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D36.脱毛症と育毛治療の詳細ガイド

脱毛症診療教科書(日本の診療ガイドライン準拠)

脱毛症(髪の毛の脱毛)は原因や病態により様々なタイプに分類されます。本教科書では、日本の診療ガイドラインに基づき、主要な脱毛症をカテゴリー別(男性型脱毛症、円形脱毛症、瘢痕性脱毛症、びまん性脱毛症など)に解説します。それぞれのタイプについて、疫学・病因・病態生理、診断と臨床的特徴、検査・鑑別診断、治療(保険診療と自由診療の別を含む)、各治療法のエビデンスレベル(推奨度)や副作用・安全性、薬物療法(内服・外用)、外科的療法(植毛など)、再生医療的アプローチ(特にPRP療法)まで幅広く取り上げます。また、治療法選択の臨床判断材料や患者へのカウンセリング時の留意点についても言及します。

男性型脱毛症(AGA:Androgenetic Alopecia)

疫学・病因・病態生理

男性型脱毛症(AGA)は思春期以降の男性に発症し、前頭部や頭頂部を中心に徐々に進行する脱毛症ですdermatol.or.jp。日本人男性では20代で約10%、30代で20%、40代で30%、50代以降で40数%が発症すると報告されており、年齢とともに頻度が増加しますdermatol.or.jp。遺伝的素因と男性ホルモン(特にジヒドロテストステロン:DHT)の関与が主な原因です。感受性のある毛包ではテストステロンが5α還元酵素によりDHTに変換され、DHTが毛包をミニチュア化(軟毛化)させ毛周期の成長期を短縮することで脱毛が進行します。女性にも男性型脱毛症に相当する脱毛がみられることがあり、これは女性型脱毛症(FAGA)と呼ばれます。女性では頭頂部全体の毛が比較的びまん性に細くなるパターンをとり、発症も更年期以降に多い点で男性と異なりますdermatol.or.jp。女性型脱毛症では男性ホルモン以外の要因も関与するとされ、病態は完全には解明されていません。

診断と臨床的特徴

男性型脱毛症は臨床所見から診断されます。典型例では前額の生え際や頭頂部の毛髪が徐々に細く短くなり、密度が減少します。進行すると前頭部から後退しM字型になる、頭頂部が薄毛になる、あるいはその両者が進行していく特徴的なパターンを示します。髪以外の皮膚症状はなく、自覚症状もほとんどありません。女性型脱毛症では頭頂部全域の髪がびまん性に細く薄くなり、前髪の生え際は保たれる(男性のように後退はしない)ことが多いですdermatol.or.jp。診断は視診でほぼ可能ですが、他の脱毛症との鑑別のため毛髪の径の不均一化(ミニチュア化毛の混在)をダーモスコピー(毛髪鏡)で確認すると診断を支持します。若年女性の場合はびまん性脱毛の原因として他疾患(甲状腺機能異常、貧血など)も鑑別するため血液検査を行うこともあります。臨床分類には男性ではHamilton-Norwood分類、女性ではLudwig分類などが用いられます。基本的にAGAは臨床診断ですが、必要に応じて皮膚生検を行えば毛包のミニチュア化や終毛から軟毛への移行など特徴的所見が得られます。

検査・画像診断・鑑別診断

AGAの診断は臨床所見でつくことがほとんどですが、補助的に以下の検査が活用されます。ダーモスコピー(毛髪径のばらつき、黄白色の毛孔周囲の変化など)はAGAに特徴的な所見を示します。また、毛を軽く引っ張る牽引試験(pull test)ではAGAでは休止期毛の抜け毛はあまり増えません。鑑別診断として円形脱毛症(境界明瞭な円形の脱毛斑、突然の発症)、びまん性脱毛症(後述の休止期脱毛、急激に全頭的に毛量減少)などが挙げられます。女性では分娩後や急激なダイエット後の一時的な脱毛(休止期脱毛)や甲状腺機能低下症による脱毛との鑑別が重要ですdermatol.or.jp。必要に応じて血液検査で甲状腺機能、鉄欠乏などを確認します。AGAでは画像診断として特別なものは不要ですが、頭部の写真撮影を行い治療前後の毛量変化を比較することが経過観察に有用です。

治療(ガイドライン推奨治療とエビデンス)

男性型脱毛症の治療は科学的根拠に基づく有効な薬物療法が確立されています。一方で、民間療法も多く患者が混乱しがちな分野でもあるため、日本皮膚科学会のガイドラインでは各治療法にエビデンスレベルと推奨度を定め標準的治療を提示していますdermatol.or.jpdermatol.or.jp。男性型脱毛症の治療目標は進行を抑制し、可能な範囲で毛髪の再生・増加を図ることです。以下に主要な治療法を紹介します(※男性型は保険適用外の自由診療となる点に注意)。推奨度はA(行うよう強く勧める)・B(行うよう勧める)・C1(行ってもよい)・C2(勧められない)・D(行わないよう勧められる)の順で、ガイドラインで設定されたものですkato-aga-clinic.comkato-aga-clinic.com

  • フィナステリド内服(5α還元酵素II型阻害薬): 男性型脱毛症治療の第一選択薬です。男性ホルモンのDHT産生を抑制し、毛髪のミニチュア化を防ぎます。日本では1mg錠が男性型脱毛症に対して承認されており、多くの臨床試験で有効性が確認されています。推奨度A(男性には強く推奨)、女性には禁忌とされていますdermatol.or.jp。女性(特に妊娠可能年齢)では胎児への悪影響の恐れがあるため禁忌であり、ガイドライン上も女性型脱毛症には行うべきでない(推奨度D)と明記されていますdermatol.or.jp。フィナステリドの有効率は日本人男性で約6割以上と報告されており、毛髪の太さや密度の改善が期待できますdermatol.or.jp。副作用は比較的少なく、安全性の高い薬剤です。主要な副作用として性欲減退や勃起機能低下が報告されていますが、その頻度は低く(国内臨床試験ではプラセボ群と差がないとの報告dermatol.or.jp)、多くの場合中止すれば改善します。また、ごく稀に肝機能障害や抑うつ症状が報告されていますdermatol.or.jp。投与中は前立腺特異抗原(PSA)値が低下するため、中高年では前立腺癌検診時に測定値を2倍換算する必要がありますdermatol.or.jp。フィナステリドは保険適用外(自由診療)であり、患者には継続治療の費用負担や長期服用の必要性(効果維持には継続服用が必要、中止すれば再び進行する)を十分説明し、治療への動機付けと服薬アドヒアランス向上を図ることが重要です。
  • デュタステリド内服(5α還元酵素I型・II型阻害薬): フィナステリドと同様の作用機序ですが、I型にも作用するためより強力にDHTを抑制します。日本ではザガーロ®カプセルとして0.5mgが男性型脱毛症に承認されています。臨床研究でフィナステリドより高い発毛効果を示した報告もありhiro-clinic.or.jp、**推奨度A(男性に強く推奨)**とされていますdermatol.or.jp。女性への投与はフィナステリド以上に禁忌(妊婦への接触も避ける必要がある)であり、女性型脱毛症には推奨度D(行うべきでない)ですdermatol.or.jp。副作用はフィナステリドと同様に性機能低下などがありますが、やや頻度が高い傾向があり、国際試験ではリビドー減退3.3%、勃起不全5.4%などが報告されていますdermatol.or.jp。投与中はフィナステリド同様にPSA値に注意が必要ですdermatol.or.jp。効果が高い分、副作用リスクと服用中止後も血中に長期間残留する(半減期が長い)点を説明し、患者の同意を得て使用します。こちらも保険適用外です。
  • ミノキシジル外用(発毛促進剤): 毛乳頭細胞を刺激し、血流を増やして発毛を促すと考えられる外用薬です。男性型脱毛症には5%ミノキシジル液(市販名リアップX5プラスローションなど)、女性型脱毛症には1%ミノキシジル液(リアップリジェンヌなど)が一般用医薬品(OTC)として市販されています。ガイドラインでも男女ともに第一選択の外用療法として推奨度A(強く勧められる)とされていますdermatol.or.jp。臨床試験で発毛効果が証明されており、毛髪の太さ・本数の増加が期待できますdermatol.or.jp。使い方は1日2回、脱毛部に塗布します。副作用として頭皮のかゆみ・かぶれ(接触皮膚炎)が比較的多く、まれに多毛(顔面の産毛の濃化)を生じることがあります。またごく少量が経皮吸収されるため低血圧やめまいが起こる可能性がありますが、通常の使用では重大な全身副作用はほとんどありません。ミノキシジル外用は市販薬であり患者自身が購入可能ですが、使用法の指導や副作用時の対応のため医師が関与することが望ましいです。女性では1%製剤が推奨されていますが、海外では5%フォーム製剤を女性に使用する例もあり、日本でも症例に応じて医師の判断で高濃度を用いることがあります(ただし高濃度では副作用増加に注意)。
  • 自毛植毛術(外科的植毛): 患者自身の後頭部などの毛髪をドナーとして採取し、薄毛部に移植する外科的治療です。後頭部の毛包はDHTの影響を受けにくいため、移植した毛はそのまま生着すれば永続的に成長します。植毛は確実に毛を増やす方法であり、男性型脱毛症に対して**推奨度B(行うよう勧められる)**とされていますdermatol.or.jp。女性型脱毛症でも施行可能ですが、びまん性に薄いため効果が出にくく、**推奨度C1(行ってもよい)**と位置付けられますdermatol.or.jp。植毛の利点は自分の毛が生えることで自然な見た目が得られることですが、**手術費用が高額(自由診療)であること、術後に一時的なショックロス(既存毛の一時的脱毛)や感染症リスク、ドナー部に瘢痕が残る可能性があることなどの注意点があります。また脱毛が進行中の場合、将来的に周囲がさらに薄くなると移植毛だけが島状に残る可能性があるため、進行予測を踏まえたデザインが重要です。患者には植毛のメリット・デメリット、費用、必要本数や将来の追加手術の可能性などを十分説明します。なお、人工毛植毛術(ナイロン等の人工毛を植える)は感染や異物反応のリスクが高く推奨度D(行うべきでない)**とされていますdermatol.or.jp
  • 低出力レーザー治療(LLLT): 赤色光レーザーやLEDを頭皮に照射し、毛母細胞や毛包周囲を刺激して発毛を促す療法です。家庭用のレーザー帽子・ヘアバンド型デバイスなどが市販されています。近年の研究で一定の有効性が示されており、ガイドラインでは推奨度B(行うよう勧める)とされましたdermatol.or.jp。臨床試験では毛髪密度の有意な増加報告もありますhiro-clinic.or.jp。副作用はほとんどなく(一部の患者で照射部の軽度の知覚異常や乾燥感程度dermatol.or.jp)、安全性が高いのも利点ですdermatol.or.jp。LLLTは保険適用外ですが、ミノキシジルや内服薬と併用して行うことで相乗効果が期待されています。ただし効果には個人差があり、高価な機器も多いため、患者には「一定のエビデンスはあるが劇的効果は稀」という現実的な見通しを説明します。
  • アデノシン外用: アデノシンは毛乳頭細胞を刺激し成長因子産生を促す作用があるとされ、市販の育毛トニック(医薬部外品)に配合されています。日本の研究で有効性が示されており、男性型には推奨度B、女性型にはC1(女性でも考慮してよい)と評価されていますdermatol.or.jp。副作用はほとんどありません。効果はマイルドですが安全性が高く、ミノキシジルに抵抗がある患者の代替や、他治療との併用補助として使用されます。
  • その他の外用剤: カルプロニウム塩化物(フロジン液®)は血管拡張作用のある外用剤で、頭皮の血行を良くする目的で処方されることがあります。男性・女性型脱毛症に対する明確なエビデンスは不足していますが、古くから使用実績があり推奨度C1(行ってもよい)とされていますdermatol.or.jp。主な副作用は刺激感や発赤ですが安全性は高く、日本では医師の処方により保険適用外の自由診療として入手できます(※本来カルプロニウムは円形脱毛症に適応がありますdermatol.or.jpが、AGAには保険適用外です)。その他、t-フラバノン(ポリフェノールの一種)、サイトプリン・ペンタデカン(成長促進ペプチド)などが育毛剤成分として使用され、ガイドラインではいずれも推奨度C1(根拠不十分だが使用は選択肢)とされていますdermatol.or.jpケトコナゾールシャンプー(抗真菌薬)も抗炎症作用等から発毛効果を期待する報告があり、推奨度C1ですdermatol.or.jp(※日本では育毛目的の適応は未承認dermatol.or.jp)。これら外用剤は単独では効果が限定的ですが、副作用が少ない点から併用療法の一部として考慮されますdermatol.or.jp
  • 内服ミノキシジル: 高血圧治療薬として開発されたミノキシジルを脱毛症治療目的で低用量内服する方法です。近年、一部の専門クリニックで自由診療として採用されていますが、**日本皮膚科学会ガイドラインでは推奨度D(行うべきでない)**とされていますdermatol.or.jp。これは国内外でAGAに対する正式な臨床試験が行われておらず安全性・有効性の確立に乏しいためです。内服ミノキシジルは外用以上に全身作用が強く、多毛(全身の毛が濃くなる)はほぼ必発で、その他心血管系の副作用(頻脈、むくみ、心不全など)が添付文書上で報告されていますdermatol.or.jp。実際には低用量(例えば1日5mg以下)での使用で重篤な副作用頻度は低いとの報告もありますがdermatol.or.jp安全性上の懸念からガイドラインでは否定的ですdermatol.or.jp。日本では未承認医薬品であり、処方には医師個人の判断と患者の十分な同意が必要です。また医薬品医療機器等法上、個人輸入での入手にもリスクが伴うことから注意喚起されていますdermatol.or.jp。患者には副作用リスクを含め丁寧に説明し、特に循環器疾患の既往がある場合は避けます。
  • かつら(ウィッグ): 医学的治療ではありませんが、見た目の改善策として重要です。ガイドラインでも**推奨度C1(行ってもよい)**とされ、他の治療で十分な効果が得られない場合やQOL改善のために積極的に利用してよいとしていますdermatol.or.jpdermatol.or.jp。かつらそのものに副作用はなくdermatol.or.jp、患者の精神的負担を軽減する有用な手段です。医師は必要に応じてかつら業者や補助制度(自治体による医療用ウィッグ助成等)があれば情報提供するとよいでしょう。

〔治療の選択と推奨度まとめ〕 男性型脱毛症(AGA)に対しては、科学的根拠に基づきフィナステリド内服とミノキシジル外用が第一選択です(いずれも推奨度A)dermatol.or.jpdermatol.or.jp。進行抑制には内服薬、発毛促進には外用薬の役割が大きく、両者の併用も行われます。DHT抑制が不十分な場合や効果増強目的でデュタステリド内服も強く推奨されますdermatol.or.jp。これら薬物療法で効果が不十分な場合や、即時的・積極的な増毛を希望する患者には自毛植毛術が選択肢となりますdermatol.or.jp。LLLTや各種育毛メソッドは補助的に併用検討できます(推奨度B~C1)dermatol.or.jpdermatol.or.jp。一方、効果根拠に乏しい治療(たとえば市販の育毛成分のみのトニック等)や、安全性に懸念がある治療(内服ミノキシジル等)はガイドライン上勧められませんdermatol.or.jp。治療選択にあたっては患者の年齢・脱毛の程度・ライフスタイル・希望を総合的に考慮します。例えば若年で軽度ならまず内服・外用で経過をみて、重度で早期改善希望なら植毛を提案、といった判断です。また治療開始前に、「現時点で完治させる治療法はなく、進行抑制と一定の改善が目標」であること、**「効果発現には数カ月以上を要し、継続治療が必要」**といった現実的な見通しを患者と共有します。特にAGA治療は自由診療で費用負担が大きいため、費用対効果や継続性についても話し合います。副作用についても正確に説明し、不安を軽減することが大切です(例:フィナステリドの性的副作用はごく一部で可逆的、ミノキシジル外用の局所副作用は対処可能 等)。治療中も定期的に経過写真で効果を確認し、患者のモチベーションを維持する工夫が有用です。

患者へのカウンセリング上の留意点

AGA患者は見た目の悩みから精神的ストレスを抱えることも多いため、共感的な態度で相談に乗ることが重要です。治療選択肢についてはメリットだけでなくデメリット(副作用や費用、必要な期間)も説明し、患者自身が納得して治療を選べるよう支援します。また、インターネットや広告で数多くの育毛法・サプリメントが宣伝されている現状を踏まえ、科学的根拠に基づく情報を提供して誤解を解消する役割も求められますdermatol.or.jp。例えば「○○を塗れば瞬時に生える」などの誇大広告に惑わされないよう助言し、公的ガイドラインの存在を教えることも有益です。さらに治療効果には個人差があるため、過度な期待を避けつつ希望を持てるバランスで説明するスキルも必要です。AGAは命に関わる疾患ではありませんが、患者のQOLに直結するため、心理面のケアも含めた包括的な診療が求められます。


円形脱毛症(AA:Alopecia Areata)

疫学・病因・病態生理

円形脱毛症(AA)は突然円形ないし楕円形の脱毛斑が生じる自己免疫性の脱毛症ですdermatol.or.jp。後天性の脱毛症の中で最も頻度が高く、皮膚科外来でもしばしば見られます。生涯有病率は諸外国で約1~2%と報告され、日本でも同程度と推測されますkato-aga-clinic.com。男女差はなく、あらゆる年齢で発症しますが、若年~中年に好発します。原因は明確には解明されていませんが、現在は自己免疫疾患と考えられています。遺伝的素因にストレスや感染症などの誘因が加わり、毛包が自己免疫学的に攻撃されることで発症するとされます。毛包は免疫特権部位ですが、それが破綻しTリンパ球(主にサイトカイン産生するCD8+細胞など)が毛包のメラノサイトや毛母細胞を攻撃する病態で、「蜂の巣状 infiltrate(swarm of bees)」と形容される毛包周囲のリンパ球浸潤像が特徴です。円形脱毛症には以下のような病型分類があります。

  • 単発型: 脱毛斑が1か所のみ。
  • 多発型: 脱毛斑が2か所以上。隣接して融合することもある。
  • 全頭型: 頭皮の毛がほとんどすべて脱落した状態。
  • 汎発型: 頭髪のみならず眉毛・まつ毛や体毛も含め全身の毛が脱落したもの。
  • 蛇行型(ophiasis): 後頭部から側頭部にかけて帯状に毛が抜ける特殊型。

自然経過は多様で、軽症例では自然寛解することも珍しくありませんが、重症例や幼少期発症例では再発・慢性化しやすい傾向がありますdermatol.or.jp。またアトピー素因を持つ患者や爪の異常を伴う患者は難治とされます。円形脱毛症それ自体は毛髪と爪以外の臓器に影響を与えませんが、外見上の変化がQOLに与える影響は大きく、患者の心理的苦痛は少なくありませんdermatol.or.jp

診断と臨床的特徴

臨床的には、境界明瞭な円形の脱毛斑が突然出現することで疑います。脱毛斑の皮膚は正常で瘢痕はなく、毛孔は保たれています。抜け毛の根元を見ると**「感嘆符様毛」(毛根側が細く色素の抜けた短い毛)が見られることが多く、活動期の所見です。患部を指で擦ると周囲の正常毛も容易に抜ける「抜け毛誘発(pull test陽性)」が認められれば活動性を示唆します。しばしば爪の点状陥凹(pitting)を伴うことがあり、重症例ほど出やすい傾向です。診断は典型例では容易ですが、毛が抜け始めた初期やびまん性に近い脱毛(いわゆる「びまん性円形脱毛症」や女性の広範なAA incognita型)では見逃されることもあります。鑑別診断としては、休止期脱毛症(急激なびまん性脱毛)や、梅毒性脱毛(syphilitic alopecia)、頭部白癬(皮疹と毛の断裂が特徴)などが挙がります。疑わしい場合は皮膚生検を行うと、毛包周囲のリンパ球浸潤など典型組織像で診断確定に有用です。また若年発症や難治例では自己免疫疾患の合併**(甲状腺疾患、膠原病、アトピー素因など)を確認するため血液検査を行うこともありますdermatol.or.jp。重症度評価には脱毛面積を%で見積もる方法(SALTスコアなど)が使われます。ガイドラインでは脱毛範囲に応じてS0(脱毛なし)~S5(100%脱毛)まで分類しています(例:S2は25~49%脱毛)kato-aga-clinic.com

検査・画像診断・鑑別診断

上述のとおり、診断は多くの場合臨床所見で可能です。ダーモスコピーでは円形脱毛症に特徴的な所見が確認できます。具体的には、黄白色の点(vellus毛の毛孔)、黒色点(折れた毛幹の残骸)、感嘆符様毛、毛孔周囲の紅斑や鱗屑が認められることがあります。これら所見は活動期のAAに特徴的で、他の脱毛との鑑別に役立ちます。鑑別診断として大切なのは、他の原因で毛が抜ける疾患を除外することです。例えば脂漏性皮膚炎男性型脱毛症では徐々に進行するびまん性の薄毛を呈しますが、円形脱毛症では急激かつ限局性です。頭部白癬(しらくも)はしばしば円形の脱毛を作りますが、毛が短く折れ鱗屑を伴い、顕微鏡検査で菌要素が検出されます。**抜毛症(トリコチロマニア)**も不整形の脱毛斑を作る点で鑑別になりますが、髪を自分で抜く行為に起因し、毛の長さがまばらで抜け毛の先端が尖る・折れるなどの所見があります。梅毒による脱毛はmotheaten alopecia(虫食い状脱毛)と称しびまん・不規則な脱毛斑となりますが、血清検査で鑑別可能です。以上を踏まえ、難治例では膠原病(SLEでの円形脱毛様のびまん脱毛など)やアトピー(アトピー関連脱毛症の概念あり)などの存在も広く念頭に置きます。

治療(ガイドライン推奨治療とエビデンス)

円形脱毛症の治療は対症療法が中心で、疾患の性質上ランダム化比較試験が少なくエビデンスが限定的ですdermatol.or.jp。そのためガイドラインでも推奨度Aの「強く推奨される」治療法は存在せず、最も高くてもB(行うよう勧められる)となっていますkato-aga-clinic.com。治療法は脱毛範囲や年齢、活動性などによって使い分けます。また自然寛解する場合もあるため、経過中に治療効果判定が難しいことも留意しますdermatol.or.jp。以下、主要な治療法を推奨度とともに解説します(円形脱毛症は疾患として保険診療の対象です。一部の特殊療法は未承認ゆえ自由診療となりますが、多くは保険適用可能です)。

  • ステロイド局所注射(局所皮内注射): 脱毛斑に対しステロイド(トリアムシノロンなど)の局所注射を行う治療です。特に小さな範囲の脱毛に有効で、成人の単発型・多発型の軽症例に第一選択となりますdermatol.or.jp。ガイドラインの推奨度はB(行うよう勧める)で、S1(脱毛面積25%未満程度)以下の成人例では積極的に行うよう推奨されていますdermatol.or.jp。方法は局所麻酔用極細針で脱毛斑内にステロイド懸濁液を少量ずつ真皮内注射します。4~6週毎に繰り返し、発毛がみられたら間隔を延長します。有効率は高く、特に限局した斑なら数回の注射で発毛する例も多いです。副作用として皮膚萎縮(ステロイドによる局所皮膚の陥凹)が問題となりえますが、濃度と注入量を調節し、同じ場所に頻回に打ちすぎないことで回避可能です。また小児には注射の痛みから敬遠される場合があります。保険適用であり比較的安価に実施できる治療です。
  • 局所免疫療法(接触免疫療法): 慢性・広範な円形脱毛症に対して現在最も推奨される治療ですdermatol.or.jp。感作剤(一般にSADBE:スクアレン酸ジブチルエステル、またはDPCP:ジフェニルシクロプロペノン)を患部頭皮に塗布し、人工的にアレルギー性接触皮膚炎を起こすことで免疫応答の方向転換を図り発毛を促します。S2(脱毛面積25%以上)以上の多発型、全頭型、汎発型の症例に年齢を問わず第一選択として強く勧められ(推奨度B)ていますdermatol.or.jp。具体的にはまず健常な皮膚(一部では頭皮の一部)で感作剤を高濃度塗布してアレルギー反応を起こし、以後1週間ごとに徐々に低濃度~適当な濃度で頭皮全体に繰り返し塗布します。有効率は50%前後と報告され、特に持続性の脱毛でも一定の発毛例があります。副作用は塗布部の皮膚炎(発赤・丘疹・水疱形成など)ですが、これは治療の作用機序上ある程度必要な反応です。ただし強すぎる炎症は色素沈着やリンパ節腫脹を起こすため、反応を見ながら濃度調節します。また初回感作時に全身の蕁麻疹等の強い反応が出ることがあり注意が必要です。日本ではSADBEやDPCPは製剤として未承認のため、治療を行っている専門施設で院内調製する必要があります。よって保険診療として明確に請求できる項目がない(材料費などは自費)場合も多く、施行施設が限られる治療です。しかしガイドラインで第一選択とされる重要な治療法ですdermatol.or.jp。患者には治療期間が長期(月単位~年単位)になること、途中で一旦悪化するように見えることがある点、頻回の通院が必要な点などを説明します。
  • ステロイド外用: 非常に強力なステロイド軟膏やローションを脱毛部に外用する方法です。軟膏を1日1~2回、数か月間継続して塗布します。単発型から多発型で脱毛斑が融合傾向のない症例に対し、strong~strongestクラスのステロイド外用療法を行うよう勧める(推奨度B)とされていますdermatol.or.jp。特に小児や注射の難しい患者で第一選択となります。外用により一定の発毛促進効果が期待できますが、顔や陰部に近い部位では吸収率が高くなるため注意します。副作用は長期使用時の皮膚萎縮、毛細血管拡張、ステロイドざ瘡などがありえます。数か月使用して効果不十分な場合は他治療への切り替えを検討します。なお、市販のステロイド外用剤では強度が不十分なため必ず医療用の最強クラス(デルモベート等)を処方します。
  • ステロイド内服: 全身投与による治療で、急速進行する重症例に短期間試みられることがあります。ガイドラインでは発症6か月以内に急速進行するS2以上の成人例で、期間を限定して行ってもよい(推奨度C1)とされていますdermatol.or.jp。具体的にはプレドニゾロン30~60mg/日程度を数週間投与し漸減、あるいはパルス療法(後述)を行います。一定の効果は報告されていますが、休薬後に高率に再燃すること、肥満・糖尿病・月経不順など全身副作用が多いことから、根治には至らず救済的な位置付けですkato-aga-clinic.com。副作用管理(胃保護、感染症予防など)をしながら慎重に用います。短期間で効果なければ中止し、他法へ移行します。なおステロイド静脈パルス療法(メチルプレドニゾロン 500mg~1gを3日連続点滴など)も試みられることがあり、同様に推奨度C1(行ってもよい)とされていますdermatol.or.jp。パルス療法は短期集中で強力な効果を狙いますが、これも中止後の再燃や副作用リスク(不眠、精神症状、感染など)に留意が必要ですkato-aga-clinic.com
  • その他の内服・全身療法:
    • 抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬)内服: アトピー素因との関連や抗IL-31による抗脱毛効果を狙って処方されることがあります。エビデンスは弱いものの、**併用療法の一つとして行ってもよい(推奨度C1)**とされていますdermatol.or.jp。痒みの軽減や眠気による安眠効果も期待して使用されます。
    • セファランチン内服: 生薬由来の免疫調節薬で、日本では円形脱毛症に古くから使われてきました。少数の臨床報告があるのみですが安全性は高く、**併用療法の一つとしてC1(行ってもよい)**とされていますdermatol.or.jp
    • グリチルリチン製剤内服(グリチロン®等): 甘草由来の抗炎症薬で、円形脱毛症に対し免疫調節目的で用いられます。これもC1(行ってもよい)扱いですが、有効性の根拠は弱いですdermatol.or.jp。セファランチンやグリチルリチンはステロイド外用や局所免疫療法と併用されることが多いです。
    • カルプロニウム塩化物外用: AGAの項で触れた血管拡張薬ですが、日本では円形脱毛症の適応で保険収載されていますdermatol.or.jp。5%カルプロニウム液を1日1-2回患部に塗布する治療で、弱いながら発毛促進効果を示す報告がありますdermatol.or.jp。安全性と入手容易性から**C1(行ってもよい)**とされていますdermatol.or.jp。単独では効果は限定的ですが、他治療と併用されることがあります。副作用は刺激感程度です。
    • ミノキシジル外用: 血管拡張・成長因子産生促進作用により、円形脱毛症にも一部有効との報告があります。特に他治療と併用することで発毛率向上が期待され、**併用療法の一つとしてC1(行ってもよい)**とされていますdermatol.or.jp。1日2回の塗布で6か月以上継続します。副作用はAGAでの記載と同様です。
    • 冷却療法: ドライアイスや液体窒素で患部頭皮に軽度の凍傷を与える治療です。古くから行われており**C1(行ってもよい)**とされていますkato-aga-clinic.com。雪状炭酸圧抵療法とも呼ばれ、軽症例で他治療との併用に使われます。弱い刺激で炎症を誘導し、発毛を促す仕組みですが、根拠は限定的ですkato-aga-clinic.com
    • 紫外線療法: PUVA療法(ソラレン内服+長波UV)やエキシマライト・ナローバンドUVB照射を行う方法です。特に全頭型・汎発型の症状固定期にPUVAが試みられ、**C1(行ってもよい)**ですdermatol.or.jp。エキシマライト等も照射可能ですが、効果は限定的です。副作用は色素沈着や火傷です。
    • 局所低出力レーザー・光線療法: 308nmエキシマライト、赤外線療法、さらには光線力学療法(PDT)なども試みられています。直線偏光近赤外線照射療法がC1、レーザーやPDTは**C2(勧められない)**と評価されていますdermatol.or.jp。エビデンス不足の段階です。
  • 有効性が否定的・推奨されない治療:
    • シクロスポリン内服: 免疫抑制剤でT細胞を抑えるため効果が期待されましたが、副作用(高血圧、腎障害など)の頻度が高く再発も多いため**推奨度C2(行わないほうがよい)**と判断されていますkato-aga-clinic.com。実施例では一定の発毛効果報告もあるものの、安全性の問題から現在は通常行われません。
    • メソトレキサートなど他の免疫抑制剤: 明確なエビデンスが無く、現時点では推奨されていません。必要な場合は専門施設で慎重に検討されます。
    • 分子標的薬(JAK阻害剤等): トファシチニブなどJAK阻害薬は重度の円形脱毛症に劇的効果を示すとの海外報告があります。しかし日本では未承認であり、エビデンスも不足しているため推奨度C2ですdermatol.or.jp。臨床研究は進んでいますが、副作用管理(感染症や肝機能障害など)の問題もあり、現時点ではルーチンでは用いられません。
    • 漢方単独療法: 各種漢方薬(例:当帰四逆加呉茱萸生姜湯や柴胡加竜骨牡蛎湯など)が使用されることがありますが、信頼できる試験はなく推奨度C2ですdermatol.or.jp。補助的に用いる分には否定されませんが、漢方のみでの治療は根拠不十分です。
    • 精神安定剤・抗うつ薬: ストレス要因への対処として使われることがありますが、単独での脱毛改善エビデンスはなく、むしろイミプラミン(抗うつ薬)内服でプラセボと差がなかったという報告がありますdermatol.or.jp。したがってC2です。睡眠障害の改善など目的で補助的に用いることはあります。
    • 局所カルシニューリン阻害薬: タクロリムス軟膏はアトピー合併例の治療として試みられましたが、有効性は確認されずC2ですdermatol.or.jp
    • プロスタグランジンF2α製剤: 緑内障点眼薬のまつ毛増毛効果から、ラタノプロスト外用が試されましたが無効とされC2ですdermatol.or.jp
    • ビタミンD3外用: 湿疹治療薬のカルシポトリオール(ボンアルファ)を塗布する試みもありましたが効果なくC2ですdermatol.or.jp
    • レチノイド(べキサロテン)外用: 効果なしとされC2ですdermatol.or.jp
    • 催眠療法: ストレス因子との関連から過去に報告がありますが、有効性を支持するには不十分でC2とされていますkato-aga-clinic.com
    • その他: 発毛を謳う民間療法(鍼治療や頭皮マッサージ等)も確立したエビデンスはなく推奨されません。かつらの使用は推奨度C1(行ってよい)で精神面のケアとして有用ですkato-aga-clinic.com

〔治療選択の実際〕 円形脱毛症の治療は脱毛範囲と活動性に応じて組み合わせます。軽症(単発型・軽度多発型)ではまずステロイド局所注射を検討し、困難な場合はステロイド外用で経過を見ますdermatol.or.jpdermatol.or.jp。軽症でも希望すれば冷却療法や漢方併用も考慮します。中等症(多発型で面積が拡大傾向)では局所免疫療法を早期に導入することが推奨されますdermatol.or.jp。併せてステロイド外用も行い、発毛を促します。重症(全頭型・汎発型)ではまず局所免疫療法を試みますが効果判定までに時間がかかるため、患者が希望すれば初期にステロイド短期内服を併用することもあります(効果があれば維持療法につなぐ)。ただし長期維持はできないため、他の治療に切り替えます。難治例では患者の希望に応じウィッグの使用も勧めますkato-aga-clinic.com。小児の場合、局所免疫療法は可能ですが協力が得られにくいこともあり、ステロイド外用や塗布療法(ドライアイス等)が使われることがあります。どの場合も治療反応には個人差が大きいため、一定期間(通常3~6か月)治療して効果がなければ次の手段に移る柔軟さが必要ですdermatol.or.jp

患者へのカウンセリング上の留意点

円形脱毛症は見た目の変化だけでなく再発の不安が患者の心理的負担となります。診察時には「誰にでも起こりうる自己免疫の病気で、決して本人のせいではない」ことを説明し、自責感を和らげます。しばしば「ストレスが原因でしょうか?」と聞かれますが、ストレスは誘因の一つではあるものの全ての原因ではないこと、過度に心配すること自体がストレス悪循環になるため、前向きなケアを強調します。治療経過中は寛解と再発を繰り返すことが多いため、短期的な変化に一喜一憂しすぎないよう助言します。「抜けてもまた生えてくる可能性が十分ある」ことを伝え、希望を保ちながら治療を継続できるようサポートします。また、長期戦になる可能性もあるため、患者の生活背景(通院負担や費用)を考慮した治療計画が重要です。学校や職場での周囲の目を気にする方には、必要に応じて医療用ウィッグの紹介や心理カウンセリングを提案します。特に小児患者では親御さんの不安も大きいため、家族も含めて十分に説明と支援を行います。最後に、治療が奏功して毛が生えてきた際には患者と喜びを共有し、再発時にもまた一緒に対処できるという信頼関係を築くことが大切です。


瘢痕性脱毛症(cicatricial alopecia)

疫学・病因・病態生理

瘢痕性脱毛症とは、毛包の永久的破壊により瘢痕を伴う脱毛をきたす状態の総称ですilandtower-clinic.jp。発生要因は多岐にわたり、外傷・火傷などによる二次的瘢痕から、自己免疫異常による毛包炎症(原発性瘢痕性脱毛症)まで様々ですilandtower-clinic.jp。頻度としては非瘢痕性脱毛症に比べ稀ですが、見逃れがたい重要なカテゴリーです。代表的な原因として、膠原病(皮膚エリテマトーデスの瘢痕性脱毛)苔癬様脱毛症(扁平苔癬に伴う毛包破壊)毛包炎・細菌感染(folliculitis decalvansなど)癜風や膿漏症などの慢性皮膚疾患圧迫・牽引による外傷(長期の牽引性脱毛や瘢痕形成を伴う外傷)などが挙げられますilandtower-clinic.jpilandtower-clinic.jp。最近では前額線維性脱毛症(FFA)なども話題になりましたが、これも前頭生え際の毛包が線維化する原発性瘢痕性脱毛症です。病態は原因により異なりますが共通点は炎症または物理的破壊により毛包幹細胞が破壊されることで、その部位から二度と毛が生えなくなる点ですilandtower-clinic.jp。毛包の破壊は炎症細胞(リンパ球、好中球など)の浸潤や組織変性を伴い、最終的に線維化(瘢痕形成)しますilandtower-clinic.jp

診断と臨床的特徴

瘢痕性脱毛症では、脱毛部の皮膚に萎縮や硬化(瘢痕)が認められるのが特徴ですilandtower-clinic.jp。肉眼的には毛穴が消失し、皮膚表面が滑らかで薄くなったり、光沢を帯びたりします。病変が活動期の場合、周囲に紅斑や鱗屑、膿疱、痂皮などの炎症所見を伴うことがあります。患者はかゆみや痛み、灼熱感を訴えることがあり(特に活動期)、これは毛包の炎症に対応しますilandtower-clinic.jp。脱毛の分布は原因により異なり、DLE(慢性皮膚エリテマトーデス)では局所的円形斑、LPP(苔癬様脱毛症)では頭頂部中心のびまん性、牽引性脱毛症では生え際辺縁部、といったパターンがあります。診断には皮膚生検が重要で、病理組織学的に表皮や毛包の変化、炎症細胞の浸潤パターン、線維化の程度などから原因疾患の特定につなげます。例えばDLEでは毛包周囲にリンパ球・形質細胞浸潤と表皮基底層の液状変性、LPPでは毛包上部の破壊、中心毛包萎縮、Folliculitis decalvansでは好中球主体の化膿性炎症など、特徴が得られます。鑑別診断としては、進行した男性型脱毛症(毛包は残るので瘢痕化しない点で異なる)、長期放置した円形脱毛症(通常は瘢痕化しない)などがあります。早期診断が極めて重要で、活動期に適切な治療をしないと脱毛が拡大・永続化するため、少しでも疑えば専門医に繋ぐべきです。

検査・画像診断・鑑別診断

瘢痕性脱毛症が疑われる場合、皮膚生検による病理検査は確定診断に欠かせません。病変部とその境界部から組織を採取し、H&E染色の他、必要に応じて免疫染色(ループスバンドテスト等)を行います。また膠原病疑いでは血液検査でANA(抗核抗体)や抗dsDNA抗体、SSA/SSB抗体などを確認します。細菌感染の関与が疑われれば膿疱内容の培養検査も有用です。ダーモスコピー所見としては、毛孔が見えないツルツルの萎縮地図状のパターンや、毛孔周囲の角栓・紅斑・鱗屑などが認められます。鑑別診断として、**長期の中央瘢痕性進行性脱毛症(いわゆるブロック脱毛症)汎発性偽斑剥脱(pseudopelade)**なども挙がりますが、これらはむしろ瘢痕性脱毛症の中の一部であり原因不明のものです。また外傷後脱毛や熱傷瘢痕による脱毛は問診で区別可能でしょう。

治療(炎症抑制と外科的対処)

瘢痕性脱毛症の治療目標は炎症を抑え進行を止めること、そして可能なら失われた毛髪を補う(再生または移植)ことですilandtower-clinic.jpilandtower-clinic.jp。一度破壊された毛包は自然には再生しないためilandtower-clinic.jp、完全治癒は難しいのが現状ですilandtower-clinic.jp。そこで、まずは炎症の沈静化に全力を尽くします。具体的な治療法は原因疾患によりますが、以下のようなアプローチがあります。

  • 抗炎症療法(薬物治療): 毛包に対する炎症・免疫反応を抑えるため、ステロイド薬免疫抑制薬を用いますilandtower-clinic.jp。ステロイドは外用剤・局所注射・内服(全身)で使用され、特に原発性瘢痕性脱毛症(例:扁平苔癬様脱毛症、FFCなど)では中心的役割を果たしますagacare.clinic。強力ステロイドの外用は炎症部位に塗布してかゆみ・紅斑を鎮め、まだ破壊されていない毛包を保護する効果を狙いますagacare.clinic。広範な炎症がある場合や急速な進行には、ステロイドの経口投与またはパルス療法で短期的に炎症を抑えます。免疫学的機序が強い場合は抗マラリア薬(ヒドロキシクロロキン)が有効なこともあり(DLEなど)、内服するケースもあります。その他、ミノサイクリンなどテトラサイクリン系抗生剤は抗炎症作用を期待してLPPや毛包癤痂症で用いられます。また免疫抑制剤(メトトレキサート、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチル等)が難治例で検討されることもありますapollohospitals.com。これら薬物療法は症例に応じた個別計画が必要で、専門医の判断で行われますilandtower-clinic.jp。副作用管理として、ステロイド長期内服時は骨粗鬆症予防や糖代謝モニター、免疫抑制剤使用時は感染予防など注意が必要です。
  • 原因疾患の治療: 膠原病や感染症が背景にある場合、その治療が優先されます。例えば全身性エリテマトーデスに伴う瘢痕性脱毛では全身状態に準じた治療(ステロイド内服や免疫抑制剤)を行い、頭皮局所もそれに準じます。細菌感染による毛包炎が原因の瘢痕性脱毛症(folliculitis decalvansなど)では抗生剤の長期投与(クラリスロマイシン、テトラサイクリン系、リファンピシン+クリンダマイシン併用など)が行われ、炎症をコントロールします。真菌症が原因なら抗真菌薬を投与します。牽引性脱毛症では髪型の是正(牽引の中止)がまず必要です。いずれにせよ、原因に即した治療が重要です。
  • 外科的療法(植毛・手術): 瘢痕性脱毛症では一度失われた毛を取り戻すには外科的手段が必要です。主な方法は自毛植毛で、後頭部など正常な部位から毛包を採取し瘢痕部に移植しますilandtower-clinic.jp。瘢痕部は血流がやや低下しているため、生着率は正常頭皮より下がる可能性がありますが、適切な症例では有効です。例えば限局した火傷痕や、安定期に入ったDLE後の瘢痕などでは植毛で見た目を大きく改善できますilandtower-clinic.jp。植毛を行うには炎症が完全に沈静化し、少なくとも1-2年以上再発がない状態であることが望ましいです。さもなくば移植した毛も再び脱落する恐れがあります。植毛は自由診療で費用負担が大きいため、患者の希望を十分考慮します。もう一つの外科的手段は瘢痕組織の切除縫縮ですilandtower-clinic.jp。小さい瘢痕なら外科的に切り取って周囲の皮膚を縫い合わせることで脱毛部位自体を無くすことができますilandtower-clinic.jp。頭皮はあまり伸展性がないため限られますが、線状の瘢痕などでは有効な場合があります。大きな範囲では組織拡張術で頭皮を伸ばしてから瘢痕を切除するといった高度な方法もありますが、ごく一部のケースに限られます。どちらにしても外科治療は瘢痕性脱毛症が完全に不活発化してから検討されます。
  • 支持療法・カバー法: 治療と並行して、患者の外見上の負担を減らす工夫も必要です。例えば広範囲の脱毛ではウィッグやヘアピースの使用を提案します。部分的なものなら周囲の毛を活かしたヘアスタイルの工夫や、女性ならメイク・スカーフなどの活用も有用です。瘢痕性脱毛症は自然回復しないためilandtower-clinic.jp、患者の喪失感は大きいものです。外見上の対処を組み合わせることで社会生活上のストレスを軽減でき、治療への意欲も保てます。

〔治療のポイント〕 瘢痕性脱毛症では早期の炎症抑制が何より大切ですagacare.clinicilandtower-clinic.jp。炎症が続く限り脱毛が拡大するため、疑ったら速やかに高力価ステロイドの外用や必要なら局所注射・全身投与を開始しますagacare.clinic。同時に原因検索を進め、適切な追加療法(抗マラリア薬や抗生剤など)を導入します。炎症がおさまり病勢安定すれば、次は見た目の改善策を検討します。植毛を行うか、ウィッグで対処するか、患者の希望を尊重しつつ最善策を提案します。治療期間中、患者には「瘢痕部分から自然に毛は生えない」現実を伝えつつ、「進行を止めれば残った毛は守れる」こと、必要なら植毛等でカバーできる可能性も示して希望を持ってもらいます。また原因によっては膠原病の全身管理や生活指導(例:牽引性脱毛なら髪型の改善、頭皮ニキビ体質なら清潔保持)も必要ですilandtower-clinic.jp。瘢痕性脱毛症は完治困難なケースも多いですが、進行を食い止め見た目を改善することで患者のQOLを大きく向上させることができますilandtower-clinic.jp

患者へのカウンセリング上の留意点

瘢痕性脱毛症の患者は「もう毛が生えてこない」事実に大きなショックを受けることがあります。まずは共感しつつ丁寧に病態を説明し、なぜ生えないのか(毛包が傷付いたため)を理解してもらいます。同時に、「今後はこれ以上広がらないようにする治療を全力で行う」と前向きな方針を伝えます。炎症がある場合は治療の必要性を強調し、患者の協力を得ます。治療によって進行を止められれば御の字であり、その後の見た目に関しては植毛など選択肢があることも説明しますilandtower-clinic.jpilandtower-clinic.jp。植毛を希望する場合は再発の有無や時期を慎重に判断しなければならないため、焦らず計画することを伝えます。患者が女性であれば美容的なニーズも高いため、ウィッグ専門店や美容院と連携し、自然に見える方法を模索します。男性でも坊主にする、髪を伸ばして覆うなど、できる範囲の工夫を提案します。「治す」治療ではなく**「対処する」治療**になるケースが多いため、患者の中には落胆する方もいます。その際はメンタルヘルス面のサポートも考慮し、必要なら心理士や患者会(脱毛症に関するサポートグループ)があれば紹介します。瘢痕性脱毛症は稀な疾患も多く、患者は情報が得られず不安なこともあります。医師が信頼できる情報源となり、長期にわたり伴走する姿勢を示すことで、患者の安心感につながります。


びまん性脱毛症(拡散型脱毛症 / Telogen Effluvium)

疫学・病因・病態生理

びまん性脱毛症とは、頭髪が局所ではなく全体的に薄くなる状態を指します。男性よりも女性に多く、発症年齢は様々です。代表的なものに休止期脱毛症(Telogen effluvium)があります。これは成長期にある毛髪が何らかのストレスで一斉に休止期に移行し、2~3か月後に一斉に抜ける現象です。出産後の脱毛(分娩後脱毛)は典型的な休止期脱毛で、他にも高熱(例: インフルエンザやCOVID-19罹患後)、手術、大きな精神的ストレス、極端なダイエット、栄養不良(鉄欠乏など)、薬剤(抗凝固薬、ビタミンA製剤など)といった「3か月前の出来事」が誘因となり得ます。びまん性脱毛は病因が多彩であり、甲状腺機能異常や慢性疾患、ホルモン異常(女性の分泌異常)など全身状態の反映でもありますdermatol.or.jp。また女性型脱毛症(AGA)の初期像もびまん性の薄毛で現れるため、びまん性脱毛の中にAGAが含まれることもあります。びまん性脱毛症の一部には慢性休止期脱毛症(原因不明の慢性的なびまん脱毛)も存在します。病態としては多くが毛周期の乱れ、特に成長期→休止期への移行増加による一過性の脱毛です。抗がん剤による脱毛は毛母細胞への直接障害で成長期脱毛(Anagen effluvium)と呼ばれますが、広義ではびまん性脱毛の一種です。

診断と臨床的特徴

びまん性脱毛症では、頭髪全体のボリュームが低下し、頭皮が透けて見えるようになります。ただし局所に完全な無毛部はできず、均一に毛量が減ります。患者は「最近、シャンプー時や起床時に抜け毛が多い」と訴えることが多く、1日の抜け毛本数が増加します(正常でも50-100本/日抜けますが、休止期脱毛では数百本に増えることも)。髪を引っ張るpull testで多数の毛が抜ければ脱毛が活動性であることを示唆します。臨床所見だけでは原因の特定は難しいため、詳細な問診が不可欠です。過去半年以内の体調変化、妊娠出産歴、食生活(急激な減量や偏食)、服薬歴、月経異常、ストレスイベントなどを聴取します。女性の場合月経不順や多毛の有無を確認し、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に伴う薄毛も鑑別します。甲状腺機能低下症では寒がりや体重増加、倦怠感の症状がないか確認します。診察では皮膚や粘膜の所見(貧血所見、粘膜蒼白、甲状腺腫大など)も観察します。必要な場合は血液検査で甲状腺機能(TSH, FT4)、フェリチン値(鉄貯蔵)、ビタミンDや亜鉛など栄養状態、女性ホルモン・アンドロゲン値などを調べます。びまん性脱毛の診断は除外診断でもあり、男性型脱毛症・円形脱毛症との鑑別が重要です。女性ではびまん性脱毛と女性型脱毛症が重なるケースも多いため、ダーモスコピーで毛径のミニチュア化傾向が強ければAGAの関与を考えます。男性型ではゆっくり進行し抜け毛自体は目立たないのに対し、休止期脱毛では急激かつ抜け毛が目につく違いがあります。休止期脱毛は概ね脱毛の開始から半年程度で回復に向かうことが多いですが、原因持続下では慢性化します。

検査・画像診断・鑑別診断

上述のように血液検査が診断の鍵となることがあります。甲状腺機能検査はびまん性脱毛のスクリーニングとして有用です。鉄欠乏性貧血があればフェリチン低下を伴い脱毛の原因になりうるため必ずチェックします。女性では必要に応じて婦人科的評価(PCOSや更年期の評価)も行います。皮膚生検は通常びまん性脱毛では行いませんが、AGAとの鑑別が困難な際には役立つこともあります(AGAではミニチュア化毛増加、休止期脱毛では毛周期の変化が主体で構造は正常など)。鑑別診断として除外すべきは男性型脱毛症初期の汎発型円形脱毛症(AA incognita)慢性休止期脱毛症薬剤性脱毛などです。円形脱毛症のincognita型は診断が難しいですが、病歴やループスバンドテスト陰性などで他を除外し、ステロイド局所療法への反応を見ることもあります。薬剤性なら原因薬の中止で改善するか確認します。慢性休止期脱毛症はあらゆる検査で原因が見つからず6か月以上脱毛が続く状態で、診断的治療としてミノキシジル外用などを試みることがあります。

治療

びまん性脱毛症の治療は原因の除去と支持療法が基本です。特定の原因が判明したらまずそれを是正します。

  • 休止期脱毛症: 一過性の脱毛である場合、例えば出産後脱毛や高熱後脱毛では特別な治療をしなくても6~12か月で自然回復するのが通常です。患者にはその経過を説明し、過度な心配を和らげます。栄養不良があれば改善し、鉄欠乏があれば鉄剤補充を行います。ストレス因子に対しては除去またはストレス緩和(生活指導、必要なら睡眠薬や安定剤)を図ります。薬剤が原因なら可能であれば中止・変更します。こうした原因対応だけでなく、毛髪の成長を促す支持療法も行われます。具体的にはミノキシジル外用が有用な場合がありますdermatol.or.jp。びまん性脱毛に対するミノキシジル外用の適応は公式にはありませんが、女性の慢性的な薄毛では多く使用されています。1日1~2回の塗布で6か月ほど継続すると、成長期への移行促進により毛量増加が期待できます。副作用(頭皮刺激)に注意しつつ導入を検討します。また育毛シャンプーや頭皮マッサージなども患者が希望すれば補助的に勧めますが、劇的効果はないことを伝えます。要は**「これ以上悪くしない、自然回復を助ける」**というスタンスです。急速な休止期脱毛では、開始から2~3か月が脱毛のピークでその後自然に止まるため、この間は見守りつつ栄養管理などをする方針もあります。
  • 慢性びまん性脱毛(女性型脱毛症含む): 半年以上脱毛が続く場合、女性では**女性型脱毛症(FAGA)**がベースにあることが多いです。FAGAと診断した場合は、AGAの項で述べた治療(ミノキシジル外用が中心、場合によりスピロノラクトン内服など海外で行われる治療も検討)を行います。ただしスピロノラクトンは日本では女性の脱毛症治療としては一般的でなく、エビデンスも確立していません。医師の裁量で慎重に用いるケースはありますが、適応外処方となります。エストロゲン補充療法は更年期以降の女性で行われることがありますが、脱毛への効果は限定的です。慢性休止期脱毛症と診断される場合は明確な治療法がないため、やはりミノキシジル外用やアデノシン含有育毛剤などを試用します。近年、**低出力レーザー(LLLT)**もびまん性の女性薄毛に使用され、一部効果報告がありますhiro-clinic.or.jp。これも自宅でできるケアとして紹介することがあります。重要なのは、治療反応が不明瞭でも根気強くフォローすることです。慢性びまん性脱毛は数年単位でゆっくり改善・悪化を繰り返すこともあり、患者との二人三脚で対処します。
  • 特殊なびまん性脱毛: 抗がん剤による脱毛(成長期脱毛)は、抗がん剤終了後6か月ほどでほぼ自然再生します。治療としては冷却キャップによる予防(投与中に頭皮を冷やし血流を減らして毛根への薬剤到達を下げる)などがありますが、効果は部分的です。患者には「治療が終われば元に戻る」ことを説明し安心してもらいます。場合によりウィッグ等で対処します。慢性甲状腺機能低下症での脱毛は、甲状腺ホルモン補充で改善します。梅毒やその他疾患の脱毛も原因治療で治ります。このように、原因疾患の治療が最優先となりますdermatol.or.jp

患者へのカウンセリング上の留意点

びまん性脱毛症の患者は、「最近急に髪が薄くなった」と不安を強く感じています。まずは原因が何か突き止められる可能性があることを説明し、過去半年の出来事をじっくり聴取します。その中で患者自身が心当たりを話すことで安心につながることもあります。例えば「3か月前に大きな手術を受けましたか?」と尋ね、当てはまれば「それが原因の可能性が高く、時間とともに良くなります」と伝えられます。原因が判明しなくても、「命に関わる病気ではない」「このタイプの脱毛は回復することが多い」と前向きな情報を提供します。女性の場合、薄毛は男性以上にセンシティブな問題ですので、共感しつつプライバシーに配慮した対応が必要です。診察室ではなるべく安心できる雰囲気を作り、時に「女性の薄毛は珍しくありません、一緒に対策を考えましょう」と励まします。治療については、効果が緩徐であることを理解してもらいます。「半年~1年は様子を見ながら治療する」ことや、「急激な改善は難しいが確実にケアすれば悪化を食い止められる」ことを説明します。栄養指導や生活習慣の改善(極端なダイエットの中止、バランスの良い食事、睡眠確保など)も具体的に提案します。ストレスが関与する場合、患者にリラクゼーション法を勧めたり、必要なら心療内科紹介も考慮します。髪型の工夫やウィッグの使用にも抵抗感を示す方がいますが、「一時的なカバーとして恥ずかしいことではない」と説明し、品質の良い医療用ウィッグの情報提供も行います。最後に、定期フォローで抜け毛本数や写真比較を行い、少しでも改善が見られたら一緒に喜び、悪化していれば治療変更を考える、といった柔軟な姿勢を示すことが患者の安心につながります。


自由診療としての再生医療的アプローチ:PRP療法等

近年、従来の薬物療法・手術療法に加え、再生医療(細胞や成長因子を用いた治療)が脱毛症領域で注目されています。その代表格がPRP療法(多血小板血漿療法)です。PRP療法とは患者自身の血液から濃縮した血小板血漿を抽出し、頭皮に注射して毛髪の成長を促そうとする治療法ですmhlw.go.jp。血小板にはPDGF、TGF-β、VEGFなど複数の**成長因子(サイトカイン)**が含まれており、組織修復や血管新生を促す作用があります。PRPを頭皮に注入することで毛包周囲の細胞を刺激し、休止期の毛を成長期へ戻したり、ミニチュア化した毛を太くする効果が期待されます。

手技とメカニズム: PRP療法ではまず患者から採血(例えば20~30ml)し、それを専用の遠心分離機にかけます。遠心により血小板を含む血漿部分を濃縮し、これをPRPとして採取しますmhlw.go.jp。得られたPRPにカルシウムなどを加えて血小板を活性化させ、成長因子を放出させます(活性化しない方法もあります)mhlw.go.jp。そしてPRPを細い注射針で頭皮の脱毛部位にまんべんなく注射しますsugamo-sengoku-hifu.jp。処置時間は30分程度で、局所麻酔クリームを併用することもあります。これを数週間~1か月おきに複数回(例えば3~6回)行うのが一般的なプロトコルです。注入後、成長因子が毛包幹細胞や毛乳頭に作用し、毛母細胞の増殖や血管新生を促進すると考えられます。また抗炎症作用も報告されており、頭皮環境を改善する効果も期待されます。

臨床成績とエビデンス: PRP療法は比較的新しい治療であり、エビデンスの集積はまだ途上です。2010年代から世界各国で小規模な臨床試験が行われ、AGA(男性・女性型脱毛症)に対する有効性がいくつか報告されています。例えば頭皮の半側にPRP、半側に生理食塩水を注射する対照試験では、PRP側で毛髪密度や太さが有意に改善したとの結果があります。また2021年のメタアナリシスでは、PRP療法によりAGA患者の毛髪密度と毛径が有意に改善したと報告されましたhiro-clinic.or.jp。具体的な改善度合いとして、毛密度20~30%増加や、毛径の増大などが示されています。一方で研究間のバラツキも大きく、一部ではプラセボ同等との報告もあり、結論は一致していません。円形脱毛症へのPRP適用も試みられていますが、症例報告レベルでわずかに効果を示す例がある程度です。日本皮膚科学会の2017年ガイドラインでは、成長因子導入療法や細胞移植療法(PRPや細胞培養治療を含む)は勧められない(推奨度C2)とされましたdermatol.or.jpdermatol.or.jp。これは当時はエビデンスが不十分だったためですが、その後も十分な大型試験はなく、公的なガイドラインで推奨される治療には至っていません。しかし最新の研究ではPRPに肯定的なデータも蓄積されつつあり、今後エビデンスが強化されれば位置づけが変わる可能性があります

安全性と副作用: PRP療法は自分の血液成分を用いるため、理論上アレルギー反応や深刻な副作用は非常に少ないです。報告されている副作用は、注射部位の疼痛・圧痛、点状出血、腫れなど軽微なものがほとんどです。感染症のリスクも低いですが、採血や注射時の衛生管理が不十分だと起こりえますので、滅菌操作が重要です。まれに注射後に頭痛を訴えるケースもあります。重大な合併症は今のところほぼ報告されていません。ただし治療自体の効果に個人差が大きく、全く効果が見られない人も一定数存在します。そのため「効かなかった」という意味での失望が患者にとってのデメリットになりえます。患者には「自分の血液なので副作用はほぼないが、効果も人により差がある」ことを事前に伝えることが重要です。

厚労省の認可状況: PRP療法は日本では未承認の自由診療治療ですsugamo-sengoku-hifu.jp。医薬品医療機器ではなく細胞・組織を用いる「再生医療等」に該当するため、2014年施行の再生医療等安全性確保法の枠組み下にありますmhlw.go.jp。この法律ではリスクにより第1種~第3種に分類され、PRPはリスク第3種(比較的低リスクな自己細胞利用)に該当しますmhlw.go.jp。第3種再生医療を提供するには、クリニックはあらかじめ計画を提出し、厚労省および認定委員会の審査・認可を受ける必要がありますmhlw.go.jp。多くの美容皮膚科やAGAクリニックがこの手続きを経てPRP療法を実施していますskin-clinic.net。つまりPRP療法自体は法的に提供可能ですが、公的医療保険の適用外であり費用は全額自己負担となりますsugamo-sengoku-hifu.jp。費用はクリニックにより異なりますが、1回あたり数万円~十数万円程度が多く、複数回実施することを考えると患者負担は大きくなります。また提供施設は施設番号(計画番号)の取得が必要で、厚労省への届け出なしに実施することは違法となりますskin-clinic.net

国内での医療機関の導入状況: 2010年代後半からAGA専門クリニックや美容皮膚科でPRP毛髪再生療法が取り入れられてきました。現在では日本全国に多数の医療機関がPRP育毛をメニューとして提供しておりskin-clinic.net、都市部を中心にその数は増加傾向です。例えば○○クリニックでは「毛髪再生医療」の名称でPRPを案内し、症例写真とともに宣伝しています。また一部にはPRPをさらに特殊加工したPFC-FD(血小板由来因子濃縮物の凍結乾燥)を用いるクリニックもありますsugamo-sengoku-hifu.jp。導入施設では厚労省の認可を得ていることをホームページ等で明示している場合が多く、患者もそれを確認できますaoyama-eluclinic.com。とはいえ標準治療とは言えない段階のため、提供するのは主に自由診療クリニックに限られ、一般皮膚科医でも積極的に採用している例は多くありません。医療者側でも賛否が分かれており、「エビデンス不十分である」「費用対効果に疑問がある」という慎重意見も多いです。一方で患者のニーズ(薬に抵抗がある人、手術に踏み切れない人)に応える手段として導入する医師も増えています。現状では治療成績のばらつき施術プロトコルの非標準化(PRP調製方法や注射間隔が施設で異なる)といった課題がありますmhlw.go.jpmhlw.go.jp。これらを踏まえ、今後症例を集積して有効性と安全性のデータを蓄積することが望まれていますmhlw.go.jp

PRP療法の注意点(患者への説明): PRPを希望する患者には以下の点をカウンセリングで説明します。まず「日本では未承認の治療であり、効果には個人差がある」ことsugamo-sengoku-hifu.jp。すなわち必ず生える保証はないという現実です。同時に「自分の血液を使うので副作用はほとんどなく、安全性は高い」ことも伝えます。治療の流れ(採血→注射)や複数回必要であること、一時的に抜け毛が増えることがあるが心配ないことsugamo-sengoku-hifu.jp、当日洗髪を控えるなど術後注意についても教示します。また費用が全額自己負担であり、数回コースで数十万円になる可能性があることも明示しますsugamo-sengoku-hifu.jp。患者には効果判定までに数か月要するので焦らず経過を見るよう伝えます。万一効果が乏しく中止する場合もあり得ること、他の治療(内服・外用)と併用できる場合は併用した方が良い可能性が高いことなども相談します。さらに、施術者の技量やPRP調製キットによっても効果が左右されうる点(現状では標準化されていない)を踏まえ、患者が不安に思う場合は無理強いしません。期待値が高すぎる患者には現実的な線まで下げる一方、希望を持ちたい患者には成功例も示しつつ前向きに検討します。このように、再生医療は魅力的な新技術ですがエビデンス面では課題が残るため、患者と医師の十分な情報共有と合意が必要不可欠です。

その他の再生医療的アプローチ: PRP以外に毛髪領域で模索されている再生医療として、幹細胞治療細胞移植があります。例えば脂肪由来幹細胞から抽出したサイトカインを頭皮に注入する治療、毛乳頭細胞を培養して移植する試みなどです。日本でも毛髪再生医療の研究は進んでおり、2020年代には毛包のクローン培養技術が報告されましたhiro-clinic.or.jp。しかし、これらはまだ研究段階であり、一般診療で利用できる段階ではありません。ガイドラインでも幹細胞を用いた治療は現時点で推奨されていませんdermatol.or.jp。今後、臨床試験で安全かつ有効と証明されれば、将来的に画期的な治療になる可能性がありますhiro-clinic.or.jp。現状では一部のクリニックが「幹細胞培養上清療法」などを自由診療で提供していますが、PRP以上にエビデンスが乏しく注意が必要です。


以上、脱毛症の各カテゴリーについて、日本の診療ガイドラインに準拠した知見を中心に解説しました。実臨床では一人の患者さんが複数の要因を持つこともあり、総合的な判断とオーダーメイドの対応が求められます。脱毛症治療は患者のQoL向上に直結する分野であり、医師は最新の知見を踏まえつつ、患者と二人三脚で最適な治療を模索していく姿勢が大切です。

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