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B01.美容医療における医師法・薬機法の実務知識と規制解説 V1.0

B01.美容医療における医師法・薬機法の実務知識と規制解説-V1.0

美容医療における医師法・薬機法の実務知識と規制解説

美容医療に必要な医師法・薬機法の法的知識

美容医療(美容外科・美容皮膚科など)に携わる医師は、一般の診療以上に法律面で注意すべき点が多く存在します。本章では、医師法および医薬品医療機器等法(薬機法)を中心に、美容医療に関連する主要な法的論点を総合的に解説します。また、関連する厚生労働省通知ガイドラインや判例・行政処分の動向についても触れ、実務上の注意点や具体例を示します。

1. 医師法と美容医療:適法な業務範囲と無資格・無届医業との境界

1.1 医師法第17条と「医業」の独占

医師法第17条は「医師でなければ、医業をなしてはならない」と規定し、医師以外による医業(無資格医業)を禁止していますphchd.com。違反した場合、3年以下の懲役または100万円以下の罰金という刑事罰の対象にもなりますphchd.com。ここで言う「医業」とは、厚生労働省の通達によれば「その行為を医師の医学的判断と技術によらなければ人体に危害を及ぼし得る行為(医行為)を、反復継続の意思をもって行うこと」と定義されていますphchd.com。つまり、医学的知識・技能を要し、適切に行わないと人体に危害が生じるおそれがある行為は、原則として医師のみが反復継続して業として行えるものです。

美容目的の医療行為も例外ではなく、メスを用いる美容外科手術や、レーザー照射、注射による施術(ヒアルロン酸やボトックス注射等)、高出力の医療機器を用いた施術などはリスクを伴うため、法律上はれっきとした「医行為」に該当します。そのため、たとえ美容上の目的であっても、医師免許を持たない者がこうした行為を行えば医師法違反となります。また医師であっても、医療機関としての届出をせずに無許可で診療行為を行うこと(いわゆる無届開設)も医療法違反となり得ます。美容サロン等で医師が非常勤で施術する場合でも、適切な施設届出や衛生管理が必要です。

1.2 無資格者による美容行為とそのリスク

近年、美容クリニック業界では無資格者による違法な医療行為が問題視されています。厚生労働省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」(令和6年)で示された実態調査によると、カウンセラーや受付スタッフが医師以外で診察・施術を行っていたケースが多数確認されましたbiyouhifuko.com。具体的には、回答したクリニックの20.5%でカウンセラーが患者の診察を行い、13.8%でカウンセラーが施術を行っていたとの報告があります(受付スタッフでも8.7%が診察、6.3%が施術を実施との回答)biyouhifuko.com。これらは明確に医師法違反であり、患者の安全を脅かす行為です。実際に、無資格のエステティシャン等が医療用の高出力HIFU(超音波治療器)を使用して火傷・障害を負わせたり、二重術(まぶたの手術)を無資格で行って逮捕された事件なども報道されていますihanjirei.com。医師は、こうした無資格施術の誘発や黙認を決して行ってはならず、クリニック内でも医師以外のスタッフが医行為に当たることのないよう徹底した管理が求められます。

1.3 美容目的の施術は「医療」に当たるか?

医師法が保健衛生上の危険防止を目的としていることから、施術の目的が治療であるか美容であるかに関わらず、危害のおそれがあれば医行為と判断されますphchd.com。もっとも、施術の内容によっては微妙な線引きも存在します。例えば、皮膚へのタトゥー施術に関する2020年の最高裁判決では、「医療または保健指導に属さない行為」(純粋に美容装飾目的の行為)であれば医師でなくとも直ちに違法とはいえないとの判断枠組みが示されましたphchd.com。この判例では、タトゥーは治療ではなく芸術的行為である点が考慮されています。しかし、美容整形手術や美容皮膚科治療は医療機関で行われ、医療器具や薬剤を用いる医療行為であることが明確です。したがって、美容目的であっても医療行為に該当する場合は医師にしか行えないという大原則に変わりはありません。医師は「これは医療ではなく美容サービスだから」と安易に考えず、法律上は医療行為である以上、安全管理や法令順守を怠らないことが重要です。

2. 薬機法に基づく広告規制:未承認医薬品等、比較広告、ビフォーアフター、体験談

美容クリニックの集客にはWebサイトやSNSでの情報発信が欠かせませんが、広告表現については薬機法および医療法に基づく厳しい規制があります。ここでは特に美容医療に関連しやすい広告規制上の論点を解説します。

2.1 未承認医薬品・医療機器の広告禁止

医薬品医療機器等法(薬機法)では、承認を受けていない未承認の医薬品・医療機器等の広告を明確に禁止していますyakujihou.comyakujihou.com。薬機法第68条は「承認前の医薬品・医療機器・再生医療等製品の広告禁止」を定めており、違反すると2年以下の懲役または200万円以下の罰金に処される可能性がありますyakujihou.com。例えば、国外で使用されているが国内未承認のフィラーやボトックス製剤、医療機器について、その名前や効果効能をホームページ等で宣伝することは違法となります。これは、患者に科学的に未確認な治療を安易に宣伝し、誤認させることを防ぐ趣旨です。したがって、美容医療で最新の治療を導入する場合でも、日本で未承認のものに関しては広告・宣伝を行ってはならない点に注意が必要です。

加えて、薬機法第66条では医薬品や医療機器の虚偽または誇大な広告を禁じていますyakujihou.com。具体的には、効能効果や安全性について事実と異なる表現、あるいは必要以上に優れた印象を与える表現は違法です。また「医師が保証しているように誤認される広告」も禁止されておりyakujihou.com、例えば「医師○○推奨!」のような表現は薬機法上問題となり得ます。これら薬機法の広告規制は、広告主(医療機関)だけでなく広告代理店や媒体運営者も含め広く適用されますyakujihou.com

実務上のポイント: 美容クリニックが自院の施術メニューを紹介する際、そこで使用する薬剤や機器が国内承認済かどうかを必ず確認しましょう。未承認のものは具体名や効果を歌った宣伝は避け、どうしても情報提供が必要な場合は後述の限定解除要件を満たす形で客観的情報に留める必要があります(詳細は「3. 未承認医薬品の使用」節で解説)。

2.2 医療法による広告規制と医療広告ガイドライン

医療機関の広告については、薬機法のみならず医療法にも規制があります。医療法第6条の5に基づく医療広告規制では、患者に誤解を与えるような広告表現を禁止し、表示可能な内容を限定しています。2018年の法改正以降、クリニックのウェブサイトも広告とみなされ規制対象となりましたbiyou-nurse.jp。厚生労働省は具体的な指針として「医療広告ガイドライン」を定めており、美容医療分野の広告もこれに従う必要があります。

医療広告ガイドラインでは、特に次のような広告表現が明確に禁止されています(省令で禁止される事項)mhlw.go.jp

  • 比較優良広告の禁止:他の医療機関や治療と比較して「当院は日本一」「他院より優れている」などと宣伝することmhlw.go.jpmhlw.go.jp。例えば「県内で当院だけが○○手術に成功」「症例数No.1」といった表現は、根拠の有無に関わらず不適切とされますmhlw.go.jp。医療法施行規則にも、他院と比較して優良である旨の広告は禁止と明記されていますmhlw.go.jp
  • 誇大・誤認させる表現の禁止:絶対的・断定的な表現(「必ず若返る」「絶対安全」など)や、治療効果を過度に強調する文言はNGです。費用強調も慎重に扱うべきで、過度に安さを売りにすると品位を損ねる広告とみなされ得ますoffice-hmw.jp
  • ビフォーアフター写真の取り扱い:治療前後の写真を用いた広告は、十分な説明なしに掲載すると禁止されますmhlw.go.jp。ガイドライン第3の1(7)では「患者に誤認を与えるおそれがある治療前後の写真」は不適切とされmhlw.go.jp、写真を出す場合は**通常必要とされる情報(治療内容・費用・回数・主なリスク・副作用等)**を併記しなければなりませんmhlw.go.jpmhlw.go.jp。説明なく写真だけを載せることはできずmhlw.go.jp、また複数の症例写真をまとめて一括で説明するのも不可で、各写真ごとに詳細情報を付す必要がありますmhlw.go.jpmhlw.go.jp。掲載場所にも配慮が求められ、メリットだけ強調しデメリット説明を小さな字で隠すような手法も認められませんmhlw.go.jp
  • 患者の体験談・口コミの禁止:患者本人の感想や体験談を広告に利用することも禁止されていますnero-drbeauty.com。例えばクリニックのHP上に「○○さん(患者)の声:○○治療で若返りました!」と掲載したり、第三者の口コミサイトの評判を転載する行為はアウトです。医療機関が自作自演で口コミを書くのは論外ですが、患者の本音だとしてもそれを医療機関が発信・利用すること自体が広告規制に抵触しますnero-drbeauty.com

実務的には、ウェブサイトに自由診療(美容)の施術内容を掲載する場合、「何の治療か」「どう行うか」「期間・回数」「費用」「副作用リスク」等の基本情報を網羅して記載することが求められますmhlw.go.jpmhlw.go.jp。これらは医療広告ガイドライン上の**「限定解除要件」と呼ばれ、自由診療の治療広告は必要情報を全て含めれば「患者が正確な判断をできる情報提供」として例外的に許容されるという建前ですmhlw.go.jp。逆に言えば、一つでも情報が不足した広告は不完全であり違反となります。厚労省の調査では、特に未承認医薬品を用いた痩身治療(例:GLP-1注射ダイエット)**に関するウェブ広告で、限定解除要件や未承認に関する注意事項が守られていない例が大多数だったと報告されていますmhlw.go.jp。美容医療の広告は今や当局から厳しくチェックされており、2023~2024年にもガイドラインや解説書が改訂されるなど規制が強化されていますmhlw.go.jp。医師は広告制作時に最新のガイドラインを参照し、法律に抵触しうる表現を排除することが必要です。

2.3 比較広告・優良誤認表示への注意

先述の通り、自院の優位性を誇張する広告は医療法上許されませんが、それに加えて2023年にはステルスマーケティング規制も開始されましたnero-drbeauty.com。景品表示法の改正により、事業者(広告主)が消費者に広告と悟られない形で優良誤認させる表示をさせることが違法となり、医療機関も対象ですnero-drbeauty.comnero-drbeauty.com。例えば「患者に高評価の口コミを書かせ、その代わり特典を与える」ような行為はステマ(ステルスマーケティング)とされ、消費者庁から行政処分を受ける可能性がありますnero-drbeauty.comnero-drbeauty.com。実際に2023年10月、ある内科クリニックが「Googleレビューで★5評価を書けばワクチン接種料を割引」と患者に依頼し、多数の虚偽高評価を集めた事案で、景表法違反(ステマ行為)として初の措置命令が出されていますnero-drbeauty.com。医療機関が口コミ評価を操作し優良に見せかけることは、景表法と医療広告ガイドライン両面で問題視されますnero-drbeauty.com

医師個人のSNS発信についても、内容によっては上記広告規制の網がかかります。営利目的の情報発信(自院への誘引を意図した投稿)は広告と見なされ、SNSであっても医療広告ガイドラインの遵守が必要ですmhlw.go.jp。詳細は後述するSNSの項で触れますが、「匿名の個人アカウントだから自由」という油断は禁物です。医師自身が発信者となる以上、公的な広告規制の対象になる可能性を常に念頭に置きましょう。

3. 未承認医薬品等の使用:再生医療等製品・ヒアルロン酸・ボトックスの実態と厚労省の見解

美容医療では、新しい薬剤や機器を他国に先駆けて導入したい場面も多く、日本で未承認の医薬品等を自由診療で使用するケースが少なくありません。その代表例がヒアルロン酸フィラーボツリヌストキシン製剤です。国内でも厚労省承認品(例:アラガン社の「ボトックスビスタ」や「ジュビダームビスタ」シリーズなど)が存在しますがkouseikyoku.mhlw.go.jp、海外にはそれ以外の類似製品(韓国製など)も多く流通し、価格が安いことから一部クリニックが個人輸入して使用する実態があります。

3.1 医師による個人輸入と規制

日本の制度では、医師等が治療のために未承認医薬品を個人輸入して使用すること自体は直ちに違法ではありません。ただし、その際には薬機法上の一定の手続き(税関での輸入確認申請など)を踏む必要がありますmhlw.go.jp。また当然ながら販売目的で大量輸入することは認められず、あくまで個々の患者に対する医師の裁量治療として少量を取り扱う範囲に限られます。しかし近年、美容目的で未承認薬を安易に使うクリニックが増え、問題視されています。例えば、国内承認のボトックス製剤は医師向け講習受講を条件に安全に配布されていますが、それを回避するように同成分の海外製ボトックスを並行輸入する事例がありましたkouseikyoku.mhlw.go.jpkouseikyoku.mhlw.go.jp。厚生労働省は2024年8月、この問題に対応する事務連絡を発出し、「国内承認品と同一成分・規格の未承認薬を輸入しようとする場合、正規の国内承認品を入手できない正当な理由がない限り認めない」との方針を示していますkouseikyoku.mhlw.go.jp。具体的には、「講習未受講で国内品が買えないから輸入する」といった申請があれば、「講習を受けて国内承認品を使用するよう促す」対応を各地方局に指示していますkouseikyoku.mhlw.go.jp。これは、患者の安全確保のため、国内の承認制度を迂回した安易な輸入使用を抑制しようとする厚労省の姿勢を示すものです。

加えて、厚労省は未承認医薬品の使用に際して患者への十分な情報提供と同意取得が不可欠であると強調しています。前述の医療広告ガイドラインQ&Aでも、未承認薬を用いる自由診療の広告には**「未承認である旨」「入手経路(医師の個人輸入である旨)」「同成分の国内承認薬の有無」「海外における承認状況・副作用情報」を明示することが求められていますmhlw.go.jpmhlw.go.jp。仮に主要国で承認例がない場合は「重大なリスクが明らかになっていない可能性」を示すことまで要求されますmhlw.go.jp。これらは広告上の規制ですが、裏を返せば患者へのインフォームド・コンセントでも同様の事項を説明すべき**ということです。さらに未承認薬等で副作用被害が出ても、公的な救済制度(医薬品副作用被害救済制度等)の対象にはならないことも明確に告知せねばならないとされていますmhlw.go.jpmhlw.go.jp。厚労省は2024年にガイドライン改正案でこの救済制度非対象である旨の明示も盛り込む方針を示しましたmhlw.go.jpmhlw.go.jp

3.2 再生医療等製品・先端的治療の扱い

再生医療等製品」とは細胞や遺伝子を用いた再生医療用の製品カテゴリーで、薬機法でも医薬品と並ぶ扱いを受けます。美容領域では、自家培養した細胞を注入する若返り治療や、幹細胞を用いた美肌治療などが一部で試みられています。これらは薬機法上の製品として承認を経ていない限り、やはり広告禁止使用には慎重な対応が必要です。また再生医療に該当する治療行為は、別途「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療安全法)」の規制下にあり、事前に計画を提出して委員会審査や厚労省長官の許可等を得る義務があります。美容クリニックで患者から脂肪や血液を採取し、培養して施術に使うような治療はこの法律の第3種または第2種再生医療に該当する場合があり、無届で行えば法律違反です。平成30年には、がん治療を標榜しつつ無許可で幹細胞治療を行ったクリニック法人が厚労省から行政処分(文書指導・改善命令)を受けた例もありますbiyouhifuko.com。美容目的でも細胞や血液を操作する治療には厳格な手続が必要であり、医師は単に「自由診療だから」と独自の先端療法を始めることはできません。

3.3 ヒアルロン酸・ボトックス未承認品のリスクと厚労省の対応

ヒアルロン酸注入やボトックス注射は美容皮膚科で非常にポピュラーな施術ですが、上述のように国内承認品以外を使うケースがあります。医師個人の裁量で未承認品を使うこと自体は違法ではないものの、その品質・安全性は保証されていないためリスクが伴います。例えば海外から個人輸入したフィラーが不純物混入で炎症を起こしたり、粗悪なボツリヌス毒素製剤で効果が出ない・抗体ができる等のトラブルも報告されています(日本皮膚科学会なども警鐘を鳴らしています)。厚労省はこうした実態を踏まえ、前述の通知で国内承認品の使用を促進するとともに、各クリニックに対しても未承認品使用時の説明義務徹底を呼びかけていますmhlw.go.jpmhlw.go.jp。具体的には、2023年頃から美容医療の指導強化の一環として、保健所や厚生局がクリニックのサイトを確認し、未承認治療の表示が適切かチェックするなどの動きもあります。今後、未承認薬の乱用に対しては行政指導やペナルティが一層強まる可能性があります。医師は安全性が確認された承認医薬品・医療機器を優先的に使用し、やむを得ず未承認のものを用いる際も患者への説明と合意を十分に行うことが肝要です。

4. 自由診療と保険診療の混合診療規制:原則・例外と美容医療での取扱い

日本の医療保険制度下では、保険診療と自由診療(自費診療)を原則として併用しない建前があります。これを一般に「混合診療の禁止」と呼びます。美容医療は基本的に保険適用外(自由診療)ですが、ここでは混合診療の原則と例外、そして美容分野で問題となり得る点を整理します。

4.1 混合診療禁止の原則と例外

混合診療の禁止原則とは、同一の患者の同一の治療過程において、保険が効く診療と保険外の診療を同時併用しないというルールです。もし併用した場合、本来保険適用部分も含めて全額が自己負担(自由診療扱い)とされてしまいます(さらに不正請求とみなされれば行政処分の対象にもなり得ます)。この原則は患者の経済的公平性や保険財政の維持の観点から設けられています。

しかし例外も存在します。代表的なのは保険外併用療養費制度による以下のようなケースです:

  • 評価療養:厚労省が指定する先進医療や治験など、将来的な保険収載を見据え評価を行うために保険診療との併用が認められる医療行為。患者は先進医療部分を自費負担しつつ、保険診療部分は保険給付を受けられます。
  • 選定療養:患者の選択による特別な医療サービスで、差額ベッド代や自由診療の歯科材料、医師の指名料など一定のものは例外的に併用が認められています。
  • 緊急やむを得ない併用:救急医療等で保険外の措置を取らざるを得ない場合には事後的に保険が認められるケースもあります(美容には無関係ですが)。

上記以外の混合診療は原則禁止です。例えば、自由診療のアンチエイジング点滴を受けながら保険適用の血液検査を同日に行う、といった場合、本来は検査も含めすべて自由診療扱いとしなければなりません。患者側が「検査だけ保険でやって」と希望しても、それに応じると混合診療の違反となる恐れがあります。

4.2 美容診療における自由診療の範囲と留意点

美容医療は基本的に全額自己負担であり、公的医療保険の適用範囲外です。厚労省も通知等で「容貌の美観を目的とする手術・施術は保険給付の対象外」と明示しています(平成元年保険局長通知等)。例えば、二重まぶた形成術、しみ・しわのレーザー治療、豊胸術などは疾患の治療ではなく美容目的のため、保険診療として行うことはできません。従って患者から費用全額を徴収する自由診療となります。美容外科や美容皮膚科で提供されるメニューの多くはこの自由診療に該当しますが、注意すべきは同じ手技であっても適応によって保険診療となる場合との区別です。

例えば、眼瞼下垂症の手術は視野障害などの治療目的で行う場合は保険適用されますが、純粋に二重形成やまぶたのたるみ取りだけを目的とする場合は自由診療です。またレーザー治療も、太田母斑や皮膚血管腫の治療目的なら保険適用されますが、美白やタトゥー除去目的なら自費になります。このように、患者の状態・目的によって保険か自費かが変わる施術が存在します。医師は診療の際にその区別を明確に説明し、不適切な保険請求をしないよう注意が必要です。

4.3 混合診療の実務上の注意点

美容医療では基本的に混合診療の問題は起きにくいものの、例外的に保険診療が絡む場面もあります。例えば、美容外科手術前の血液検査や画像検査を別日に保険で行うことは一応可能ですが、それが術前評価と明確に切り離せない場合には注意が必要です。診療録上も保険診療と美容目的診療が明確に区別できるよう記載しないと、後日問題となる可能性があります。万が一、美容目的の処置と保険診療が混在した際には、保険者から調査が来る場合もあります。厚労省は美容クリニックに対し、自由診療であることの説明や同意書取得とともに、「保険診療との区分を明確にすること」を指導しています(平成25年医政局長通知「美容医療におけるインフォームドコンセントの取扱い等について」cao.go.jp)。医師は患者に「これは保険が利きません」「保険診療と一緒にはできません」と丁寧に説明し、経済面のトラブルを防ぐことも求められます。

5. 最近の行政処分・指導・医道審議会答申などの動向

美容医療分野での違法・不適切な行為に対し、近年行政当局も監視を強めています。厚労省の医道審議会医道分科会では、医師の処分事例として美容クリニック関連の事案が取り上げられることも出てきました。最新の動向をいくつか紹介します。

5.1 医道審議会の処分事例

医道審議会は医師の非行や刑事事件を審議し、免許取消・医業停止などの処分を答申する機関です。美容医療が直接の原因で処分に付された例としては、無資格者に施術を行わせていたケースや、重大な医療過誤が挙げられます。例えば、無資格スタッフによる違法施術が発覚したクリニックの院長が業務停止処分を受けたり、手術中の過失致死で有罪判決を受けた美容外科医が免許取消となった例があります(※具体的な公表事例:医師法違反や業務上過失致死傷で有罪→医業停止○月等mhlw.go.jp)。また近年問題になったのは、有名美容外科医が解剖実習中の献体と写真を撮影しSNS投稿した倫理問題で、社会的批判を受け医道審議会でも議題となりました。この件では最終的に免許取消とまではなりませんでしたが厳重注意となり、医師の職業倫理に関する議論が巻き起こりましたx.com

行政処分の傾向として、直接に患者の生命・健康を危険に晒す行為(無資格医業、麻酔ミス、重大な術後放置など)には厳しい処分が下される傾向があります。一方、広告違反のみで直ちに免許停止になるケースは稀ですが、悪質な虚偽広告やステマが発覚した場合には業務改善命令や是正指導が出されることがあります。2023年には前述のステルスマーケティング案件で医療機関が初の措置命令を受けましたnero-drbeauty.com。これは消費者庁による行政処分ですが、厚労省も医療広告ガイドライン違反として問題視していますnero-drbeauty.com。繰り返し広告規制に違反するようなクリニックには、最終的に医師免許の行政処分(戒告や医業停止)につながる可能性もあります。

5.2 厚労省の検討会報告と今後の施策

厚生労働省は2024年に「美容医療の適切な実施に関する検討会」を開催し、業界の現状と課題について議論を重ねてきましたbiyouhifuko.com。同年11月に公表された**報告書(令和6年11月22日)**では、以下のような提言・方向性が示されていますmhlw.go.jp

  • 美容医療機関の情報公開・報告制度の導入:美容医療を提供するクリニックの管理者に対し、安全管理状況や有資格者の配置状況、重大な事故の発生状況等を定期報告させ、公表する仕組みを検討mhlw.go.jp。信頼できる医療機関が患者に選ばれるよう環境整備する狙いがあります。
  • インフォームド・コンセント徹底:前述の平成25年通知の改正強化が提案されています。特に自由診療(美容)では患者の理解不足が指摘されており、重要事項説明書の交付やクーリングオフ的な配慮(即日施術の抑制など)についてガイドライン化する方向ですbiyouhifuko.comcao.go.jp
  • 医療従事者の資質向上:「経験の浅い医師(いわゆる『直美容医』問題)への研修義務付け」や「美容外科等の専門医制度の充実」など、人材の質を高める施策が議論されていますbiyouhifuko.combiyouhifuko.com。無資格者問題も含め、一定の専門性を担保しようという動きです。
  • 違反行為への取締強化:無資格医業や悪質な勧誘・誇大広告に対して、関係省庁・自治体と連携した取締りを強化することが示唆されています。例えばエステサロンでの違法施術には警察と協力して厳正に対処し、違反クリニック名の公表など抑止策も検討されています。

今後、上記提言に基づき制度改正や新たなガイドライン策定が行われれば、美容医療の実務に直接影響を及ぼすでしょう。医師は行政動向にアンテナを張り、最新のルールにアップデートしていく必要があります。

6. 医師個人のSNS・ウェブ広告・口コミサイト利用上の制限と注意点

最後に、医師個人による情報発信やネット上の口コミとの付き合い方について解説します。現代では多くの美容外科医が自らSNSアカウントを持ち症例写真を紹介したりしていますが、前述のようにSNS投稿も内容次第で「広告」と見なされますmhlw.go.jp。医師個人の発信だからといって自由にできるわけではなく、法令上の広告規制職業倫理の両面から注意が必要です。

6.1 SNSでの症例写真投稿や発言

医療広告ガイドライン第2章ではSNSや動画での広告事例について詳細な解説がありますmhlw.go.jpmhlw.go.jp。ポイントは、クリニック公式アカウントはもちろん、医師個人であっても実質的に自院の宣伝となる投稿はすべて広告規制の対象になることですmhlw.go.jp。例えば、美容外科医が自身のInstagramでビフォーアフター写真を載せた場合、たとえ文章上は宣伝文句を書かなくとも、閲覧者を治療に誘引する意図が明確であれば広告と判断されますmhlw.go.jp。実際、ガイドラインでは**「SNS公式アカウントに症例写真のみ掲載し説明がない」ケースを不適切事例として挙げておりmhlw.go.jp、ウェブサイト上のバナー画像やSNS投稿でも必要事項の説明なしに写真だけ出すのはNG**と示していますmhlw.go.jpmhlw.go.jp

また、SNS特有の問題として、投稿の文字数制限や画像のみの発信などがあります。一連の投稿に分けて情報提供する場合でも、患者が容易に全体を把握できるよう配慮しなければなりませんmhlw.go.jp。例えばTwitter(現X)で施術写真をツイートし、続けてリプライでリスク説明を書くといった場合、きちんと一連の情報として伝わる工夫が求められますmhlw.go.jpmhlw.go.jp。ハッシュタグも含め広告と判断される要素なので、誤解を招くタグ(例:「#奇跡の若返り」など誇張的なもの)は避けるべきでしょう。

留意点: 医師個人のSNSでも、患者のプライバシー保護や守秘義務は厳守です。症例写真を出す際は必ず本人の同意を得て匿名化し、かつ上記の広告規制もクリアするよう細心の注意を払いましょう。安易な発言(「この施術マジお勧め」「絶対若返る」等)は誤認を与える危険があります。医師はSNS上でも節度ある言葉遣いと正確な情報提供に徹し、品位を損なう投稿(法律上も禁止事項ですmhlw.go.jp)はしないことが肝要です。

6.2 口コミサイトやレビューへの対応

美容医療ではGoogleレビューや美容医療専門の口コミサイト(例:トリビュー、ルナルナ等)の評価が患者の来院動機に影響します。医療機関側としては口コミに一喜一憂することもありますが、留意すべき法的ラインがあります。まず、自院に有利な口コミを自作自演したり業者に書かせるのは論外で、発覚すれば景表法違反や医療広告ガイドライン違反となりますnero-drbeauty.comnero-drbeauty.com。また患者に口コミ投稿を強要したり、見返りを渡したりする行為も注意が必要です。先述の事例のように、「高評価を書いてくれたら割引」はアウトですnero-drbeauty.com。「投稿してくれたら次回クーポン進呈」はグレーゾーンですが、結果的に良い口コミばかり集まる状況を招けばステマと見なされかねませんnero-drbeauty.com理想的なのは「感じたことを率直に書いてください。何を書いても構いません」と依頼し、謝礼などは渡さないことですnero-drbeauty.com。患者の自主的な評価まで完全にコントロールすることはできませんし、低評価への報復や圧力をかけるのは医師の品性を問われます。

医療広告ガイドライン上も、医療機関が自院についての口コミ・体験談をweb上に掲載する行為は禁止と明記されていますnero-drbeauty.com。したがって、自院サイトに「患者様の声」を載せるのはNGですし、公式SNSで患者の感想をリポストするのも避けるべきです。第三者サイトに書かれた口コミに医師が返信すること自体は違法ではありませんが、その内容で宣伝や誘導を行えば広告と見なされ得ます。この辺りは慎重な対応が必要です。

総括すると、美容医療に携わる医師は法的な知識とコンプライアンス感覚が不可欠です。医師法を遵守し無資格者に業務をさせないこと、薬機法・医療広告規制を踏まえて正しい情報提供を行うこと、未承認の治療では十分な説明と慎重な取り扱いをすること――これらを徹底することで、患者の安全と信頼を守ることができます。また行政の動きやガイドライン改定にもアンテナを張り、アップデートされた知識を実践に反映させましょう。美容医療は患者の夢を叶える反面リスクも伴う領域です。法的ルールと医の倫理を踏まえ、安全で適正な美容医療を提供することが、現代の美容医療従事者に課せられた責務と言えるでしょう。


参考法令等:医師法(昭和23年法律第201号)第17条、医療法(昭和23年法律第205号)第6条の5、医薬品医療機器等法(昭和35年法律第145号)第66~68条、再生医療等安全性確保法(平成25年法律第85号)など。

参考文献・資料:厚生労働省「医療広告ガイドライン」mhlw.go.jpmhlw.go.jp及び同事例集(第5版)mhlw.go.jpmhlw.go.jp、厚労省医政局長通知「美容医療サービス等の自由診療におけるインフォームド・コンセントの取扱い等について」(平成25年9月27日)jaam.or.jp、厚労省「美容医療の適切な実施に関する検討会」資料biyouhifuko.commhlw.go.jp、薬機法等に関する解説yakujihou.comyakujihou.com、医道審議会議事要旨 等。

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B04.美容医療の顔面および皮膚の解剖学V1.0

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