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D28.美容皮膚科学 瘢痕・ケロイド V1.0


D28.美容皮膚科学-瘢痕・ケロイド-V1.0

美容皮膚科医向けの瘢痕・ケロイドに関する詳細ガイド

美容皮膚科医のための瘢痕(瘢痕拘縮・肥厚性瘢痕)およびケロイドの包括的解説

外傷、手術、熱傷(火傷)や重度の炎症後には、皮膚に瘢痕組織が形成されます。その中でも肥厚性瘢痕ケロイドは、コラーゲンの過剰沈着によって皮膚が盛り上がる病的瘢痕であり、見た目の問題のみならず、かゆみ・痛みなどの自覚症状や、瘢痕拘縮による関節可動域の制限など機能的問題を引き起こします。美容皮膚科領域では、これら瘢痕・ケロイドの適切な診断と治療、予防が重要です。本章では、瘢痕拘縮・肥厚性瘢痕およびケロイドについて、疫学・病態生理から診断、治療、予防まで最新の知見に基づき包括的に解説します。

1. 疫学・病態生理

疫学(日本人における傾向と人種差)

肥厚性瘢痕・ケロイドの発症頻度や傾向には、人種による差異が認められます。一般に白色人種(欧米人)に比べて、有色人種(アジア人や黒人)では肥厚性瘢痕・ケロイドを生じやすい傾向が知られています。ケロイドは特に黒人で発生率が高く、報告によっては黒人集団の約10〜16%にケロイド体質がみられるとされます。アジア人(日本人を含む)でも比較的高頻度ですが、白人に比べると多いものの黒人ほどではありません。一方、白人ではこれら病的瘢痕は比較的まれです。また、男女差は明確ではありませんが、耳たぶのケロイドはピアス穴が原因となるため女性に多くみられる傾向があります。好発年齢は思春期〜30歳代で、加齢とともに瘢痕過剰形成の傾向は弱まります(高齢者では重度のケロイドはまれです)。好発部位として、ケロイドでは胸骨部(前胸部)や肩、上腕外側、頸部後面、下顎沿い、耳たぶなどが挙げられます。これらは皮膚の張力が強かったり色素沈着しやすかったりする部位です。一方、眼瞼(まぶた)や手のひら・足の裏、陰部などにはケロイドはほとんど発生しません。このことから、皮膚の張力や色素の関与が発症に影響していると推測されています。

遺伝的要因と発症リスク因子

ケロイド体質には遺伝的素因も示唆されており、家族内で複数人がケロイドを発症する例も報告されています。実際、ケロイドの発症に関連する遺伝子として、創傷治癒や線維化に関与するサイトカイン経路の遺伝子多型(例:TGF-βやIL-6関連遺伝子)、特定のHLA遺伝子型などが関与している可能性が研究されています。ただし、遺伝因子だけでなく環境要因も大きく、発症リスク因子として様々な要素が知られています。例えば、深い外傷や熱傷で創傷治癒に時間がかかる場合や、手術創の感染・異物残留(縫合糸に対する反応など)がある場合は肥厚性瘢痕を生じやすくなります。特に皮膚張力の強い部位の創傷(例:胸部正中の縦切開創)は、傷が引っ張られる刺激により瘢痕が肥厚しやすい傾向があります。また、年齢も影響し、若年者ではコラーゲン代謝が活発なため瘢痕が肥厚しやすく、高齢者では瘢痕形成能力そのものが低下するため過剰な瘢痕は生じにくくなります。ホルモン要因も指摘されており、ケロイドは思春期から成人にかけて発症しやすく、妊娠中に増悪する例もしばしば報告されています。慢性的な炎症も瘢痕形成を助長し得るため、胸背部の**尋常性痤瘡(ニキビ)**が治ったあとに瘢痕化するケースや、手術創が湿疹や掻破で慢性刺激を受けた場合に肥厚性瘢痕へ移行するといったケースもあります。

病態生理

肥厚性瘢痕・ケロイドでは、創傷治癒過程の制御異常により線維芽細胞の増殖亢進とコラーゲン過剰産生が持続します。通常、傷が治癒すると増殖相から成熟相へ移行して瘢痕が収縮・平坦化していきますが、病的瘢痕では増殖相が過度に持続し、コラーゲン沈着と炎症が長引きます。その結果、膠原線維(主にI型およびIII型コラーゲン)が真皮内に大量に堆積し、厚く盛り上がった瘢痕組織を形成します。サイトカイン成長因子の関与も重要で、TGF-β(トランスフォーミング増殖因子β)やIL-6、PDGFなど線維化を促す因子が病的瘢痕では高発現し、逆にコラーゲン分解を担うMMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)の活性低下やその阻害因子(TIMP)の増加がみられます。さらに、瘢痕組織内では血流が滞りやすく低酸素状態となることでHIF-1αなどの線維化促進因子が誘導され、悪循環的にコラーゲン産生を助長します。瘢痕組織内にはマスト細胞など炎症細胞も増加しており、放出されるヒスタミンやサイトカインが線維芽細胞を刺激している可能性があります。

肥厚性瘢痕とケロイドには病理組織学的にも違いがみられます。肥厚性瘢痕では束状のコラーゲン線維が表皮に平行に整然と配列し、瘢痕内に筋線維芽細胞(α-SMA陽性細胞)が豊富で瘢痕組織の収縮傾向が強いのに対し、ケロイドではコラーゲン線維一本一本が太く硝子様に肥厚し、ランダムに走行してコラーゲン塊を形成しながら真皮深部や皮下組織に指状に浸潤する像がみられます。ケロイド組織ではアポトーシス抵抗性の線維芽細胞が増殖を続け、“硝子様の膠原線維沈着”が特徴的です。ケロイドでは瘢痕内の血管密度は辺縁部以外では乏しく、瘢痕中心部はしばしば低酸素状態となっています。これに対し肥厚性瘢痕は新生血管に富み紅色調を呈しやすい傾向があります。また、臨床経過の違いとして、肥厚性瘢痕は術後6か月頃に肥厚のピークを迎えた後、1〜2年かけて徐々に成熟・退縮していく場合が多いのに対し、ケロイドは長期にわたり増殖・膨隆を続け、自然に退縮することはほとんどありません。肥厚性瘢痕では瘢痕組織の収縮力によって瘢痕拘縮が起こり得ますが、ケロイドでは収縮よりも膨隆・浸潤傾向が強く、周囲の正常皮膚を押し広げるように蟹足状に増殖します。

2. 分類と特徴

肥厚性瘢痕とケロイドの違い

臨床現場では、肥厚性瘢痕とケロイドを鑑別することが重要です。両者は一見似た隆起性瘢痕ですが、発生原因や経過、治療反応に違いがあるため、適切な治療選択のために区別が必要です。主な相違点を以下にまとめます。

項目肥厚性瘢痕ケロイド
原因明確な外傷や手術創に一致して発生する外傷が契機となる場合もあるが、しばしば軽微な刺激や自発的にも発生する
発症時期傷後1〜2ヶ月以内に出現し始めることが多い傷後数ヶ月〜半年以上経過してから遅れて発生することもある
増殖範囲瘢痕が元の傷の範囲内にとどまる瘢痕組織が元の傷の境界を超えて周囲の正常皮膚にまで拡大する
経過6ヶ月頃に肥厚のピークとなり、その後は徐々に退縮・成熟していく傾向がある長期にわたり持続的に増殖・膨隆し、自然には退縮しない
症状かゆみ・軽度の痛みを伴うことがある(しばしば一過性)強いかゆみ・疼痛を伴うことが多く、症状が持続・増悪しやすい
好発部位関節周囲、肩、頸部、下腹部など(皮膚の張力が高い部位)胸骨部、肩、耳たぶ、下顎縁、後頸部など(色素沈着・毛包の多い部位)
病理所見コラーゲン束が平行に配列し規則的。筋線維芽細胞が豊富で収縮性をもつ硝子様に肥厚した太い膠原線維が不規則に配列。病変が真皮外へ指状に浸潤し、ケロイドコラーゲン塊を形成
再発外科的切除後は比較的再発しにくい(張力軽減など条件整えば)切除単独では再発率が高く、術後無対策ではしばしば元より大きく再発する

このように、肥厚性瘢痕は傷に沿って発生し時間とともに縮小する可能性がありますが、ケロイドは境界を超えて広がり続け自然退縮しない点で、より侵襲的・難治性の性質を持ちます。ただし初期の段階では両者の判別が難しい場合もあり、経過観察中にその振る舞い(退縮傾向の有無や拡大傾向)を見極めて診断することもあります。日本では古くは肥厚性瘢痕も含め「ケロイド体質」と呼ぶことがありますが、医学的には上記のような違いがあります。

瘢痕拘縮とは

瘢痕拘縮とは、瘢痕組織の収縮によって皮膚や関節が引きつれ、可動域制限や変形をきたした状態を指します。特に関節をまたぐ瘢痕や、広範囲の熱傷後瘢痕で生じやすく、瘢痕組織が周囲の正常組織を巻き込むように縮むことで発生します。瘢痕拘縮は主に肥厚性瘢痕に伴って起こる現象であり、瘢痕内の筋線維芽細胞による収縮力が原因です。ケロイドでは瘢痕自体は膨隆しますが、周囲組織を縮縮させることは比較的まれです(ただし大きなケロイドが関節近くにある場合、間接的に動きを制限することはあります)。瘢痕拘縮が強い場合、日常生活動作に支障をきたすため、瘢痕松解術(瘢痕の外科的切開・延長やZ形成術、植皮などによる拘縮帯の解除)が必要になります。予防のためには、創傷治癒過程で過剰な肉芽収縮を抑える目的での適切な創部管理と、瘢痕が収縮し始める時期からの**リハビリテーション(関節のストレッチ等)**が重要です。

3. 診断

瘢痕・ケロイドの診断は主に臨床所見病歴の聴取に基づいて行います。手術痕や外傷痕に一致して生じ、境界がその範囲内に留まっている隆起性病変であれば肥厚性瘢痕が示唆されます。一方、傷の範囲を超えて蝕むように拡大する病変はケロイドの可能性が高いです。また、発症までの時間経過も診断の手がかりとなります。例えば、術後1〜2ヶ月以内に赤く盛り上がってきた瘢痕が、その後1年ほどで徐々に落ち着いてきた場合は肥厚性瘢痕が疑われますが、術後半年以上経ってから瘢痕が徐々に増大・拡大している場合はケロイドを強く考えます。患者の自覚症状も参考になります。強い痒みやズキズキする痛みを持続的に訴える場合、ケロイドであることが多いです。ケロイド体質の患者では、耳たぶのピアス痕や胸背部のニキビ痕など複数箇所にケロイドを経験していることもあるため、問診で既往部位を確認することが診断の助けになります。

鑑別診断として、外観が類似し得る皮膚疾患を除外する必要があります。肥厚性瘢痕・ケロイドと紛らわしい病変には、皮膚線維肉腫(Dermatofibrosarcoma Protuberans: DFSP)やケロイド様の良性腫瘍、慢性狼瘡(ディスコイドループス)後の瘢痕、あるいは瘢痕部に発生した悪性腫瘍(いわゆる瘢痕癌)などが挙げられます。DFSPは外傷既往のない部位にも生じうる真皮由来の悪性腫瘍で、初期には瘢痕と区別がつきにくいことがありますが、時間とともに境界不明瞭に浸潤性に増殖していく点でケロイドと異なります。臨床的に悪性を疑う所見(急速な拡大、潰瘍化など)があったり診断に迷う場合には、皮膚生検による病理組織検査が有用です。ただし明らかなケロイドと考えられる場合、侵襲を加えることでさらに瘢痕が悪化する可能性があるため、生検実施は慎重に判断します。

病理組織検査では、前述のとおり肥厚性瘢痕では平行に走るコラーゲン束と多数の筋線維芽細胞が認められ、ケロイドでは硝子様肥厚コラーゲンと真皮外への浸潤像が特徴的です。これにより、他の線維性腫瘍との鑑別も可能です(例えばDFSPでは紡錘形細胞の束状増殖と真皮全層〜皮下への浸潤がみられ、免疫染色でCD34陽性となる等、ケロイドと異なる所見があります)。病理診断によって、ごく稀ながら長年経過した瘢痕が肉腫化した瘢痕肉腫を除外することもできます。典型的な臨床像では病理検査を要しませんが、不明瞭な場合には病理所見の確認が最終診断と適切な治療方針決定に役立ちます。

4. 治療法

瘢痕・ケロイドの治療は保存的治療(薬物療法や理学療法)から侵襲的治療(注射療法、レーザー、手術・放射線)まで多岐にわたります。単一の治療で完治させることが難しいケースも多く、複数の治療法を組み合わせることが一般的です。以下に主要な治療法とその特徴を示します。

外用療法(塗り薬・貼り薬による治療)

瘢痕の初期段階や比較的軽度の場合には外用薬による治療が行われます。最も一般的なのはステロイド外用剤で、強力なステロイド軟膏(クロベタゾールなど)を瘢痕部に塗布したり、ステロイド含有テープ剤を貼付したりする方法です。ステロイドには抗炎症作用と線維芽細胞の増殖・コラーゲン合成を抑制する作用があり、瘢痕の発赤や盛り上がりをある程度抑制する効果があります。特に術後早期からステロイド外用を継続することで、肥厚性瘢痕への移行を抑えられる場合があります。ただし、ケロイド・肥厚性瘢痕の成熟期には皮膚が硬く薬剤浸透が悪いため、ステロイド外用のみで既存の厚い瘢痕を劇的に改善することは難しく、他の治療との併用で瘢痕の柔軟性を高める補助的な位置づけになります。

一部にはイミキモド(5%クリーム)の外用が試みられることもあります。イミキモドは本来、尖圭コンジローマや皮膚がん治療に用いられる免疫賦活薬ですが、ケロイド切除後の創部に対し術後数ヶ月間、週数回塗布することで再発率を低下させたとの報告があります。しかし、局所刺激性が強く発赤やびらんなど炎症を惹起しやすいため、一般臨床で広く用いられる方法ではありません。その他、ヘパリン類似物質や玉ねぎエキスを含む市販の瘢痕治療用ゲル・クリーム(商品例:コントラクチュベックス®)が使用されることもあります。これらは患部の保湿や抗炎症作用により瘢痕の外観改善に一定の効果を示すとされていますが、科学的エビデンスは必ずしも十分ではありません。また、物理的アプローチであるシリコーンゲルシートの貼付(後述)は外用療法の一環として瘢痕治療の基本となる手段です。

注射療法(局所注射による治療)

瘢痕組織に直接薬剤を注入する局所注射療法は、瘢痕・ケロイド治療の中心的手段です。代表的なのはステロイドの病変内注射で、トリアムシノロンアセトニド(ケナコルト®などの商品名)を瘢痕組織内(皮内もしくは皮下)に直接注射します。通常、濃度は10〜40 mg/mLを用い、病変の大きさに応じて数箇所に分散注射します。4〜6週ごとに反復注射し、3〜5回程度行うことが多いです。ステロイドの局所注射により、線維芽細胞の増殖抑制・アポトーシス誘導、コラーゲン産生抑制、血管新生抑制、さらに抗炎症作用による痒みや痛みの軽減効果が得られます。多くの瘢痕で軟化・扁平化など明らかな改善が得られます。ただし、注射時の疼痛が強い点や、皮膚萎縮・毛細血管拡張・色素脱失などの副作用が起こりうる点に留意が必要です。表皮近くへ浅く打ちすぎると萎縮・陥凹を生じやすいため、病変の真皮深部〜皮下に留まるよう針の深さを調整します。

5-FU(5-フルオロウラシル)の局所注射も有力な治療法です。5-FUは抗がん剤の一種ですが、線維芽細胞の増殖を選択的に抑制する作用があり、ケロイド・肥厚性瘢痕に対して週1回程度の間隔で反復注射すると有効とされています。ときにステロイドと併用し、例えばトリアムシノロン1に対し5-FU9の割合で混合して注射することで、相乗効果と疼痛軽減を図ります(5-FUは注射時に強い刺激痛を伴うため、ステロイドや局所麻酔薬を混和します)。5-FU注射は単独でも肥厚性瘢痕の約50〜70%で有意な縮小・軟化効果を示したとの報告があり、特に硬く成熟した瘢痕の軟化に有用とされます。ただし、注射部位の潰瘍や色素沈着などの副作用が起こる可能性があり、濃度・量の調整や施術間隔の管理が必要です。

さらに、ボツリヌス毒素(A型ボツリヌス毒素)の瘢痕部への注射も近年報告されています。ボツリヌス毒素は神経筋接合部でアセチルコリン放出を阻害し筋収縮を弱める薬剤ですが、創縫合部周囲の筋肉に注射することで創にかかる張力を軽減し、瘢痕の肥厚予防に役立つ可能性があります。また、ボツリヌス毒素自体が線維芽細胞の増殖やTGF-β産生を抑制する作用を持つことも示唆されています。実際、眉間や顎下など表情筋の影響を受ける手術創に術後早期からボツリヌストキシンを注射し、瘢痕が目立たなく治癒したとの報告があります。ただし、本治療はまだエビデンスが蓄積している段階とは言えず、費用も高額なため、標準治療として行われている施設は限られます。

そのほか、ブレオマイシンの局所注射やインターフェロン(IFN-α/γ)の局所注射が難治性ケロイドに対して試みられることもあります。ブレオマイシン(抗腫瘍性抗生物質)は線維芽細胞の増殖を抑える作用があり、1〜1.5単位/mL程度の濃度で瘢痕内に細かく真皮内注射するか、細針で多数穿刺して薬液を染み込ませる方法(Bleomycin tattoo法)で投与します。比較的小さなケロイドで有効な報告がありますが、色素沈着や潰瘍など局所副作用のリスクがあり専門的判断のもとで行われます。インターフェロン療法は、かつてケロイド切除後の再発予防目的でIFN-α2bの創周囲多点注射が研究され、一部効果が報告されました。しかし全身性の副作用や注射の疼痛、費用対効果の問題から現在ではほとんど行われていません。ベラパミル(カルシウム拮抗薬)の局所注入も線維芽細胞のコラーゲン分泌抑制目的で検討されたことがありますが、明確な有効性は確立しておらずルーチンには用いられていません。

レーザー治療

レーザー治療は、非侵襲的または低侵襲的に瘢痕を改善できる手段として広く用いられています。最も実績があるのはパルス染料レーザー(PDL)で、585nmまたは595nmの波長のレーザー光を瘢痕部に照射します。PDLの光は瘢痕内の拡張した毛細血管に選択的に吸収されるため、血管を凝固・閉塞させ、瘢痕の赤み(紅斑)を改善します。同時に、血流が減少することで線維芽細胞への酸素・栄養供給が制限され、瘢痕組織の活動性が低下すると考えられます。その結果、瘢痕が柔らかくなり厚みが減少する効果も期待できます。特に形成初期の赤い肥厚性瘢痕に対してPDLを月1回ペースで複数回照射すると、瘢痕の発赤が軽減し、瘢痕高さの減少や痒みの軽減が得られやすいです。ただし、成熟して硬くなったケロイドに対してPDL単独で劇的な縮小を得ることは難しく、主に補助療法として他治療と組み合わせて用いられます。

炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)は、水に吸収される10,600nmの赤外線レーザーで、組織を蒸散させる効果があります。外科的メスの代わりにCO2レーザーで瘢痕を削り取ることも可能ですが、出血や熱損傷を伴うため、大きなケロイドの切除手段としてはあまり実用的ではありません。一方、フラクショナルCO2レーザーは瘢痕治療に有用です。フラクショナルレーザーではレーザー光を点状に分割して照射し、皮膚に無数の微小な熱損傷カラム(直径数百μmの縦穴)を作ります。正常組織が点在しながら損傷部位が均一に分散するため治癒が早く、ダウンタイムを抑えつつ真皮内にリモデリング(再構築)反応を誘導できます。瘢痕組織内に新たなコラーゲン再編成が起こり、瘢痕の質感(硬さや表面の凹凸)が改善し、また拘縮の軽減にもつながります。さらに、フラクショナルレーザー照射直後は皮膚表面に無数の微小な孔が開いた状態となるため、直ちにその上からステロイド外用や5-FU外用を行うことで薬剤を瘢痕内部まで浸透させる「レーザードラッグデリバリー」が可能です。このようにレーザー治療は他治療との併用で相乗効果を発揮しやすく、副作用も一時的な発赤や浮腫程度で安全性が高いため、瘢痕治療の補助として幅広く行われています。

その他のレーザー・光治療として、**Nd:YAGレーザー(ネオジムヤグレーザー)**の長パルス(1064nm)を用いて瘢痕組織を深部から加熱し軟化させる方法や、**IPL(Intense Pulsed Light)**による光治療で瘢痕の紅斑を改善する方法もあります。Nd:YAGレーザーは深達性が高く、主にケロイドの基部にある血管や組織を加熱することで瘢痕を萎縮させる効果が期待されます。また、**光線力学療法(PDT)**を瘢痕に応用する試みもあります。光感受性物質(5-ALAなど)を瘢痕に塗布した後、特定波長の光を照射して選択的に瘢痕内の異常血管や細胞を破壊する手法で、線維芽細胞のアポトーシス誘導効果が示唆されています。ただし、これらの特殊な光治療は専門的設備を要し、確立された標準治療とは言えません。現時点では、PDLとフラクショナルレーザーが瘢痕治療の二本柱となっています。

外科的切除と再発防止策

瘢痕・ケロイドが大きく増殖して難治性の場合や、瘢痕拘縮によって機能障害(関節可動域制限など)を来している場合には、外科的切除による治療が検討されます。肥厚性瘢痕の場合、原因となった張力や炎症の要因が解消されていれば、外科的に瘢痕を切除し改形手術(瘢痕形成術)を行うことで細く目立ちにくい瘢痕に置き換えることが可能です。しかしケロイドの場合、単純切除のみでは非常に再発率が高いことが知られています(文献によっては術後再発が50〜90%に達するとされる)。むしろ切除により創傷刺激が新たなケロイド形成を誘発し、元の病変よりも大きく再発することすらあります。そのため、ケロイドに対する外科治療は必ず術後の再発予防策とセットで計画されます。

基本的な術式は、瘢痕組織を可能な限り切除し正常皮膚同士を丁寧に縫合する瘢痕切除術です。肩や関節周囲など張力の強い部位では、Z形成術などで瘢痕線をジグザグに変更し、力のかかる方向を分散させる工夫を加えます。また、瘢痕を広範囲に切除した後の欠損が大きい場合は植皮(厚めの皮膚移植)や局所皮弁(周囲から皮膚組織を移動して再建)によって創面を閉鎖します。特に熱傷後の広範囲瘢痕拘縮では、瘢痕帯を切除してから健常部位からの植皮を行い、関節の動きを回復させます。ケロイドの場合、小さく限局した耳たぶケロイドなどは完全切除と一次縫合が比較的容易ですが、胸部や肩など広範囲に及ぶ病変を一度に全部切除すると創閉鎖時に強い張力がかかり新たな瘢痕の温床となるため、段階的切除(一部ずつ複数回に分けて切除する)や、瘢痕を皮膚の一部として残しつつ膨隆部分のみを削る部分切除(例:ケロイドの厚みを減らし皮膚表面は温存する)を行うケースもあります。

外科的切除の成否は術後管理に大きく依存します。再発を防止するため、術後には以下のような対策を組み合わせます。

  • 術中・術後のステロイド局所注入: 瘢痕切除直後に、創縁部へトリアムシノロンを数十mg程度注射し、残存する瘢痕組織の増殖を抑えます。場合によっては術中に瘢痕床にステロイド軟膏を塗布したり、ステロイド含有フィルムで創部を被覆したりします。
  • 術後早期からの放射線治療: 下記の放射線療法の項で詳述しますが、ケロイド切除後できるだけ早期(できれば翌日〜3日以内)に低エネルギー放射線の照射を行うと、再発率が大幅に低減します。
  • 圧迫・固定療法: 耳たぶケロイドであれば術後に専用の圧迫ピアスやクリップで耳たぶを挟み圧迫し、胸部などでも弾性包帯やサポーターで患部を圧迫固定します。これにより創面の盛り上がりや張力を抑制します。
  • シリコーンゲルシート・外用剤: 抜糸後、創部が安定したらシリコーンシートを持続貼付して皮膚を保護します。同時にステロイド外用剤やテープも併用し、表面からの瘢痕抑制を継続します。
  • 定期的な追加注射: 術後経過中に瘢痕が再肥厚する兆候があれば、早期にステロイド注射5-FU注射を行い、瘢痕の増殖を芽のうちに抑えます。通常、術後1〜2ヶ月毎に数回の局所注射を計画しておき、経過に応じて調整します。

例えば、耳たぶのケロイドでは外科的切除+直後のステロイド注射+電子線照射(数回)+圧迫ピアス装着という多角的介入により、再発率を10%以下まで下げることが可能とされています。また、胸部ケロイドでも手術と直後の放射線治療を組み合わせた場合、切除単独に比べて有意に再発が減少します。しかし、何らかの理由で放射線治療が困難な場合(妊娠希望がある、若年者である等)には、代替としてイミキモド外用を術後創部に数ヶ月間塗布したケース報告や、ステロイド含有テープを長期貼付して再発を抑えた例もあります。外科的切除を行った場合でも、最低半年から1年以上は定期フォローし、再発の徴候がないか観察を続けます。再発が疑われたら早期に追加治療を行うなど、長期管理の姿勢が重要です。

放射線治療(術後照射など)

ケロイド治療において、放射線療法は特に術後の再発予防に有効な手段です。放射線には線維芽細胞の増殖を抑えコラーゲン産生を減少させる作用があり、ケロイド切除後の瘢痕床に照射することで、手術による刺激で活性化した瘢痕組織細胞を抑制し再発を防ぎます。放射線治療に用いられる線源は、皮膚表面の浅い層にエネルギーを集中できる軟X線(浅線量X線)や電子線(直線加速器から出る高速電子)です。施設によっては患部に密着させるタイプのストロンチウム^90などのβ線アプリケータを用いることもあります。典型的な照射量(線量)は総量で10〜20 Gy程度で、**術後できるだけ早期(24〜72時間以内)**に照射を開始し、数日に分割して照射します。例えば5 Gy×3回(総量15 Gy)を術後1週間以内に照射する方法や、あるいは1回あたり7〜8 Gyを術後当日・翌日の2日間照射する方法など、様々なプロトコルがあります。耳たぶなど局所であれば、密封小線源治療(イリジウム線源などを患部に一時留置)により高線量を狙った部位に集中的に照射することも可能です。

放射線治療は単独でもケロイドをある程度縮小させる効果がありますが、一般には手術と組み合わせて行う方が効果的で、国際的にも「手術+術後放射線」は難治性ケロイド治療のゴールドスタンダードの一つとみなされています。放射線のデメリットとして、照射野の皮膚に晩発性の変化を生じる可能性があることが挙げられます。具体的には、数ヶ月〜数年後に色素沈着毛の脱失、皮膚の菲薄化などが起こりえます。ごく稀には放射線照射部位からの皮膚悪性腫瘍発生のリスクも理論的にゼロではないため、特に若年者(一般に20歳未満)への照射は慎重に検討されます。しかし、得られる治療上のメリットがデメリットを上回る場合(成人の重度ケロイドなど)には、安全に配慮しつつ放射線治療が行われます。実際、耳たぶや肩のケロイドでは放射線治療により再発率を10〜20%程度まで下げることが可能との報告があります。日本を含むアジア圏や欧州ではケロイドに対する放射線療法は比較的受け入れられていますが、米国では上述の長期リスクへの懸念から慎重な姿勢がとられる傾向があります。総じて、効果とリスクを見極めながら個々の症例に合わせて適応することが重要です。

その他の治療(圧迫療法・シリコーン・内服薬・冷凍療法など)

上記以外にも、瘢痕・ケロイドの管理に有用な補助療法がいくつかあります。

  • 圧迫療法: 瘢痕部に持続的な圧力をかけることで血流を低下させ、線維芽細胞の活動性を抑制する伝統的治療法です。熱傷後の肥厚性瘢痕に対して、専用の伸縮性圧迫着(コンプレッションガーメント)を患部に装着し、1日20〜24時間、数ヶ月〜1年以上にわたって持続圧迫します。十分な圧力(一般に20〜30 mmHg程度)をかけ続ける必要があり患者負担は大きいものの、瘢痕の高さと発赤を軽減し柔軟性を高める効果が期待できます。特に大面積の熱傷瘢痕では標準的な予防・治療法として世界的に用いられています。また、耳たぶのケロイドに対しては、手術後にシリコン製のボタン状圧迫ピアスで挟み込む方法が広く取られています。耳用の圧迫クリップは患部に数十mmHgの圧をかけられる特殊な装置で、術後6ヶ月〜1年程度装着を続けることでケロイドの再発防止に大きく寄与します。
  • シリコーンゲルシート貼付: シリコーン製の柔らかいシートを患部に貼付する物理療法で、瘢痕治療・予防の基本となる手段です。術後創が上皮化した直後から使用でき、瘢痕の大きさに合わせてシートを裁断し患部に密着させます。装着時間は少なくとも1日12時間以上、可能であれば24時間貼付し続け(入浴時のみ一時除去し洗浄)、これを数ヶ月〜1年程度続けます。シリコーンシートは瘢痕部の保湿密封効果により表皮の角質層水分量を増やし、皮膚バリア機能を改善します。また、シリコーン特有の帯電による微弱電位が皮膚表面に生じ、これが線維芽細胞の過剰な増殖を抑制するとの仮説もあります。その結果、瘢痕の隆起や発赤が和らぎ、瘢痕の成熟(軟化・平坦化)が促進されます。シリコーンゲルシートは非侵襲的かつ副作用がほとんどないため、小児から成人まで安全に使用でき、多くのガイドラインで瘢痕予防・治療の第一選択肢として推奨されています。
  • 凍結療法(冷凍凝固術): 液体窒素による瘢痕組織の凍結・融解を繰り返し行い、瘢痕を破壊する治療法です。綿棒法やスプレー法で瘢痕表面を-196℃の液体窒素で10〜30秒程度冷却し、組織が自然解凍するのを待ちます。これを1〜2ヶ月に1回の頻度で数回繰り返すと、瘢痕組織の部分的壊死と脱落、再構築が生じ、瘢痕が徐々に扁平化します。特に小さな肥厚性瘢痕や、表在性のケロイド(例:耳たぶの小ケロイド)には比較的簡便で有効な方法です。ただし、単独では再発しやすいため、ステロイド注射と併用することが多いです。例えば、1ヶ月目に冷凍凝固を行い、翌月に同部位へステロイド注射を行うといった交互の併用により、相乗効果で瘢痕の縮小が促進されます(Cryo+ステロイド療法)。凍結療法の副作用としては、施術部位の色素脱失(特に色素沈着が濃い皮膚で顕著)があり得ます。また繰り返しの凍結により表皮剥離や水疱を生じることがありますが、通常は数週間で治癒します。
  • 内服療法: 日本では瘢痕・ケロイド治療薬としてトラニラスト(Tranilast、商品名リザベン®)が承認されています。トラニラストは抗アレルギー薬ですが、肥満細胞からのヒスタミンなどの遊離抑制作用や、TGF-β1産生抑制作用、線維芽細胞の増殖抑制作用を持ち、瘢痕の赤み・痒み・硬さを軽減する効果が報告されています。通常1日300 mg(100 mg錠を1日3回)を最低3〜6ヶ月内服継続します。単独で瘢痕が消失するほどの効果は期待できませんが、他の治療と併用することで瘢痕の症状緩和や成熟促進に寄与します。副作用は少ないものの、まれに肝機能障害や間質性肺炎が報告されているため、長期投与時は定期的な肝機能チェックが推奨されます。トラニラスト以外に明確な効果が証明された内服薬はありませんが、ビタミンEやビタミンCの補給、漢方薬の併用(例:五苓散や柴苓湯による炎症抑制)などが試みられる場合もあります。これらの効果は症例報告レベルであり、標準治療としての位置付けは確立していません。
  • その他の理学療法: 手術創閉鎖後に創部にテーピング固定(紙テープなどで傷口を覆い、皮膚のずれや外力から保護する方法)を数週間〜数ヶ月継続すると、創縁の張力が軽減され肥厚性瘢痕の予防に有用です。また、瘢痕部のマッサージ(手指で圧迫しながらほぐす)や超音波治療(超音波による微細振動で組織を軟化させる)が瘢痕の柔軟性向上に役立つとされ、リハビリテーションの一環として行われることがあります。これらは明確なエビデンスに乏しいものの、圧迫療法や外用療法と併用して取り入れられることがあります。さらに、創傷治癒初期においては積極的な湿潤療法(創を乾かさず適切な被覆材で保護する手法)を行うことで、瘢痕形成を最小限に抑える工夫もなされています。

以上のように、瘢痕・ケロイド治療では保存的療法(外用・内服・圧迫・レーザーなど)と介入療法(注射・手術・放射線など)を患者の状態に応じて組み合わせ、総合的にマネジメントしていくことが大切です。

5. 予防法

肥厚性瘢痕・ケロイドは予防が非常に重要です。一旦生じてしまった病的瘢痕を完全に治すことは難しいため、初めから瘢痕を過剰にさせない工夫が求められます。特に外科手術を行う医師や患者自身も、術前・術後のケアによって瘢痕のリスクを下げる努力をすることが推奨されます。以下に主な予防策をまとめます。

  • 適切な創閉鎖と創管理: 予防の第一歩は、傷をできるだけきれいに早く治すことです。手術の際には、可能な限り皮膚の伸展方向(ランゲル線)に沿った切開を選ぶことで、術後に傷が引っ張られる力を軽減できます。深部組織は解剖学的無張力位で丁寧に縫合し、皮膚表面も細かいナイロン糸や真皮縫合でしっかりと縫い合わせ、創縁の張力を最小限に抑えます。術後はできるだけ早期に上皮化を促進し、感染や異物残留を防ぐことが基本です。感染や炎症が長引くと肥厚性瘢痕への移行リスクが上がるため、適切な抗生剤投与やドレナージで創部を清潔に保ちます。また、創部に血腫が溜まると異物反応で瘢痕形成が助長されるため、ドレーン留置や圧迫包帯で血腫予防を図ります。手術創では抜糸直後から紙テープ(スキンテープ)で傷を保護・固定することが有用です。テープは傷を安定させて皮膚のずれを防ぎ、日常生活でかかる微小な張力から傷を守ります。これにより、瘢痕が広がったり盛り上がったりするのを防ぐ効果が期待できます。傷が完全に治った後も、早期からシリコーンゲルシートを貼付したり、保湿剤を塗布したりして皮膚を柔軟に保ち、角質の乾燥や刺激から新生瘢痕を守ります。
  • 早期治療介入: 術後経過で瘢痕が赤く盛り上がってくる兆候を認めたら、早期に治療介入することが重要です。具体的には、術後1〜2ヶ月目の段階で傷が必要以上に赤く硬くなってきた場合、ステロイド外用剤ステロイド局所注射を開始します。場合によってはパルス染料レーザーを照射して炎症と血管新生を抑えることも有効です。肥厚化の初期段階でこれらの処置を行うことで、重度の肥厚性瘢痕やケロイドへの進行を水際で防げる可能性があります。ケロイド体質とわかっている患者では、術後早期から予防的にステロイド外用・テープを使用し、経過観察中も定期的に診察して瘢痕の状態をチェックします。瘢痕が軟らかく落ち着いてくるまで、数ヶ月〜1年程度はケアを継続します。
  • 圧迫と固定の継続: 前述の圧迫療法やシリコーン療法は予防目的でも重要です。特に熱傷患者では、創傷治癒後すぐにオーダーメイドの弾性着衣を作製し、圧迫療法を開始します。術後の瘢痕についても、可能な部位では弾性包帯やサポーターで患部を軽く圧迫固定すると良いでしょう。耳のピアス孔がケロイド化しやすい人では、ピアス処置後早期から耳たぶを挟むような圧迫を加えることでケロイド形成を抑制できるとの報告もあります。これらの物理的予防策は根気が要りますが、特にリスクの高い患者では積極的に導入します。
  • 予防的内服・注射: 日本では、ケロイド既往のある患者が手術を受ける場合、術後のトラニラスト内服を予防的に行うことがあります。数ヶ月間の継続投与により、術後瘢痕の炎症反応を抑え肥厚を軽減する狙いです。また、手術終了時にトリアムシノロンを創縁に少量注射しておく方法も一部で行われています。ただし、これらの薬物予防は追加的な対策であり、まずは創の扱い方や物理的予防策が基本となります。
  • 患者教育と生活指導: 瘢痕・ケロイドの予防には、患者自身がリスクを理解し注意することも大切です。ケロイド体質の患者には、不必要なピアスや刺青・美容整形などはできるだけ避けるよう説明します。やむを得ず手術が必要な場合も、事前に主治医へケロイド体質であることを伝え、予防策を講じてもらうよう指導します。ニキビ痕がケロイド化しやすい人では、普段からニキビを悪化させないよう早めに皮膚科治療を受けることや、炎症後の色素沈着を防ぐUVケアなども重要です。また、新たな外傷が生じた場合には早めに適切な処置を受けるよう促します。さらに、瘢痕部位の日焼けは色素沈着や炎症を助長するため、術後は瘢痕部に日焼け止めを塗る、衣服で覆うなどして紫外線から保護するよう指導します。

以上のように、術前・術中・術後を通じた総合的な予防策により、肥厚性瘢痕・ケロイドの発生リスクを大きく減らすことが期待できます。特にケロイド体質の患者では「予防に勝る治療なし」であり、小さな工夫の積み重ねが長期的な瘢痕の安定につながります。

6. 国内と海外のガイドライン・エビデンスの比較

瘢痕・ケロイド治療に関しては、各国の学会からガイドラインやコンセンサスが発表されています。日本皮膚科学会も「ケロイド・肥厚性瘢痕の診療ガイドライン」を公表しており、そこでは予防策としてシリコーン外用圧迫療法の有用性が強調されています。治療面では、まずステロイド局所注射を第一選択肢として推奨し(エビデンス水準の高い治療法)、効果不十分な場合のセカンドラインとして5-FU局所注射外科的切除+術後放射線照射各種レーザー治療の併用などが挙げられています。また、日本ではトラニラスト内服についても言及されており、瘢痕成熟促進や症状緩和の補助療法として位置づけられています。一方、米国皮膚科学会(AAD)からは瘢痕・ケロイドに特化した単独ガイドラインは公表されていませんが、米国の皮膚科・形成外科領域の総説や専門家の推奨内容は、日本の方針と概ね共通しています。例えば、シリコーンゲルシートおよび圧迫療法は国際的に瘢痕予防の標準とされ、ステロイドの皮内注射も最も一般的な治療法として米国でも行われています。さらに、5-FU+ステロイド注射の有効性や、PDLレーザーフラクショナルレーザーによる瘢痕改善効果も米国の臨床研究で報告され受け入れられつつあります。ただし、放射線治療に関しては米国では将来的な発癌リスクへの慎重姿勢が強く、臨床現場で実施される頻度は低いです。特に若年者や女性の胸部ケロイドなどではまず他の保存的治療を試み、放射線は重症例・難治例に限って検討される傾向があります。

欧州においても基本的な治療アプローチは共通で、予防にはシリコーン外用と圧迫を重視し、治療ではステロイド局所注射を第一選択とする点で一致しています。例えばイギリスのNHSやドイツの形成外科学会の資料でも、ケロイド・肥厚性瘢痕の初期治療はステロイド注射とシリコーン、必要に応じて圧迫療法とされています。手術+術後放射線療法については、欧州では日本同様に効果的な治療戦略と認識されており、特に耳たぶのケロイドなどでは術後に浅線量X線治療を行うプロトコールが確立している施設もあります。また、欧州のいくつかのガイドラインやレビューでは、5-FUやブレオマイシンの局所注射レーザー治療インターフェロン療法などについて、それぞれのエビデンス水準が評価されています。総じて、ステロイド注射とシリコーン療法については比較的質の高いエビデンスがあり「推奨度A〜B」とされますが、それ以外の治療法(5-FU、レーザー、放射線、手術単独など)はランダム化試験の不足もあり「推奨度B〜C」にとどまることが多いようです。ただし、瘢痕・ケロイド治療は個々の症例差が大きく、治療法ごとの単独エビデンスだけでは測れない面があります。このため、国際的なコンセンサスとして「複数の治療法を組み合わせて治療するのが望ましい」「患者ごとにオーダーメイドの治療計画を立てるべき」といった指針が共有されています。日本国内でも海外でも、ガイドラインはあくまで基本的枠組みを示すものであり、実臨床では患者の状態と希望に即した柔軟な対応が推奨されています。

7. 最新研究・臨床トライアル

瘢痕・ケロイドの治療開発は難治性疾患であるだけに世界中で活発に行われており、再生医療分子標的治療生物学的製剤など最先端の手法を取り入れた研究が進んでいます。ここでは、最近注目されている研究や臨床試験の動向を紹介します。

病態解明と基礎研究: 近年の分子生物学的研究により、ケロイド・肥厚性瘢痕の形成に関与する様々なサイトカインやシグナル経路が明らかになってきました。例えば、TGF-β/Smad経路は線維化の主軸となる経路であり、ケロイドではTGF-β1や2の発現亢進とSmad蛋白の活性化が顕著です。この経路を調節することで瘢痕形成を抑えられないか、多くの研究がなされています。また、炎症に関与するIL-6IL-17IL-33といったサイトカインもケロイド組織で高発現が報告されており、免疫学的観点からケロイドを慢性炎症状態と捉えて治療介入するアプローチも注目されています。遺伝学的には、ケロイド素因に関連する特定の遺伝子変異や多型がいくつか報告されました。例として、NEDD4遺伝子やTSLP受容体遺伝子の多型が日本人ケロイド患者で有意に多かったとの研究があります。さらに、マイクロRNA(線維化抑制に働くmiR-29など)の発現異常や、ケロイド組織でのエピジェネティックな修飾(DNAメチル化やヒストン修飾パターン)の異常も明らかになりつつあり、それらを是正することが新規治療標的となり得ます。

新規治療薬・分子標的治療: 基礎研究の成果を踏まえ、分子レベルで瘢痕形成を抑制する薬剤の開発が進んでいます。例えば、線維化の主要因子であるTGF-βに対する中和抗体(抗TGF-βモノクローナル抗体)や、TGF-βの下流で働くCTGF(結合組織成長因子)を阻害する抗体製剤は、全身性強皮症などの線維化疾患で臨床試験が行われており、ケロイドへの応用も期待されています。また、チロシンキナーゼ阻害薬の一部(例:イマチニブやソラフェニブ)は線維芽細胞増殖因子受容体や血小板由来増殖因子受容体のシグナルを遮断する作用があり、培養細胞レベルや動物モデルでケロイド様病変の縮小効果が報告されています。炎症性サイトカインを標的とした生物学的製剤も、瘢痕治療への転用が模索されています。例えば、リウマチ治療薬である抗IL-6受容体抗体(トシリズマブ)を難治性ケロイド患者に投与し瘢痕の軟化が得られたケース報告や、アトピー性皮膚炎治療薬の抗IL-4/IL-13受容体抗体(デュピルマブ)がケロイドの炎症・痒みに効果を示したとの報告もあります。ただし、これらは少数例の経過観察に基づく報告段階であり、大規模臨床試験による有効性確認が今後の課題です。また、**VEGF(血管内皮増殖因子)**を抑制する抗VEGF抗体(ベバシズマブ)の局所注射が瘢痕の血管増生と肥厚を抑えたとの初期研究もあり、瘢痕組織の血流制御も一つのターゲットとなっています。分子標的以外では、ケロイド組織に豊富に存在する架橋構造を持つコラーゲンに注目し、コラゲナーゼ酵素(コラーゲン分解酵素)を局所注射して瘢痕を柔らかくする試みも検討されています(手のデュピュイトラン拘縮治療薬のケロイド適応検討など)。

再生医療・細胞療法: 再生医療分野では、「傷を治しても瘢痕を残さない」ことを目指した研究が行われています。胎児が子宮内で傷を負っても瘢痕を形成しないことが知られており、そのメカニズム解明がヒントとなっています。例えば、創傷治癒初期における炎症反応を制御し、皮膚付属器(毛包や汗腺)の再生を促すことで、正常に近い組織再生を図る試みがあります。具体的には、創部に間葉系幹細胞(骨髄由来幹細胞や脂肪由来幹細胞)を移植したり、幹細胞から分泌されるエクソソーム(微小な細胞外小胞)を注入したりすることで、線維芽細胞の暴走を抑制し正常な組織修復を誘導するアプローチです。動物モデルでは、幹細胞移植により瘢痕が著しく軽減されたとの報告もあり、今後の臨床応用が期待されています。また、創傷部に適切な足場(スキャフォールド)を提供する人工真皮やコラーゲンスポンジなどの組織工学的製品を用いることで、瘢痕を抑えつつ真皮再生を促す手法も研究されています(例:人工真皮マトリックスを植込んだ創傷では瘢痕が軽減するとの報告)。さらに一部では、線維芽細胞の遺伝子治療も模索されています。瘢痕部位の線維芽細胞に対し、コラーゲン産生を抑制する遺伝子(例えばコラーゲン分解酵素や抗TGF-β因子)をウイルスベクターで導入する研究や、CRISPR-Cas9システムを用いて線維芽細胞のプロファイルを書き換える試みも基礎段階では行われています。

最新の臨床トライアル: 現在進行中または最近完了した臨床試験の中から、注目すべきものをいくつか挙げます。ひとつは、ラパマイシン(シロリムス)外用剤の試験です。シロリムスはmTOR経路を阻害する免疫抑制剤で、線維芽細胞の増殖も抑える作用があります。海外の小規模試験では、ケロイド切除後の創部にシロリムス軟膏を数ヶ月塗布することで再発率が低下したとの結果が報告されました。また、ボツリヌストキシンを用いた臨床研究も進んでいます。手術直後の傷跡周囲にボツリヌストキシンを注射し、半年〜1年後の瘢痕の経過を観察する試験では、プラセボと比較して瘢痕の幅や盛り上がりが有意に軽減したという結果が得られています。その他、低分子医薬品の外用剤では、抗線維化作用を持つ**ピルフェニドン(抗線維化薬、経口薬として特発性肺線維症に使用)**の外用フォームをケロイドに適用する第II相試験が実施されています。結果次第では新たな外用薬として承認される可能性があります。物理療法の新展開としては、**衝撃波療法(圧力波治療)**が挙げられます。体外衝撃波は整形外科領域で腱炎治療などに使われますが、皮膚の瘢痕に照射するとコラーゲン線維の再配置や血流改善をもたらし、瘢痕柔軟性が増すとの報告があります。現在、欧州で肥厚性瘢痕患者に対する低エネルギー衝撃波治療の治験が行われています。

このように、瘢痕・ケロイド治療の研究は多方面から進められており、将来的にはこれらの新規治療法が実用化されることで、より効果的で安全な治療が提供できると期待されています。ただし、新しい治療法の多くは現在研究段階か試験段階であり、十分な有効性・安全性エビデンスの蓄積には時間を要します。美容皮膚科医としては、最新の知見を把握しつつ、現時点で確立された治療(ステロイド注射やシリコーン療法など)を的確に組み合わせて現実的な治療戦略を立てることが肝要です。

8. 症例解説と治療戦略の組み立て方

最後に、具体的な症例を通じて瘢痕・ケロイド治療戦略の考え方を示します。実臨床では、瘢痕の種類(肥厚性瘢痕かケロイドか)、部位と大きさ、症状の程度、患者さんの希望や背景(年齢・既往歴など)を総合的に考慮して、最適な治療の組み合わせと順序を決定します。以下に代表的な症例を挙げ、それぞれの治療方針を解説します。

症例1: 耳たぶピアスによるケロイド
25歳女性。高校生の時に両耳たぶにピアスを開け、その後徐々に右耳たぶが腫れてきた。来院時、右耳たぶに径2cm大のケロイドを認め、硬く盛り上がり軽度の痒みを伴っている。他院で約1年間にわたり月1回のステロイド局所注射を受けたが十分な縮小は得られず、治療中断後に逆に増大傾向となったため受診した。

治療戦略: 耳たぶの限局したケロイドは外科的切除術後の圧迫療法による管理が一般的です。本症例でもまず手術によるケロイド摘出を行う方針としました。局所麻酔下にケロイドを基部から切除し、余分な瘢痕組織をすべて除去した上で正常耳垂の形に縫合再建しました。術中および術直後に、創縁および周囲皮下にトリアムシノロン約20mgを分散注入し、初期の線維芽細胞増殖を抑制しました。術後1週間で抜糸し、創部が安定したところでシリコン製の圧迫ピアスを装着開始しました。昼夜問わず装着し続け、1日1回の皮膚清潔を除いて常時圧迫するよう指導しました。圧迫療法は術後6ヶ月間継続し、その間は月1回の経過観察で創部の状態をチェックしました。また補助的に、患者の希望も踏まえてトラニラスト内服(1日300mg)を3ヶ月間併用しました。術後経過は良好で、圧迫開始から3ヶ月後には瘢痕は扁平で柔らかくなり、痒みも消失しました。6ヶ月後に圧迫ピアスを中止した後も再発徴候はみられず、最終的に耳たぶの形態はほぼ正常に近い状態を維持しています。
解説: 耳たぶのケロイドは、局所の血流が乏しく圧迫もしやすい部位であるため、適切な手術と術後管理により高い確率で制御可能です。この症例では外科的切除+ステロイド局注+圧迫療法+内服という多角的アプローチを行い、再発なく治癒しました。耳たぶでは放射線治療を併用することもありますが、本例では圧迫とステロイドで十分管理できています。耳のケロイドは再発すると前回より大きくなる傾向があるため、初回治療で徹底した再発予防を講じることが重要です。

症例2: 胸部正中の難治性ケロイド
30歳男性。胸骨部正中に長さ10cm・幅3cm大の硬いケロイドがあり、赤黒く盛り上がっている。もともと思春期頃から胸に重度のニキビが多数でき、ニキビ痕が徐々に肥厚増大して現在のケロイドに至ったという。瘢痕は圧痛と痒みが強く、就眠困難になることもある。他院皮膚科で計半年間にわたり月1回のステロイド局所注射を試みたが大きな改善なく当科紹介となった。患者はアトピー素因があり、掻破による増悪もみられる。

治療戦略: 胸部正中の大型ケロイドは非常に治療困難な部位です。皮膚の張力が強く常に動きが加わる部位であり、また心肺への近接から放射線治療にも慎重さが求められるため、まずは保存的治療の強化を図ります。具体的には、前医ですでに行われていたステロイド単独注射に、5-FU併用注射を組み合わせ効果増強を狙いました。トリアムシノロン10mg/mLと5-FU50mg/mLを1:1で混合した注射液を作製し、2週間おきに計6回、病変全体にまんべんなく少量ずつ真皮内注射しました(1回あたり総5-FU量50mg・ステロイド5mg相当)。注射と並行して、患者には患部へのシリコーンジェルシート貼付を昼夜継続してもらい、入浴時のみシートを外して洗浄後すぐ新しいシートを貼るよう指導しました。また、瘢痕の赤みと症状を軽減する目的で、注射治療の合間(第2回・第4回施行時)にパルス染料レーザー(585nm)をケロイド表面に照射しました。PDLは7 J/cm^2で全体に2パス照射し、その後直ちにステロイド含有テープを貼付してクーリングしました。併せて、トラニラスト内服(1日300mg)も6ヶ月間続け、全身的に線維化反応を抑える試みを行いました。
3ヶ月間の集中的治療の結果、ケロイドの厚みは治療前比で約30%減少し、色調は暗赤色から淡い褐色へと改善しました。痒みと痛みはVAS(主観的な10段階評価)で治療前を10とすると4〜5程度まで軽減し、夜も眠れるようになりました。患者自身は症状軽減に満足しており、外科的切除は希望しなかったため、以後は経過観察と維持療法
に移行しました。維持療法として、シリコーンシートと必要時のステロイド外用を継続し、経過中に部分的な再肥厚が見られた際には追加でステロイド+5-FU注射を行いました。治療開始から1年後、ケロイドは完全には消失していないものの扁平で柔らかく保たれており、自覚症状も最小限となっています。
解説: 広範な胸部ケロイドでは、焦点を絞った症状コントロールと部分的縮小が現実的な目標となる場合があります。本症例では、非手術的治療の組み合わせ(ステロイド+5-FU注射、シリコーン、レーザー、内服)により、手術せずとも患者の満足する症状軽減と外観改善を得ることができました。もちろん、なお瘢痕組織自体は残存していますので、将来的に患者が希望すれば手術+放射線治療を検討する余地はあります。しかしその場合も再発リスクは高いため、今後も保存療法で維持できる限りは侵襲を避ける方針です。このケースは、瘢痕治療では必ずしも「完全除去」だけがゴールではなく、患者のQOLを損ねない形で如何に瘢痕をおとなしくさせるかが重要であることを示しています。治療経過中に適宜方針を見直し、患者と相談しながら柔軟に戦略を調整することが大切です。

症例3: 熱傷後頸部の瘢痕拘縮
45歳男性。20代のときに熱湯による深達性熱傷(III度熱傷)を顔面〜前頸部に負った。救命後、植皮術などで一旦創は治癒したが、頸部全体に肥厚した瘢痕が生じた。特に顎下から前頸部にかけて瘢痕拘縮帯が形成され、顎を引いた姿勢から動かせず、頸部の伸展・回旋が著しく制限された。美容面でも、常にうつむいた状態になるため見た目の印象が損なわれていた。患者は日常生活の不便から瘢痕拘縮の手術的治療を希望して受診した。

治療戦略: 熱傷後瘢痕拘縮は、まず外科的に拘縮を解除しなければ機能改善は難しいです。本症例では、頸部の瘢痕拘縮帯に対し瘢痕松解術を施行しました。広範囲の肥厚性瘢痕を紡錘形切除するのではなく、複数のZ形成術を連続して入れる手法をとりました。拘縮帯に沿ってジグザグの切開を入れ、瘢痕を小さな菱形ごとに分割再配置することで、縫合後に皮膚が縦方向へ伸展できる余地を作りました。一部、皮膚欠損が生じる箇所には部分植皮も併用し、無理な張力がかからないよう配慮しました。手術直後から専門の理学療法士によるリハビリテーションを開始し、頸部の他動的ストレッチと、患者自身による積極的な頸部可動域訓練を行いました。術後2週間で創は概ね上皮化したため、そこからシリコーンゲルシート貼付と頸部伸展位での弾性ストラップ装着を併用し、瘢痕の再拘縮予防を図りました。術後3ヶ月の時点で、顎を引く角度は大幅に改善し、ほぼ正面を向けるまで可動域が拡大しました。瘢痕は再び肥厚傾向を示した部分もありましたが、以前のような板状の硬い拘縮帯には戻っていません。美容面では瘢痕線はZ字状に残りましたが、首が動くようになったことで見た目の印象も改善しました。残存する肥厚性瘢痕部分に対しては、術後6ヶ月以降にフラクショナルCO2レーザーを3回施行し、表面の凹凸と硬さのさらなる軽減を図りました。
解説: この症例では、まず外科手術で機能回復を最優先し、次に残る瘢痕への美容的アプローチを追加するという段階的戦略を取りました。瘢痕拘縮に対しては手術以外に根本的な解決策がないため、早期に外科的介入を決断することが重要です。ただし手術すればそれで終わりではなく、術後のリハビリや予防処置が結果を左右します。Z形成術により皮膚の可動域は確保されましたが、新たな瘢痕線が複数生じたため、それらが再び拘縮しないよう術後管理を徹底しました。瘢痕拘縮治療では、形成外科医・皮膚科医・リハビリ科が連携し、機能・審美の双方の観点から最善の結果を目指すことが理想です。本例では最終的にレーザー治療も取り入れ、瘢痕の質感改善まで含めて総合的に対処しました。


以上の症例からも分かるように、瘢痕・ケロイドの治療は一人ひとり異なる戦略が必要です。重要なことは、まず瘢痕のタイプ(肥厚性かケロイドか、拘縮を伴うか否か)と重症度を見極め、治療のゴールを設定することです。完全に消失させることが難しい場合でも、症状をなくし見た目を目立たなくすることを目標にできます。その上で利用可能な治療オプションを組み合わせ、患者の負担やライフスタイルも考慮してプランを立てます。治療経過中に変化があれば柔軟に方針を修正し、必要なら次のステップ(例:保存療法から手術への切り替え、術後の追加照射など)に移行します。瘢痕・ケロイド治療は短期決戦ではなく、長期的な管理という視点が大切です。患者との信頼関係を築き、二人三脚で根気強く取り組むことが、最終的に患者のQOL向上につながるでしょう。

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