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D27.美容皮膚科学 多毛症の治療 V1.0


D27.美容皮膚科学-多毛症の治療-V2.0

多毛症の治療に関する詳細な医学的解説

多毛症(Hirsutism・Hypertrichosis)の分類・原因と治療

1. 多毛症の分類と定義

「多毛症」とは、年齢・性別・人種における正常範囲を超えた過剰な体毛の増加を指す包括的な概念ですdermnetnz.org。この中には (a) 男性型多毛症(Hirsutism) と (b) 汎発性/局所性多毛症(Hypertrichosis) が含まれます。一般に 男性型多毛症 とは女性において本来女性には目立たない部位(顔面上唇・顎、胸部、下腹部正中、背部、太ももの内側など)に男性と同様のパターンで太く濃い終毛が過剰に生える状態を指し、しばしば体内のアンドロゲン(男性ホルモン)増加や感受性亢進が関与しますmsdmanuals.commsdmanuals.com。これに対し 汎発性多毛症(狭義のHypertrichosis)は男女を問わず、身体の広範囲または限局部位において全身的に体毛が増加する状態で、性ホルモン非依存的な軟毛の硬毛化(終毛化)が本態ですmsdmanuals.com。したがって、男性型多毛症(女性の男性型終毛の増加)はHypertrichosisに含まれる一 subtype ですが、その原因や臨床像が異なるため区別されますdermnetnz.orgaafp.org。なお、日本語では文脈により「多毛症」がHirsutismを指す場合もありますが、本稿では上記の通り区別して解説します。

分類: 多毛症はさらに発症時期と分布により分類されます。先天性後天性か、汎発性(全身性)か局所性かに分類でき、原因疾患や遺伝背景によって分類が重複することもありますdermnetnz.org。たとえば、非常に稀な先天性全身性多毛症として 先天性多毛症ランギノーザ(Congenital hypertrichosis lanuginosa) や 先天性終毛性多毛症(Congenital hypertrichosis terminalis) が挙げられ、いわゆる「狼男症候群」と俗称される全身の著しい多毛を呈しますdermnetnz.orgdermnetnz.org(先天性多毛症の一例: 顔面のうぶ毛が過剰に残存しているhttps://dermnetnz.org/topics/hypertrichosis)。一方、後天性のものは思春期以降に発症し、内分泌異常や薬剤、腫瘍など様々な要因が関与しうるものです。また限局性多毛症としては、生下時から特定部位に限って密毛を呈する「多毛性母斑」や、局所の慢刺激(慢性的な摩擦やギプス固定部位など)に伴う限局性多毛が知られますdermnetnz.org

以上をまとめると、多毛症は**「女性の男性型終毛増加(hirsutism)」「非男性型の全身または局所の体毛増加(hypertrichosis)」に大別され、さらに先天性/後天性および全身性/限局性**で分類されます。ただし実臨床では両者が混在する場合もあり(例:遺伝的体質による全身の毛深さと軽度の男性型多毛が併存するケースtokushima.med.or.jp)、個々の患者で症状分布と背景を丁寧に評価する必要があります。

2. 各分類における多毛症の原因

(1)先天性多毛症: 先天性にみられる汎発性多毛症は極めて稀で、遺伝子変異による毛周期制御異常が原因と考えられますdermnetnz.org。先述の 先天性多毛症ランギノーザ(出生時から胎毛様の軟毛が全身に残存する状態)や 先天性終毛性多毛症(出生時から全身に色素を有する終毛が密生する、歯肉過形成を伴う症候群)では、特定の遺伝子変異(例えば毛包調節遺伝子の変異)が報告されていますdermnetnz.orgdermnetnz.org。家族性に体毛が濃い素因も遺伝要因の一つで、特に地中海や中東、南アジア系の家系では女性にも体毛が濃い傾向が遺伝しやすいことが知られていますmsdmanuals.com。一方、限局性の先天性多毛(多毛性母斑)は局所的な毛包過誤腫に由来すると考えられます。

(2)後天性多毛症: 後天性に生じる多毛症の原因は多岐にわたりますが、以下のカテゴリに分類できます。

  • 遺伝的/体質的要因(特発性): 特に女性の男性型多毛症では、特発性多毛症(原因となるホルモン異常を認めない体質的な多毛)が多く、ある報告では全女性多毛症例の約5~15%を占めますaafp.org。特発性の場合、血中アンドロゲン値は正常範囲で月経も規則的であるものの、毛包がアンドロゲンに過敏なために軽度の男性型多毛を呈すると考えられますmsdmanuals.commsdmanuals.com。家族的に体毛が濃い傾向(上述の地中海系など)も関与し、「体質性多毛症」として扱われますtokushima.med.or.jpmsdmanuals.com
  • 内分泌性要因: 高アンドロゲン血症を伴う疾患が女性の男性型多毛症(hirsutism)の主要因です。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)はその代表で、女性多毛症の約70–80%を占める最も一般的な原因ですaafp.org。PCOSでは卵巣からの過剰アンドロゲン産生により月経異常、不妊、肥満、耐糖能異常などを伴い、臨床的に男性型多毛や痤瘡を呈しますaafp.orgaafp.org。その他の内分泌疾患としては、先天性副腎皮質過形成(CAH)の一型で思春期以降に軽症発症する非古典的21-水酸化酵素欠損症(NC-CAH)があり、女性の3~5%程度の多毛症原因となりますaafp.org。この場合、17-OHプロゲステロン高値や無月経・不妊を伴うことがありますaafp.org。さらにクッシング症候群(副腎皮質ステロイド過剰)や高プロラクチン血症甲状腺機能異常でもアンドロゲン代謝の乱れから多毛を呈することがありますaafp.org。ただしこれらは頻度的には稀な原因です。男性では内分泌異常で体毛が増えることはまれですが、思春期早発症などで一時的に体毛過剰が目立つ場合があります。
  • 腫瘍性要因: アンドロゲン産生腫瘍は女性の急激な重度多毛症(しばしば男性化徴候を伴う)を引き起こす重要な鑑別です。卵巣のライディッヒ細胞腫瘍や副腎皮質腺腫・癌が代表で、テストステロンやDHEA-Sが著明高値を示し、数ヶ月の間に急速に髭や体毛の増加、声低音化や筋発達、陰核肥大など男性化が進行しますaafp.org。こうした例は多毛症全体の<1%と稀ですが、数ヶ月での急速な発症重度の男性化症状は腫瘍を強く示唆する所見ですaafp.org。また、悪性腫瘍の傍腫瘍症候群として全身の産毛様の軟毛が増加すること(後天性ランギノーザ多毛症)も稀ながら報告されており、特に肺癌や大腸癌などで診断前に顔面のうぶ毛が著明になるケースがありますdermnetnz.orgdermnetnz.org
  • 薬剤性要因: 薬剤の副作用による多毛(Hypertrichosis)は比較的頻度の高い後天性要因です。代表的なものに ミノキシジル(育毛薬。外用・内服ともに多毛を来しやすい)dermnetnz.orgフェニトイン(抗てんかん薬)dermnetnz.orgシクロスポリン(免疫抑制剤。臓器移植後の多毛は有名)dermnetnz.orgダナゾール(アンドロゲン様作用をもつ子宮内膜症治療薬)msdmanuals.comタンパク同化ステロイドの乱用msdmanuals.comがあります。女性では一部の合成黄体ホルモン(高アンドロゲン活性を持つ第二世代ピルなど)も高用量で硬毛化を招くことがありますmsdmanuals.com。また思春期以降に経口避妊薬中止後に相対的アンドロゲン優位となり一過性に多毛が目立つケースもあります。これら薬剤性多毛は原因薬の中止により数ヶ月~1年で改善することが多いですが、やむを得ず継続する場合は症状に対処する必要があります。
  • その他の要因: 栄養不良全身疾患に伴う多毛も知られています。例えば極度の飢餓状態(神経性食欲不振症など)では体温保持の適応として全身に産毛(軟毛)が増加することがありますdermnetnz.org。またポルフィリン症(ポルフィリア)の一種である晩発性皮膚ポルフィリン症では、光過敏による瘢痕とともに顔面の多毛が生じることが古くから知られていますdermnetnz.org

以上のように、多毛症の原因は多岐にわたり、女性の男性型多毛症ではPCOSを筆頭に内分泌性(高アンドロゲン血症)が最多でありaafp.org、ついで特発性(体質性)薬剤性副腎・卵巣腫瘍非古典的CAHなどが鑑別に挙がります。一方、男女問わない汎発性多毛症では薬剤性悪液質(飢餓)遺伝性症候群などが考えられます。患者の性別・年齢と多毛の分布、付随症状を手掛かりに原因検索を行うことが重要です。

3. 多毛症の診断手順

診察と問診: 多毛を訴える患者では、まずその多毛の分布と程度が「男性型」(性的体毛部位)か「非性的部位」か評価します。男性型分布があれば女性ではhirsutismを念頭に内分泌学的評価が必要ですmsdmanuals.com。具体的には以下を確認します。

  • 家族歴・人種背景: 家族に毛深い体質の人がいるか、患者の民族的背景(地中海系など毛深さの基準が異なる)を確認します。
  • 発症時期と進行: 思春期以降徐々に進行している場合はPCOSなど慢性的原因を示唆し、数ヶ月以内に急激に進行している場合はアンドロゲン産生腫瘍の可能性がありますaafp.org。幼少時からなら先天性か体質的要因が示唆されます。
  • 月経・生殖歴: 女性の場合、月経不順(希発月経・無月経)はPCOSや高プロラクチン血症、CAHなどを疑わせますaafp.org。正常月経なら特発性や体質性多毛の可能性も考慮しますaafp.org。不妊歴や流産歴もPCOSや甲状腺機能異常を示唆します。
  • 他の症状: 痤瘡や脂漏性皮膚炎、男性型脱毛(頭頂部の薄毛)は高アンドロゲン状態の手掛かりです。声の低音化、筋肉量増加、陰核肥大など男性化徴候があればアンドロゲン過剰(特に腫瘍)の示唆ですmsdmanuals.com。体重増加・満月様顔貌はクッシング症候群、乳汁漏出は高プロラクチン血症、色素沈着や皮膚線条はクッシングやインスリン抵抗性(PCOS)の所見として確認しますendocrine.orgendocrine.org
  • 薬剤使用歴: 抗てんかん薬、免疫抑制剤、ホルモン製剤、漢方薬含め、関連薬の使用有無と期間を聴取します。

身体診察: 多毛の分布と毛質を観察します。女性の男性型多毛の重症度評価には改良Ferriman-Gallweyスコアが用いられ、9つの部位(上唇、顎、胸、上腹部、下腹部、上腕、大腿、背部、臀部)について体毛の濃さを0(なし)~4(男性並みに濃い)で評価し合計点を算出しますaafp.org。白人女性では8点以上が多毛症と定義されますが、民族によって正常範囲が異なり、例えばアジア人では2点以上が基準と報告されていますaafp.org。もっとも、スコア評価は主観的で処理済みの毛は評価に入らないなど限界があるため、患者本人が「望まない過剰な毛」と感じるか(patient-important hirsutism)を重視するのが実際的ですaafp.org。診察では加えて男性化徴候(声質、筋肉量、痤瘡、陰核のサイズなど)の有無、肥満の程度(BMI)や黒色表皮腫の有無(インスリン抵抗性の指標)も評価しますendocrine.orgendocrine.org。男性では年齢相応かを判断し、思春期前の男子であれば性早熟の所見を確認します。

検査: 女性の男性型多毛症が疑われる場合、内分泌学的検査を行います。推奨される初期検査には以下があります。

  • 血中アンドロゲン測定: 総テストステロン値および**デヒドロエピアンドロステロン硫酸(DHEA-S)**は基本検査です。多毛症女性では 全例でこれらの測定が推奨され、PCOSや他の原因の鑑別に有用ですendocrine.org。卵巣由来のアンドロゲン過剰ではテストステロン高値、副腎由来ではDHEA-S高値が目立つ傾向があります。遊離テストステロンも測定できれば感度が高まります。著明高値(例:テストステロン >200 ng/dL, DHEA-S >700 μg/dLなど)は腫瘍性を示唆します。
  • 副腎アンドロゲン前駆体: 17-ヒドロキシプロゲステロンは非古典的先天性副腎過形成(21水酸化酵素部分欠損)のスクリーニングとなりますaafp.org。早朝の測定で高値の場合、確定にはACTH刺激試験を行いますaafp.org
  • 性腺機能: PCOSが疑われる場合、LH・FSH比の高値やAMH高値も参考になります(日本の基準ではPCOS診断に卵巣多嚢胞所見が必須である一方、欧米では高アンドロゲンの定義に臨床多毛を含める)jsog.or.jpclinicalsup.jp
  • 甲状腺機能・プロラクチン: 希発月経や不妊があるケースではTSHプロラクチンも測定し、甲状腺機能低下症や高プロラクチン血症の有無を確認しますaafp.org。これらは直接の重度多毛原因であることは少ないものの月経異常の原因となりうるため、PCOSとの鑑別の一環です。
  • 血糖・脂質: PCOSではインスリン抵抗性の評価として空腹時血糖・インスリン、HbA1c、脂質プロファイルもチェックします。

画像診断: 血中アンドロゲン値が極端に高い場合や急激な症状進行例では、アンドロゲン産生腫瘍の検索を行います。具体的には経腹的または経腟超音波で卵巣腫瘍を、腹部CT/MRIで副腎腫瘍を評価しますmayoclinic.org。腫瘍が疑われる所見(例:片側性の卵巣容積増大、明らかな副腎腫瘤など)があれば専門医へ速やかにコンサルトします。またPCOSの診断目的で骨盤超音波による卵巣多嚢胞所見の確認を行うこともあります(PCOSでは片側卵巣に12個以上の小卵胞や卵巣容積増大を認めます)。一方、男性や小児で全身的な多毛がある場合、内臓悪性腫瘍を疑う所見があれば年齢や症状に応じて**画像検査(胸部X線・消化管内視鏡など)**を検討します(ただし悪性腫瘍に伴う多毛は稀です)。必要に応じ皮膚科や内分泌科と連携し、鑑別疾患に応じた検査(例えば皮膚生検や遺伝子検査など)を追加します。

以上の診断手順により、多毛症が内分泌疾患によるHirsutismなのか、体質的なHypertrichosisなのか、あるいは他の原因かを鑑別します。特に女性の多毛症ではPCOSの有無を評価し(PCOSは見逃すと生殖や代謝面で長期管理が必要なため重要ですendocrine.org)、腫瘍の見落としがないよう留意します。原因に応じたアプローチにつなげることが診断の目的です。

4. 治療選択肢

多毛症に対する治療は、(a) 過剰な毛そのものを減らす局所的・物理的アプローチと、(b) 背景にある原因やホルモン状態を是正する全身的アプローチに大別されます。患者の症状の程度や原因疾患、治療へのニーズに応じて、これらを組み合わせて治療戦略を立案します。以下に主な治療法とその特徴を解説します。

脱毛療法(レーザー脱毛、IPL、電気脱毛など)

**物理的な脱毛(エピレーション)**は、直接的に過剰な毛を除去する対症療法で、美容的観点から多毛症管理の重要な柱です。特に レーザー脱毛 は現在広く行われており、半永久的な減毛効果が期待できます。加えて 光脱毛(IPL) や 電気脱毛(ニードル脱毛) も状況に応じて用いられます。それぞれの特徴は以下の通りです。

  • レーザー脱毛: 毛包のメラニン色素に選択的に吸収される波長のレーザー光を照射し、熱破壊によって毛母細胞を破壊します。代表的な機器にはアレキサンドライトレーザー(755nm)、ダイオードレーザー(810nm前後)、ヤグレーザー(Nd:YAG, 1064nm)などがあり、皮膚タイプや毛質に応じて使い分けます。レーザー脱毛は黒色〜茶色の毛に高い効果を示し、成長期(アナゲン期)の毛に作用するため4~8週間間隔で5~8回程度の反復照射が必要です。その結果、永久減毛(長期的な毛量減少)効果が得られ、多くの研究で50%以上の毛量減少が報告されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。副作用としては照射時の疼痛、毛嚢炎や一時的な紅斑・浮腫が一般的ですが、稀に熱傷や色素沈着を生じることがあります。特に地肌の色が濃い肌タイプ(IV以上)ではメラニンへの吸収が過剰となり易く、低出力設定や長波長レーザー(例:Nd:YAG)の使用で対応しますendocrine.orgmayoclinic.org。逆に白髪や金髪ではメラニンが少ないためレーザーの効果が乏しく、この場合は後述の電気脱毛が適しますmayoclinic.orgmayoclinic.org。レーザー脱毛の禁忌は明確にはありませんが、光過敏症のある患者、照射部位に重度の炎症や感染がある場合は避けます。また妊娠中の安全性は確立していないため通常は出産まで延期します。
  • IPL(Intense Pulsed Light): フラッシュランプによる波長範囲の広い光エネルギーを用いた脱毛法で、一見レーザーに似ていますが非単一波長である点が異なります。IPLは肌への刺激がマイルドで一度に広範囲を処理できる利点がありますが、レーザーに比べると毛包へのエネルギー集束性が低く脱毛効果はやや弱いとされていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov(使用機器や設定により異なる)。やはり黒色~茶色の毛に有効ですが、肌色が濃い場合の施術は慎重を要し、適切なフィルターとパラメータで行わないと火傷のリスクがあります。IPLも複数回の施術で長期減毛効果を得られますが、レーザーと比べてより多くの回数を要することがあります。
  • 電気脱毛(ニードル電気分解脱毛): 細い針(プローブ)を毛穴に挿入し、電流(高周波または直流)を流して毛包組織を一つずつ破壊する方法ですmayoclinic.org。歴史的には最も確実な永久脱毛法であり、毛の色や太さ、肌質に左右されず白髪や産毛にも有効という利点がありますmayoclinic.org。一方で処置に痛みを伴い(部位により局所麻酔クリームなどで緩和可能mayoclinic.org)、熟練を要し処置時間が長いこと、広範囲の施術では費用も高額になることがデメリットですmayoclinic.org。炎症後色素沈着やごく稀に瘢痕形成のリスクもありますが、適切に行えば安全性は高い手法です。主に少数の毛を確実に除去したい場合(例:レーザー無効の白髪や残存毛の処理)に併用されますmayoclinic.orgmayoclinic.org
  • そのほかの除毛法: シェービング(剃毛)ワックス脱毛毛抜きや糸を用いた抜毛脱毛クリーム(化学的除毛剤)などは手軽な自己処理法として広く行われています。これらは一時的に毛を除去する対処療法であり、毛根への作用はないため数日~数週間で毛は再生しますaafp.org。ただし「剃毛すると毛が濃く太くなる」という俗説がありますが、ヒトにおいて剃毛が毛を濃くするエビデンスはなくtokushima.med.or.jpmayoclinic.org、適切に行えば安全です。ワックスや薬剤による除毛は皮膚刺激や皮膚炎を起こすことがあり、敏感肌では注意が必要です。

以上のような脱毛療法は即効性があり見た目の改善に直結するため、多毛症患者のQOL改善に重要です。特にレーザー脱毛は、女性の顔面多毛など美容的悩みに対し高い満足度をもたらしpubmed.ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.gov心理的ストレスの軽減にも寄与しますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。治療効果を高めるため、医療用レーザーによる施術では毛周期に合わせた間隔で通院できるよう説明し、色素沈着防止のため術前後の日焼けを避ける指導が重要です。また後述する薬物療法と組み合わせることで、より効率的かつ持続的な脱毛効果が期待できますpubmed.ncbi.nlm.nih.govmayoclinic.org

内服薬による全身療法(抗アンドロゲン療法など)

多毛症のうちホルモン異常が関与するケース(特に女性の男性型多毛症)では、内服薬による全身的治療が有効です。特に抗アンドロゲン療法は、過剰なアンドロゲンの作用を抑制することで毛の成長そのものを鈍化させ、長期的な発毛抑制に寄与しますmayoclinic.org。代表的な内服治療を以下に挙げます。

  • 経口避妊薬(Combined Oral Contraceptives; COC): エストロゲンとプロゲスチンの合剤で、卵巣由来のアンドロゲン産生を抑制するとともに肝臓での性ホルモン結合グロブリン(SHBG)産生を増加させて遊離テストステロン濃度を低下させる作用がありますendocrine.org妊娠を希望しない女性の多毛症治療第一選択と位置付けられておりendocrine.orgaafp.org、特にPCOSに伴う多毛では月経管理も兼ねて広く用いられます。6ヶ月以上の継続内服で患者報告による多毛の改善が認められ、多くのRCTでプラセボより有意な有効性が示されていますaafp.org。エチニルエストラジオール30–35µgに抗アンドロゲン作用を持つプロゲスチン(例えば酢酸シプロテロンやドロスピレノンなど)を含むピルがしばしば選択されます。ただ近年のガイドラインでは配合薬の種類に関わらず効果に大差はないとされpubmed.ncbi.nlm.nih.gov、患者のリスクに応じたピルを選択すればよいとされていますendocrine.org。副作用は血栓症リスク(35歳以上の喫煙者や肥満者では禁忌)、吐き気、乳房緊満感、体重増加、頭痛などがあり得ますが、重大な合併症のない若年女性では安全性は高いですendocrine.org。COCは単剤で軽度~中等度の多毛に有効ですが、6か月使用しても患者が十分な改善を感じられない場合、抗アンドロゲン薬の追加を検討しますaafp.org
  • 抗アンドロゲン薬: アンドロゲン受容体に拮抗し、体毛へのアンドロゲン作用を直接ブロックする薬剤です。代表は スピロノラクトン(利尿薬の一種)、フルタミド(非ステロイド性抗アンドロゲン薬)、シプロテロン酢酸(CPA)(合成黄体ホルモンで強力な抗アンドロゲン作用を持つ)などがあります。日本で承認されているのはスピロノラクトンのみですが、欧米ではCPAを含むピルが一般的に使われ、フルタミドやフィナステリド(後述)も適応外で用いられます。
    • スピロノラクトン: アルドステロン拮抗利尿薬ですが、アンドロゲン受容体を競合的に遮断し、さらに末梢組織での5α還元酵素阻害作用によってテストステロンの活性型(DHT)への変換を抑える作用がありますmayoclinic.org。多毛症治療では 1日50–100mgから開始し漸増(最大100–200mg/日)します。効果は穏やかであり、目に見える改善には最低6か月を要しますmayoclinic.org。臨床試験ではスピロノラクトン単独で有意な多毛スコア改善(Ferriman-Gallweyスコア低下)が認められpubmed.ncbi.nlm.nih.gov、その効果量はフルタミドやフィナステリドと概ね同等と報告されていますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。副作用として多尿・低血圧など利尿薬作用に伴うもののほか、月経不順や乳房圧痛、軽度の高カリウム血症(健常若年女性では稀)がありますmayoclinic.org。催奇形性(男性胎児の女性化)の可能性があるため服用中は避妊が必須ですmayoclinic.org。日本ではニキビ治療などで用いられることもありますが、多毛症への使用はオフラベルです。
    • フルタミド: 去勢抵抗性前立腺癌の治療薬で、強力なアンドロゲン受容体遮断作用があります。多毛症への有効性も高く、2編のRCTでFerriman-Gallweyスコアをプラセボより7点以上改善していますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。一方で重篤な肝障害(劇症肝炎を含む)の副作用リスクが報告されており、現在では多毛症には基本的に用いられませんpubmed.ncbi.nlm.nih.gov
    • 酢酸シプロテロン(CPA): 強力な黄体ホルモン作用と抗アンドロゲン作用を併せ持ち、欧州では単剤またはエチニルエストラジオールとの合剤(商品例: Diane-35)として多毛症治療に広く用いられてきました。Ferriman-Gallweyスコア改善効果は他の抗アンドロゲンと同程度でpubmed.ncbi.nlm.nih.gov、とくにCOCとの併用で高い有効性を示しますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。一方、CPA含有ピルは静脈血栓症リスクが他のピルより高い可能性も指摘され、一部の国では処方制限があります。日本ではCPA含有薬は承認されていません。
  • 5α還元酵素阻害薬: フィナステリドはテストステロンをより活性の高いジヒドロテストステロン(DHT)に変換する5α還元酵素(II型)の阻害薬で、本来男性型脱毛症治療薬ですが、女性の多毛症にも併用されることがあります。作用機序上、卵巣・副腎からのテストステロン産生自体は抑えませんが、毛包でのDHT生成を減らすことである程度の発毛抑制効果があります。RCTでは6か月以上の投与で有意な多毛改善が報告され、効果の大きさはスピロノラクトンやフルタミドと同程度とする報告もありますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。副作用は性欲減退や乳房圧痛などが少数報告される程度ですが、催奇形性があるため女性には基本的に閉経後や確実な避妊下でしか使用できません。また保険適用外です。
  • その他の全身療法:
    • グリコピラン類薬(GnRHアゴニスト): 連用により低エストロゲン状態を作り卵巣アンドロゲン産生を抑制しますが、更年期様症状や骨密度低下を来すため、多毛症には最終手段ですaafp.org。重度のPCOSで他の治療無効例にのみ検討されます。
    • インスリン感作薬(メトホルミンなど): PCOS治療で使われますが、多毛そのものの改善効果はないため単独では推奨されませんaafp.org。ただしメトホルミン併用がレーザー脱毛の効果を増強したとの報告もありpubmed.ncbi.nlm.nih.gov、代謝改善目的と併せて用いることがあります。
    • 副腎糖質コルチコイド: 非古典的先天性副腎過形成(21-OH欠損)では低用量のステロイド補充によりACTH駆動を抑えて過剰な副腎アンドロゲン産生を低下させ、多毛や月経を改善できます。プレドニゾロン5mg/日相当から開始し、過量投与によるクッシング症状に注意しつつ調整します。ステロイドで不十分な場合のみ抗アンドロゲン薬を追加しますaafp.org
    • その他の原因治療: 甲状腺機能異常や高プロラクチン血症があれば、その補正(甲状腺ホルモン補充やドーパミン作動薬)により間接的に多毛が改善する可能性があります。

外用療法(エフロルニチンなど)

エフロルニチン(Eflornithine)クリームは、多毛症(特に女性顔面の多毛)に対する唯一の医薬品外用剤です。毛包中のオルニチン脱炭酸酵素を阻害して毛の細胞増殖を抑え、新生毛の成長速度を遅らせる作用がありますmayoclinic.org。商品名Vaniqa®として13.9%クリームが海外では市販されており、1日2回患部(顔の不要な毛の生えている部分)に塗布しますmayoclinic.org。効果発現には4~8週間ほどかかり、産毛化・発毛スピード低下により見かけ上毛が目立ちにくくなりますmayoclinic.org既存の毛を除去する効果はないため、除毛処理(シェービング等)と並行して使用し、レーザー脱毛との併用で相乗効果が得られますmayoclinic.org。臨床試験ではプラセボに比べ有意な効果が確認されていますが、その効果はあくまで一時的であり、使用を中止すると数ヶ月で元の毛量に戻ります。副作用は塗布部位の軽いざ瘡、発赤、刺激感などで、安全性は比較的良好ですokusurinavi.shopunidru.com。日本では本薬は未承認で入手困難ですがunidru.com、海外では女性の顔面多毛に対する重要な補助療法となっています。

原因疾患に対する治療

多毛症が何らかの基礎疾患の一症状である場合、その原因治療が根本的対策となります。したがって診断に応じて以下のような対応を行います。

  • PCOS(多嚢胞性卵巣症候群): 体重過多の患者では減量や運動による生活習慣改善が推奨され、代謝状態の改善により多毛もわずかながら改善する可能性がありますendocrine.org(※大幅減量で男性ホルモン値が低下するため)。生理不順や挙児希望に応じてクロミフェンやレトロゾールによる排卵誘発、メトホルミンによる月経改善を図ります。ただしこれらは直接の多毛改善策ではないため、美容的観点ではCOCや脱毛処理を並行します。PCOSはインスリン抵抗性や脂質異常も伴いやすいため、内科的フォローも継続し将来的なリスク低減を図ります。
  • 副腎・卵巣のアンドロゲン産生腫瘍: 良性腫瘍であれば手術による摘出が第一選択です。例えば卵巣のSertoli-Leydig細胞腫瘍や副腎皮質腺腫が見つかれば婦人科/泌尿器科での摘出術によりアンドロゲン過剰状態は速やかに解消し、多毛も進行停止します。悪性腫瘍(副腎癌など)の場合は腫瘍治療が最優先ですが、治療と平行して多毛症状には対症療法(脱毛処理や薬物療法)を行います。
  • 非古典的副腎過形成(21-OH欠損): 上述したように少量の副腎ステロイド補充療法を行います。これにより過剰なアンドロゲン産生が低下し、徐々に多毛やニキビが改善しますaafp.org。思春期~若年成人では将来の身長や肥満リスクとも考慮し、必要最低限の量を使用します。多毛が強い場合は抗アンドロゲン薬追加も検討しますaafp.org
  • クッシング症候群: 副腎あるいは下垂体腫瘍によるクッシング症候群では、外科的切除や薬物療法(副腎ステロイド合成阻害薬など)により原因を取り除きます。高コルチゾール状態が是正されれば多毛も軽減することが期待できます。ただし長期罹患例では毛包が男性化してしまっている可能性があり、治療後も残存する多毛には脱毛療法が必要となることがあります。
  • 甲状腺・高プロラクチン血症: 甲状腺機能低下症ではレボチロキシン補充、高プロラクチン血症では原因に応じドーパミン作動薬や経過観察を行います。これらに伴う多毛は軽度であることが多く、是正により皮膚・毛の状態も改善する可能性があります。
  • 薬剤性多毛: 原因薬が特定できる場合、可能であれば中止または代替薬への変更を検討します。たとえばミノキシジルの内服を中止すれば数ヶ月で過剰な体毛は自然脱落していきます。免疫抑制剤など不可欠な薬剤で生じた多毛には、患者のQOLを考慮しつつ脱毛処理など対症療法を提供します。

以上のように、原因疾患の治療は多毛症管理の基盤となります。原因治療のみで毛が完全に元通りになることは稀であり、症状への直接アプローチ(脱毛や抗アンドロゲン療法など)を組み合わせることが多いですが、原因への対処なくして根本的解決は困難です。

5. 治療戦略の立案と長期管理

多毛症の治療は上述の選択肢を患者一人ひとりの背景に合わせて組み合わせる必要があります。治療戦略を立案する際のポイントをまとめます。

  • 患者の主訴と治療目標の確認: まず患者がどの程度の体毛を問題視しているか、どの部位の毛を減らしたいのか、美容上の悩みなのか生殖・健康上の懸念なのかを明確にします。患者の感じるQOL低下の度合い(対人不安や抑うつ傾向の有無)も評価しますendocrine.org。軽度で本人のストレスも小さい場合は経過観察や簡易な脱毛処理から開始し、患者が強い希望を持つ場合にはより積極的治療を検討します。
  • 生殖希望の有無: 妊娠を希望するか否かで治療選択は大きく異なります。妊娠希望がない場合、経口避妊薬(COC)や抗アンドロゲン薬などホルモン療法を積極的に用いることができますendocrine.org。逆に妊娠を希望する場合、COCは避けねばならず、抗アンドロゲン薬も催奇形性のため禁忌ですmayoclinic.org。したがって挙児希望の場合は排卵誘発など原疾患治療を優先し、過剰な体毛に対してはレーザー脱毛やシェービングなど物理的対処で凌ぐ形になります。妊娠中・授乳中もホルモン療法は避け、必要最低限の対処(剃毛など)に留めます。
  • 症状の重症度: 多毛の程度が重度(Ferriman-Gallweyスコアで20以上など)であったり、患者の精神的苦痛が大きい場合は、複数の治療法を組み合わせた集中的アプローチが望ましいですpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。例えばCOCとスピロノラクトン併用は単独より効果的との報告がありpubmed.ncbi.nlm.nih.gov、さらに並行してレーザー脱毛を行えば既存の毛を減らしつつ新生毛の発生も抑える相乗効果が得られますmayoclinic.org。逆に軽症であればまずはシェービングや脱色など簡便な方法やCOC単独から開始し、経過を見て追加介入を判断しますendocrine.org
  • 原因に沿った順序立て: 原因疾患がある場合はまずその治療から着手し、それによる効果を見極めつつ不足分を他の方法で補う方針が基本です。例えばPCOS患者では生活指導とCOC内服で6ヶ月経過を見て、多毛が残存するようならレーザー脱毛や抗アンドロゲン追加を考えます。腫瘍が見つかった場合は腫瘍摘出後しばらく経過を観察し、毛が残れば対症療法を検討します。
  • 治療効果のモニタリング: いずれの治療も即時に完全な効果は得られないため、数ヶ月単位で効果判定を行います。薬物療法では少なくとも6ヶ月、レーザー脱毛も完了まで半年~1年を要するため、患者にあらかじめ期間の目安を説明し現実的な期待値を共有することが大切ですmayoclinic.org。効果判定はFerriman-Gallweyスコアの再評価や写真比較、患者自身の満足度で行います。改善が不十分なら治療強化(薬剤追加、別手法の導入)を検討し、良好なら維持療法に移行します。
  • 維持療法と長期管理: 多毛症の背景にPCOSなど慢性的状態がある場合、治療は長期戦となります。COCや抗アンドロゲンは中止すれば再び毛が濃くなる可能性が高く、症状が気にならなくなるまで継続します(副作用に留意しつつ定期フォロー)。レーザー脱毛も完了後も稀に新生毛や一部再生が起こり得るため、必要に応じ年1回程度の追加照射を提案します。長期管理では定期的に血圧や体重、内分泌学的パラメータ(PCOSなら糖代謝や脂質プロファイルなど)もチェックし、内科的合併症のケアも行います。
  • 心理社会的支援: 多毛症、とりわけ顔面の多毛は患者にとって深刻な心理的ストレス源となり得ますendocrine.org。治療により多くの患者で不安や自己評価が改善しますが、それまではカウンセリングや患者同士のピアサポートなど心理面の支援も有益です。必要に応じ精神科とも連携し、うつ症状があれば治療します。医療者は患者の悩みに共感しつつプライバシーに配慮し、治療選択を共に決めていく姿勢が重要です。

以上のように、個々の患者について**「原因治療」「全身療法(内服)」「局所療法(脱毛)」**のバランスを考慮し、患者の希望とライフプランに即したオーダーメイドの治療プランを立てます。例えば、「若年女性PCOSで妊娠希望なし」ならまずCOCで内分泌改善しつつレーザー脱毛を併用、「妊娠希望あり」なら内科的管理+機械的脱毛、「特発性で軽度」なら経過観察中心に必要時脱毛処理、といった具合です。治療開始後も効果と副作用をモニターしながら柔軟に方針修正し、患者と長期にわたり協働して管理していくことが肝要です。

6. 最近の研究動向およびエビデンス

多毛症(特に女性のHirsutism)の治療に関して、近年いくつかの重要な知見とエビデンスの集積がみられます。

  • 臨床ガイドラインの更新: 2018年に米国内分泌学会が発表した臨床診療ガイドラインでは、「男性型多毛症が疑われる全ての女性でアンドロゲン測定を行う」ことが推奨されましたendocrine.org(従来は中等度以上のみ推奨でしたが、PCOSなどの見逃し防止のため推奨対象が拡大されました)。さらに治療に関して、妊娠を希望しない女性では第一選択としてCOCを用いること、血栓症リスクのない限り配合種類は問わないこと、6か月経過後も改善が不十分な場合に抗アンドロゲン薬追加を考慮することが示されていますendocrine.orgaafp.org。減量については直接の多毛治療にはならないが健康改善のためPCOS合併例では推奨されていますendocrine.org。またレーザー脱毛(photoepilation)は黒~茶色の毛に、有色毛には電気脱毛を推奨し、肌色の濃い患者では長波長・ロングパルスの光源を用いるべきとの勧告もなされていますendocrine.org。ガイドライン策定以降も、実地臨床でこれら推奨に沿った診療が行われるようになっています。
  • 薬物療法の有効性に関するエビデンス: 2010年代に行われた複数のメタ解析・レビューから、各薬物の相対的効果が明らかになっています。コクランレビュー(2015年)では157試験・約10,000例のデータ分析により、COCはいずれの種類もFerriman-Gallweyスコアを有意に低下させる効果が確認され、配合する黄体ホルモン種別による有効性差は統計的に有意でないと報告されましたpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。またスピロノラクトンフルタミドはいずれもプラセボより明らかに有効で(スコア差約-7点)pubmed.ncbi.nlm.nih.govスピロノラクトンvsフルタミド、スピロノラクトンvsフィナステリドでは有意差がなく概ね同等の効果とされていますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。一方、フィナステリドGnRHアゴニストは試験間で結果が不統一で明確な結論が出ておらず、メトホルミンは単独ではプラセボ同等で有効性が認められないと結論づけられましたpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。こうしたエビデンスにより、「COCを基本とし、必要に応じ抗アンドロゲンを追加」「インスリン感作薬は多毛目的では推奨しない」という現在の標準的アプローチが裏付けられていますaafp.org。さらに最近のネットワークメタ解析では、COCと抗アンドロゲンの併用が単独に比べ有意に有効との結果も報告されつつありますthelancet.com。実際カナダのガイドライン(2023年JOGC#444)などでも、3本柱として「機械的除毛+アンドロゲン産生抑制(COC)+アンドロゲン受容体遮断(抗アンドロゲン薬)」の組み合わせを強調していますjogc.com
  • 脱毛技術の進歩と検証: レーザー脱毛に関しては、従来経験的に知られていた有効性が近年RCTやレビューで定量的に示されています。Alexandriteレーザー vs IPLの直接比較では、Alexandriteの方が有意に有効との報告やpubmed.ncbi.nlm.nih.gov、アジア人を対象とした研究でNd:YAGレーザーは安全性高いが効果はAlexやIPLにやや劣ることpmc.ncbi.nlm.nih.govが示されました。一方、新たな試みとして内科的治療との併用による相乗効果も検証されています。例として2024年の系統的レビューでは、レーザー脱毛とCOCやメトホルミンの併用がレーザー単独より効果的であったと報告され、特にPCOS患者でダイオードレーザー+COCレーザー+メトホルミンの組み合わせが有望と示唆されていますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。これらは今後さらなる大規模研究が望まれますが、多面的アプローチの有効性を裏付けるものです。またレーザーの波長やモードも改良が進み、蓄熱式(SHRモード)IPLなど痛みを軽減しつつ効果を保つ技術も登場しています。さらに在宅用の低出力レーザー/IPLデバイスも市販されており、中等度までの多毛に自己処理として補助的に使われるケースもあります。ただし医療機関の機器に比べ出力が低く効果も限定的なため、重度の多毛では医療脱毛が推奨されます。
  • 新規治療の研究: 抗アンドロゲン療法では外用の開発も進んでいます。2020年に米国で承認されたクロラスロテロン(Clascoterone)クリーム1%は皮膚でのアンドロゲン受容体阻害剤で本来尋常性痤瘡治療薬ですが、理論上多毛症(特に顔面)にも応用可能であり、実臨床で使用したケース報告では女性の顔面多毛にも一定の改善がみられたとの報告がありますpmc.ncbi.nlm.nih.govpracticaldermatology.com。まだ正式適応ではありませんが、将来的に局所抗アンドロゲン療法が加われば全身副作用を抑えて部分的な多毛を治療できる可能性があります。また、PCOSに対する新薬や、毛包の分子標的治療(例えば毛乳頭のシグナル伝達阻害)なども研究段階にあります。さらには光遺伝学ナノ粒子を用いて毛包幹細胞を制御する先端的研究も報告されておりpubmed.ncbi.nlm.nih.gov、遠い将来には毛包そのものを選択的に不活化するような治療法が開発されるかもしれません。
  • エビデンスの限界: 多毛症治療の研究では、プライマリ評価項目が患者満足度や写真評価など主観的なものが多く、試験デザインも異質性が高いためメタ解析に限界がありますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。特に皮膚色の多様性人種差に関する十分なデータがなく、今後は様々なバックグラウンドの患者を対象にした研究が求められていますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。加えて美容医療分野ではプラセボ対照試験の実施が難しい面もあり、治療の真の有効性評価には工夫が必要です。今後も大規模なRCTや長期的な観察研究により、最適な治療組み合わせや新規療法の位置づけが確立していくことが期待されます。

7. ガイドラインと保険適用状況(日本および海外)

海外のガイドライン: 女性のHirsutismに関する代表的なガイドラインとして、米国内分泌学会(Endocrine Society)の2018年版endocrine.orgendocrine.orgや、カナダ産科婦人科学会(JOGC)の2023年ガイドライン、欧州内分泌学会・皮膚科学会の見解などがあります。これらはいずれも**「内分泌学的評価の徹底」「第一選択治療はCOC」「抗アンドロゲン追加は6ヶ月後検討」「永久脱毛法の適切な活用」といった大枠で一致しており、細部での推奨度は多少異なるものの総じて同じ方向性ですendocrine.orgaafp.org。例えば米国ガイドラインはFerriman-Gallweyスコアに関わらず全例で原因検索を推奨しendocrine.org、COC選択は患者毎のリスクプロファイルに基づき副作用の少ない製剤を用いること、抗アンドロゲン使用時は必ず避妊を併用することなど安全面にも言及していますendocrine.orgmayoclinic.org。また欧米では酢酸シプロテロン(CPA)** が使用可能なため、CPA含有COCが多毛治療に頻用される点が日本との違いです。もっとも近年はCPAのリスクも考慮し、「COCの種類は問わない」とのエビデンスpubmed.ncbi.nlm.nih.govからドロスピレノンなど他の抗アンドロゲン性プロゲスチン使用が増えています。

日本の状況: 日本には多毛症単独の治療ガイドラインは存在しませんが、関連領域として多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の診療指針(日本産科婦人科学会)や日本皮膚科学会のレーザー治療ガイドラインなどに言及があります。PCOS指針では高アンドロゲン症状への対策として低用量ピルの使用が推奨されており、特に月経異常の是正と避妊を兼ねてヤズ®などドロスピレノン含有ピルが用いられることが多いですnagatsuta-lc.com。一方、日本ではスピロノラクトンやフィナステリドを女性多毛症に使うことは公式には推奨されておらずオフラベルです。しかし実臨床では皮膚科や美容領域で少量のスピロノラクトン投与が行われるケースもあります。またエフロルニチン外用は前述の通り未承認のため、患者は海外から個人輸入するしかありませんunidru.com。レーザー脱毛に関しては、日本皮膚科学会や日本レーザー医学会の講習会等で適切な手技の教育がなされていますが、ガイドラインという形では示されていません。総じて、日本の多毛症治療は欧米のエビデンスに準拠しつつ、日本国内で利用可能な治療を選択する形になっています。

保険適用状況: 日本の公的医療保険では、多毛そのものは美容上の問題とみなされるため、脱毛治療は原則適用外(自費診療)です。医療用レーザー脱毛や電気脱毛は、美容皮膚科クリニック等で自費で提供されており、費用は部位や範囲によって異なります。例外的に、女性における著明な男性型多毛症が何らかの疾患の症状と判断される場合(例えば副腎腫瘍の術後残存症状など)に、医師の裁量で保険診療として電気脱毛を行ったケース報告もありますが、極めて稀です。また戸籍上男性→女性への性別適合手術後の永久脱毛について公的保険適用を求める声もありますが、2025年現在実現していません。薬物療法に関しては、PCOSの治療として低用量ピルや排卵誘発剤の処方が保険適用されることがあります(例えば月経異常の病名でピル処方など)。しかし「多毛症」を適応とする薬剤はなく、スピロノラクトンも女性への投与は適応疾患(高血圧や浮腫など)がない限り保険で出すのは難しいのが現状です。フィナステリドは男性型脱毛症治療薬として男性には保険適用外(自費)処方されているものの、女性には禁忌です。エフロルニチンは未承認であるため論外です。したがって日本では、多毛症に対する治療の大部分が保険外となり、患者の経済的負担は小さくありません。海外では国によって事情が異なり、例えば米国ではVaniqa®クリームはFDA承認されているため民間保険でカバーされる場合もありますし、COCやスピロノラクトンも保険(プラン)次第では自己負担少なく入手できます。欧州でも多毛症自体は美容領域とされる傾向がありますが、PCOS管理の一環としてCOCが処方されたり、重症例では心理的苦痛に鑑みて永久脱毛費用を公的補助する国もわずかに存在します。日本でも将来的に、PCOSに伴う多毛など医学的介入が必要なケースでは保険適用を検討すべきとの意見がありますが、現状では美容医療と疾病治療の線引き上困難が伴います。

総括: 多毛症の診療は内分泌・婦人科・皮膚科・美容外科領域が交錯する分野であり、エビデンスに基づいた適切な対応が求められます。患者の悩みに寄り添い、安全かつ効果的な治療戦略を提供するために、本稿で述べた分類・原因の理解から最新の治療エビデンス、そして医療制度上の制約までを踏まえて包括的にマネジメントしていくことが重要です。

表: 多毛症の主な治療法と特徴

治療法主な作用・効果副作用・留意点
レーザー脱毛(アレキサンドライト等)メラニン標的の光熱破壊で毛母を破壊し長期減毛mayoclinic.org。黒〜茶毛に有効。照射時疼痛、紅斑・毛嚢炎。濃い肌では色素変化・火傷注意mayoclinic.org。白髪には無効。
電気脱毛 (ニードル脱毛)毛包に針通電し一本ずつ破壊し永久脱毛mayoclinic.org。毛の色や細さに無関係。強い痛み(麻酔クリーム併用可mayoclinic.org)、高コスト。熟練要し瘢痕リスクわずかにあり。
経口避妊薬 (エストロゲン+プロゲスチン)卵巣アンドロゲン産生抑制+SHBG増加で遊離テストステロン低下endocrine.org。6ヶ月以上で多毛改善aafp.org血栓症リスク(喫煙者・肥満は禁忌)、体重増加、乳房圧痛などendocrine.org。長期管理が必要。
スピロノラクトン (抗アンドロゲン利尿薬)アンドロゲン受容体拮抗+5α還元酵素阻害で毛への作用減弱mayoclinic.org。中等度多毛に有効。6ヶ月以上で効果mayoclinic.org高K血症(まれ)、月経不順mayoclinic.org。催奇形性あり必ず避妊併用mayoclinic.org。日本では適応外。
フィナステリド(5α還元酵素阻害)テストステロン→DHT変換阻害で毛包へのDHT作用低減。中等度効果(抗アンドロゲンと同程度pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)。性機能障害(男性)、催奇形性(妊婦禁忌)。女性への使用は閉経後限定が望ましい。
フルタミド (非ステロイド抗アンドロゲン)強力なアンドロゲン受容体遮断で多毛を大きく改善pubmed.ncbi.nlm.nih.gov重篤な肝毒性リスクあり現在は推奨されないpubmed.ncbi.nlm.nih.gov
エフロルニチン外用 (Vaniqa®)毛包のオルニチン脱炭酸酵素阻害で新生毛の成長遅延mayoclinic.org。女性顔面の多毛に有効。塗布部位のざ瘡・刺激感。使用中止で効果消失。日本未承認(海外では処方可)unidru.com

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