再生医療等安全性確保法の背景と目的
再生医療は、従来の治療では困難な難病などに対する新たな治療法として期待されていますが、一方で安全性に不明な点が多い新しい医療分野です。実際、かつて再生医療の臨床例で幹細胞を用いた治療後に患者が死亡した事例が報告され、日本における再生医療の安全性への懸念や規制の不十分さが指摘されましたjstage.jst.go.jp。また、2012年に京都大学の山中伸弥教授がノーベル賞を受賞したことで再生医療への期待が社会的に一層高まり、再生医療を安全かつ迅速に実用化するための法整備が急務となりましたjstage.jst.go.jp。
こうした背景を受け、日本では**「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(平成25年法律第85号、略称:再生医療等安全性確保法)が2013年に成立し、2014年11月25日に施行されましたjoint-seikei.com。本法の目的は、再生医療や遺伝子治療など最先端の医療技術による治療の提供に伴うリスクから患者を守り、国民が再生医療を迅速かつ安全に受けられるようにすることですnote.comjoint-seikei.com。同時に、研究開発から医療実用化まで再生医療の普及を総合的に推進することも掲げられていますjoint-seikei.com。具体的には、本法により再生医療等を提供しようとする医療機関が遵守すべき安全確保措置**が定められましたjstage.jst.go.jp。例えば、再生医療等に用いる細胞の採取・加工手順、提供する医療機関や細胞培養加工施設の基準、さらには提供計画の事前審査手続きなどが整備されていますjoint-seikei.comjstage.jst.go.jp。また、本法は医療機関内で行われていた細胞培養加工業務を外部の事業者へ委託できる制度(特定細胞加工物の製造許可制度)を設け、必要な再生医療を効率的に患者へ届けられる仕組みも整えましたjstage.jst.go.jp。
要するに、再生医療等安全性確保法は再生医療等を提供する際の安全性と倫理の確保を図るための法律ですjstage.jst.go.jp。臨床研究や自由診療(保険外診療)として再生医療等を実施する場合はすべて本法の規制対象となりmed.or.jp、医療機関は厚生労働省(または地方厚生局)への提供計画の提出と、事前に第三者機関である再生医療等委員会の審査・意見聴取を義務づけられていますmed.or.jp。これにより、未承認の再生医療であっても一定の安全管理の下で提供し、患者の生命・健康の保護と技術の適正な実用化を両立することが本法の狙いですmed.or.jpjstage.jst.go.jp。
第三種再生医療等の定義・範囲と具体例
再生医療等安全性確保法では、提供される再生医療等技術の**リスクに応じて3つの区分(第一種・第二種・第三種)**が定義されていますmed.or.jp。これは治療による人の生命および健康への影響の大きさに基づく分類であり、有効性による区分ではありませんsaiseiiryo.jp。以下に各区分の概要を示します。
- 第一種再生医療等(リスクが最も高い) – ヒトに対して前例がない、あるいは高度の注意を払っても重大なリスクがあり得る技術が該当します。例えば、**人工多能性幹細胞(iPS細胞)や胚性幹細胞(ES細胞)**を用いる治療、遺伝子導入操作を施した細胞を用いる治療、他人(患者以外)の細胞を用いる治療などが第一種に分類されますmed.or.jp。これらは未知または重大な危険性を伴うため、最も厳格な管理下に置かれます。
- 第二種再生医療等(リスク中程度) – 第一種ほどではないが一定のリスクがある技術が該当します。具体例として、培養した体性幹細胞(例えば自家由来の幹細胞を培養増殖して用いる治療)などが第二種に含まれますmed.or.jp。臍帯血由来や骨髄由来の幹細胞を用いた治療、培養拡大した自己骨髄間葉系細胞による治療など、現在すでに一部臨床応用が行われている再生医療技術がこの区分に入りますacro-office.com。
- 第三種再生医療等(リスクが比較的低い) – 上記第一種・第二種に該当しないすべてのその他の再生医療等技術が第三種に分類されますacro-office.com。すなわち、リスクが比較的低いと考えられる再生医療技術が該当し、多くは患者本人の細胞(自己由来細胞)を用いた治療ですacro-office.com。例えば患者自身のリンパ球を活性化して用いるがん免疫細胞療法(免疫療法)などは第三種再生医療等の代表例ですmed.or.jp。また、多血小板血漿(PRP)療法のように、患者本人の血液から作製した血小板濃縮物を患部に注射して組織修復を図る再生医療も第三種に該当しますomiya-revita-seikei.com。PRP療法は自己血液を用いるため安全性が比較的高く、整形外科領域の腱・靱帯損傷や変形性関節症の痛み軽減、皮膚科領域の美容治療などに応用されていますomiya-revita-seikei.com。これら以外にも、自家培養真皮線維芽細胞を注入する美容皮膚科治療や、自己の骨髄細胞を加工して用いる治療など、大きな拒絶反応や腫瘍形成のリスクが低いと考えられる細胞・組織を用いた再生医療が第三種に含まれます。
法律上の定義では「第三種再生医療等技術」とは第一種および第二種以外の再生医療等技術を指し、「第三種再生医療等」とはその第三種再生医療等技術を用いた医療のこととされていますacro-office.com。換言すれば、第一種や第二種に当たらない比較的低リスクの再生医療がすべて第三種です。第三種はリスクが低い分類ではありますが、完全に無リスクではないため、本法の下で一定の規制と監視のもとに提供されます。具体的には、第三種再生医療等を提供する医療機関は、事前に認定再生医療等委員会(厚生労働大臣が認定した委員会)による審査・意見を経てから、提供計画を厚生労働省に提出しなければなりませんmed.or.jp。第一種・第二種ではより専門性の高い特定認定再生医療等委員会での審査が必要とされていますが、第三種では認定委員会での審査で足りることになっておりjoint-seikei.com、リスクに応じて審査体制が区別されています。なお、提供計画が受理された後も、治療実施中の安全確保措置や有害事象の報告義務など、本法に定められた遵守事項は第三種であっても課されますmed.or.jp。
第三種再生医療等に該当する治療の具体例としては、前述のがん免疫療法(自己リンパ球を用いた免疫細胞療法)med.or.jpやPRP療法omiya-revita-seikei.comのほか、自己樹状細胞ワクチン療法、活性化自己NK細胞療法、自己培養軟骨移植(自分の軟骨細胞を培養して関節軟骨欠損部に移植する治療)などが挙げられます。これらはいずれも患者自身から採取した細胞を加工・培養して体内に戻す医療であり、他者由来細胞や多能性幹細胞を用いる場合に比べて拒絶反応や予期せぬ分化・増殖による有害事象のリスクが低いと考えられています。
現状、再生医療等安全性確保法の枠組み下で実施されている再生医療の大半は第三種に該当します。実際、施行後3年の2017年時点で届け出・実施されている再生医療は、第一種が17件(すべて臨床研究)、第二種が176件(治療119件、研究57件)であったのに対し、第三種は3,517件(治療3,461件、研究56件)と圧倒的に数が多く報告されていますmed.or.jp。第三種再生医療等には自由診療として提供されているものが多く含まれ、患者のニーズに応じて広く実施されている現状がうかがえますmed.or.jp。このように症例数が多い分野だからこそ、適切な手続きと安全管理の下で提供されることが重要です。本法に基づく審査・届け出制度により、第三種の比較的リスクの低い治療であってもエビデンスの収集や安全性のモニタリングが図られ、患者にとって安全・安心な再生医療の提供と将来的な保険診療化に向けたデータ蓄積が期待されていますmed.or.jpmed.or.jp。
以上、再生医療等安全性確保法は再生医療の発展と患者保護を両立させるための制度的枠組みであり、その中で第三種再生医療等は**「低リスクの再生医療」**として位置づけられています。医師は本法の趣旨に則り、第三種に分類される治療であっても適切な倫理審査と安全対策を講じた上で提供することが求められます。こうした法制度の理解は、再生医療を担う医療者にとって必須の知識といえるでしょうmed.or.jpjstage.jst.go.jp。
参考文献・出典:(法令・ガイドライン・厚生労働省資料 等)jstage.jst.go.jpjoint-seikei.comnote.comjstage.jst.go.jpmed.or.jpmed.or.jpomiya-revita-seikei.comacro-office.comjoint-seikei.commed.or.jp
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