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D07.美容皮膚科学 顔面解剖学 V1.1

D07.美容皮膚科学-顔面解剖学-V1.1

顔面の解剖学(美容皮膚科向け)

美容医療(ヒアルロン酸やボトックス注入、スレッドリフト、レーザー治療など)を行うには、顔面の解剖学的構造を深く理解することが重要です。以下では、皮膚層から骨格までの各解剖学的構造を詳細に説明し、それぞれが美容施術とどう関連するかを解説します。また、顔面を部位(前額部、眼窩周囲、頬部、鼻部、口唇部、オトガイ部、下顎部)ごとに主要構造を整理します。

皮膚の層構造と加齢変化

皮膚は大きく表皮(epidermis)真皮(dermis)皮下組織(subcutaneous tissue)の層に分かれますrmnw.jprmnw.jp。表皮は主にケラチノサイトからなる薄い外層で、バリア機能を担います。正常な表皮は約4週間周期でターンオーバーしますが、加齢により細胞再生サイクルが遅延し、角質が肥厚してきますrmnw.jp。また基底膜の波状構造が平坦化して栄養供給が低下し、高齢皮膚では乾燥や色素沈着(老人斑)が生じやすくなりますrmnw.jp。真皮は2~3mm程度の厚みをもち、コラーゲン・エラスチン線維網からなる結合組織層です。加齢で真皮は徐々に菲薄化し、線維の変性によりハリ・弾力を失いますrmnw.jp。これにより皮膚のたるみや深いシワが形成されやすくなりますrmnw.jp。真皮内の毛細血管や線維芽細胞も減少するため、創傷治癒力や皮膚の抵抗力も低下しますrmnw.jp。皮下組織は疎性結合組織からなる脂肪層で、衝撃の緩衝やエネルギー貯蔵の役割がありますrmnw.jp。顔面では加齢とともに皮下脂肪が萎縮し、特に眼窩周囲や頬の脂肪量が減少・下垂して、輪郭のこけやフェイスラインのたるみが目立つようになりますrmnw.jp。このような皮膚各層の変化に対し、美容皮膚科ではレーザー治療やRF(高周波)治療で真皮コラーゲン産生を促したり、スキンケアやピーリングで表皮のターンオーバーを促進するなどのアプローチが取られます。

顔面脂肪のコンパートメント(脂肪パッド)

顔面の皮下脂肪は、浅い表在性脂肪と深い深在性脂肪に大別され、それぞれ複数の脂肪コンパートメント(脂肪パッド)に区画されていますrmnw.jprmnw.jp。浅層脂肪は皮下組織内(表情筋より表面側)に存在し、支持靭帯(後述)の末端によって細かく区画されていますrmnw.jp。代表的な表在脂肪コンパートメントとして、頬部には外側・中央・頬骨下(マラーファット)・鼻唇溝・ジョウル(下顎縁)という5つの区画がありますrmnw.jp。各コンパートメントは独立した中隔構造と血管支配を持ち、加齢による容積変化の程度も異なるため、顔の痩せ方・たるみ方に部位差が生じますrmnw.jp。一方、深部脂肪コンパートメントは表情筋群の深層、骨膜上に位置し、眼窩周囲から中顔面(頬)にかけて存在しますrmnw.jp。例えば深頬脂肪(deep malar fat)は上唇挙筋群の深層にあり、下眼瞼の眼窩下脂肪と連続して若年時には下まぶたと頬の段差を埋めていますrmnw.jp。加齢で深部脂肪が萎縮すると中顔面の支持が失われ、いわゆるゴルゴ線ティアトラフ(涙袋下のくぼみ)が目立ちますrmnw.jp。一方、浅部脂肪は靭帯のゆるみや重力で下垂し、法令線の膨らみや顎のマリオネットライン・ジョウル(頬のたるみ)が形成されますrmnw.jp。この脂肪の区画構造の理解により、老化で凹んだ特定のコンパートメントにヒアルロン酸フィラーや脂肪移植で直接ボリュームを補う「リフト&フィル」戦略が可能となりましたrmnw.jp。従来の単純な皮膚引き上げだけでは得られなかった若返り効果が得られるようになったのですrmnw.jp。実際、加齢で萎縮した深部脂肪にフィラー注入して凹みを改善し、下垂した浅部脂肪に対しては糸リフトや外科的リフトで靭帯を支持・SMASごと引き上げることで、立体的な若返り効果が得られますrmnw.jprmnw.jp

表情筋とSMASの構造

表情筋は顔面表情を作る皮筋群で、多数の小筋からなります。額の前頭筋、眉間の皺眉筋・鼻根筋、眼輪筋、頬の大頬骨筋・小頬骨筋や上唇挙筋群、口周囲の口輪筋、口角下制筋、オトガイ筋、頸部の広頚筋などが代表的です。それら表情筋は皮膚の真皮に付着し、収縮によって皮膚表面にシワや表情を作りますrmnw.jp。表情筋群の収縮力を皮膚に連結・分配する線維性の膜構造がSMAS(表在性筋膜系, superficial musculoaponeurotic system)ですrmnw.jp。SMASは頭部の帽状腱膜から続き、顔面では側頭浅筋膜~頬筋膜~広頚筋膜へ連続する筋膜性ネットワークで、顔全体を覆う「筋膜性のマスク」とも言われますrmnw.jp。SMASは皮下脂肪と深部の表情筋群との間を隔て、第3層(筋・腱膜層)を形成しますrmnw.jp。SMASは表情筋を一体化して協調させる「中央腱」のように機能し、個々の筋収縮を統合して滑らかな表情変化を生み出しますrmnw.jp。SMAS自体が真皮に支持靭帯を介して強固に付着する部分(鼻唇溝より内側など)では可動性が低く、逆に頬の外側では脂肪を多く含み可動性が高いと報告されていますrmnw.jp。SMASは加齢により支持力が低下・弛緩し、皮膚のたるみを直接引き起こす要因となりますrmnw.jp。このためフェイスリフト手術ではSMAS層を剥離・処理して引き上げることで、皮膚と表情筋の位置関係を根本的に若返らせる手技が行われますrmnw.jp。例えばSMASをヒダ状に縫縮したり(SMASプリケーション)、一部切除して再固定したり、SMASごと筋皮弁を挙上固定する手法(deep planeリフト)などにより、皮膚単独引き上げでは得られない長期的なリフト効果を生みますrmnw.jp。一方、ボトックス注射は表情筋の過度な収縮を一時的に麻痺させる治療で、額の横ジワ(前頭筋)や眉間の縦ジワ(皺眉筋・鼻根筋)、目尻のシワ(眼輪筋)などに用いられ、表情ジワの改善に極めて有効です。また咬筋の肥大にもボトックスを注射すれば下顔面を細くすることができます(咬筋ボトックスによる小顔効果)。ただし筋力を緩める施術では一時的に表情や咀嚼力が弱まるため、解剖学的知識に基づき適切な部位・深さに注射することが重要ですrmnw.jp(前頭筋ボトックスが拡散して眼瞼下垂を起こすケースなどが報告されています)。

咀嚼筋について

咀嚼筋は顎の運動を担う筋で、主に咬筋側頭筋翼突筋(内側翼突筋・外側翼突筋)があります。これらは下顎骨を動かして咀嚼を行います。美容領域では特に咬筋が重要です。咬筋は下顎骨の側面(エラ部分)に付着し、発達すると下顔面の外側輪郭を張らせます。エラ張り顔の原因の一つが咬筋肥大であり、先述のようにボツリヌストキシン注射によって咬筋を委縮させると、下顎角部分がほっそりしてフェイスラインが滑らかになります(輪郭注射による小顔効果)。一方、咬筋の深部には顔面神経の下顎縁枝や顔面動静脈が走行し、内側には耳下腺などの重要構造も位置するため、エラ部分への注射や糸リフト施行時には解剖を把握した繊細な手技が必要です。側頭筋は側頭部~こめかみの広い扇状の筋で、加齢で萎縮するとこめかみの窪みの一因となります。これに対しては側頭部へのヒアルロン酸注入や脂肪注入で凹みを補正する施術が行われます。なお、翼突筋は口腔深部の咬合に関わる筋で、美容施術の直接の対象となることはほとんどありませんが、歯科領域の手術時には注意すべき構造です。

顔面の支持靭帯(リガメント)

顔面には軟部組織を骨や筋膜に繋ぎ留める支持靭帯(retaining ligament)がいくつも存在しますyamate-clinic.com。支持靭帯は顔面骨の骨膜や筋膜から起こり、線維束として垂直方向に真皮まで達して皮膚を吊り支える構造ですyamate-clinic.com。靭帯により皮膚・脂肪・筋膜が強固に連結されているため、靭帯間の領域で皮膚や脂肪が局所的に下垂すると、いわゆるたるみの溝が生じますyamate-clinic.com。言い換えれば、人の顔を骨から皮膚まで重ねた仮面にたとえると、支持靭帯はその仮面が骨からずり落ちないよう留めているゴム紐のような役割ですyamate-clinic.com。主要な顔面支持靭帯を以下に示しますyamate-clinic.com

  • 下眼瞼靭帯(ティアトラフ靭帯, tear trough ligament) – 下まぶたの組織(眼輪筋、眼窩脂肪、皮膚)を下方で支える靭帯。下眼瞼のクマ・凹み(涙槽)形成に関与yamate-clinic.com
  • 眼窩頬部靭帯(オービキュラリス・リテイニング・リガメント, ORL) – 眼窩外側~頬上部にあり、こめかみ側から眼輪筋・脂肪・皮膚を支える靭帯yamate-clinic.com
  • 頬骨靭帯(チークリガメント, zygomatic ligament) – 頬骨上縁に付着し、その直上の頬のSMASや脂肪・皮膚を垂直に支える靭帯yamate-clinic.com
  • 咬筋靭帯(マッセテリック・リガメント, masseteric ligament) – 咬筋筋膜から起こり、頬骨下方~中頬部のSMAS・脂肪・皮膚を支える靭帯yamate-clinic.com。フェイスライン(頬下部)のたるみに関与。
  • 上顎靭帯(マキシラリー・リガメント, maxillary ligament) – 上顎骨の表面から出て、鼻翼の横あたりの頬中央の組織を支える靭帯yamate-clinic.com
  • 下顎靭帯(マンディビュラー・リガメント, mandibular ligament) – 下顎骨の骨膜から起こり、下顎縁(下頬~オトガイ部)のSMAS・脂肪・皮膚を支える靭帯yamate-clinic.com。マリオネットライン形成に関与。

加齢により支持靭帯そのものも伸びて弛緩しますが、周囲の脂肪やSMAS・骨格の萎縮変化の影響を強く受けますyamate-clinic.com。靭帯が保持する脂肪コンパートメントが緩むと脂肪が下垂し、靭帯間にたるみが顕著になりますyamate-clinic.com。例えば下眼瞼靭帯のゆるみ+深部脂肪萎縮で涙袋下の溝ができ、頬骨靭帯や咬筋靭帯のゆるみで法令線下やフェイスラインのたるみが目立ちますrmnw.jp。これに対処するにはスレッドリフトや外科的リフトで靭帯を再固定・引き締めし、浅部脂肪を元の位置に吊り上げることが有効ですrmnw.jp。実際、フェイスリフト手術では頬骨靭帯や下顎靭帯を含めSMASを骨膜へ固定し直すことで、皮膚のみを引っ張るより長持ちするリフト効果が得られますrmnw.jp。糸によるリフトアップ施術でも、これら靭帯の付近でSMASごと組織を吊り上げ固定することで、たるみの改善が図られます。

顔面神経(第VII脳神経)と麻痺リスク

顔面神経は表情筋を支配する運動神経で、左右の茎乳突孔から出て耳下腺内で分枝し、5大枝(側頭枝、頬骨枝、頬筋枝[上顎/バッカル枝]、下顎縁枝、頸枝)に放射状に分かれますrmnw.jpsakai-keisei.gr.jp。これらの枝は耳下腺前縁付近から顔面に広がり、前頭筋、眼輪筋、頬筋、口輪筋、広頚筋など全ての表情筋を動かしますrmnw.jp。顔面神経主幹および各枝は通常SMASより深層で、表情筋の浅層を走行しますrmnw.jp。特に側頭枝(額枝)と下顎縁枝は走行が浅いため外科的損傷を受けやすく、「顔面神経の危険ゾーン」として注意されていますrmnw.jp。側頭枝は耳介上方〜頬骨弓上を斜めに走り、外眼角の上2cmと耳介前部を結ぶピタングイ線付近で皮下浅層に出てきますrmnw.jp。フェイスリフトや側頭リフトでこのラインより浅く剥離すると額枝麻痺を起こすリスクがあり注意が必要ですrmnw.jp。また下顎縁枝は下顎骨下縁に沿って前方へ走り、下唇・口角を動かす筋を支配します。下顎角の前方2cm付近(ちょうど顎下腺付近)では神経が浅層にあり、ここをフェイシャルデンジャーゾーン(顔面神経の危険帯)と呼びますrmnw.jp。リフト術で下顎下2cmより下方に剥離を進めると下顎縁枝を伸展・切断する恐れがあるため、術者は解剖学的ランドマークを把握して神経損傷を回避する必要がありますrmnw.jp。なお頬筋枝・頬骨枝は鼻唇溝周囲の表情筋を支配しますが、これらは互いに交通(代償)枝が多いため一部損傷しても麻痺は目立たないことがありますrmnw.jp。これに対し側頭枝と下顎縁枝は交通枝が少なく、一側が損傷されると額の皺寄せ不能(側頭枝麻痺)や口角下制筋の麻痺(下顎縁枝麻痺)による非対称が顕著に現れますrmnw.jp。表情筋麻痺は美容外科的に深刻な合併症であり、術前から患者への十分なリスク説明が必要ですrmnw.jp。幸い牽引などによる一過性の損傷なら数週間〜数ヶ月で回復する例が多いですが、完全に神経断裂した場合は修復手術が検討されますrmnw.jp。なお非外科的施術でも麻痺リスクはあり、ボトックスの誤注入で一時的に顔面神経枝が麻痺することがありますrmnw.jp(例:前頭筋ボトックスが拡散し眼瞼挙筋まで作用すると一時的な眼瞼下垂を起こす)。したがって注射施術でも局所解剖を把握した適切な手技・深度で行うことが重要です。

三叉神経(第V脳神経)と顔面の知覚

三叉神経は顔面の皮膚知覚を支配する大きな神経で、第I枝・第II枝・第III枝(眼神経V1・上顎神経V2・下顎神経V3)に分かれますrmnw.jp。顔面表面に出てくる主な末梢枝は、額〜上眼瞼に眼窩上神経滑車上神経(V1由来)、頬〜上唇に眼窩下神経(V2由来)、下唇〜オトガイ部にオトガイ神経(V3由来)がありますrmnw.jp。これらはそれぞれ頭蓋骨の孔(眼窩上孔、眼窩下孔、オトガイ孔)から顔面に出て皮膚感覚を司りますrmnw.jp。三叉神経は感覚神経であるため損傷しても顔面の運動麻痺は起こりませんが、術中や施術中に損傷・圧迫されると知覚鈍麻や痛み・異常感覚を生じる可能性があります。美容領域ではフェイスリフト手術や骨切り術で末梢の知覚枝を切断・伸展してしまうリスクがあります。またフィラーや局所麻酔の注射時に針先が骨の孔に入り込んだり、充填物で圧迫すると一時的な知覚異常が起こることがありますrmnw.jp。例として鼻翼基部やゴルゴ線へのフィラー注入で眼窩下神経が圧迫され上顎部や鼻翼のしびれが起こったり、口唇~オトガイへの過剰注入でオトガイ神経領域に知覚鈍麻が出るケースが報告されていますrmnw.jp。多くは数週間以内に改善する一過性の神経絞扼障害(ニューロプラクシー)ですが、まれにフィラー肉芽腫が神経痛を慢性化させる例もありますrmnw.jp。従ってフィラー注入時は安易に骨孔方向へ大量注入せず、患者に違和感や放散痛がないか確認しながら慎重に行う必要があります。

顔面の血管分布とフィラー施術のデンジャーゾーン

顔面の血液供給は主に外頸動脈系(顔面動脈・浅側頭動脈など)と内頸動脈系(眼動脈の枝)が担いますrmnw.jp。顔面動脈は下顎骨下縁の前方(下顎角より前)で顔に出て上行し、下唇動脈・上唇動脈を分枝した後、鼻翼外側で外鼻動脈(鼻背動脈)となり、さらに上行して内眼角付近で眼角動脈(angular artery)として終わりますrmnw.jp。浅側頭動脈は耳の前を上行し側頭部~帽状腱膜下に達しますrmnw.jp。一方、内頸動脈系の眼動脈からは前額部に眼窩上動脈・滑車上動脈、頬~下瞼に眼窩下動脈などが分布しますrmnw.jp。顔面の静脈も同名の静脈が発達し内頸・外頸静脈へ流入しますrmnw.jp。美容領域で特に重要なのは、フィラー注入時の血管損傷・塞栓リスクです。ヒアルロン酸などを誤って血管内に注入してしまうと塞栓による血流閉塞が起こり、組織壊死や失明といった重大な合併症を招く恐れがありますrmnw.jp。フィラー塞栓による網膜動脈閉塞(失明)は稀ですが報告があり、失明症例の大半は鼻根部・眉間部への注入で発生していますrmnw.jp。これは鼻背動脈や滑車上動脈などがフィラーで逆流閉塞し、内頸動脈系に逆行して網膜中心動脈を詰まらせるためと考えられていますrmnw.jp。特に眉間(グラベラ)や鼻根~鼻背は重要なデンジャーゾーンで、未熟な術者がここに不適切な注入を行い失明や皮膚壊死を生じた報告がありますrmnw.jp。解剖学的に眉間には滑車上動脈と鼻背動脈が走行し、これらは眼動脈と連絡するためわずかな注入でも逆流すると眼に達しえますrmnw.jp。また鼻背・鼻尖部も危険領域で、外鼻動脈(=鼻背動脈)やその吻合枝が密集しますrmnw.jp。鼻の皮膚は薄く血行障害で壊死を起こしやすいため、鼻へのフィラー/脂肪注入は細心の注意が必要ですrmnw.jp。他にもこめかみ(側頭部)には浅側頭動脈およびその前耳介動脈などが走り、これらは眼窩内血管と吻合するため理論上は側頭部フィラーでも失明リスクがありますrmnw.jp(※実際の報告は極めて稀で、主なリスクは皮膚壊死とされていますrmnw.jp)。中顔面(頬〜鼻唇溝)では顔面動脈の上唇枝・鼻翼枝や、眼窩下動脈が走行するため、この領域にフィラーを注入する際も血管内誤注入に注意が必要ですrmnw.jp。特に法令線(鼻唇溝)の深部やゴルゴライン付近に安易に真皮深層へ注入すると、顔面動脈本幹や眼窩下動脈に刺入・塞栓しうるため危険ですrmnw.jp。口唇周囲では上唇動脈・下唇動脈が左右それぞれ粘膜下を走るため、唇へのフィラーは適切な層に少量ずつ行わないと動脈閉塞による広範な潰瘍壊死を起こしえますrmnw.jp。実際、上唇中央部へフィラー後に人中~上口唇皮膚が壊死した症例報告も複数ありますrmnw.jp。フィラー注入による血管障害は、皮膚の蒼白や暗紫色の網目状チアノーゼ、激痛などの初期兆候で気づくことができますrmnw.jp。術者は注入中に皮膚色調の変化や患者の疼痛訴えに細心の注意を払い、異常を感じたら直ちに注入を停止し対応すべきですrmnw.jp。具体的対処法は患部の温め・マッサージ、ヒアルロニダーゼの即時注入(ヒアルロン酸フィラーの場合)、抗凝固薬の投与、高圧酸素療法などが推奨されていますrmnw.jp。万一眼の症状(激痛、視力障害、眼瞼下垂、複視など)が出現した場合は眼科的緊急処置を要しますが、残念ながら視力予後は不良で失明が不可逆的となる例も多いのが現状ですrmnw.jp。したがって美容領域の注入治療では「予防が最善の策」であり、危険部位への注入は可能な限り回避するのが原則ですrmnw.jp。どうしても必要な場合は鈍針カニューレを用いて血管損傷リスクを下げ、注入前には必ずアスピレーション(陰圧テスト)を行い、少量ずつ慎重に注入するなど安全対策を徹底しますrmnw.jp。解剖学知識に基づき、特に眉間、鼻根部~鼻背、鼻唇溝上部、前額中央(いずれも眼動脈との交通枝がある領域)はフィラーのデンジャーゾーンとして極力避け、どうしても行うなら浅層にカニューレ注入することが推奨されていますrmnw.jp。以上のように顔面の血管分布と重要構造を把握し、安全な施術を行うことは美容医療の必須条件ですrmnw.jp

顔面骨格の特徴と加齢変化

顔面の骨格(頭蓋顔面骨)は顔の土台となる構造で、前頭骨、頬骨(頬骨弓)、上顎骨、下顎骨、鼻骨、涙骨、篩骨など多数の骨から成ります。若年者の顔面骨格は立体的な起伏に富み、眼窩や歯槽部が適切な支持となって軟部組織(脂肪・筋・皮膚)を支えています。しかし加齢に伴い骨量が減少し、骨形態が変化して顔面骨格全体が萎縮傾向を示すことが明らかになっていますrmnw.jp。具体的な加齢変化として:

  • 眼窩:上下左右に拡大し、骨縁が後退します(眼窩開口部が垂直・水平方向に広がる)rmnw.jp。これにより眼球周囲の支持が減り、眼瞼のくぼみや眼窩下縁の陥凹(いわゆる涙袋溝や強膜露出の増加)が生じやすくなりますrmnw.jp
  • 中顔面(上顎骨・頬骨):上顎骨、とくに前歯槽部が萎縮・後退して鼻基部の支えが減少し、鼻唇角が鈍化(鼻下部が下がる)して上唇が薄く見えますrmnw.jp。また頬骨の容積減少で中顔面が平坦化し、これも頬の脂肪の下垂を助長しますrmnw.jp。梨状孔(鼻の開口部)も拡大し、鼻翼の支持が減って鼻翼軟骨が陥没・変形しやすくなりますrmnw.jp
  • 下顎骨:下顎角部の骨量減少と下顎枝の高さ減少により、下顔面高が低下しますrmnw.jp。特に女性はオトガイ部(顎先)の骨萎縮が強く、男性は下顎角(エラ)の萎縮が強い傾向がありますrmnw.jp。その結果、高齢女性では若い頃尖っていた顎先が平坦化し、男性ではエラの張りが和らいで下顎縁が丸みを帯びると報告されていますrmnw.jp。さらに左右の下顎関節突起間距離や下顎角間距離が広がる(下顎のU字アーチが開く)との報告もあり、骨格変化は単なる萎縮だけでなく形態の変容を伴いますrmnw.jp

このように骨格の萎縮・形態変化は軟部組織のたるみと相まって老け顔の主要因となりますrmnw.jp。例えば眼窩や上顎の骨萎縮は目元・頬の窪み(くま、法令線)の一因となり、下顎骨の萎縮は下顎縁の皮膚たるみ(マリオネットライン、二重顎)として現れますrmnw.jp。審美的アンチエイジングでは骨格変化にも目を向け、失われた骨支持を補う必要がありますrmnw.jp。具体策として、骨格的なボリュームロスには骨量増加のアプローチが有用ですrmnw.jp。形成外科的にはオーグメンテーションと称して顎や頬骨へのシリコンプロテーゼ挿入、骨セメント注入、骨切りによる再構築などが行われてきましたrmnw.jp。近年はメスを使わない方法として、高濃度ヒアルロン酸フィラーを骨膜上に注入し擬似インプラント効果を狙う手法(例:頬骨上やオトガイ部の深部に注入して骨の支柱を作る)が普及していますrmnw.jp。これは美容皮膚科でも行える手技で、萎縮した骨による凹みやフレームの収縮を手軽に補強できます。著名な美容外科医Harold Gilliesは「失われた組織は同種のもので置換せよ(replace like with like)」と述べましたrmnw.jp。この原則にならえば、骨萎縮には骨やそれに代わる硬い支持物で、脂肪の減少には脂肪や代替物で補うのが理想となりますrmnw.jp。例えば眼窩周りの窪みには脂肪注入や骨膜下フィラーでふくらみを戻し、顎の後退にはオトガイ形成術やプロテーゼ挿入でプロジェクションを高め、平坦化した頬には頬骨インプラントや深部フィラーで支柱を作る、といった具合ですrmnw.jp。さらに緩んだ支持靭帯に対してはリフト手術で靭帯を引き締め固定し直し、皮膚・脂肪を本来の位置に復位させる戦略も併用されますrmnw.jp。このように骨格から皮膚まで多層的にアプローチする包括的若返りが重要であり、解剖学的知見に基づいた治療計画によって初めて安全かつ満足のいく結果が得られますrmnw.jp

顔面のリンパ系

顔面のリンパ液は最終的に頚部のリンパ節へ流入しますが、その前に顔面にはいくつかのリンパ節集積部位があります。主に耳下腺部(耳の前下方)と顎下部です。顔面で発達したリンパ節としては頬リンパ節顎下リンパ節などがありますが、これらは小さく個人差もありますjstage.jst.go.jp。一般に、額・眼の周囲・頬の外側からのリンパは耳前~耳下腺部のリンパ節群に集まり鼻の脇や頬下部からのリンパは顎下腺部(下顎角の内側)のリンパ節に集まり下口唇・オトガイ部からのリンパは顎先中央部(オトガイ下)付近のリンパ節に流れますameblo.jp。最終的にそれら耳下腺リンパ節・顎下リンパ節からリンパは深頚リンパ節に流入し、静脈角で静脈血に合流します。顔面のリンパ流は皮下組織内をゆっくり流れるため、マッサージなどで流れを促進するとむくみの改善に役立つとされます。ただし顔面皮膚は薄く繊細なため、リンパマッサージを行う際も優しく行うことが推奨されていますameblo.jpameblo.jp。また下顎角下には圧受容器があるため、強いマッサージで迷走神経反射を起こさないよう注意が必要ですameblo.jp。美容施術後(例:糸リフトや外科手術後)の腫れや内出血の軽減にリンパドレナージュが用いられることもありますが、適切な手技で行わないと逆効果になる可能性もあるため解剖に則った施術が重要です。


顔面の部位別・構造別整理

最後に、顔の各部位ごとに重要な解剖構造と美容施術上のポイントを整理します。

  • 前額部(ひたい):
    • 骨格: 前頭骨からなり、中央の眉間部(グラベラ)には鼻根部の支えとなる部位があります。加齢で前頭骨傾斜が後退し、額が平坦化しますrmnw.jp
    • 筋肉: 前頭筋(額の横ジワを作る)、皺眉筋・鼻根筋(眉間の縦ジワを作る)があります。ボトックスを用いてこれら表情筋の過緊張を緩和することでシワ治療が可能です。
    • 脂肪: 前額部には浅い前頭部脂肪があります。側頭部には浅側頭脂肪や深側頭脂肪があります。老化でこめかみの脂肪が減少するとこめかみの窪みができるため、フィラー注入でボリューム補正します。
    • 靭帯: 前額部には明確な固有靭帯はありませんが、眉の周囲に眼窩縁靭帯(ORL)が連続し額の皮膚を骨膜に繋いでいますyamate-clinic.com。これが硬く固定された部分とそうでない部分の境界となり、額の皺形成パターンに影響します。
    • 神経: 運動神経は顔面神経の側頭枝が前頭筋を支配しますsakai-keisei.gr.jp。知覚神経は眼神経V1の枝である眼窩上神経と滑車上神経が前額部皮膚に分布し、前頭骨の眼窩上孔付近から出ていますrmnw.jp。これら神経の存在位置を把握することで麻酔やスレッド挿入時のリスクを低減できます。
    • 血管: 前額部は主に眼動脈系の眼窩上動脈・滑車上動脈によって血流が供給されますrmnw.jp。眉間部ではこれらが鼻背動脈と交通しており、グラベラへのフィラーは網膜動脈閉塞のリスクがある危険部位ですrmnw.jprmnw.jp
    • 美容施術上のポイント: 前額の横ジワ・眉間ジワにはボトックス注射が第一選択です。フィラーで額の丸みを出すこともありますが、眉間中央部への注入は失明リスクがあるため極力避け、行う場合も浅層にカニューレで慎重に行いますrmnw.jp。糸リフトは側頭部の帽状腱膜や側頭筋膜に糸を固定し、眉や頬の組織を引き上げる手法が取られます。
  • 眼窩周囲(目の周り):
    • 骨格: 上側は前頭骨、外側は頬骨、下側と内側は上顎骨などで構成される眼窩があります。加齢で眼窩が拡大し下縁が後退するため、目元の支えが減り目の下のくぼみが目立ちますrmnw.jp
    • 筋肉: 眼輪筋(上下眼瞼と眼周囲を囲む輪状の筋)があり、目を閉じたり笑いジワ(カラスの足跡)を作ります。ボトックスで目尻のシワを軽減できます。また上眼瞼を挙げる筋(眼瞼挙筋)は眼窩内にあり、美容施術では主に眼瞼下垂手術で扱われます。
    • 脂肪: 眼窩脂肪(眼球周囲の深部脂肪)があり、下眼瞼の膨らみ(目袋)を構成しますoc-osaka.com。加齢で眼窩脂肪が突出すると眼袋ができ、逆に下まぶたから頬にかけての深部脂肪(深頬脂肪)の萎縮で**涙袋下の凹み(ティアトラフ)ができますrmnw.jprmnw.jp。治療としては下瞼脱脂術(眼窩脂肪除去)や、ティアトラフへのヒアルロン酸注入が行われます。眼輪筋下にはSOOF(眼窩下脂肪パッド)**と呼ばれる浅い脂肪も存在し、これも加齢で萎縮します。
    • 靭帯: 下眼瞼から頬にかけて**ティアトラフ靭帯(下眼瞼靭帯)眼窩頬靭帯(ORL)**が存在し、下まぶたと頬の境界を構成しますyamate-clinic.com。これらの靭帯が強固だと境界がはっきりしやすく、緩むと目の下〜頬にかけて段差やたるみが生じます。下眼瞼の靭帯周囲へのフィラー注入は細心の注意が必要ですが、適切に行えば段差の改善につながります。
    • 神経: 運動神経は顔面神経の頬骨枝・上顎(バッカル)枝が眼輪筋を支配しますrmnw.jp。知覚神経は眼の上はV1由来の眼窩上・滑車上神経、下まぶた~頬上部はV2由来の眼窩下神経が担当しますrmnw.jp。眼窩下神経は眼窩下孔から出ており、フィラー注入時に圧迫されると上顎部に放散痛や知覚異常が起こることがありますrmnw.jp
    • 血管: 目周囲は眼動脈系の眼窩上動脈・滑車上動脈(額〜上瞼)および眼窩下動脈(下瞼〜頬)が主な供給源ですrmnw.jp。内眼角付近では顔面動脈終枝の眼角動脈(angular a.)とも吻合しますrmnw.jp。眉間~上瞼・鼻根部はフィラー塞栓で網膜動脈に逆流しやすい領域であり失明のデンジャーゾーンですrmnw.jp。また下瞼〜頬上部も眼窩下動脈や顔面動脈枝があるため、フィラー誤注入で皮膚壊死が起こしえますrmnw.jp
    • 美容施術上のポイント: クマ治療では下瞼の眼窩脂肪が突出するタイプには脱脂術、凹みタイプにはフィラーや脂肪注入が行われます。注入は靭帯下の深い層に行うことで表面の凹凸や血管圧迫を避けます。目尻のシワにはボトックスを微量注射し、笑ったときの放射状シワを軽減します。上まぶたの窪みや眉下の凹みには骨膜上へのフィラー注入も行われますが、眉間~鼻根部は絶対に血管内注入を避けるようカニューレを用い慎重に行いますrmnw.jp
  • 頬部(中顔面):
    • 骨格: 頬骨(zygoma)と上顎骨(maxilla)が主体で、これらが中顔面の突出や幅を決めます。若年では頬骨が張り出し頬に高さがありますが、加齢で頬骨が萎縮・後退すると頬が平坦になりがちですrmnw.jp。上顎骨の萎縮も法令線周囲の支持を失わせますrmnw.jp
    • 筋肉: 微笑時に口角を挙上する大頬骨筋・小頬骨筋、上唇を挙げる上唇挙筋群(上唇挙筋、上唇鼻翼挙筋、犬歯筋など)、頬の張りを支える頬筋などがあります。これら表情筋はSMASを介して皮膚を支え、加齢で筋力低下すると頬のたるみに寄与します。ボトックスは頬の筋にはあまり使用しませんが、笑筋・口角下制筋などに用いて口角の形を調整することがあります。
    • 脂肪: 頬には表在・深部とも多数の脂肪コンパートメントがあります。浅部脂肪では外側頬脂肪中央頬脂肪頬骨下脂肪(マラーファット)鼻唇溝脂肪ジョウル脂肪の5区画があり、それぞれ萎縮・下垂の程度が異なりますrmnw.jp深部脂肪では深頬脂肪(deep malar fat)が上顎骨前面に沿って存在し、眼窩下脂肪と連続して若い頬のボリュームを形成しますrmnw.jp。ほかに頬深部には鼻側脂肪(ラブial fat)などいくつかのパッドがあります。頬のコケは深部脂肪萎縮が主因であり、対策としてゴルゴラインや法令線へのフィラー注入が有効ですrmnw.jp。一方、フェイスラインのたるみ(ジョウル形成)は浅部脂肪(ジョウル脂肪)が靭帯からずれて下垂することが原因で、糸リフトや下顔面へのHIFUで引き締めを図りますrmnw.jp
    • 靭帯: 頬部には頬骨靭帯咬筋靭帯上顎靭帯が位置し、SMASと皮膚を骨に固定していますyamate-clinic.com。頬骨靭帯は頬骨上に、咬筋靭帯は頬骨下方〜咬筋上に、上顎靭帯は鼻翼外側の上顎骨から伸びますyamate-clinic.com。これらの間が緩むと法令線やマリオネットラインが深くなります。靭帯の存在は糸リフトの効果にも影響し、靭帯付近に糸のコグ(棘)が引っかかると高い引き上げ効果を発揮します。
    • 神経: 運動神経は顔面神経の頬骨枝・頬筋枝(バッカル枝)が頬の表情筋(大・小頬骨筋、上唇挙筋群、頬筋など)を支配しますrmnw.jprmnw.jp。これらは互いに連絡枝が多いため部分的な損傷は代償されやすいですが、大きく損なうと口唇や頬の動きに左右差が出ますrmnw.jp。知覚神経は眼窩下神経(V2)が頬中央~上唇に、下顎神経(V3)の小枝が頬外側に分布しますrmnw.jp。眼窩下孔部はフィラー注入時に圧迫痛が走りやすいポイントなので注意が必要ですrmnw.jp
    • 血管: 頬部の主血管は顔面動脈です。顔面動脈は下顎骨外側下縁の前方(下顎体部前方)から顔に入り、下顎骨外側面を斜めに走って口角付近で上唇・鼻翼枝を出し、鼻横~眼内角に向かいますrmnw.jp。その途中で上唇動脈鼻翼動脈などを出し鼻唇溝あたりを通りますrmnw.jprmnw.jp。また眼窩下動脈(上顎動脈由来)が下瞼~上顎に分布し、鼻側部で顔面動脈と吻合しますrmnw.jp。法令線の深部やゴルゴライン付近は顔面Aや眼窩下Aが走る危険部位であり、フィラー誤注入で塞栓すると頬や鼻の皮膚壊死につながりますrmnw.jp。静脈は同名の顔面静脈が存在します。
    • 美容施術上のポイント: 頬はボリュームロス下垂の両面から老化が現れる部位です。そのためヒアルロン酸注入によるボリュームアップ(リフト&フィル戦略)rmnw.jpと、HIFUやスレッドによる引き上げを組み合わせることが効果的です。具体的には、ゴルゴ線や涙袋下の凹みには頬骨上の深い層にフィラーを入れて支柱とし、萎んだマラーファット領域にボリュームを足します。一方で法令線・マリオネットラインには糸リフトで靭帯ごと引き上げたり、SMASリフト手術で根本的に改善を図ります。注射・糸施術ともに顔面神経や血管の走行を念頭に置き、**安全層(SMAS上の浅層脂肪内など)**を選ぶことが重要ですsakai-keisei.gr.jp
  • 鼻部:
    • 骨格: 鼻骨および上顎骨の鼻棘、鼻中隔軟骨・側鼻軟骨などで鼻の形が構成されます。鼻骨は高齢でわずかに萎縮し、また鼻孔の梨状孔拡大で鼻翼の支えが減りますrmnw.jp。鼻先は軟骨で形作られ、Pitanguyの靭帯という皮膚と軟骨を結ぶ支持が鼻尖を支えています。
    • 筋肉: 鼻筋(鼻根に横皺を寄せる皺眉筋の一部)、鼻根筋(鼻梁の横ジワを作る)、鼻筋(鼻翼部をすぼめる)、上唇鼻翼挙筋(鼻孔を広げる)などがあり、いわゆるバニーライン(小鼻横の皺)に関与します。バニーラインはボトックスで軽減可能です。
    • 脂肪: 鼻部は皮下脂肪が薄く、鼻背は皮膚と骨・軟骨の距離が近いため、注入や圧迫による血流障害が起こりやすい部位ですrmnw.jp。鼻翼基部には上唇鼻翼溝脂肪という浅脂肪があり、萎むと鼻翼横のくぼみになります。フィラーでこのくぼみを補う際は眼窩下神経への圧迫に注意しますrmnw.jp
    • 靭帯: 鼻部特有の靭帯としては前述のPitanguy靭帯(鼻尖靭帯)があり、鼻先の皮膚~軟骨を支持しています。また鼻翼基部にも小さな支持靭帯があります。顔面深部靭帯の上顎靭帯が鼻基部近くにあり、法令線の深さに関与しますyamate-clinic.com
    • 神経: 運動神経として、鼻筋や上唇鼻翼挙筋など鼻周囲の筋は顔面神経の頬骨枝・頬筋枝が支配します。知覚神経は鼻背~鼻尖が眼神経V1の外鼻神経、鼻翼~上唇側面が上顎神経V2の鼻口蓋神経系統です。外鼻神経は鼻骨下の小孔から出て鼻背に至り、ここで血管と伴走しています。
    • 血管: 鼻部は血管が集まる領域です。上記の顔面動脈終枝の鼻背動脈・眼角動脈が鼻根~鼻背にあり、鼻翼部には顔面動脈の外鼻動脈(鼻翼枝)が分布しますrmnw.jp。鼻背動脈は内頸系と連絡し、フィラーが逆流すると眼動脈→網膜中心動脈を閉塞しますrmnw.jp。実際に眉間や鼻根への注入は失明ケースが報告されているため最大の注意が必要ですrmnw.jp。また鼻翼の皮膚は薄く、血行障害ですぐ潰瘍になりうるため、鼻への注入は少量ずつ慎重に行いますrmnw.jp。静脈は同名の静脈が走りますが、内眼角付近の静脈から脳内へ繋がるルート(静脈洞)もあるため、鼻部の感染には注意が必要です。
    • 美容施術上のポイント: 鼻へのヒアルロン酸注入(鼻フィラー)は非外科的に鼻を高くできる人気治療ですが、血管塞栓リスクが最も高い部位の一つですrmnw.jp。特に眉間~鼻根は危険なので、原則この領域は避けるか、どうしても必要な場合はカニューレを用い浅層にごく少量注入しますrmnw.jp。鼻尖や鼻柱への注入も血行障害で皮膚壊死を起こしやすいため慎重に行いますrmnw.jp小鼻縮小術隆鼻術(プロテーゼ)は形成外科の領域ですが、手術では鼻翼の血行に注意してデザインされます。鼻のバニーラインが強い場合、皺眉筋・鼻根筋へのボトックス注射が有効です。
  • 口唇・口周囲部:
    • 骨格: 上唇の土台は上顎骨前歯部、下唇は下顎骨前歯部(オトガイ部)です。加齢でこれら歯槽部の骨量が減ると口元を支えきれず、口唇が薄くなったり口角が下がりやすくなりますrmnw.jp。総入れ歯の高齢者で口元が萎むのはこの骨支持の喪失が大きいです。
    • 筋肉: 口周りの筋は口輪筋(口唇を取り巻く輪状筋)が中心で、口をすぼめたり尖らせる動きをします。周囲には上唇挙筋群(上唇鼻翼挙筋・上唇挙筋・口角挙筋など)が上唇や口角を引き上げ、口角下制筋が口角を下げ、オトガイ筋が下唇を突出させます。これらの不均衡で口角の左右差や梅干しジワ(オトガイ部のシワ)が生じるため、ボトックスやフィラーで調整します。例えば口角下制筋にボトックスを打てば口角が上がり、上唇上方のガミースマイルには上唇挙筋群にボトックスを打つことがあります。
    • 脂肪: 口唇自体には粘膜下に脂肪と結合組織があり、ボリュームを形成しています。上口唇の真皮内にはMaserati筋と呼ばれる線維もあり、加齢で口唇が薄くなるのを助長します。口角横には浅い脂肪パッド(口角パッド)があり、加齢で痩せると口角下の陥凹につながります。口唇のボリュームロスにはヒアルロン酸リップ注入が最も手軽で、輪郭とボリュームを改善できます。
    • 靭帯: 上唇小帯・下唇小帯(上顎と下顎に口唇を繋ぐヒダ)はありますが、支持靭帯とは異なります。口周囲で支持靭帯的な役割をするのは先述の下顎靭帯で、口角のやや外側から下顎骨に向かう線維ですyamate-clinic.com。ここが緩むとマリオネットライン(口角下縁から顎に伸びる溝)が生じます。
    • 神経: 運動神経は顔面神経の頬筋枝と下顎縁枝が口輪筋を挟むように上唇・下唇周囲の筋を支配しますsakai-keisei.gr.jprmnw.jp。口角下制筋は下顎縁枝の支配領域で、左右いずれかの下顎縁枝が麻痺すると片側の口角が下がらなくなる症状が現れますrmnw.jp。知覚神経は上唇~鼻翼が上顎神経V2の上唇枝、下唇~オトガイが下顎神経V3のオトガイ神経ですrmnw.jp。オトガイ神経はオトガイ孔から出てきますが、フィラー過剰注入で圧迫すると下唇〜オトガイの知覚鈍麻が起こりえますrmnw.jp
    • 血管: 上唇と下唇には顔面動脈からそれぞれ上唇動脈下唇動脈が供給し、左右の動脈が吻合していますrmnw.jprmnw.jp。これらは口唇粘膜下を走行するため、リップフィラーを誤って血管内に入れると広範な口唇壊死を招きますrmnw.jp。実際、上口唇中央部のフィラーで人中~上唇皮膚が壊死した報告もあるため極めて注意が必要ですrmnw.jp。鼻翼近くでは上唇動脈から鼻翼枝が出ており、鼻基部の注入もリスクがありますrmnw.jp。静脈も同様の分布で、上・下唇静脈から顔面静脈へ流れます。
    • 美容施術上のポイント: リップのヒアルロン酸注入は、加齢で薄くなった唇にボリュームを出し、輪郭を整えることができます。注入時は厚生労働省のガイドラインでも触れられているように、少量ずつ浅めに行い、動脈閉塞の兆候(蒼白や痛み)があればすぐ対処しますrmnw.jp。口角の下がりには口角下制筋へのボトックスと、口角横の凹みにフィラー注入を組み合わせると効果的です。**スマイル時の歯ぐき露出(ガミースマイル)**には上唇鼻翼挙筋群へのボトックスが有効です。マリオネットラインが深い場合、フィラーで溝を埋めたり糸リフトで口角基部の軟部組織を引き上げます。
  • オトガイ部(あご先):
    • 骨格: オトガイ部は下顎骨の先端部分(オトガイ隆起)で、下歯槽骨を含みます。女性は加齢でオトガイ部が著明に萎縮・後退しやすく、顎先が小さく丸くなりますrmnw.jp。オトガイ部の骨萎縮は下顎前方支持の低下を招き、下唇やオトガイのシワ(梅干しジワ)ができる一因ですrmnw.jp
    • 筋肉: オトガイ部にはオトガイ筋があり、下唇を突き出してオトガイの梅干しジワを作ります。過剰なオトガイ筋緊張にはボトックスを少量注射しシワ改善します。またオトガイ筋が弱まると下唇が外翻しやすくなるため、口元の加齢変化に関与します。さらに広頚筋の前方繊維がオトガイ下まで付着し、ここがたるむと二重顎の一部を形成します。
    • 脂肪: オトガイ部皮下には小さな脂肪パッドがあり、骨の上にクッションを作っています。顎先が痩せるとこの脂肪も萎縮します。オトガイ下には浅頚筋膜の下にオトガイ下脂肪(ダブルチンの脂肪)があり、肥満や加齢で増加すると二重顎になります。これは脂肪溶解注射や脂肪吸引、HIFUによるタイトニングなどで改善を図ります。
    • 靭帯: オトガイ部の正中には明確な固有靭帯はありませんが、側方では下顎靭帯の前端が近くに位置しますyamate-clinic.com。オトガイ部皮膚は骨膜に比較的強く付着しているため、たるみというよりシワとして変化が現れます。支持構造としてオトガイ部の骨膜と皮膚を繋ぐ無数の小靭帯(オトガイ皮膚靭帯)があり、これが緩むと梅干しジワが深くなる可能性があります。
    • 神経: 運動神経は顔面神経下顎縁枝がオトガイ筋を支配します(口角下制筋とともに)rmnw.jp。知覚神経はオトガイ神経(V3)がオトガイ孔から出てオトガイ部・下唇に分布しますrmnw.jp。オトガイ孔は下唇正中からやや外側に左右1つずつあり、フィラーやスレッド時には避けるべきポイントです。ここに注射すると強い痛みやしびれが起こりますrmnw.jp
    • 血管: オトガイ部は主にオトガイ動脈(下歯槽動脈の終枝)がオトガイ孔から出て供給します。オトガイ動脈は下唇動脈と吻合するため、この領域の血管塞栓も唇の壊死などを起こしえますrmnw.jp。オトガイ下には顎下動脈から分岐するオトガイ下動脈があり、これは二重顎治療(脂肪溶解注射など)の際に内出血源となりえます。
    • 美容施術上のポイント: 顎先のフィラー注入はEラインを整えたりシャープな横顔を作るのに用いられます。骨膜上に高濃度ヒアルロン酸を注入すると疑似プロテーゼ効果でオトガイを前方突出させられますrmnw.jp。注入時はオトガイ神経を圧迫しないよう骨膜上に鈍針でアプローチしますrmnw.jp。オトガイ筋由来の梅干しジワが強い場合はボトックスを少量注射し、平坦化させます。二重顎には脂肪溶解注射(デオキシコール酸製剤)で脂肪を減らしつつ、HIFUで皮膚と広頚筋膜を引き締めると有効です。糸リフトでは顎下のたるみを耳前方向へ引き上げるデザインがとられ、マリオネットラインや二重顎の改善に寄与します。
  • 下顎部(フェイスライン・エラ):
    • 骨格: 下顎骨の下半分(下顎枝~下顎体)が輪郭を形作ります。若年では下顎角が明瞭でシャープなフェイスラインを描きますが、加齢で下顎角部の骨量減少・下顎枝短縮によりエラ張りが和らぐ一方、下顎縁がぼやけますrmnw.jp。また下顎骨全体の弓状拡大(U字カーブの開大)で下顔面の幅が広がる傾向も報告されていますrmnw.jp
    • 筋肉: 下顎角部には咬筋が付着し、歯の噛み締めに関与します。咬筋が肥大するとエラが張った顔貌となるため、小顔目的で咬筋ボトックスが行われます。さらに咬筋深部は頬脂肪や靭帯の付着部でもあるため、咬筋が萎縮すると側面頬が痩せて見えることもあります。下顎縁下には広頚筋が薄く覆っており、下顎から首へのラインを形作ります。広頚筋は加齢で縦方向の筋張り(ネックバンド)や二重顎を形成するため、ボトックスやフェイスリフトの対象となります。
    • 脂肪: 下顎部(フェイスライン)には浅頚筋膜より上にジョウル脂肪(下顎縁脂肪)が位置しますrmnw.jp。頬の浅脂肪が下がってきたもので、顎の両側にたるみ(ブルドッグ顔)を作ります。深部には顎下腺や咬筋深部のバッカル脂肪体の尾部などがあります。ジョウルのたるみにはHIFUや糸リフトが有効で、根本改善にはフェイスリフトで余剰皮膚を切除します。
    • 靭帯: 下顎縁には下顎靭帯咬筋靭帯が位置し、SMASを骨に固定していますyamate-clinic.com。下顎靭帯はマリオネットライン付近、咬筋靭帯はエラのやや前方で、両者の間でジョウル脂肪が垂れ下がりますyamate-clinic.com。フェイスラインのリフトアップではこれら靭帯をリリース(剥離)し、SMASを引き上げて再固定することで劇的なたるみ改善が得られますrmnw.jp。糸リフトでもこの領域の靭帯を跨ぐように挿入し、フェイスラインを引き締めます。
    • 神経: 運動神経は顔面神経の下顎縁枝が口角下制筋やオトガイ筋を支配し、下顎角付近では頸枝が広頚筋に分布しますrmnw.jp。下顎縁枝は下顎下2cmの範囲で浅層に出るため、フェイスラインの皮下剥離時に損傷しやすいポイントですrmnw.jp。エラ付近では深部に顔面神経主幹が走るため、SMASより下の層を操作する際は注意しますsakai-keisei.gr.jp。知覚神経はオトガイ神経が下顎骨前方1/3の皮膚を、下顎神経の小後耳介神経がエラ付近の皮膚感覚を担います。咬筋の表面は皮神経が少ないため、ボトックスは比較的痛みなく打てます。
    • 血管: 下顎骨下縁の外側を顔面動脈が走行し、下顎体部前方で骨縁を超えて顔面に入りますrmnw.jp。このためエラ前方(下顎骨体部中央~前方2cm)にカニューレを刺入する際は動脈損傷に注意が必要ですrmnw.jp。下顎角付近では顎下腺に入る顎下動静脈や顎下リンパ節があり、フェイスリフト時は血腫防止のため丁寧な止血が求められます。静脈は外頸静脈系に流れます。
    • 美容施術上のポイント: フェイスライン形成として、顎先からエラにかけてヒアルロン酸で輪郭をシャープに整える施術が人気です。とくに下顎角が貧弱な場合、耳下~エラ角にフィラーを入れて疑似的にエラを作ると引き締まった輪郭になります(ただし咬筋肥大が強い場合はまずボトックスで筋を縮小させます)。糸リフトでは下顎ラインの皮膚・SMASをこめかみ方向へ牽引し、マリオネットラインやジョウルを改善します。重度なたるみには外科的フェイスリフトが選択され、耳前~後方から皮弁を剥離してSMASを上方に吊り上げ固定し、余剰皮膚を切除しますrmnw.jp。下顎部は首に近く血管・リンパも豊富なため、施術後の腫れが出やすい部位ですが、適切な圧迫やリンパケアで軽減できます。

以上、顔面の骨格から軟部組織(筋・脂肪・靭帯・皮膚)、神経・血管・リンパに至るまで、美容皮膚科診療に関連する解剖学的知識を網羅しました。解剖を正しく理解することは、美容医療における安全対策効果的な治療計画の根幹ですrmnw.jprmnw.jp。各構造の位置関係や加齢変化を把握し、それに対応した施術(リフト&フィル戦略、ボトックス注射、デバイス治療など)を組み合わせることで、患者にとって最良の若返り効果と安全性を両立させることができますrmnw.jprmnw.jp

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