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D33.美容皮膚科学 尋常性痤瘡 V1.0


D33.美容皮膚科学-尋常性痤瘡-V1.0

尋常性痤瘡(にきび)

疫学(日本および世界)

尋常性痤瘡(にきび)は思春期を中心に非常に頻度の高い皮膚疾患です。世界的には有病率約9.4%と推定され、疾病全体の中でも第8位とされるほど一般的ですpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。特に思春期後半の青少年で多くみられ、男性では女性より重症化しやすい傾向がありますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。日本においても疫学調査で中学3年生(約15歳)時の有病率が87.3%とピークに達し、思春期を終えるまでに95%以上が発症すると推定されていますjstage.jst.go.jp。平均発症年齢は男子13.3歳・女子12.7歳で、日本人の生涯罹患率は約95%にも及びますjstage.jst.go.jp。思春期の一過性疾患と捉えられがちですが、成人以降も約15%の女性が痤瘡に悩むとの報告もあり、20~30代以降の「大人ニキビ」も無視できません。また痤瘡はQOL(生活の質)に大きな影響を与えうる疾患であり、精神的ストレスや自己評価の低下、重症例ではうつ傾向の一因ともなります。日本では「青春のシンボル」として軽視されがちな面があり、実際に医療機関を受診する患者は全体の10~16%程度に留まるとの調査もありますjstage.jst.go.jp。しかし近年、軽症例でも瘢痕を残す可能性早期治療による瘢痕予防効果が示唆され、痤瘡を放置せず適切に治療する重要性が啓発されています。

病因と発症メカニズム

尋常性痤瘡の発症には複数の要因が複雑に関与します。主な病因因子は以下の4つとされています:

  • 皮脂の過剰分泌(脂腺の活動亢進)
  • 毛包漏斗部の角化異常(毛穴のつまり、面皰〈コメド〉形成)
  • アクネ菌(Cutibacterium acnes)の増殖
  • 炎症反応(自然免疫・獲得免疫の活性化)

思春期にはアンドロゲン(男性ホルモン)の増加により皮脂腺が肥大し、皮脂分泌が亢進します。皮脂量の増加および組成変化(遊離脂肪酸の増加など)は、毛包内でのC. acnes増殖を助長し、また過剰な皮脂は毛穴の内側の角質を肥厚させて毛包漏斗部の閉塞(角栓形成)を招きます。こうして形成される面皰(コメド、いわゆる「白ニキビ」「黒ニキビ」)は痤瘡の初発病変であり、非炎症性病変に分類されます。一方、C. acnes(旧称Propionibacterium acnes、いわゆるアクネ菌)は皮膚常在の嫌気性グラム陽性桿菌で、皮脂を栄養源として毛包内で増殖し、遊離脂肪酸やバイオフィルムを産生して炎症性サイトカインの放出を誘導します。C. acnesは表皮角化細胞や皮脂腺細胞のTLR2・TLR4(トル様受容体)を刺激し、IL-6やIL-8などの炎症性サイトカイン産生を引き起こすほか、好中球を活性化して活性酸素産生やプロテアーゼ放出をもたらし、周囲組織の炎症と組織破壊を進行させます。さらにC. acnesはNLRP3インフラマソームを介してIL-1β産生も誘導し、毛包内部では微小面皰の段階からすでに炎症が始まっていることが知られています。こうした免疫反応によって面皰は紅色丘疹・膿疱などの炎症性病変へ進展します。

ホルモン因子は皮脂分泌に強く影響します。男性ホルモン(テストステロンやジヒドロテストステロン)は皮脂腺の受容体に作用して脂質合成と分泌を促進し、毛包上皮の角化を促すことで痤瘡の惹起因子となります。月経前に悪化する女性の痤瘡では黄体期の黄体ホルモン変動や相対的アンドロゲン優位が関与します。また遺伝的素因も無視できず、家族に重症痤瘡患者がいると発症リスクが高いことが報告されています。

環境因子や生活習慣も痤瘡の増悪要因となりえます。近年の研究で、高糖質負荷の食事や乳製品の摂取が痤瘡悪化に関連するとのデータが蓄積されています。高GI食や乳製品はインスリン様成長因子1(IGF-1)の分泌を促し、IGF-1が皮脂腺での脂質合成や角化亢進を引き起こすためと考えられます。実際、高GI食を控えた食事指導で皮疹の改善がみられたとの報告もあります(ただし一定した結論には至っておらず、ガイドラインでは画一的食事制限は推奨されていません)。ストレスも痤瘡を悪化させることが古くから知られており、睡眠不足や緊張によりホルモンバランスが乱れ皮脂分泌が増えること、またストレス下で皮膚の免疫機能が変調を来すことが一因ですmdpi.com。そのほか化粧品類(脂性のファンデーションなど)による毛穴閉塞(いわゆる面皰性粃糠疹, acne cosmetica)、長時間のマスク着用やヘルメット・あご紐などによる機械的刺激(acne mechanica)も発症・増悪因子となります。また副腎疾患や多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)など内分泌疾患が背景にある場合もあり、思春期を過ぎた重症例や月経異常・多毛を伴う女性ではホルモン検査を含め鑑別が必要です。

臨床分類と重症度スケール

痤瘡の臨床型は大きく非炎症性病変(面皰)と炎症性病変に分けられます。非炎症性病変の面皰には毛穴の閉塞した白色面皰(ホワイトヘッド)と、内容物が酸化して黒色点となった黒色面皰(ブラックヘッド)があります。炎症性病変には丘疹(赤ニキビ)膿疱(黄ニキビ)、さらに重度の結節・嚢腫があり、重症になるほど病変が真皮深層に及び瘢痕形成を起こしやすくなります。

痤瘡の重症度評価として、日本と海外でいくつかの方法が用いられています。日本皮膚科学会のガイドラインでは、顔面の炎症性皮疹数にもとづく重症度判定基準(藤田医大・林伸和らの基準)を採用しています。具体的には、皮膚科専門医の経験的判断と病変数との相関から導かれた基準で、片側顔面における丘疹+膿疱の数で次のように4段階に分類します:

  • 軽症:炎症性皮疹 0~5個(片側顔面) – 主に面皰が中心で、丘疹は少数。
  • 中等症:炎症性皮疹 6~20個 – 丘疹・膿疱が多数みられるが、結節はほとんどない。
  • 重症:炎症性皮疹 21~50個 – 丘疹・膿疱に加え、結節性病変(硬結)がみられることが多い。
  • 最重症:炎症性皮疹 51個以上 – 顔面の広範に結節や嚢腫を呈し、強い炎症としばしば瘢痕を残す。

日本人患者では実際に中等症(6~20個程度の丘疹)の割合が最も高いとの調査があります。海外でも基本的な重症度の考え方は同様ですが、統一されたスケールはなく、臨床研究ではGlobal Acne Grading System (GAGS)Leedsスケール、あるいはIGA(Investigator’s Global Assessment)といった5段階評価(クリア~重症)などが使われます。欧州のガイドラインでは実用上、「面皰主体」「軽度~中等度丘疹膿疱主体」「重度丘疹膿疱または中等度結節主体」「重度結節・凝集性痤瘡」の4分類を提示し、それぞれに応じた治療アルゴリズムを推奨しています。重症度判定は治療方針を決定する上で重要であり、加えて患者の心理社会的な負担(例:自己評価や対人関係への影響)も考慮して総合的に判断することが推奨されます。

診断の要点(鑑別疾患を含む)

尋常性痤瘡の診断は臨床所見に基づいて行われます。額や頬、顎など皮脂分泌の多い部位に典型的な面皰や赤色丘疹が多発していれば、まず診断は難しくありません。面皰(コメド)の存在は痤瘡を特徴づける所見であり、これが認められれば診断はほぼ確定します。通常、特殊な検査は不要ですが、女性の遅発性重症痤瘡では多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)副腎腫瘍などを鑑別するためホルモン検査を行う場合があります。また長期服用薬の確認も重要で、ステロイド内服や一部の向精神薬・ビタミン剤(B<sub>12</sub>など)は薬剤性痤瘡様発疹を引き起こすことが知られます。

鑑別診断として念頭に置くべきは、酒皶(しゅさ、ロザセア)ですdermatol.or.jp。酒皶は30代以降に好発する顔面紅潮と毛細血管拡張を伴う疾患で、一見すると痤瘡と同様に丘疹や膿疱を呈します。しかし酒皶には面皰が出現しないこと、好発年齢が高いこと、鼻や頬のびまん性発赤を伴うことなどで痤瘡と鑑別できます。次に毛包炎も鑑別に挙がります。毛包炎はブドウ球菌などによる毛嚢の局所感染で、膿疱が毛穴に一致して多発します。一見ニキビに似ますが同質の膿疱が均一に分布し、面皰は伴わない点で区別されます。またステロイド外用で生じるステロイドざ瘡(一様な紅色丘疹が口囲や体幹に多発)も鑑別します。思春期ではマラセチア毛包炎(マラセチア真菌による毛孔性丘疹)も背中のニキビと誤認されやすいですが、こちらも均一な毛孔一致性の紅色丘疹・膿疱で、痒みを伴うことが多いです。顔面では扁平疣贅(平らなイボ)が額に多発するとニキビ跡と紛らわしいことがありますが、触診で角質増殖を感じる点やウイルス性疣贅特有の線状配列(爪で掻いた方向に沿って並ぶ)などで鑑別できます。重症結節が多数みられる場合は膿皮症(アクネとは別個の重症皮膚感染症)や**hidradenitis suppurativa(化膿性汗腺炎)**も考慮します。後者は腋窩や鼠径部の汗腺部位に痛みを伴う膿瘍と瘻孔を形成する疾患で、部位が異なり経過も慢性的である点で鑑別可能です。

治療法

尋常性痤瘡の治療は、症状の重症度と病変の種類に応じて段階的に行います。基本原則は、面皰と炎症の双方に対処すること、および複数の作用機序を組み合わせて治療効果を高めることです。それぞれの治療法を外用療法・内服療法・物理療法・美容的治療に分けて述べます。

外用療法

レチノイド外用(ビタミンA誘導体)は痤瘡治療の基幹となる薬剤です。トレチノイン(レチノイン酸)やアダパレンなどが該当し、毛包漏斗部の異常角化を是正して面皰の形成を抑制するとともに、抗炎症作用も有しますmdpi.com。日本ではアダパレン0.1%ゲル(ディフェリン®)が2008年に承認され、面皰に対する初の保険適用治療として痤瘡治療を大きく前進させました。レチノイド外用は軽症~中等症の段階でまず使用され、面皰の減少により炎症性病変も二次的に減少することが期待できます。副作用として塗布部位の皮剥け・乾燥・刺激感がしばしば出現しますが、多くは数週間で慣れてきます。夜間に薄く塗布し、保湿剤で皮膚バリアを整えながら継続使用します。維持療法として炎症が治まった後もレチノイドを長期継続することで再発を75%抑制できたとの報告もありdermatol.or.jp、ガイドラインでも寛解維持にレチノイド外用を強く推奨しています。

過酸化ベンゾイル(BPO)は近年日本でも広く使われるようになった外用薬で、強力な殺菌作用と軽度の角質剥離作用を併せ持ちますja.wikipedia.org。BPOは酸化剤としてC. acnesを殺菌し耐性菌を生みにくい利点があり、抗菌薬代替または併用として重要です。日本では2.5%、5%製剤が市販されており(過酸化ベンゾイルゲル)、紅色丘疹や膿疱など炎症性皮疹に対して第一選択となりますdermatol.or.jp。単独でも有効ですが、特に抗菌薬の外用・内服と併用することで耐性菌発現を抑制できるため、ガイドラインでは抗菌薬とは必ず併用するよう求められています。刺激副作用(ヒリヒリ感、乾燥)を生じやすいので、最初は低濃度から開始し慣らしていきます。BPOは漂白作用もあるため、衣類や髪につかないよう注意が必要です。近年はアダパレン+BPO合剤(エピデュオ®ゲル)が登場し、面皰と炎症の両方に同時に作用する治療として有用です。この合剤は海外のガイドラインで軽中等度痤瘡の第一選択として最も強く推奨されており、日本でも2016年の承認以来、標準治療として用いられています。

抗菌薬外用(抗生物質の塗り薬)は従来、日本で中心的に使われてきた治療です。クリンダマイシン1%ゲルやエリスロマイシン、あるいはナジフロキサシン・オゼノキサシンといったニューキノロン系外用剤が炎症性皮疹に有効ですja.wikipedia.org。ただし近年は耐性菌の問題から抗菌薬の使い方に制限がかけられており、外用抗菌薬は単独では推奨されず必ずBPOと併用する、かつ長期連用しないことが国際的に推奨されています。実際、日本の耐性アクネ桿菌保有率は外用抗菌薬の普及に伴い上昇した経緯があり、BPO普及後は耐性率改善が期待されています。外用抗菌薬は赤ニキビ(丘疹・膿疱)に対して速やかに抗炎症効果を発揮しますが、単独では面皰には無効であり維持療法にも不適当です。

アゼライン酸は抗菌作用・角化抑制作用・抗炎症作用を併せ持つ外用剤で、欧米では痤瘡治療に用いられています。日本では医薬品未承認ですが、ガイドラインでは選択肢の一つとして位置づけられ、特に女性のニキビ跡の色素沈着改善にも有用です。15–20%クリームまたはゲル製剤を1日2回塗布し、刺激が少なく耐性菌リスクもないため、妊娠中でも使用可能な安全性の高い治療です。

その他の外用療法として、サリチル酸硫黄製剤があります。サリチル酸は角質溶解作用により面皰を改善します。日本ではピーリング作用を緩和したサリチル酸マクロゴール製剤が治療に用いられることがありますdermatol.or.jp(詳細は後述のケミカルピーリング参照)。硫黄は古くから用いられてきた民間療法的治療で、抗菌・角質軟化作用があります。硫黄軟膏は独特の匂いがありますが、市販の軽症ニキビ治療薬にも配合されています。ただしエビデンスが乏しくガイドラインで強く推奨はされていません。

内服療法

抗菌薬の内服(抗生物質の経口投与)は、中等症以上の炎症性痤瘡に対する標準治療です。第一選択はテトラサイクリン系抗菌薬で、ミノサイクリンドキシサイクリンが広く用いられています。これらは抗菌作用に加え抗炎症作用(好中球のケミカイン放出抑制など)もあり、丘疹・膿疱を減少させます。通常は3か月以内の期間限定で使用し、それ以上の長期投与は耐性菌や副作用の観点から避けます。ミノサイクリンは有効性が高い一方で、まれに肝障害や色素沈着などの副作用が報告されています。ドキシサイクリンは光線過敏症の副作用に注意が必要ですが、比較的安全に使用できます。妊娠中や小児にはテトラサイクリン系が禁忌のため、その場合はマクロライド系(エリスロマイシンやロキシスロマイシン)を代替使用します。もっとも、エリスロマイシンに対する耐性菌も多いため、重症妊婦以外ではできるだけテトラサイクリン系を使います。近年アメリカで承認されたサレサイクリン(Sarecycline)は、C. acnesなどグラム陽性菌に選択的で腸内細菌への影響が少ない新規テトラサイクリン系経口薬で、耐性菌問題の改善が期待されています(日本未導入)。経口抗菌薬内服中も必ずBPO外用などを併用し、効果増強と耐性予防を図ります。治療効果が現れ始めるまで数週かかるため、その間は外用療法で粘り強く対処します。抗菌薬の効果が不十分な場合や長期必要な場合には、早めに経口レチノイド(イソトレチノイン)への切り替えが検討されます。

ホルモン療法は、女性の痤瘡患者に有効な内的治療オプションです。具体的には**低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(いわゆる低用量ピル)**が皮脂分泌抑制目的で用いられます。ピルは卵巣由来のアンドロゲン産生を抑え、肝臓での性ホルモン結合グロブリン増加を通じて血中遊離アンドロゲンを減少させることで、皮脂産生を低下させます。臨床的には3~6か月の服用で女性の下顎~首周りのニキビが改善するケースが多いです。日本皮膚科学会ガイドラインでも、女性患者で月経関連性の増悪がある中等症以上の場合にピル併用を推奨しています。一方、スピロノラクトン(抗アルドステロン薬)は抗アンドロゲン作用も有し、海外では女性の難治性痤瘡に頻用されます。50~100mg/日内服で皮脂腺のアンドロゲン受容体を競合的に遮断し、皮脂分泌を減少させます。日本では痤瘡治療としての適応がなく一般には使われませんが、耐容性が高く欧米のガイドラインでは女性への使用が推奨されています。ホルモン療法は男性には適用できず、またピルには血栓症リスク等も伴うため、患者ごとのリスク評価が必要です。

**イソトレチノイン(経口レチノイド)**は重症痤瘡に対する劇的に有効な治療薬です。ビタミンAの誘導体で、皮脂腺のサイズと分泌を著しく縮小させ、異常角化を是正し、抗炎症作用も示します。重度の結節嚢腫性痤瘡に対して第一選択とされ、16~20週の内服コースで多くの患者に長期寛解をもたらします。イソトレチノインは欧米では一般的な治療ですが、強力な催奇形性のため妊娠可能な女性には厳格な避妊管理が必須です。また粘膜乾燥、一過性肝機能障害、脂質異常、抑うつ傾向など副作用モニタリングも必要です。日本では現在まで承認されておらず、医師個人の裁量で輸入薬として処方される場合があります(保険適用外)。効果が高い反面、副作用管理のため皮膚科専門医の厳重な監視下で用いる必要があります。

漢方療法は、患者の体質や症状に応じて補助的に用いられることがあります。日本皮膚科学会ガイドライン(2023)でも漢方薬の活用が記載されており、一定のエビデンスが認められるものもあります。代表的な処方として、十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)があります。十味敗毒湯は皮膚の化膿性炎症に幅広く使われる処方で、比較的炎症が軽度な初期のニキビに第一選択とされます。実験的には十味敗毒湯中の生薬成分が好中球の過剰な炎症反応を抑制する作用が報告されています。次に、**荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)は慢性的な膿疱性の炎症を鎮める処方で、赤く腫れて膿をもったニキビ(丘疹・膿疱)に効果があるとされています。皮膚科では扁桃炎や副鼻腔炎を併発しやすい体質のニキビに使われることがあります。また女性で月経周期に伴い悪化する痤瘡には、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)加薏苡仁が用いられます。これは駆オ血剤(血行改善薬)で、ホルモンバランスを整え瘀血を除去することで下顎部などのしつこいニキビに効果が期待できます。これら漢方薬は即効性はありませんが体質から改善を図るアプローチで、西洋治療で不十分な場合に「選択肢の一つとして期待する」**位置づけです。なお漢方薬にも副作用(体質による肝障害など)があり、漫然と長期服用すべきではありません。

機器・施術を用いた治療(光線療法・レーザー等)

痤瘡治療には、近年各種の物理的デバイスを用いた治療も取り入れられています。ただしこれらはガイドライン上は補助的位置づけであり、標準治療(外用・内服)で効果不十分な場合に考慮されます。

光線療法(LEDなど): 青色光療法(波長約415nmのLED照射)は、C. acnesが産生するポルフィリンに反応して活性酸素を発生させ、アクネ菌を殺菌する治療です。痛みなどはなく週1-2回照射を数週間続けると、炎症性皮疹の減少効果が報告されています。ある試験では青色光のみの照射で軽~中等症の炎症病変が局所抗菌薬と同程度に減少したとの結果もあり、抗生物質に代わる治療として期待されています。しかし効果は永続的ではなく再燃も多いため、**単独では推奨度C2(十分なエビデンスがなく推奨しない)**と位置づけられています。一方、光線力学療法(PDT)は光感受性物質(5-ALAなど)を患部に塗布後、赤色光や青色光を照射してアクネ菌殺菌と皮脂腺破壊を図る治療です。PDTは中等症以上のニキビに有効との報告がありますが、照射後に強い疼痛や痂皮形成を起こすこと、施術装置や薬剤コストの問題から保険適用外であり、ガイドラインでは推奨されていません。

レーザー治療: 痤瘡に対して様々なレーザーが試みられていますが、作用原理により大きく2種類に分けられます。(1)赤ら顔・血管拡張をターゲットとしたレーザー、(2)皮脂腺そのものをターゲットとしたレーザーです。(1)にはパルス染料レーザー(PDL)やKTPレーザー(532nm)などがあり、炎症性皮疹の発赤や毛細血管を凝固させることで炎症後の赤みを改善し、結果として炎症期の短縮が期待できます。また瘢痕が赤く盛り上がった肥厚性瘢痕に対してPDL照射を行うと、赤みが引き瘢痕も軟化するためニキビ痕治療にも応用されます。(2)には近赤外レーザー(1064nmヤグレーザーや1450nmダイオードレーザー)があります。1450nmレーザーは水に強く吸収され真皮浅層で熱を発生するため、皮脂腺を熱変性させて皮脂分泌を抑制する効果があります。週1回ペースで数回照射することでニキビの減少効果が報告されています。ただし効果には個人差があり、再発する例もあります。総じてレーザー治療は**「効果が期待できる症例に行ってもよいが推奨はしない(推奨度C2)」**とされ、専門の医師が設備のある医療機関で美容治療的に提供しているのが現状です。

高周波治療(RF): ラジオ波(RF)や高周波のエネルギーを皮膚に与えると、真皮の加熱によるコラーゲン収縮・リモデリング効果が得られます。痤瘡治療では、RFを用いて皮脂腺を破壊する試みがあります。例えばRFマイクロニードリングでは微小な針を毛穴に刺入し、針先からRFを照射して周囲組織を凝固させます。これにより皮脂腺の密集する真皮上層が選択的に破壊され、皮脂分泌の低下と炎症の軽減が報告されています。また真皮のコラーゲン産生も促されるため瘢痕の改善効果も期待できます。実臨床では、軽症~中等症のニキビ患者で毛穴縮小や肌質改善を目的にRF治療が行われることがあります。ただしエビデンスレベルは高くなく、痛みや費用の面もあるため、標準治療が効かない場合の最終手段的な位置づけです。

ケミカルピーリング: 酸による表皮の角質剥離は、面皰除去に有効な古典的治療法です。グリコール酸(AHA)やサリチル酸(BHA)を塗布し一定時間後に中和・洗浄することで角層を薄く剥がし、毛穴詰まりを改善します。面皰の減少によって結果的に炎症性丘疹も減ることが期待され、中等症までの痤瘡患者に広く行われています。日本ではグリコール酸(30~70%)やサリチル酸マクロゴール(20~30%)のピーリングが行われますが、いずれも自由診療で保険適用はありません。ガイドラインでは「標準治療が無効な場合の選択肢」として推奨度C1(弱い推奨)とされています。ピーリング後は一時的にヒリヒリ感や皮膚の赤み・乾燥が生じますが、適切に行えば重篤な副作用はほとんどありません。近年は自宅で使える低濃度AHA配合の化粧品も普及していますが、濃度やpHによって作用が大きく異なるため、医療用ピーリングとは別物と考えるべきです。

美容皮膚科的治療(PRP・マイクロニードル・導入療法等)

多血小板血漿(PRP)療法: 患者自身の血液を遠心分離して血小板を濃縮し、これを皮膚に注入または塗布する治療です。血小板から放出される成長因子が創傷治癒を促進し、ニキビ痕の陥凹改善に効果があると期待されています。単独で劇的な効果を生むわけではありませんが、フラクショナルレーザーやマイクロニードル治療と組み合わせてPRPを導入すると傷の治りが早まり瘢痕改善効果が高まるとの報告が複数あります。安全性は高いもののエビデンスはまだ確立されておらず、美容皮膚科領域で研究が進んでいます。

マイクロニードリング療法: 極細針を多数突起したローラーやスタンプを皮膚に転がし、微小な穿刺を無数に作る治療です。真皮コラーゲンの産生を誘導し、クレーター状の萎縮性瘢痕を滑らかにする効果があります。ダウンタイムが短く皮膚タイプに関わらず行える利点があり、ニキビ痕治療の新たな選択肢として人気があります。またこの微小な穴から有効成分を浸透させるドラッグデリバリー効果も注目されており、ビタミンCや成長因子を塗布併用することで瘢痕や肌質の改善効果を高める工夫もされています。軽度の副作用(発赤やざらつき)は1週間程度で治まり、繰り返し施術することで徐々に凹凸が改善します。

導入療法(イオン導入・エレクトロポレーション等): 肌に美容成分を浸透させる施術で、ニキビそのものの治療というより色素沈着や皮脂抑制の補助療法として行われます。代表的なものがビタミンC誘導体のイオン導入で、微弱電流を用いて高濃度ビタミンCを皮膚深部に送り込みます。ビタミンCには抗酸化作用と抗炎症作用、皮脂分泌抑制作用があり、ニキビの赤み軽減や新規発生予防、ニキビ跡の色素沈着改善に役立ちます。またトラネキサム酸の導入は主に色素沈着の改善目的で行われます。エレクトロポレーション(高電圧パルスで一時的に細胞膜に隙間を作る技術)を併用すると、分子量の大きなヒアルロン酸なども浸透可能とされます。導入療法は痛みも少なく安全ですが、医学的エビデンスは限定的であり、あくまでスキンケア的な位置づけです。

予後と瘢痕形成の予防・治療

尋常性痤瘡は適切に治療すれば多くは改善し寛解に至りますが、治療が遅れたり重症化した場合、皮膚に萎縮性瘢痕(クレーター状の陥凹)や肥厚性瘢痕を残すことがあります. 特に炎症性の強い結節性ざ瘡や囊腫性ざ瘡では瘢痕を形成しやすいため、瘢痕予防には早期から積極的治療を行うことが重要です. 患者自身が病変部を潰すこと(面皰圧出以外の摘み潰し)は瘢痕悪化の原因となるため避けるべきです。

瘢痕の種類には:

  • 萎縮性瘢痕(ニキビ跡の陥凹): 炎症によって真皮コラーゲンが破壊され生じる凹みで、「アイスピック型」「ボックスカー型」「ローリング型」など形態で分類されます。早期治療が遅れた重症例では顔面に多数の瘢痕が残存しうるため、患者の心理社会面へ与える影響も大きくなります。
  • 肥厚性瘢痕・ケロイド: 真皮の線維芽細胞が過剰に増殖した盛り上がり瘢痕です。痤瘡では胸背部の重症例で見られることが多く、赤く硬い膨らみとして残ります(ケロイド体質の人では肩や顎にも生じることがあります)。

萎縮性瘢痕の治療: 完全に元の滑らかな皮膚に戻すことは困難ですが、各種の治療で 目立たなく改善 させることが可能です。第一選択はフラクショナル型レーザーによる瘢痕治療です。炭酸ガスレーザー(CO2)やエルビウムヤグレーザーをフラクショナル照射(微小ドット状照射)することで瘢痕部に点状の熱損傷を与え、創傷治癒過程でコラーゲンが再構築され凹みが浅くなります。3~5回の治療で明らかな改善が得られたとの報告があります。またマイクロニードリングも有効で、先述のように真皮に微細な傷をつけてコラーゲン産生を促進し、肌の滑らかさを取り戻します。深いアイスピック型瘢痕にはTCAクロス(トリクロロ酢酸100%を瘢痕の孔内に点滴し局所的に真皮を再生させる治療)も行われます。さらに、凹みが大きい場合はヒアルロン酸やコラーゲンの皮下充填剤(フィラー)を注射し、一時的に陥凹を目立たなくさせる方法もあります。ただしフィラーは時間とともに吸収されるため効果維持には定期的な施注が必要です。以上の治療はいずれも自費診療であり、効果には個人差があります。日本のガイドラインでは「現時点で萎縮性瘢痕に推奨できる確立した治療法はない」としており、患者ごとに複数の治療を組み合わせて対応するのが現実的です。重要なのは瘢痕形成前に炎症段階で治療介入し瘢痕を作らないことであり、そうした意味でも早期治療・維持療法が勧められます。

肥厚性瘢痕・ケロイドの治療: 局所へのステロイド注射が標準治療です。トリアムシノロン等の懸濁性ステロイド剤を瘢痕内に数週~数月おきに注射することで、線維芽細胞の増殖を抑え瘢痕を平坦化させます。小さな肥厚性瘢痕なら3~4回の注射でほぼ平らになることもあります。ステロイド注射が難しい部位や広範囲のケロイドには、液体窒素による凍結療法も行われます。凍結と融解を繰り返すことで組織壊死と血流遮断を起こし、瘢痕が縮小します。耳たぶのケロイドなどで有効ですが、痛みが強いため麻酔下で行うことが多いです。日本ではケロイド治療薬として**トラニラスト(経口薬)が保険適用されています。痤瘡後の肥厚性瘢痕にも用いられることがありますが、臨床試験がなく有効性は明確でないため推奨度C2(行ってもよいが推奨しない)**とされています。難治性の巨大ケロイドには外科的切除が検討されることもありますが、単独切除では再発が多く、術後に放射線療法やステロイド外用を併用するケースが一般的です。瘢痕の発赤や痒みが強い場合、パルス染料レーザーで毛細血管を破壊すると赤みが軽減し、痒みも和らぐことがあります。加えて、シリコンジェルシート貼付や圧迫療法も肥厚性瘢痕の管理に有用です。肥厚性瘢痕の治療は長期戦となることが多く、患者と医療者が協力して根気強く取り組む必要があります。

最新の国内外ガイドライン

尋常性痤瘡の治療指針として、国内外でいくつかのガイドラインが公開されています。日本皮膚科学会の「尋常性痤瘡治療ガイドライン」(最新版2023年改訂)では、外用レチノイドと過酸化ベンゾイルを軸に据えた標準治療と抗菌薬使用の適正化、さらに維持療法の重要性が強調されています。具体的には軽症~中等症の初期治療として「アダパレン+BPO併用」を第一選択とし、炎症が強い場合のみ短期間の抗菌薬追加を認める内容です。抗菌薬外用・内服は耐性菌対策のため単独使用しないこと、そして可能な限り3か月程度までの使用に留めることが求められています。また治療で症状が落ち着いた後も維持療法としてレチノイドまたはBPOの継続塗布を推奨し、再燃予防を図ります。日本独自の記載として、漢方薬の位置付け(十味敗毒湯や荊芥連翹湯等を「有用な選択肢」として紹介)や、未承認のイソトレチノイン内服についての言及があります。2023年版では酒皶(ロザセア)も扱われ、痤瘡との鑑別や治療の違いにも章を割いていますdermatol.or.jp

米国では米国皮膚科学会(AAD)が2016年にガイドラインを発表しており、基本的な方向性は日本と同様です。すなわち、外用レチノイド+BPOをあらゆる重症度の基礎に据え、必要に応じて外用・経口抗菌薬を組み合わせるという方針です。加えて特徴的なのは女性の成人痤瘡に対する抗アンドロゲン療法の活用です。具体的には中等症以上の女性に対し経口避妊薬やスピロノラクトン内服が有効であることが示され、ガイドラインでも条件付きで推奨されています。イソトレチノインについては重症例への強い推奨とともに、妊娠対策(iPLEDGEプログラム)の遵守が明記されています。またAADガイドラインは新規外用薬にも言及しており、例として新しい外用抗アンドロゲン剤であるクラスコテロンを挙げ、12歳以上の患者に使用可能であることを紹介していますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov(2020年に米国FDA承認)。食事指導については、「高糖質食・乳製品摂取と痤瘡悪化の関連は示唆されるが、治療として特定の食事制限を推奨するだけの根拠はない」とし、現時点では画一的な食事療法は勧めていません。このようにAADガイドラインは科学的根拠に基づきつつ、患者一人ひとりの状況に応じた柔軟な治療選択を支持する内容です。

欧州では2016年に欧州皮膚科・性病学会(EADV)などが中心となりS3ガイドラインが更新されました。その内容も概ね米国・日本と一致しており、固定処方のBPO+クリンダマイシン合剤やBPO+アダパレン合剤を軽中等度痤瘡の第一選択として強く推奨しています。特に抗菌薬耐性への懸念から、「抗菌薬の外用単独療法は推奨しない」ことを明確に述べています。欧州ガイドラインは前述のように重症度を4分類しており、例えば重度丘疹膿疱型~中等度結節型には「経口抗菌薬+外用レチノイド+BPO」の併用療法を推奨し、重度結節嚢腫型(凝集性痤瘡)には経口イソトレチノイン単独療法を最も強く推奨しています。また患者の心理的側面への配慮も勧告されており、QOL評価票の活用や必要に応じて精神科的介入も行うよう推奨しています。このように各国ガイドラインはいずれも、「レチノイド+過酸化ベンゾイルを基本に、症状に応じて抗菌薬・ホルモン剤・イソトレチノインを組み合わせる」という現代の標準治療のコンセンサスを示しています。

最新研究動向(病因・治療の新展開)

痤瘡の分野では、病態解明や新規治療に関する研究が近年飛躍的に進んでいます。最後に最新の研究動向をいくつか紹介します。

  • 痤瘡ワクチン・抗菌療法の新展開: C. acnesを標的とするワクチン開発は長年の夢でしたが、近年具体化しつつあります。例えば、カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の研究チームは、C. acnesが産生する酵素(ハリヤルロニダーゼ)の特定型に対するワクチンを開発し、マウスモデルで約50%の症状軽減という有望な結果を報告しました。このワクチンは皮膚のヒアルロン酸を分解するC. acnes由来酵素を標的にすることで、炎症反応を抑える狙いがあります。現在、製薬大手のサノフィ社が別のアプローチで開発した**痤瘡ワクチンの臨床試験(第I/II相)を進めており、2024年に開始された試験で約400人の中等症~重症患者を対象に安全性と有効性を評価中ですlivescience.com。このワクチンはmRNAワクチン技術を用いたものとされ、特定のアクネ菌株に対する免疫応答を引き起こすことで痤瘡の改善を目指しますlivescience.com。実用化にはなお数年~10年規模の時間を要しますが、将来ワクチンでニキビを予防・治療できる可能性は現実味を帯びています。また抗菌治療の新展開として、バクテリオファージ療法も研究されています。アクネ菌に感染し増殖するC. acnesファージ(ウイルス)**を利用し、抗生剤耐性菌も含めアクネ菌を選択的に死滅させるアプローチです。試験管内やマウスで効果が示され始めており、今後抗生物質に代わる治療として期待されています。
  • 新規の外用薬・経口薬: 従来の治療薬とは異なる作用機序を持つ新薬も登場しています。クラスコテロン(商品名Winlevi)は2020年に米国FDAが承認した世界初の外用抗アンドロゲン薬ですpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。皮脂腺のアンドロゲン受容体を競合的に遮断し、皮脂産生と炎症を抑制します。12歳以上の男女の痤瘡に適応があり、臨床試験では炎症皮疹の有意な減少と皮脂量低下が確認されました。外用剤でありながら全身へのホルモン影響は最小限で、安全性の高さが報告されています。日本では未承認ですが、将来的に導入されれば従来のレチノイドやBPOに次ぐ第3の外用薬となる可能性があります。また、経口薬では前述のサレサイクリン新規マクロライド系など、耐性菌問題を克服するための抗菌薬開発が続いています。抗菌薬以外にもニトリルオキシド(NO)放出製剤などが注目されています。例えばSB204ゲルはNOを放出して抗菌・抗炎症作用を発揮する外用剤で、第III相試験まで進みました。結果は一部主要評価項目未達でしたが、今なお改良検討されています。さらに、3剤配合の固定処方も進歩しています。2023年には米国でアダパレン0.15%+BPO3.1%+クリンダマイシン1.2%配合ゲル(IDP-126)が承認されました。一度の塗布で面皰・菌・炎症のすべてに対処できる処方であり、治療の簡便さ向上が期待されます。
  • 病態メカニズムの新知見: 痤瘡の炎症メカニズムに関する理解も深まっています。特に自然免疫と獲得免疫のクロストークが注目され、C. acnesに対するTh17細胞Th1/Th17混合反応が重症化に関与することが示されています。実際、痤瘡病変部ではIL-17やTNF-αなどが高発現し、炎症を増幅していることが報告されています。このため、既存の**生物学的製剤(例:抗IL-17抗体や抗TNF-α抗体)**を重症痤瘡に応用できないかという試みも散見されます。例えば凝集性座瘡(Acne conglobata)にインフリキシマブ(抗TNF-α)が奏効した症例報告や、尋常性痤瘡患者にウステキヌマブ(抗IL-12/23)を投与し部分寛解を得た例などが文献上報告されています。しかし生物学的製剤は費用や副作用の点で安易に適用できず、今後さらに標的を絞った低分子薬やペプチド治療などが模索されています。
  • 皮膚マイクロバイオームとプロバイオティクス: 皮膚の常在菌叢が痤瘡に与える影響もホットな研究領域です。C. acnes自体には複数の菌株(ファージタイプ、遺伝子クラスター)があり、痤瘡患者に多い毒性株健康な皮膚に多い共生株が存在することが分かってきました。将来的には患者ごとの皮膚微生物叢バランスを解析し、有益菌を増やして有害菌を減らす治療(プロバイオティクス外用など)が開発される可能性があります。また経口摂取するプロバイオティクス(乳酸菌など)も全身の炎症を軽減しうるとの報告があり、腸内環境の改善による痤瘡治療効果が検討されています。さらにはC. acnesが産生する物質(ポルフィリンや酵素)を標的とした阻害薬の研究も進行中です。これらは皮膚常在菌を維持しつつ、ニキビの原因となる毒性因子だけを抑える新しいコンセプトの治療です。
  • その他の新技術: デバイス面では、集束超音波高周波による皮脂腺リモデリング低出力電流による皮脂腺抑制などユニークな試みがあります。また、AI(人工知能)を用いた痤瘡画像解析も登場しています。スマートフォンで撮影した肌写真をAIが分析し、ニキビの数や重症度を自動評価して適切な治療法を提案するアプリも研究段階にあります。将来的には、患者が自分のニキビをモニタリングしながら医師とデータ共有して治療に活かす、といった遠隔医療+AI診断の形も可能になるかもしれません。

このように、尋常性痤瘡の領域では従来治療の改良(既存薬の最適な組み合わせや新製剤開発)と新規治療法の創出(ワクチン・微生物療法・分子標的治療など)が並行して進んでいます。痤瘡は若年者中心の疾患であり患者数も非常に多いため、そのインパクトは大きく、研究開発の関心も高い分野です。今後、耐性菌や副作用の懸念を克服しつつ安全で根本的な治療が実現することが期待されています。

References:pubmed.ncbi.nlm.nih.govjstage.jst.go.jpmdpi.comdermatol.or.jpja.wikipedia.orgdermatol.or.jpmdpi.comdermatol.or.jppubmed.ncbi.nlm.nih.govlivescience.com

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