はじめに: 多血小板血漿(Platelet-Rich Plasma, PRP)療法は、患者自身の血液から抽出した血小板濃縮物を用いる再生医療であり、整形外科や美容皮膚科など幅広い領域で注目されています。血小板には組織修復を促す成長因子が豊富に含まれ、適切に調製・投与することで治癒力を高めることが期待されますkossmos.jp。本講義では、臨床でPRPを安全かつ効果的に応用するために必要な基礎知識と実践手技を体系的に解説します。以下の項目に沿って、PRP調製の具体的手順や種類ごとの特徴、臨床適応、注意点などを概説します。
1. 採血の実際(採血量・抗凝固剤・採血時の注意点)
PRP調製の第一歩は患者からの採血です。一般的に20~60mL程度の静脈血を採取しますが、必要とするPRP量によって採血量は決まりますwellness-sp.co.jp。例えば、京セラ社のCondensiaシステムでは全血18mLから約2~4mLのPRPを得ることが可能ですwellness-sp.co.jp。また他キットの例として、ヤマト科学TriCeLLでは男性30mL・女性32mLの採血血にACD-A液3mL(抗凝固剤)を加え、約1~5mLのPRPを作製できますwellness-sp.co.jp。このように全血:抗凝固剤=約10:1の比率で採血するのが一般的です。抗凝固剤としてはクエン酸ナトリウムやACD-A(クエン酸-ブドウ糖液)が推奨されており、血液凝固を防ぐとともに血小板を安定化させますpmc.ncbi.nlm.nih.govdrprpusa.com。特にACD-AはPRP調製用抗凝固剤のゴールドスタンダードとされ、血小板構造を保護し成長因子(TGF-β1など)の放出量を増やすことが報告されていますdrprpusa.com。一方、EDTAは血小板機能を損ないうるため避けるべきであり、ヘパリンも凝集塊形成や成長因子減少の可能性があるため使用は推奨されませんdrprpusa.com。
採血時には以下の点に注意します:
- 無菌操作の徹底: 採血は滅菌手袋を着用し、アルコール綿などで消毒した静脈から行います。採血器具(採血針・チューブ)は滅菌済みディスポーザブルのものを使用してください。
- 抗凝固剤との混和: 採血直後に血液と抗凝固剤を速やかに混和します。試験管内で緩やかに転倒混和し(強いシェイクは不可)、血液が凝固しないようにしますpubmed.ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。凝固が始まると血小板が活性化してしまい、十分な成分が抽出できなくなるためです。
- 患者状態の確認: 患者がNSAIDsや抗凝固薬を服用中の場合、事前に休薬してもらうことが望ましいです。NSAIDsは血小板機能を抑制しPRP効果を減弱させる可能性があるため、注射前後は一定期間控えるべきですkneesurgrelatres.biomedcentral.com。また、脱水状態だと十分な血液量が採れないことがあるため、水分を適度に摂取してもらいます。
以上の手順と注意を守ることで、高品質なPRPを調製するための土台が整います。
2. PRP分離工程(遠心条件・単回 vs 二段階遠心・閉鎖系 vs 開放系)
採血後の血液から血小板濃縮物を抽出する工程として、遠心分離が用いられます。遠心分離により血液は層状に分かれ、下層に赤血球、上層に血漿、両者の間に**“バフィーコート” (Buffy coat)**と呼ばれる白血球・血小板層が形成されますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。この原理を利用し、バフィーコートを含む上澄み部分を採取することで血小板濃度の高いPRPが得られます。
遠心の条件は使用するキットや目的により異なりますが、大きく単回遠心法と二段階遠心法に分けられます:
- 単回遠心: 一度の遠心処理でPRPを抽出する方法です。例えばArthrex社ACPシステムでは1回5分間(約1,500rpm)の遠心で血漿と血球成分を分離し、そのままPRPを調製しますwellness-sp.co.jp。単回法は手順が簡便で処理時間が短い利点がありますが、血小板濃縮率は2~3倍程度と中程度ですwellness-sp.co.jp。遠心管内にゲル分離剤を入れ、遠心一発でPRP層を抽出する市販チューブもあります。単回法は操作が少ない分汚染リスクが低く再現性も確保しやすいですが、得られる血小板数がやや少なめになることに注意が必要です。
- 二段階遠心: “ソフトスピン”と“ハードスピン”の2段階に分けて行う方法ですpmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov。まず低重力(例: 約500–600×gで5~10分)で遠心し、赤血球を沈降させます。上澄みの血漿部分(血小板を含む)を別容器に移し、続いて高重力(例: 1,000–2,000×gで5~10分)で再遠心することで血小板を濃縮沈殿させますpmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov。最後に沈殿を少量の血漿で再懸濁すると高濃度PRPが得られます。この二段階遠心法により、血小板濃度を最大5~9倍程度まで高めることも可能ですwellness-sp.co.jp。実際、二段階法のTriCeLLキットでは最大9倍の濃縮率を達成できると報告されていますwellness-sp.co.jp。ただし手順が増えるため、その分だけ作業時間や手技の煩雑さも増します。
遠心条件の具体例を挙げると、京セラCondensiaでは1回目600×gで7分、2回目2,000×gで5分という条件で二段階遠心を行い、全血18mLから約3mLのPRPを抽出しますwellness-sp.co.jp。一方、Arthrex ACPは**5分間の単回遠心(約1,500rpm)**で全血16.5mLから約1mLのPRPを得ますwellness-sp.co.jp。このようにキットごとに最適条件が規定されているため、添付文書に従った遠心条件の遵守が品質再現性の観点から重要です。
閉鎖系 vs 開放系もPRP調製における重要なポイントです。閉鎖系とは、採血から遠心、PRP抽出までの過程がすべて密閉回路内で行われる方式で、外気への露出や手作業での移し替えを最小限にします。例えば二重シリンジ方式や専用カートリッジ内で分離が完結するシステムが該当します。閉鎖系のメリットは滅菌的で汚染リスクが極めて低いことです。実際、閉鎖式システムのCondensiaでは「術者への血液飛散が低減できる」(=汚染を防げる)とされていますwellness-sp.co.jp。一方、開放系では遠心後にチューブから上澄みをシリンジで吸い取るなど、人手による操作が入ります。開放系は安価な手作業で行える利点がありますが、その際はクリーンベンチ内や無菌野で操作し、器具や環境の清潔を確保することが欠かせません。また、遠心後に層が乱れないよう慎重に扱う必要があります。最近の研究では、正しく行えば開放系PRPでも感染リスクは著増しないとの報告もありますがesskajournals.onlinelibrary.wiley.com、安全性確保のため可能な限り閉鎖系キットの使用が望まれます。
以上より、遠心工程では「適切な条件設定」「標準化」「無菌操作」がキーポイントとなります。特に二段階遠心など手技が複雑な場合、オペレーターの技量がPRP品質に影響し得るため、手順の訓練と標準化が重要ですpmc.ncbi.nlm.nih.gov。各施設でプロトコルを統一し、誰が行っても一定の品質が得られるよう心がけましょう。
3. PRPの分類(Pure PRP、LR-PRP、LP-PRP、PRF 等)と各調製法・特徴・使用目的
PRPはその白血球含有量や線維素(フィブリン)の有無に応じていくつかのタイプに分類されますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。代表的な分類として、2009年のDohan Ehrenfestらの提唱した4分類が広く知られていますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov:
- P-PRP(Pure PRP): 白血球を含まない純粋なPRP(血小板のみ濃縮した血漿)。白血球が極力除去されており、凝固因子は未活性のまま液状ですpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。日本語では「ピュアPRP」あるいはLP-PRP(Leukocyte-Poor PRP)=白血球が少ないPRPとも呼ばれますkossmos.jp。例えばArthrex社ACPによるPRPは赤血球・白血球を約99%除去した純度の高いPRPで、「Pure-PRP」と称されていますkossmos.jp。炎症反応が少なく主に関節内注射や美容領域で用いられます。
- L-PRP(Leukocyte-rich PRP): 白血球を豊富に含むPRPkossmos.jp。全血遠心時のバフィーコート層をしっかり含めて血小板を収集したもので、白血球による免疫・炎症作用も期待できます。いわゆる「多血小板血漿(狭義のPRP)」と言えば、このLR-PRPを指すことが多いです。調製法はP-PRPと基本同じですが、バフィーコートまで吸引する点が異なりますdrprpusa.com。炎症性サイトカインや殺菌作用も有するため、創傷治癒や腱・靭帯の治療などで用いられます。一方、関節内では炎症が強すぎる懸念もあり適応には注意が必要です(詳細は後述)。
- P-PRF(Pure PRF): 白血球を含まない純粋なPRF(Platelet-Rich Fibrin)。抗凝固剤を使わず採血直後に遠心し、そのまま線維素の3次元マトリックスに血小板を捕捉したものですpmc.ncbi.nlm.nih.gov。血漿が自己凝固してゲル状の膜や塊になるため、液状のPRPとは用途が異なります。フィブリン網の中に血小板や成長因子が閉じ込められ、徐々に放出されるのが特徴ですpmc.ncbi.nlm.nih.gov。例えばPRGF(Plasma Rich in Growth Factors)や一部の高濃度フィブリン糊製剤が該当します。
- L-PRF(Leukocyte-rich PRF): 白血球を多く含むPRF。Choukrounらが開発した2世代目のPRP製剤で、無添加の全血をそのまま遠心するだけでフィブリンゲルを作りますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。ゲル内部に血小板と白血球が高密度に封入され、放出される成長因子も長時間持続することが利点ですpmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov。例えばChoukrounのPRF(歯科領域で広く使われる)やA-PRF, L-PRF(先進PRF)など複数のバリエーションがあります。フィブリンの足場効果で創傷治癒や血管新生が促進されるため、インプラント埋入や難治性潰瘍への貼付などに活用されていますkossmos.jp。
この他にも、新しい概念としてCGF(Concentrated Growth Factors)があります。CGFはPRFの一種とも言われ、イタリア・Sacco氏らが提唱した手法で、専用遠心器(Medifuge)により変動する回転速度で遠心することで、より高密度なフィブリン塊を得るものですpmc.ncbi.nlm.nih.gov。CGFはPRFに比べて線維素と成長因子のマトリックスが一段と濃密で、VEGFやTGF-β1などの放出量が多いことが報告されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。近年、CGFは第3世代の自己血小板濃縮製剤として位置付けられ、美容領域(シワ治療など)や骨再生目的で注目されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
以上まとめると、「PRP」と言っても実際には白血球や線維素の有無で性質が異なる複数の製剤が存在します。近年はそれぞれを明確に区別するため、上述のP-PRP(=LP-PRP)やL-PRP、PRF(L-PRF/P-PRF)といった用語が用いられていますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。各製剤で得られる効果や適応が異なるため、目的に応じた選択が重要です。次節では特にピュアPRPと他の製剤の違いに焦点を当てます。
4. ピュアPRP法の定義と他法(白血球含有PRP、PRF、CGF 等)との比較
「ピュアPRP」とは一般に白血球や不要な赤血球をほとんど含まない高純度のPRPを指しますkossmos.jp。すなわち前節で言う**P-PRP(LP-PRP)**と同義であり、血小板以外の成分を極力除去して調製されたPRPです。例えばArthrex ACP法では全血中の赤血球・白血球を約99%除去し純度を高めたPRPを作製するため「Pure-PRP」と称されていますkossmos.jp。ピュアPRPでは炎症性サイトカインや活性酸素を発生させる白血球が少ないため、組織への刺激が穏やかで、関節内や美肌治療など炎症を抑えたい場合に適していますdrprpusa.com。
これに対し、白血球含有PRP(LR-PRP)は血小板とともに好中球や単球などの白血球が混入したPRPですkossmos.jp。白血球が放出するサイトカインにより投与部位で一過性の炎症反応を引き起こすことが知られていますkneesurgrelatres.biomedcentral.com。例えば動物モデルでは、LR-PRPを関節内注射するとLP-PRPに比べ炎症反応(腫脹や痛み)が顕著だったとの報告がありますkneesurgrelatres.biomedcentral.com。そのため変形性関節症の治療など関節内注射ではLP-PRP(純PRP)の方が望ましいとの見解が主流ですkneesurgrelatres.biomedcentral.com。一方でLR-PRPは成長因子含有量が高いとも報告されておりkneesurgrelatres.biomedcentral.com、特に血流の乏しい慢性腱障害では適度な炎症を誘導することで治癒を促す可能性がありますkossmos.jp。実際、慢性アキレス腱炎などではLP-PRPでは効果が乏しく、LR-PRPの方が良好な成績を示すとの報告もありkossmos.jp、急性期と慢性期で使い分けるべきとの意見もありますkossmos.jp。このように白血球の有無による効果の違いは疾患や時期によって現れるため、患者の状態に応じた選択が重要です。
次にPRFやCGFとの比較です。ピュアPRPは液体状で注射に適しますが、PRF/CGFはゲル状の固形成分であるため用途や使用法が異なります。PRF(特にL-PRF)は白血球と線維素を含むフィブリン膜であり、その場に留まって組織の足場となりつつ成長因子を局所放出する特徴がありますpmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov。したがって、創面への貼付や手術部位への充填などに向いており、骨・歯肉の再生や難治性潰瘍の治癒促進に用いられていますkossmos.jp。一方、Pure PRP(液体)は広範囲に注射展開でき、また線維素がない分速やかに拡散・浸透して細胞に作用します。例えば関節内全域に行き渡らせたい場合や皮膚全体に細かく行き渡らせたい美容施術にはPRPが適しています。
CGFはPRF類似のフィブリンゲルですが、より濃縮度が高く線維素網が緻密なため、より長期間にわたり成長因子を放出しますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。CGFゲルは必要に応じ細片化して注射器で充填注入することも可能で、PRPとフィラーの中間的な使い方も検討されています。例えばCGFを真皮下に注入してシワ治療を行った研究では、3か月後に皮膚の張り改善が認められていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。このようにPRF/CGF系は主に局所に留めて組織再生を促す目的で使われ、PRP系(液状)は広範囲に拡散させて周囲組織の治癒を促す目的で使われる傾向があります。
総じて、ピュアPRPは「低炎症で広範囲な修復刺激」を与えるのに適し、白血球含有PRPは「高炎症で強力な治癒反応」を一点に与えるのに適すると言えますdrprpusa.comdrprpusa.com。PRF/CGFは足場効果による組織再建に優れるため、他のPRPとは一線を画す存在です。それぞれの特性を理解し、治療ゴールに合わせて最適な製剤を選択しましょう。
5. 各タイプのPRPの適応と臨床応用(整形、美容、皮膚科、形成など)
PRP療法は多領域にわたって応用されています。各タイプのPRPごとに適応となる分野と臨床応用例をまとめます。
- 整形外科領域: 変形性関節症(膝OA)や軟骨損傷に対する関節内注射でPRPが用いられています。特に白血球を除いたLP-PRP(純PRP)の関節内注射は、ヒアルロン酸注射に比べて6~12か月後の疼痛・機能を有意に改善したとのメタ解析結果がありますkneesurgrelatres.biomedcentral.com。関節内では炎症を抑える目的でLP-PRPが推奨されますkneesurgrelatres.biomedcentral.com。一方、肘の外側上顆炎(テニス肘)や膝蓋腱炎、アキレス腱症など慢性腱障害にはLR-PRP(白血球含有PRP)が用いられることがあります。慢性化した腱の変性部位では治癒過程の炎症が不十分なことが多く、あえてLR-PRPで炎症を惹起することで治癒を促進する狙いですkossmos.jp。実際、当院の症例では陳旧性アキレス腱炎にLR-PRP二回投与法で良好な結果を得ていますkossmos.jp。逆に急性期の靭帯損傷や腱鞘炎など炎症の強い病態ではLP-PRPの方が痛みを悪化させず適しているとの所見もありますkossmos.jp。このように整形外科では疾患や病期に応じてLR-PRPとLP-PRPを使い分けることが重要です。なお、半月板損傷の関節鏡下縫合では術中にPRPやPRFを併用する試みもあり、軟骨保護効果や治癒促進効果が報告されていますkossmos.jp。
- スポーツ医学領域: 上記整形分野と重なりますが、アスリートの肉離れや靭帯部分断裂、筋腱移行部の炎症などにPRPが利用されています。筋損傷には早期からPRPを局所注入すると再生が促され、競技復帰が早まる可能性が示唆されていますdrprpusa.com。またPRP治療とリハビリテーションの併用が有用であることも知られています。実際、PRP注射後に理学療法を組み合わせた患者は予後がより良好だったとの報告がありkossmos.jp、当院でもPRP治療中は積極的にリハビリ通院を推奨していますkossmos.jp。
- 美容皮膚科・形成外科領域: 自己血を使った美肌療法としてPRPは広く知られ、「ヴァンパイアフェイシャル」などの名称でメディアに取り上げられたこともあります。具体的にはしわ・たるみの改善、肌質の向上、瘢痕治療、育毛などが適応です。これらの場合、炎症を抑えてダウンタイムを短くするためピュアPRP(LP-PRP)が主に用いられますdrprpusa.com。例えば顔面の若返りでは真皮内に細かくPRPを多点注射し(またはダーマペンと併用し)、コラーゲン産生や血行改善による肌の張り・小ジワの改善を図りますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。瘢痕(ニキビ跡など)の治療でも、ローラーやレーザーで微細な損傷を与えた皮膚にPRPを浸透させ、自己治癒力で瘢痕を平滑化する施術が行われています。育毛についても、男性・女性型脱毛症に対し頭皮にPRPを注射すると毛髪密度が改善する報告があり、ミノキシジルなど従来治療で効果不十分な例に試みられていますdrprpusa.com。美容領域では年3回程度の連続施術(例: 1か月おき×3回)で効果発現を図るケースが多く、ダウンタイムの少なさからLP-PRPが好まれますdrprpusa.com。一方、PRF(特にCGFやナノPRF)をフィラー様に注入し、目の下のくまやほうれい線を改善する試みもあります。この場合PRFが緩徐に凝固してボリュームを与えつつ成長因子を放出するため、従来のヒアルロン酸フィラーに代わる自然な充填剤として注目されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
- 皮膚潰瘍・傷治療: 難治性皮膚潰瘍(糖尿病性足潰瘍、褥瘡など)や熱傷などの創傷治癒促進にもPRP療法が試みられています。潰瘍部にPRPを局所注射したり、PRF膜を被覆したりすることで肉芽形成が促され、治癒期間短縮の報告がありますpmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov。特にPRF膜はドレッシング材として創面を覆うことで保湿と成長因子供給が両立でき、新生血管増生や上皮化を促すと考えられますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。形成外科領域では、脂肪注入豊胸や皮膚移植の定着率向上にPRPを混合することもあります。PRP中のサイトカインが移植片への血流確保を助け、壊死や拘縮を減らす目的です。さらに術後瘢痕の質を改善する効果も期待されています。
- 歯科・口腔外科領域: 歯科領域はPRP/PRF応用の先駆け分野です。インプラント埋入時の骨造成や抜歯窩の治癒促進にPRF膜が古くから利用されていますkossmos.jp。例えば抜歯後のソケットにL-PRFゲルを填入すると骨組織の再生が促されインプラント埋入までの治癒期間が短縮するとの報告があります。また、歯周外科での歯周組織再生療法としてPRPを用いる試みもなされてきました。歯周ポケット内にPRPゲルを充填し、歯槽骨や歯根膜の再生を図りますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。近年ではCGFを用いた歯周組織再生の報告もあり、従来のエナメルマトリックスタンパク(エムドゲイン)などに代わる生物材料として期待されていますspandidos-publications.com。
- 眼科領域: 意外に思われるかもしれませんが、PRPから調製した自家血清点眼やPRP点眼は重症ドライアイや角膜上皮疾患の治療に用いられます。患者自身の血液から作った多血小板血清の点眼液を定期点眼することで、涙液中の成長因子補充と眼表面組織の修復を促すものですdrprpusa.com。難治性の乾燥性角結膜炎や点状表層角膜症に有効との報告があります。これらの場合も炎症を抑える必要から基本的にLP-PRPが用いられます。
以上、各領域でのPRP応用例を概観しました。まとめると、整形外科・スポーツ分野では組織修復(軟骨・腱・靭帯)を狙って関節内注射や腱周囲注射にPRPが使われ、美容・皮膚科では組織若返りや瘢痕修正を目的に皮内注射されます。歯科・形成外科では組織再生と創傷治癒のため、PRPだけでなくPRF/CGFのような線維素製剤も活用されています。適応に応じてPRPの種類(LRかLPか、PRFか)を選択し、必要に応じ他治療と組み合わせることが良好な臨床成績につながりますkossmos.jpkossmos.jp。
6. PRPの活性化方法(CaCl₂、トロンビン等)と注入前の注意点
PRP中の血小板は通常は抗凝固剤により安定化されていますが、これを故意に活性化させることで成長因子放出とフィブリン化を促すことができます。主な活性化方法として以下のものがありますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov:
- 塩化カルシウム(CaCl₂)添加: クエン酸などでキレートされ低下していた血液中のカルシウムイオンを補充することで、プロトロンビンからトロンビンへの転換を促し凝固カスケードを開始させます。一般に10%塩化カルシウム液をPRPに対して体積比1:10程度加えると数分~十数分で凝固が起こり、PRPはゲル状に固まります。その際、血小板が活性化してα顆粒からPDGFやTGF-βなどの成長因子が一斉に放出されますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。CaCl₂は安価で容易な方法のため、手術時のフィブリンシーラント代わりにPRPを固めたい場合によく用いられます。
- トロンビン添加: 外因性のトロンビンを加えることでフィブリンへの変換を直接引き起こし、即座に凝固させる方法ですpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。臨床的には市販のトロンビン製剤(過去には牛由来も使われましたが現在はヒト由来製剤が主)をPRPに混和します。もしくは患者自身の血液から血清を作り、その中のトロンビン様活性でPRPを凝固させる「オートトロンビン法」もあります。トロンビン添加は極めて速やかに強固な血小板ゲルを形成できる利点がありますが、市販トロンビン製剤には抗原性(特に動物由来の場合)やコストの課題があります。
- 物理的刺激による活性化: 凍結融解を繰り返すと血小板が破壊され中の成長因子が放出されるため、これを利用して凍結濃縮PRPを作る手法もあります。また、高濃度のPRPをガラス面に接触させて血小板凝集を誘発する方法もあります。しかしこれらは再現性に欠け、現在はあまり一般的ではありません。
上述のCaCl₂またはトロンビン添加が歴史的にも代表的な活性化手段であり、実際2000年代前半まではPRPを「Platelet Gel」としてゲル化させてから患部に適用するケースが多く見られましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。しかし近年では、注射療法においては必ずしも事前活性化しない方法が主流です。活性化しない(非凝固の)PRPをそのまま注入すれば、組織内でコラーゲンや組織因子に触れて生体内で自然に凝固・活性化するためです。その方が広範囲に行き渡り微小環境に適応した放出が期待できるとの考えから、特に関節内や皮下への注射目的では無処置で用いることが増えています。一方、手術中に局所に留めたい場合や接着剤的に使いたい場合は、前述のCaCl₂/トロンビンで凝固させたPRPゲルを用いることになりますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。例えば、骨折部位にPRPゲルを充填しておくと骨癒合が促進されるとの報告もあります。
注入前の注意点としては、まず活性化の有無を目的に応じて決めることが挙げられます。注射治療であれば無処置のままが一般的ですが、術野で使う場合は使用直前に活性化剤を混和してゲル化させます。CaCl₂添加の場合は混ぜてから5~10分以内に凝固が始まりますので、現場で即座に適用できる準備を整えておきます。トロンビンの場合は混和直後に急速に凝固するため、注入のタイミングを計りつつ患部に塗布・充填します。
また、PRP注入前後の薬剤・生活指導も重要です。上述の通りNSAIDs(非ステロイド抗炎症薬)は血小板機能を阻害するため、施術の数日前から術後2週間程度は控えるよう患者に伝えますkneesurgrelatres.biomedcentral.com。同様にステロイド全身投与や抗凝固薬も可能なら調整します。注入部位の感染予防も留意点です。注入前に皮膚を十分消毒し、施術後も当日は入浴や激しい運動を避けて清潔を保つよう指導しますkossmos.jp。特に関節内注射ではごくまれに細菌感染(敗血性関節炎)を起こすリスクがあるため、施術環境の滅菌や術者の手指消毒を徹底するとともに、患者にも注射部位を触らない・汚さないよう説明します。
最後に、PRPは調製後できるだけ速やかに使用することもポイントです。抗凝固処理していても時間経過とともに血小板は活性化・凝集してしまうため、基本的に数時間以内(理想的には30分以内wellness-sp.co.jp)に投与を終えるのが望ましいです。長時間放置するほど成分劣化や細菌コンタミのリスクも上がります。万一、何らかの理由で直ちに使えない場合は、無菌的に蓋をして4℃冷蔵保存し、できるだけ当日中に使い切ります。
以上のように、PRPを適切に活性化し安全に投与するためには、目的に沿った活性化法の選択と周到な事前準備・術後管理が欠かせません。これらを守ることでPRP療法の効果を最大限引き出し、副作用リスクを最小限にできます。
7. PRPの投与技術(注射部位・深度・量・頻度、超音波ガイド使用、併用治療との関係など)
PRPの効果を高めるには正確な投与技術が重要です。ここでは注射部位・深度・投与量・頻度および画像ガイドや併用療法についてポイントを整理します。
- 注射部位と深度: 患者の病変部位にできるだけ近接してPRPを届かせることが大切です。関節内病変であれば関節腔内に、腱・靭帯損傷であればその損傷部位や付着部に直接注入します。例えば慢性腱障害では、「病変の腱線維そのものに圧をかけて注入する方が効果的」とされkossmos.jp、一時的な疼痛を伴っても腱内部にしっかりPRPを送り込む注射法が推奨されますkossmos.jp。深度は、標的組織の解剖に合わせて調節します。皮下組織や真皮ターゲットの美容施術では浅い真皮内注射を細かく行い、関節内や筋肉内の治療ではターゲットが深部にあるため長い針を用いてアプローチします。
- 投与量: 一度に投与するPRPの量は部位によって異なります。大関節(膝など)では一般に3~6mL程度のPRPを関節液と置換するような形で注入しますkneesurgrelatres.biomedcentral.com。**小関節(足関節や肘など)**では1~2mL程度に留めます。腱や靭帯周囲への注射では、損傷の範囲に応じて数mLを分散注入します。例えばテニス肘では肘外側顆周囲に2~3mLを扇状に注射し、部分断裂した腱にはその断裂部に直接0.5~1mL注入します。皮膚や頭皮では0.1~0.2mLずつを多点にわたり真皮内投与し、総量としては数mL程度用います。なお、多量に入れすぎると逆に腫脹や疼痛を惹起する可能性があるため適量を守ります。
- 投与頻度と間隔: PRP療法はケースにより単回注射か複数回シリーズで行われます。変形性関節症に対しては、臨床研究では2~3回程度の注射(2~4週間隔)を行うプロトコルが多く採用されていますkossmos.jp。慢性腱障害でも1回で効果不十分な場合、3~4週間おきに計2~3回注射することがありますkossmos.jp。実際、当院では陳旧性腱障害に対し約3週隔で2回注射するレジメンを取っており、多くの患者で疼痛軽減などの改善がみられますkossmos.jpkossmos.jp。2回目以降の注射では初回より痛みが軽いと感じる患者も多いですkossmos.jp。美容領域では上述のように月1回を3回シリーズなど一定の回数を重ねて効果を高める手法が一般的です。重要なのは、治療効果と患者の負担のバランスを考慮して適切な回数・間隔を設定することです。また、治療効果判定のためには少なくとも数週間~数か月スパンで経過を追う必要があるため、安易に過度な頻回投与はせず、組織が修復される時間を待つことも大切ですkossmos.jp。
- 画像ガイドの活用: 超音波ガイド下注射はPRP療法において大いに有用ですkossmos.jp。エコーを使うことで注射針の進行方向や先端位置をリアルタイムに確認でき、PRPを狙った組織に的確に届けることができます。特に腱・靭帯など細いターゲットや、関節内でもポケットが分かれている場合などはエコーガイドが治療精度を高めますkossmos.jp。実際、上図のようにアキレス腱障害へのPRP注射ではプローブで患部を映し出しながら針を進めています。超音波の他、X線透視下ガイドが用いられることもあります(例: 脊椎領域のファセット関節内へのPRP注射など)。また、関節鏡視下や内視鏡下にPRPを適用するケース(手術中にPRPを塗布・注入)もあります。いずれにせよ画像支援を活用することで治療の再現性と安全性が向上するため、可能な限り利用すべきです。
- 併用療法: PRP単独でも効果はありますが、他の治療との組み合わせで相乗効果が期待できる場合があります。代表的なのは前述したリハビリテーション(物理療法・運動療法)との併用ですkossmos.jp。PRPで組織修復を促しつつ、リハビリで適切な負荷を与えることで、組織がより強くリモデリングされると考えられます。関節症ではヒアルロン酸注射や骨盤矯正との併用、皮膚科ではレーザー治療やマイクロニードリングとの組み合わせも行われています。例えばPRP注射とフラクショナルレーザーを組み合わせると、レーザーで生じた細かな皮膚ダメージにPRPが作用し、瘢痕や肌質改善効果が高まるとされています。整形外科領域では、PRP注射を行った後に補助装具の使用や免荷指導を組み合わせることで治癒環境を整えることも重要です。また、手術とPRPの併用としては、骨折手術時にPRPゲルを骨片間に充填したりpubmed.ncbi.nlm.nih.gov、半月板修復術でPRP/PRFを糊代わりに併用する例もありますkossmos.jp。一方で注意すべき併用もあります。ステロイド局所注射との併用は、ステロイドが血小板の働きを抑制するため原則避けます。同様に、FGF製剤との併用(一部美容クリニックで行われたPRP+成長因子注射など)は過剰増殖による肉芽腫リスクが指摘されておりyoutube.com、安全性の面から推奨されません。治療効果を高めたいからといって安易に未承認の薬剤を混和することは厳禁であり、あくまでエビデンスに基づいた組み合わせを選択することが大切です。
以上のように、PRP療法を成功させるには「どこに・どのくらい・何回投与するか」を適切にデザインし、画像ガイド等を活用して正確に施術する必要があります。加えて、他治療との相乗効果や干渉も考慮し、患者ごとに最適な治療計画を立案しましょうkossmos.jpkossmos.jp。
8. 国内で使用されるPRP調製キットの例(承認済製品を中心に)と品質管理
日本では再生医療等安全性確保法のもと、PRP調製用キットも高度管理医療機器(クラスIII)として承認を受けた製品が利用可能ですwellness-sp.co.jpwellness-sp.co.jp。代表的な国内使用キットとその特徴をいくつか紹介します(※いずれも厚労省承認済)wellness-sp.co.jpwellness-sp.co.jp:
Arthrex ACPダブルシリンジ: ドイツで開発された二重シリンジ型の簡易PRPキットですwellness-sp.co.jp。大きなシリンジに小シリンジが内包された構造で、採血から遠心、注射まで同一シリンジ内で無菌的に完結しますwellness-sp.co.jpwellness-sp.co.jp。遠心は5分間1回のみで、15mL採血から約2~3倍濃度のPRPを1mL得られますwellness-sp.co.jp。**白血球濃度は全血より低く抑えられる(LP-PRP)**設計で、関節内注射などに適していますwellness-sp.co.jp。操作手順が極めてシンプルで短時間で済む反面、一度に得られるPRP量は少なめです。ただ機器投資が不要で手軽なため、日本でも変形性膝関節症のクリニック等で広く使われていますkossmos.jp。
ヤマト科学 TriCeLL PRP分離・濃縮キット: 韓国製のRev-Med社技術を導入したキットで、完全密閉構造かつ手動操作で白血球濃度を調整可能なのが特徴ですwellness-sp.co.jpwellness-sp.co.jp。専用の二槽式シリンジとロッキング機構により、PRPと残余血漿・赤血球を明確に分離できますwellness-sp.co.jpwellness-sp.co.jp。二段階遠心(3200rpm→3300rpm, 合計7分)で最大9倍の濃縮PRPを短時間(約10分以内)に調製できる高性能システムですwellness-sp.co.jpwellness-sp.co.jp。採血量30mLに対し1~5mLのPRPを得られ、LR-PRP・LP-PRPいずれも作製可能ですwellness-sp.co.jp。
京セラ Condensiaシステム: 唯一の国内自社開発PRPキットであり、クラスIII承認済の安心感がありますprp-stemsell-support-center.com。18mL採血から約3mLのPRPを得る設計で、市販の汎用遠心機で使用可能なのが利点ですwellness-sp.co.jp。キットは閉鎖式で術者への血液曝露リスクを低減しwellness-sp.co.jp、遠心条件も2段階(600×g 7分→2000×g 5分)と標準化されていますwellness-sp.co.jp。手技次第でLP-PRPとLR-PRPを作り分けられる柔軟性も備えていますwellness-sp.co.jpwellness-sp.co.jp。日本製ならではの丁寧な作りで、信頼性の高いキットと言えます。
ハイレックスメディカル MAGELLAN自動PRPシステム: 米国Arteriocyte社のMagellanを国内導入したものです。特徴は何と言っても全自動処理であることwellness-sp.co.jp。専用の据置型遠心機に使い捨てカートリッジをセットし、ボタン操作ひとつで遠心から濃縮、PRP回収まで完了しますwellness-sp.co.jp。光学センサー内蔵で遠心分離の層を自動判別し、設定した濃度・量のPRPを取得できますwellness-sp.co.jpwellness-sp.co.jp。30~60mL採血(最大180mLまで追加可能)に対応し、3~10mLのPRPを得られますwellness-sp.co.jp。全自動ゆえ人為的誤差や汚染リスクが少なく、大量処理にも向きますが、装置導入コストは高めです。
ジンマー・バイオメット GPSIII/APSキット: GPSIIIは古くから実績のあるPRP調製キットで、APS(Autologous Protein Solution)キットはそれを応用し抗炎症タンパク(IL-1Ra等)を濃縮する独自技術が特徴ですwellness-sp.co.jp。例えばnSTRIDE APSでは60mLの血液から2.5mLの高濃度PRP/抗炎症タンパク溶液を抽出しますwellness-sp.co.jp。2段階遠心(15分+2分)で操作はやや煩雑ですが、海外・国内とも豊富な使用実績がありますwellness-sp.co.jp。炎症制御しつつ成長因子も供給できるため、特に変形性関節症に適するとされています。
テルモ SmartPrep: 米国ハーベスト社のSmartPrepをテルモ社が扱うシステムです。専用遠心機とキットでPRPだけでなく**骨髄濃縮液(BMAC)**も調製可能な多用途機ですwellness-sp.co.jp。2回遠心(自動デカント機構あり)で効率よくPRPを濃縮できますwellness-sp.co.jp。日本では骨髄由来の再生医療にも関心が高まっており、こうした複合用途のシステムも普及してきています。
以上が主な承認済みPRPキットの例です。それぞれ得意分野や利点が異なるため、クリニックの症例特性や予算に合わせて選択するとよいでしょう。なお品質管理の面では、これら承認キットを用いることで一定の製造管理・品質基準が担保されます。手作業主体のPRPではオペレーターの技量で品質が左右される懸念がありますがpmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov、市販キットではあらかじめ最適化された遠心条件・器具構成が整っているため誰が行っても再現性の高いPRPを得やすい利点がありますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。実際、各学会からもPRP調製の標準化ガイドライン策定の動きがありpmc.ncbi.nlm.nih.gov、臨床研究では投与するPRPの濃度や白血球有無など品質パラメータの報告が推奨されています。医師が臨床でPRPを扱う際も、使用キットや調製条件、出来上がったPRPの容量・外観などをしっかり記録し、治療成績との関連を検証する姿勢が求められます。
品質管理上もう一つ留意すべきは、キットや装置の滅菌管理と保守です。いずれのキットも基本**ディスポーザブル(一回使い切り)**であり、再使用すると感染リスクが高まるだけでなく物理的劣化で正確な遠心ができません。コスト節約のために使い回すことは絶対に避け、使用後は速やかに医療廃棄物として処理してください。また遠心機など再利用する装置部分は定期的な点検・清掃を行い、血液汚染や機械誤作動のないよう保ちます。メーカー指定のメンテナンスや校正も遵守し、常に安定した遠心力が出る状態を確保しましょう。
最後に、国内でPRP療法を提供するには再生医療等安全性確保法に基づく届け出が必要ですkossmos.jp。PRP療法は自家細胞を用いる第III種(関節外)または第II種(関節内)再生医療に分類されますkossmos.jp。従って承認キットを用いることはもちろん、委員会審査を経た提供計画書に従って実施すること、定期報告や副作用報告を怠らないことも「品質管理」の一環と言えます。こうした法的遵守も含め、PRP療法を安全に普及させていくことが医療者の責務です。
9. 衛生管理・感染対策・保存条件・再使用制限など実務上の注意点
PRP療法は患者自身の血液を扱うため、一連の操作を通じた衛生管理と感染対策が極めて重要です。以下、実務上の留意点をまとめます。
- 無菌的操作の徹底: 採血から投与まで、関与するすべての工程で無菌操作を貫きます。採血部位の皮膚消毒、滅菌済み器材の使用、術者の手指衛生とグローブ着用は基本中の基本です。調製中に試料を露出させる場合(開放系手技)は、できればクリーンベンチ内で作業し環境中の埃や飛沫が入らないようにします。閉鎖系キットでも接続部位の消毒や空気中露出部分の遮蔽など、細部に注意を払います。特にPRPは細菌が混入しても培養されやすい培地のような存在ですから、感染リスクゼロを目指すくらいの慎重さが必要です。
- 患者・術者双方の感染対策: PRPは自家製剤のため輸血のような感染症伝播リスクはありませんが、患者自身の細菌叢による自己感染や、術者への血液曝露リスクがあります。患者については注射部位の皮膚に化膿菌感染や傷がないか事前チェックし、そうした場合は施術延期も検討します。術者やスタッフは血液曝露防止策(ゴーグルやフェイスシールドの着用、鋭利器材の適切廃棄)を講じ、万一針刺し事故が起きた場合の手順も確認しておきます。閉鎖式キットの活用は術者の安全にも有用で、血液飛散や針刺しの機会を大幅に減らせますwellness-sp.co.jp。
- 施術後のケアと感染兆候監視: 注射後は創部を清潔に保つよう患者に指導します。当日は入浴やプールは避け、シャワー程度に留める、注射部位をこすらない等を伝えますkossmos.jp。また注射部位に発赤・熱感・強い痛みが出た場合はすぐ医療機関へ連絡するよう説明します。幸いPRP注射後の感染発生率は非常に低くesskajournals.onlinelibrary.wiley.com、適切に行えば滅多に問題は起きませんが、患者へのフォロー体制も整えておくと安心です。
- PRPの保存条件: 基本的にPRPは新鮮調製・即時使用が原則です。長期保存すると血小板が徐々に自己活性化・線維素析出して質が低下します。また抗生剤無添加ですので細菌汚染時に増殖を許してしまいます。やむを得ず保存する場合は室温または冷蔵でできるだけ短期間(数時間以内)にとどめます。冷凍保存すると血小板が破裂し成長因子は放出されますが、これは点眼など特殊用途以外では推奨されません。万一複数回投与のために分割保存する場合も、院内規定と再生医療の手続き上しっかり管理しなければなりません。なお、一度患者に注射した残液を後日再使用することは厳禁です。たとえ同一患者であっても、保存中に無菌性が保証できずリスクが高いためです。
- ディスポーザブルの遵守: 前述の通り、使用する採血針・チューブ・シリンジ・キット類はすべて単回使用です。再利用は感染リスクのみならず器材の精度低下にも繋がります。特に専用キットは一度遠心にかけると内部に血液成分が付着・乾固し、次回以降の処理に悪影響を及ぼします。「もったいない」は禁物で、患者ごとに新品を使用してください。コスト面ではディスポ消耗品代がかかりますが、これは安全投資と割り切る必要があります。
- 医療廃棄物処理: 採血後の残余血液(赤血球や不要血漿)や使用済みキット・針などは感染性廃棄物として適切に廃棄します。他の患者やスタッフが誤って触れることのないよう即時に黄色バイオハザード容器へ入れ、医療廃棄委託業者の規定に従って焼却処理します。遠心機本体など再利用部分に付着した血液汚染は次亜塩素酸ナトリウム等で確実に清拭します。
- 品質管理と記録: 調製したPRPの性状を観察・記録することも重要な実務です。肉眼的に血液の未分離(赤い混濁)がないか、容量は予定通り取れたか、ゲル化が起きていないか等をチェックします。不具合があれば原因を突き止め再発防止策を検討します。また可能であればPRP中の血小板数や白血球数を測定しカルテに残すと、治療効果との相関を振り返る材料になりますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。これら品質管理の積み重ねが、安全で効果的なPRP療法の提供につながります。
以上、PRP療法における衛生・安全管理のポイントを述べました。総括すると「血液を扱う以上、通常の手術と同等の感染対策を行う」「使い捨て器材は厳守し、清潔操作を徹底する」「治療後も患者の状態をフォローする」ことが肝要です。これらを守ることで、PRP療法は非常に安全性の高い治療と言えます。実際、自己血を用いるPRPは免疫学的拒絶や重篤な副作用が極めて少ない治療法ですkossmos.jp。残るリスクである感染や品質ばらつきを最小化するのが我々医療者の務めであり、そのための衛生管理・品質管理は決して疎かにしてはなりません。
おわりに: 本講義ではPRP療法の実践に必要な項目を基礎から応用まで概観しました。適切な採血と調製、製剤の種類選択、的確な投与技術、そして厳格な安全管理が揃って初めてPRP療法は最大の効果を発揮します。再生医療は日進月歩であり、PRPに関しても今後さらなるエビデンスの蓄積や改良が進むでしょう。医師として最新の知見を学びつつ、本日の内容を土台に安全かつ有効なPRP療法を臨床に役立てていただければ幸いです。
参考文献:
その他、各種メーカー提供資料(Condensiaカタログwellness-sp.co.jp、TriCeLL製品情報wellness-sp.co.jp、MAGELLANシステム説明wellness-sp.co.jp、ACPダブルシリンジ概要wellness-sp.co.jp等)および国内外文献kneesurgrelatres.biomedcentral.comkneesurgrelatres.biomedcentral.com。
Dohan Ehrenfest DM, et al. Classification of platelet concentrates: from pure platelet-rich plasma (P-PRP) to leucocyte- and platelet-rich fibrin (L-PRF). Trends Biotechnol. 2009;27(3):158-67pubmed.ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.gov.
Marin TM, et al. Review of Dohan Ehrenfest et al. (2009) on “Classification of Platelet Concentrates…”. J ISAKOS. 2024;9(2):215-20pmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov.
Kenmochi Ortho Clinic. PRP療法とは (院内WEB資料)kossmos.jpkossmos.jp.
Dr.PRP USA. PRP Blog: Leukocyte-Rich vs. Leukocyte-Poor PRP: A Guide for Physicians. 2025drprpusa.comdrprpusa.com.
厚生労働省 再生医療等安全性確保法 – 再生医療等の提供状況に関する報告書(令和4年)wellness-sp.co.jpwellness-sp.co.jp.
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