のレーザー5~6回分に匹敵する褪色が報告されています。国内でも導入クリニックが増えていますcandelakk.jp
  • エンライトン (enLIGHTen) – 米Cutera社のピコ秒+ナノ秒ハイブリッドレーザー。2つのパルスモードを切替可能で、波長は1064/532nmを装備し、一部に670nmハンドピースもあります。ピコ&ナノ併用により粒子サイズに応じた効率的破壊が可能というコンセプトです。国内未承認ながら大手美容クリニックなどが導入しています。
  • ジェントルマックスプロ (GentleMax Pro) – 米Candela社のアレキサンドライト755nmNd:YAG1064nmを1台に統合した複合機です。長期脱毛と色素性病変治療を目的とした承認機器でありpmda.go.jp、日本でも大変ポピュラーです。755nmモードは従来のGentleLASE、1064nmモードはGentleYAGに相当し、脱毛から赤ら顔の毛細血管、表在シミの治療までマルチに活躍します。照射毎に冷却ガス(DCD)をスプレーすることで痛み軽減と表皮保護を両立しています。最新モデルではGentleMax Pro Plusも登場し、照射効率やUIが改良されています。
  • ライトシェアデュエット (LightSheer DUET) – イスラエルLumenis社のダイオードレーザー脱毛機。805nmのレーザーを搭載し、大型ハンドピースにより背中などの広範囲も高速処理できますmitakabiyou.com。一度の照射スポットが大きい分、吸引式の皮膚吸引機構で皮膚を引き込みつつ照射し痛みを軽減する技術があります。日本でも多くのクリニックに導入され、「医療レーザー脱毛=LightSheer」のイメージを持つ技師もいるほど代表的存在です。
  • ソプラノICE (Soprano ICE) – イスラエルAlma社のダイオードレーザー脱毛機。いわゆるSHR方式(蓄熱式)脱毛を可能にし、低フルエンス連続照射で痛みを極力抑えながら脱毛します。810nmおよび新モデルではAlex 755nmモードも搭載し、産毛から剛毛まで対応します。施術時の痛みが少なく、男性ひげ脱毛など敏感な部位にも利用が広がっています。
  • フラクセル デュアル (Fraxel Dual) – 米Solta Medical社(旧Reliant社)のフラクショナルレーザー装置。1550nmエルビウムグラス1927nmツリウムの2波長を備え、前者は真皮リモデリング(ニキビ跡・シワ・毛穴改善)、後者は表皮の肌質改善(くすみ・肝斑ケア)に使い分けられます。非剥脱型のためダウンタイムは短く、数日の微細な皮むけと発赤で済みます。米国FDAでもシワ・色素斑治療の承認取得済み。国内では承認されていないため、多くのクリニックが個人輸入で使用しています。Fraxelはフラクショナルレーザーの代名詞的存在で、患者認知度も高いです。
  • アファームマルチプレックス (Affirm Multiplex) – 米Cynosure社製のフラクショナルレーザー複合機。1440nm Nd:YAGと1320nm Nd:YAGの2波長を組み合わせ、浅い層と深い層を同時に非侵襲加熱することでシワやニキビ跡を改善する仕組みです。照射後のダウンタイムほぼ無しの「ルンバールーフィング」治療として注目されました。国内では一部クリニックで導入されましたが、現在は他機種に置き換えが進んでいます。
  • CO2RE(コア2) – シネロン・キャンデラ社の炭酸ガスフラクショナルレーザー。マトリックス状にドットを照射でき、剥脱深度や密度を細かく調整可能です。先述の通り日本で初めて薬事承認を取得したフラクショナルCO2レーザーで、唯一の承認フラクショナル機器として導入するクリニックが増えていますmitakabiyou.com。シワ・瘢痕治療に加え、膣粘膜への照射(膣収縮治療「フェムリフト」)など新分野への応用例もあります。
  • スマートサイドDot/スマートXide – イタリアDEKA社のCO2フラクショナルレーザー。欧米で多数の実績があり、国内でも美容外科を中心に導入されています。非常に高出力の短パルスCO2で、ドット径や深度を自在にコントロールできます。DEKAはレーザー老舗メーカーで、他にモータスAX(蓄熱式アレキ脱毛レーザー)なども製造しています2ndlabo.com
  • Vビーム ファミリー – Candela社のパルス染料レーザーシリーズ。Vbeam Original(一世代前)、Vbeam Perfecta、最新Vbeam Primaがあります。595nm染料レーザーとして血管治療のスタンダードで、日本では多くの大学病院・開業医に設置されています。特にVbeam Perfectaは調整幅が広く、従来は出ていた紫斑を抑えた施術も可能にしています。後継のPrimaは595nmに加え1064nmも搭載したデュアル波長機です。
  • サイnergy (Cynergy) – 米CynoSure社(現Hologic)のPDL+Nd:YAG複合レーザー。585nm染料レーザーと1064nmレーザーを1筐体で切替または連続発振可能です。連続モードではまずPDLでヘモグロビンを変性させ即座にNd:YAGを当てる「マルチプレックス照射」が可能で、難治性血管病変(肥厚したポートワイン母斑など)に高い効果を示すと言われます。装置価格が高価なため普及数は限定的ですが、先進的治療を行う施設で採用されています。
  • ヤグレーザーフェイシャル(レーザージェネシス) – 機種名ではありませんが、Cutera社のXeoまたはExcel Vで行うロングパルスNd:YAGによるスキンケア施術の通称です。1064nmをレーザーファイシャル設定(例えば0.3msパルスを毎秒10発程度の高速連射、10J/cm²前後)で顔全体に照射し、軽度の真皮加熱によりコラーゲン産生と赤ら顔改善を狙います。痛みもダウンタイムもなくレーザーピーリングとも呼ばれ人気です。日本でも「ジェネシス」は知名度があり、多くのクリニックで施術メニューに載っています。

以上、代表的なレーザー機器を挙げましたが、この他にも多数存在します。例えばQスイッチヤグの国産機「リジェノラズ(JSK社)」、韓国製の「PASTELLE(JW社)」や「Spectra XT(Lutronic社)」、Qスイッチルビーの日本製「ナノQ(JMEC社)」mayumi-beautifulskin.com、国産エルビウムヤグの「 erbium-YAGレーザー(Morita社)」、エリートプラス(CynoSure社の755+1064nm脱毛機)mitakabiyou.comなど枚挙に暇がありませんmitakabiyou.com。各学会や展示会で最新機種の発表がなされており、国内医師も積極的に情報収集・導入を図っています。機器選びは治療成績に直結するため、エビデンスと実績を踏まえた上で導入を検討することが重要です。

6. ガイドライン・関連学会の推奨事項

美容皮膚科領域のレーザー治療に関して、国内ではいくつかのガイドラインや専門医制度が整備されています。医師はそれらを参照し、科学的根拠に基づいた治療と安全管理を実践することが望まれます。

美容医療診療指針(2020年版): これは日本美容外科学会(JSAPS)・日本形成外科学会・日本美容皮膚科学会・日本皮膚科学会など5学会が合同で策定したガイドラインで、美容医療全般についてエビデンス評価と推奨を示したものですminds.jcqhc.or.jpwebview.isho.jp。レーザー治療に関しても章があり、代表的なシミ治療シワ治療の臨床課題についてCQ(Clinical Question)形式で記載されています。「CQ1-1-1 日光黒子(老人性色素斑)にレーザーや光治療は有効か?」という問いに対して、この指針ではレーザー・IPLは老人性色素斑に対し有効であると結論づけていますminds.jcqhc.or.jp。一方「CQ1-1-2 肝斑にレーザーやIPLは有効か?」については、肝斑に対する強いレーザー照射はしばしば悪化を招くことから、従来型レーザーは慎重適応との立場です(ただし低出力レーザーによるトーニングには一定の効果を認めつつ、根治治療ではないので色素再燃に注意とされています)。また「CQ2-1-1 フラクショナルレーザー療法はシワ・たるみに有効か?」との問いには、**有効である(推奨度B程度)**との回答がありminds.jcqhc.or.jp、適切に用いれば皮膚の質感改善・小ジワの軽減が得られるとしています。これらガイドラインは医師向けですが、患者にも説明する際の根拠となります。

日本皮膚科学会の専門医制度: 日本皮膚科学会は2007年、「美容皮膚科・レーザー指導専門医」制度を創設し、美容皮膚治療に習熟した皮膚科医の育成に努めていますjdacareer.jp。この背景には、90年代に美容皮膚治療が流行した際に未熟な施術でトラブルが多発した反省があり、皮膚科専門医が率先して安全な美容医療を提供すべきとの理念がありましたjdacareer.jp。指導専門医取得には、ケミカルピーリングやレーザー(色素性病変レーザー、血管病変レーザー)など12項目の研修を積む必要があり、良性と悪性の鑑別診断能力も求められますjdacareer.jp。このような制度により、レーザー治療に精通した皮膚科医が全国で育っており、安全・適切な治療水準の向上に寄与しています。

学会のガイドライン類: 日本皮膚科学会や形成外科学会は個別疾患のガイドラインも発行しています。例えば太田母斑の治療ガイドラインではQスイッチレーザーによる治療が標準と明記されています。また日本美容皮膚科学会でもレーザー後のPIHに関する研究が盛んに報告されておりaesthet-derm.org、適切な術後ケアや予防策について知見が共有されています。

推奨事項のまとめ: 総合すると、学会等が推奨するのは「レーザー治療は強力なツールだが適応を誤らず使うこと」「患者の皮膚状態を十分考慮し、副作用リスクを減らす工夫をすること」「過度な宣伝よりエビデンスに基づいた効果説明を行うこと」です。特に肝斑や重度の色素沈着に安易に強出力レーザーを当てて悪化させる事例がかつて問題になった経緯から、ガイドラインでは肝斑はまず内服・外用を中心に据えるよう提言されています。一方、適切な適応症に対してはレーザー治療は非常に有用であるため、標準治療の一つとして位置付けられていますwebview.isho.jp。また、安全管理については日本レーザー医学会などからレーザー安全取扱い指針が示されており、眼防護・火災防止(可燃性麻酔との併用禁止など)・機器点検といった基本事項の遵守が呼びかけられています。

最後に、レーザー治療は日進月歩の分野です。新しい機器や技術(例えば長波長の新レーザーや他エネルギーデバイスとの組み合わせ治療)が次々登場しています。臨床医は最新の文献や学会発表をチェックし、国内外のガイドライン改訂にも目を配る必要があります。日本でも美容皮膚科関連の学会(日本美容皮膚科学会、日本レーザー医学会など)が毎年開催され、情報交換と研鑽の場となっています。安全かつ効果的なレーザー治療を提供するため、ガイドラインの精神を踏まえて日々アップデートし続けることが、患者の信頼に応えることにつながるでしょう。

tsk-onishi-iin.comkagaikeda-derm.com以上をまとめると、美容医療におけるレーザー治療は、科学的理論に支えられた確立治療から最新テクノロジーまで多彩な側面を持ちます。日本国内では法規制と臨床現場のバランスをとりつつ、安全・有効な治療が行われています。本章の知識を踏まえ、臨床医が適切にレーザーを使いこなし、患者に美と安心を提供できることを願っています。

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