美容医療における超音波技術
超音波機器の種類と応用
美容領域で用いられる超音波機器には、焦点を集め高エネルギーを照射する高密度焦点式超音波(High Intensity Focused Ultrasound, HIFU)と、集束させず比較的低出力で照射する非焦点式超音波の双方が存在する。HIFUは一点にエネルギーを集中させることで高い熱効果を得る技術で、主に皮膚のリフトアップ・タイトニングや部分的脂肪減少に使用される。一方、非焦点式超音波は広範囲に超音波を照射して組織を加温・刺激し、主に浅いシワ改善や肌質改善を目的に使われる。近年ではHIFUと称していても実際には非集束のビームを用いる装置も登場しており、例えばSofwave(ソフウェーブ)のように高周波数・非焦点パラレルビームで真皮を加熱し皮膚の軽度なタイトニングに用いる機器もある。以下に代表的な機器を用途別に解説する。
リフトアップ・皮膚タイトニング用HIFU機器
皮膚のたるみ改善やフェイスリフト効果を狙ったHIFU機器として、米国Ulthera社の**ウルセラ(Ulthera, 製品名:Ultherapy)**が代表例である。ウルセラは、超音波画像装置を内蔵したマイクロフォーカス超音波(MFU-V)システムであり、2009年に「眉のリフトアップ効果」として世界で初めて米国FDA認可を取得した機器である。その後も2012年に顎下・頸部、2014年にデコルテ皺の改善など適応を拡大しており、FDAが「リフトアップ効果」を承認した唯一のHIFU治療器であるtarumi-clinic.info。ウルセラはリアルタイム超音波画像で照射層を確認しつつ、皮下組織の3つの深度(1.5 mm、3.0 mm、4.5 mm)にエネルギーを精密に集中させることで、表在真皮からSMAS筋膜までの各層を加熱できる(DeepSEEテクノロジー)。これにより、表皮を傷つけずに真皮深層~SMASに1 mm大の点状熱損傷(熱凝固点, TCP)を形成し、コラーゲン収縮と創傷治癒反応を引き起こす。ウルセラの即時効果としては、超音波照射により組織コラーゲンが約60–70℃に加熱され収縮し、施術直後から軽い引き締まりが得られる。その後48時間~数週間かけて創傷治癒に伴う線維芽細胞増殖・新生コラーゲン産生が起こり、約2~3か月で皮膚のリフトアップ効果がピークに達し、効果は6か月~1年持続する。ウルセラは1回の施術で長期持続効果を得るプロトコルであり、年1回程度の施術間隔が推奨されるpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
ウルセラ以外にも、韓国製を中心に様々なHIFU機器が美容医療で使用されている。例えばウルトラフォーマーIII(Ultraformer III)は韓国Classys社製のHIFU装置で、複数深度のカートリッジを用いて顔のSMAS層から身体の皮下脂肪まで照射可能な汎用機種である。ウルトラフォーマーIIIは2012年に韓国FDA(KFDA)の承認を取得しているが、米国FDAの認可は得ていない。製造元は表層65℃以上の凝固点を形成できると謳うが、独立した十分な臨床データは限られており、顔面での臨床試験は1件程度、公表されたエビデンスはウルセラに比べて乏しいのが現状である。そのほか韓国HIFU機器としてダブロ(Doublo)やウルトラセル、ソノクイーン(SonoQueen)など多数が存在し、基本原理はウルセラと同様に超音波エネルギーでSMASや真皮を加熱してたるみを引き上げるものとなっているtarumi-clinic.info。ただし機種によっては超音波画像による可視化機能が無いため、ターゲット層の確認ができずエネルギー集束の精度に差がある。また日本国内では後述のように医師以外が扱える出力の低いHIFU機器も流通しており、エステサロン等で「ウルトラリフト」等の商品名で提供されるケースもあるtarumi-clinic.info。一般に医療機関専用の正規HIFU(例: ウルセラ)は高出力で効果が大きい反面、費用が高額であり、一方でサロン向け簡易HIFU(例: ウルトラリフト)は出力が制限され効果もマイルドだが施術費用が抑えられる傾向があるtarumi-clinic.info。医療用HIFUは医師が施術を行う前提で安全性・有効性が確保されているが、簡易機は誰でも扱える代わりに効果が限定的である。
脂肪溶解・痩身用途の超音波機器
皮下脂肪の非侵襲的な減量(ボディコンタリング)にも超音波技術が応用されている。その代表例がソルタメディカル社(旧Medicis社)のライポソニックス(Liposonix)で、HIFUを用いて皮下約1.3 cmの深さにエネルギー焦点を作り、直径約1 cmの脂肪層を1回の治療で永久的に破壊する装置である。ライポソニックスは米国FDAの承認を得た痩身用医療機器であり、施術対象は皮下脂肪厚が最低2.5 cm以上ある部位に限られる。1回60分程度の治療で平均2.5 cm(1インチ)ほどウエスト周囲径が減少する臨床データが報告されており、約8~12週間かけて破壊された脂肪細胞がマクロファージによって貪食・除去されることでサイズダウンが実現する。施術は完全非侵襲でメスを使わず、安全性も高いが、施術中に疼痛や施術後の発赤・腫脹が起こる場合がある。ライポソニックスと並ぶ脂肪減少超音波機器として、シネロン・キャンデラ社のウルトラシェイプ(UltraShape)がある。ウルトラシェイプは連続波ではなくパルス状の超音波を照射し、主に空洞化(キャビテーション)による機械的作用で脂肪細胞膜を破壊する方式を採る。3回程度の分割施術を要するが痛みが少ない特徴があり、こちらもFDAにより腹部の非侵襲的脂肪減少機器として承認されている。このようにHIFUによる熱凝固効果を利用する機器(ライポソニックス)と、空洞現象の物理振動効果を主体とする機器(ウルトラシェイプ)が存在し、いずれも皮下脂肪を選択的に破壊して体外に除去する施術として利用されている。また、超音波吸引脂肪吸引(例: VASER)などカニューレ先端に超音波振動を用いる侵襲的手術デバイスもあるが、これは外科的手技であり本稿の非侵襲的治療とは区別される。
図1:ライポソニックス(HIFU)による脂肪融解の模式図。超音波エネルギーを皮膚表面から集中させ、特定の深さ(約13mm)の皮下脂肪層に焦点を当てて照射する。表層の皮膚や真皮、筋肉にはダメージを与えず、焦点部位の脂肪細胞のみを選択的に熱変性させ破壊する。破壊された脂肪細胞は体内の免疫細胞によって徐々に除去され、数週間かけてサイズダウンが達成される。
非焦点式・低出力の超音波機器
エステティックサロン等で用いられる低出力の超音波美容器も存在する。これらは特定の焦点を持たず超音波を広範囲に拡散照射し、主に音響振動による微細マッサージ効果や温熱効果で肌質改善を図るものである。例として、1 MHz前後の超音波美顔器によるソノフォレーシス(超音波導入)は、化粧品成分の経皮浸透を高める目的で使用される。また、超音波キャビテーションと称する痩身エステ機器は、一般に30–40 kHz程度の低周波超音波を照射し体内で微小な気泡の発生・破裂(空洞化現象)を起こすことで脂肪組織に物理的ダメージを与える。こうした低周波超音波はHIFUほど強力ではないため一度に得られる効果は限定的だが、複数回繰り返すことで部分的なセルライトの軽減や循環改善に一定の効果をもたらすとされる。ただし医療用HIFUと比べエビデンスが十分でないものも多く、過度な効果を謳う機器には注意が必要である。
解剖学的基礎:皮膚構造と超音波作用
皮膚の層構造とSMAS
皮膚は外側から表皮, 真皮, その下の皮下組織(皮下脂肪層), さらに顔面では表在性筋膜系(SMAS)と筋層に分かれる。SMAS(Superficial Musculoaponeurotic System, 表在性筋膜)は顔面の皮下に広がる筋膜状の支持組織で、表情筋と連続し皮膚の土台となっている線維性構造である。加齢によるフェイスラインのたるみは、このSMASの支持力低下や皮下脂肪の下垂によって生じるため、外科的フェイスリフト手術では皮膚下のSMAS層を引き上げて縫合する。HIFUによる非侵襲的リフトアップは、このSMASに対して超音波で熱的刺激を加え収縮・タイトニングさせることで、メスを入れずに皮膚全体を引き締める発想である。実際に、ウルセラは4.5 mmの焦点深度カートリッジによりSMASへエネルギーを到達させ、外科的フェイスリフトに近い効果を実現すると報告されている。一方、皮膚浅い層のシワや質感の改善には、真皮へのアプローチが重要となる。HIFU機器の1.5 mmや3.0 mmカートリッジは真皮浅層・深層に熱刺激を与え、真皮コラーゲンのリモデリング(再構築)を誘導する。これによってキメや小ジワの改善、皮膚のハリ向上などが得られる。さらに、頑固な部分肥満の解消には皮下脂肪層そのものを狙う必要があり、上述のライポソニックスのように約6~13 mmの深達度で脂肪層を選択的に熱変性させるHIFUが用いられる。この場合、表皮・真皮は超音波の焦点外となるためダメージを受けず、脂肪組織のみが凝固壊死する。以上のように、超音波治療ではターゲットとする解剖学的層(真皮、SMAS、脂肪層など)に応じて適切な焦点深度とエネルギー設定を選択することが極めて重要であり、施術前に患者の皮膚厚や脂肪厚を評価してプロトコルをカスタマイズすることが求められる。
超音波治療の効果メカニズム
HIFUによる組織変性の基本は熱作用である。焦点に集中的に照射された超音波エネルギーは、組織内で振動エネルギーが熱に変換されることにより、局所的に高温(約65℃以上)を発生させる。これによりコラーゲン線維や細胞タンパクが変性・収縮し、微小な凝固壊死が生じる。特にコラーゲン線維は60℃前後で収縮するため、この熱変性が直後のリフトアップ効果(タイトニング効果)をもたらす。さらに熱損傷を契機として創傷治癒過程が誘導され、新たなコラーゲンやエラスチンの生成(線維芽細胞の活性化)が数週間~数か月にわたり進行することで、皮膚の再構築と引き締めが持続・増強する。これがHIFUによる即時効果と長期的効果の二段階のメカニズムである。
一方、非焦点式超音波や低周波超音波では空洞化現象(キャビテーション)による作用も注目される。液体中で強力な超音波が照射されると微小な真空の気泡が発生・振動し、やがて周囲の圧力差で崩壊する現象が起こる。これに伴い局所的な衝撃波や剪断力が発生し、細胞膜や組織構造を物理的に破壊しうる。一般に高周波数(>1MHz)超音波は直進性と集束性に優れ熱作用が主体となるのに対し、低周波数(<100kHz)超音波は拡散性が高くキャビテーションを生じやすい。前述の痩身エステ向けキャビテーション機器はこの原理で脂肪細胞を破砕しようとするものであり、HIFUのような熱変性を起こさずとも脂肪減少効果を狙っている。実際、UltraShapeのようなパルス超音波機では熱による痛みや表皮熱傷を抑えつつ脂肪細胞膜だけを選択的に破壊することが可能と報告されている。もっとも、生体組織内でのキャビテーション現象は制御が難しく、過度な出力では非ターゲット組織へのダメージリスクもあるため、治療機器では周波数・出力を精密に調整し安全域に収める必要がある。
国内外における承認状況と施術動向
米国・欧州における規制と普及
非侵襲の美容目的に超音波を用いる試みは2000年代以降盛んとなり、米国ではUlthera(ウルセラ)が先駆けとなって市場を切り開いた。前述の通りUltheraは2009年にFDA認可を取得し、その後も適応拡大して眉・顎下・首のリフトアップやデコルテのシワ改善の用途でFDA承認済みである。2020年代に入ってもなおFDAが「リフトアップ効果」を公的に認める機器はUltheraのみであり、エネルギーデバイスとしての安全性・有効性のエビデンス量も群を抜いて多いpmc.ncbi.nlm.nih.gov。一方、脂肪減少用途では2011年にライポソニックスが腹部・脇腹の部分痩身用としてFDA承認を取得し、2014年にはUltraShapeも腹部脂肪減少に対する認可を受けている。米国ではこれら超音波痩身治療はクリニックやメディカルスパで広く提供されており、クールスカルプティング(脂肪冷却)など他の非侵襲痩身法と並んで一定の市場を占めている。
欧州においては、米国ほど認可審査が厳格ではなく、各種HIFU機器がCEマーキング(EU基準の医療機器認証)を取得して流通している。Ultheraはヨーロッパでは顔面全体や首、デコルテのリフトアップ用途で認可を受けており、その他韓国製HIFU機器(ウルトラフォーマー、ダブロ等)もアジア・中東・南米など各国で販売されている。例えばウルトラフォーマーIIIはオーストラリアTGAや欧州CE、中国NMPAなど複数地域の認証を取得し世界約50か国で展開されているとの報告がある。しかし米国FDAに関しては、Ulthera以外のHIFU機器には販売承認が下りていないため、米国内ではUltherapy以外は公式には使用できない状況であるpmc.ncbi.nlm.nih.gov。そのため一部の米国クリニックはUltheraと競合する韓国HIFUを輸入して使用することはなく、事実上Ultheraが標準機となっている。総じて海外における超音波美容治療は、顔のリフトアップ(Ulthera)と体の部分痩身(Liposonix/UltraShape)の2分野で確立しており、非外科的なエイジングケア・痩身ニーズの高まりとともに普及が進んでいる。
日本国内での使用状況と認可
日本においても2010年代後半から美容クリニックでHIFUによるたるみ治療が普及し始め、現在では多くの施設で「医療ハイフ」のメニューが存在する。しかし日本の厚生労働省による承認(薬機法上の製造販売承認)を取得した超音波美容機器は2025年時点で存在しない。Ultheraシステムですら国内未承認機器であり、効果や安全性について国の認証を受けたものではない(※Ultheraは米国FDA承認機器だが、日本では未承認)tarumi-clinic.info。これは他のHIFU機器も同様で、国内で流通する装置は海外承認機を医師が個人輸入して使用しているのが現状である。そのため各クリニックは患者に対し「未承認機器の使用」であることや想定されるリスクを説明・同意取得した上で施術を行っている。加えて、日本では医師免許を持たない業者が独自にサロン向けHIFU機を販売・施術するケースが近年問題視されている。エステサロンでの無資格者によるHIFU施術は厳密には医師法違反の疑いがあり、消費者庁や国民生活センターにもエステHIFUによる火傷・神経麻痺等の事故報告が相次いでいるcaa.go.jp。実際、消費者庁の発表によればHIFU施術の事故は2010年代後半から増加し、特に顔への施術による熱傷、顔面神経の損傷による麻痺・しびれ、眼科的障害(例:急性白内障)など深刻な事例も含まれているcaa.go.jp。こうした背景から、2023年にはエステ業界団体等により無資格施術の自粛や、安全な施術を喚起する声明も出された。また医療機関側でも、他院で起きたHIFUトラブルを受けて注意喚起する動きが見られる。医療従事者は改めて適切な機器選択と出力設定、解剖知識に基づく照射、安全管理の重要性を認識し、患者に安全で効果的な治療を提供することが求められている。
保険適用と費用負担
美容目的の超音波治療は全て自由診療(自費診療)であり、健康保険は適用されないbiteki.com。美容医療は疾病の治療ではなく容貌の改善を目的とするため、公的医療保険の範疇外となるのが原則であるbiteki.com。一部に例外として、重度の瘢痕拘縮や顔面神経麻痺後の変形矯正など治療的意義が認められる場合には、超音波治療が保険適用される可能性もゼロではないが(※現在のところHIFUが保険収載された例は無い)、少なくともしわ・たるみの改善や部分痩身目的の施術は全額自己負担となるbiteki.com。費用はクリニックや機器によって様々だが、目安としてウルセラによる顔全体の施術は1回20~30万円程度、韓国製HIFU機器を用いた施術では10万円前後、エステ用簡易HIFUでは数万円程度と幅があるtarumi-clinic.infotarumi-clinic.info。なお、医療用HIFUや脂肪溶解HIFUは保険診療に準じた厳格な価格設定ルールが無いため、各施設の裁量で料金が設定されているのが実情である。
最後に、超音波技術は美容領域のみならず、前立腺癌や子宮筋腫の治療など医療分野にも応用されている。日本でも集束超音波による子宮筋腫治療装置が承認を受け、保険収載されている例がある。しかしこれらは高度管理医療機器として別途管理されており、美容領域のHIFU施術とは目的も制度も異なる点に留意が必要である。美容医療における超音波技術は日進月歩で発展しており、安全性と有効性のエビデンスを蓄積しつつ、今後も専門医による適切な施術の下でさらなる普及が見込まれる。美容領域の専門医は本稿で述べた原理や解剖、および各種デバイスの特性を正しく理解し、患者に最適な治療を提供できるよう研鑽していくことが重要である。
参考文献・出典:UltheraおよびHIFU技術に関する専門家コンセンサスpmc.ncbi.nlm.nih.gov、国内クリニックの治療解説、脂肪融解HIFUの技術資料、消費者庁の安全情報caa.go.jp等を参照した。各種データは2025年時点の最新知見に基づく。
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