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補足(1) PRPとFGFを用いた皮膚再生医療におけるトラブル事例調査

背景

多血小板血漿(PRP:Platelet-Rich Plasma)療法とは、患者自身の血液を採取し遠心分離して血小板を濃縮した血漿を得て、それを患部(皮膚や組織)に注入する再生医療ですmhlw.go.jp。血小板には組織修復や抗炎症作用をもつ成長因子が多数含まれており、創傷治癒促進や美肌・育毛効果などが期待されますmhlw.go.jp。一方、線維芽細胞増殖因子(FGF:Fibroblast Growth Factor)は細胞増殖を促すタンパク質で、ヒト塩基性FGF(bFGF、一般名トラフェルミン)は日本では「フィブラストスプレー」という製剤名で褥瘡や皮膚潰瘍の治療用に承認されていますplazaclinic.jp。近年、美容皮膚科領域ではしわやくぼみ改善の目的で「PRP療法」にbFGF製剤を添加して皮下に注射する施術(通称「PRP+FGF療法」)が一部クリニックで行われてきましたbiyouhifuko.com。PRP自体は自己血液由来のため拒絶反応リスクが低く、「ヴァンパイアフェイシャル」などと称して海外セレブにも広まり比較的安全な若返り法と宣伝されることもあります。しかし、実際には十分なエビデンスが揃っておらず未承認の自由診療であり、副作用やトラブル報告も存在しますbiyouhifuko.combiyouhifuko.com。日本では2014年施行の「再生医療等安全性確保法」により、PRP療法などはリスク区分III(比較的リスクが低い自家細胞等)に位置づけられ、提供計画の届け出や受診前の書面による説明・同意取得が義務づけられていますasahi.com。以下では、PRPおよびFGFを用いた皮膚再生医療に関連する国内外の主なトラブル事例を、副作用の内容や原因、行政対応などの観点から整理します。

主なトラブル事例

国内の事例(日本)

1. PRP+bFGF注射による硬結(しこり)と訴訟事例: PRP療法にbFGF製剤を混合して顔のシワ治療を行った患者に、皮下硬結や膨らみ(しこり)が残存するトラブルが相次いで報告されていますbiyouhifuko.com。日本美容外科学会の美容医療ガイドライン(令和3年度版)でも、この**「PRP+bFGF療法」は「行わないことを弱く推奨(提案)する」と明記され、*「安易には勧められない」「注入部の硬結や膨隆などの合併症の報告も多く、bFGFの注入投与は適正使用とは言えない」*とされていますbiyouhifuko.com。実際、2023年には東京都内の40代女性が美容クリニックで顔のしわ取り目的のPRP+bFGF注射を受けた後、目の下やこめかみに想定外のしこりが生じて残存したため、クリニック運営法人を相手取り施術費用・慰謝料など約649万円の損害賠償訴訟を提起しましたasahi.com。このケースでは医師から事前に「自己血液から作るPRPに薬剤を添加する」*との説明がなく、患者は「自分の血液成分以外を入れるとは認識していなかった」と主張していますasahi.com。裁判所の調停により2025年1月、クリニック側が施術費や治療費などを含む解決金を支払うことで和解が成立しましたbiyouhifuko.combiyouhifuko.com。調停決定では、当該クリニックが使用したbFGF製剤「フィブラストスプレー」について「本来は傷の治療に使う外用薬であり皮下への注射投与は推奨されていない」と指摘され、クリニックがその事情やしこり発生リスクについての説明義務を怠ったと認定されていますbiyouhifuko.com。この「PRP+bFGF療法」はクリニックごとに様々な名称で提供されていますが、いずれも厚労省承認の医療ではなく、効果の過剰発現による組織増生(しこり等)のリスクが指摘されていますbiyouhifuko.combiyouhifuko.com。中にはPRPを使わずbFGF単独を皮下注射するクリニックも存在するとされ、専門家から「bFGFは様々な細胞を無差別に増殖させるため、安易な使用は危険であり、使うなら有効性・安全性を確認する臨床試験が必要」*との指摘もなされていますbiyouhifuko.com。なおPRP療法それ自体は日本では医師の裁量で自由診療提供されていますが、2025年には厚労省の方針に基づき業界ガイドライン整備が見込まれておりbiyouhifuko.com、施術前の十分なリスク説明や適切な手順管理によってトラブル防止を図る動きが強まっています。

2. その他の副作用例: 上記のしこり・硬結以外に、国内で報告されたPRP療法関連の副作用としては炎症や腫れ、内出血などの一過性の反応が散見されます。また感染症のリスクも理論上は存在しますが、PRPは自己血液由来であることから重大な感染症発生は極めてまれですpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。厚労省研究班の調査によれば、再生医療安全性確保法施行後5年間でPRP療法による重篤な有害事象の報告はなかったとされ、安全性に大きな問題はないと一定の評価がなされていますmhlw.go.jp。しかし施術過程で採血や注射を行うため、無菌操作を怠れば細菌感染や腫れ、発熱などのトラブルは起こり得ます。またアレルギー反応は通常起きにくいものの、PRP調製に添加する抗凝固剤や活性化剤(塩化カルシウム等)に対する反応の可能性はゼロではありません。国内では現在のところ死亡や失明などの極端に重篤な事故報告はありませんが、後述のように海外では稀ながら重大な合併症例も報告されており注意が必要ですbiyouhifuko.com

海外の事例(米国・韓国・欧州ほか)

1. 米国 – 「ヴァンパイア・フェイシャル」によるHIV感染事故: 米国ではPRPを用いた美容施術「ヴァンパイア・フェイシャル」において深刻な感染事故が発生しています。2018年、ニューメキシコ州の無免許スパ(VIP Spa)でPRPを顔面にマイクロニードル注入する施術を受けた複数の女性が相次いでHIV陽性となりましたmk.co.kr。米疾病対策センター(CDC)と州保健当局の調査により、同スパ利用者から計5件のHIV感染が確認され、そのうち少なくとも3名は他に既知のリスク要因がなく当該施術が感染源と推定されましたmk.co.krcbsnews.com。CDCは2023年にこの事例を報告し、*「美容目的の注入処置によるHIV伝播が確認された初めてのケース」として警鐘を鳴らしていますcbsnews.com。州当局は2018年時点で問題のスパを直ちに閉鎖し、調査でキッチンのカウンター上に無表示の採血管が放置され、冷蔵庫で食品と一緒に注射剤が保管されているなど極めて不衛生な実態が判明しましたcbsnews.com。施術を行っていた経営者は無免許医療行為の重罪で起訴され、2022年に有罪判決(禁錮3年半)を受けていますcbsnews.com。このケースでは器具の使い回しや不適切な衛生管理により血液由来製剤を介したウイルス感染が起きた典型例であり、CDCは「美容スパでの注入サービスには適切な感染対策の徹底が不可欠」*と強調していますcbsnews.comcbsnews.com。HIV以外にも、同様の状況下では肝炎ウイルスなど他の血液感染症拡大も懸念され、米国ではPRP施術を受けた客に対する追跡検査と行政指導が行われました。

2. 米国 – PRP注入による失明・皮膚壊死の報告: PRPは本来フィラー(充填剤)ではなく液状の自己血漿ですが、顔面への若返り注射として用いた際に誤って血管内に注入され、深刻な組織虚血を起こすケースが海外で報告されています。医学文献によれば、世界で少なくとも数件の一側眼の失明症例がPRP顔面注射と関連して報告されており、その多くは眉間やほうれい線部に注射した直後に眼動脈を塞栓して発生していますpmc.ncbi.nlm.nih.govbiyouhifuko.com。例えば2020年の症例報告では、南米で美容施術者によりPRP注射を受けた4人の患者が不可逆的な失明に至ったとされています。原因は注入時にPRPが眼動脈経由で網膜中心動脈を閉塞し、網膜・脈絡膜の梗塞を起こしたためで、いずれも注射直後に激しい眼痛と視力消失を呈しましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。ヒアルロン酸フィラー等でも稀ながら類似の塞栓事故は知られていますが、PRPでも高圧で誤注入すると逆流して塞栓を起こし得ると考えられていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。また海外では、鼻や額へのPRP注射で皮膚組織の壊死(ネクロース)が起きたとの報告もありますbiyouhifuko.com。これらは極めて珍しいケースとはいえ発生すれば重篤な後遺症を残すため、医師は解剖学的知識に基づく慎重な注入手技が求められますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。米国ではPRPそのものは医薬品としてFDA承認を受けていないものの(患者自身の血液を用いるため「最小限操作の例外」に該当)、医師の裁量で整形外科や美容領域で広く実施されていますcascaderegenmed.com。ただし効果を誇大に宣伝することは問題視されており、FDAは過去にPRPキットメーカーに対し適応外の効能広告を是正するよう警告書を出した例もあります(「あらゆる症状にPRPが有効」などの文言は不適切とされた)fda.gov。米国では患者による民事訴訟も多く、例えば無資格スパのHIV事件では被害者が州当局と連携し法的措置に踏み切っています。また失明や組織壊死に至った症例では、施術者に対する医療過誤訴訟の可能性も指摘されており、リスク管理の重要性が叫ばれています。

3. 韓国・アジアの動向: 韓国でもPRPは美容皮膚科や整形外科で美肌再生や薄毛治療として利用されていますが、その効果には慎重な意見もあり、安全性管理が課題となっていますovomedispa.com。幸い韓国国内でPRP施術による大規模な事故は公に報告されていませんが、米国のHIV感染事件は韓国メディアでも大きく報道され、美容業界に衝撃を与えましたmk.co.kr。韓国保健当局も無許可営業や衛生不備に対する監視を強めており、施術者は医師免許保持者であること、適切な滅菌・使い捨て器具の使用など基本遵守事項を徹底するよう指導しています。韓国は再生医療先進国でもある反面、過去に幹細胞点滴療法で患者が肺塞栓を起こし死亡する事件(2009年)が起きておりjsrm.jp、そうした反省から2020年に「先端再生医療・再生医薬品法」を施行して規制強化を図っています。PRPは対象外ではあるものの、美容目的の自由診療については日本同様に医療広告規制や倫理指針の整備が進められています。例えば一部の韓国クリニックでは**PRP施術後のダウンタイム(発赤・腫脹)**について丁寧な説明を行い、患者の不安軽減に努めているほかovomedispa.com、学会レベルで効果や副作用データの蓄積が進められています。

4. 欧州の動向: ヨーロッパ各国でもPRP療法は美容皮膚や整形領域で用いられています。EUでは自家血液由来のPRPは医薬品承認の対象外(病院内製剤扱い)となるケースが多く、各国のガイドラインに沿って施術が提供されていますcascaderegenmed.com。現時点で欧州発の大規模なPRP事故は報じられていませんが、例えばイギリスでは美容クリニックに対しPRP施術時の感染管理や施術者資格確認を徹底するよう行政指導がなされています。また欧州の学術報告でも、PRP皮内注射による局所感染や効果不十分といった事例は散見されており、安全かつ有効な手法確立に向けた研究が続けられていますhopkinsmedicine.org。一部では無資格者によるPRP類似施術(例:プラズマペン等)の横行も問題視されており、EU各国の保健当局は美容医療全般の規制強化の中でPRPにも言及しています。総じて、欧州ではPRPは有望だがエビデンス不足の技術と捉えられており、医療者には慎重な適応判断と患者への誠実な説明が求められています。

原因分析

上述の事例から明らかなように、PRPおよびFGF併用療法のトラブル原因は多面的です。主な要因を整理すると以下の通りです。

  • ①薬剤特性による生体反応: bFGF添加による過剰な組織増殖がしこり・硬結の直接原因です。bFGF(トラフェルミン)は本来創傷治癒を促す増殖因子ですが、皮下に注射するとコラーゲン産生や線維化反応を制御しきれず、局所的な瘢痕組織や肉芽を形成してしまうことがありますbiyouhifuko.combiyouhifuko.com。特に過去にヒアルロン酸等の異物注入歴がある部位にbFGFを加えると肉芽腫様の結節を生じやすいとも指摘されていますs-bi.com。またPRP自体も調製法や濃度によって含有するサイトカイン量が変動し、生体反応にばらつきが生じますbiyouhifuko.com。効果が不確実な中で安易に作用増強を図ろうと高容量のFGFを添加すれば、副作用リスクが飛躍的に高まるのは避けられません。専門家は*「bFGFは無差別に様々な細胞増殖を促すため、副作用リスクが高く、臨床試験で有効性・安全性を確認せず施術するのは問題」*と述べており、エビデンス不足で承認もないまま使用が広がったこと自体が根本原因といえますbiyouhifuko.com
  • ②手技上のミス・衛生管理不備: 注射手技の誤りも重大事故の原因となりました。顔面では血管網が発達しており、誤って血管内に注入すると塞栓による組織壊死や失明といった取り返しのつかない合併症に繋がりますpmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov。本来PRP注射はフィラー注入より粘稠度が低くリスクは小さいと考えられていましたが、それでも高圧で一部位に大量注入すれば血流に乗って広範囲を虚血に陥れ得ます。また無菌操作の欠如は感染症の直接的原因です。ニューメキシコ州の例では無資格者が滅菌手順を守らず採血チューブや注射器を再利用した疑いがあり、明らかな人為ミスがHIV感染を引き起こしましたcbsnews.com。このように施術者の知識・技術不足や基本的衛生管理の怠りが、患者に深刻な健康被害をもたらしたケースもあります。
  • ③体制・規制上の問題: PRPやFGF療法が位置する法規制のグレーゾーンもトラブルの背景にあります。日本では前述のように再生医療等安全性確保法で一定の枠組みが設けられていますが、「承認治療」ではなく各クリニックの責任で提供される自由診療ですjsrm.jp。そのためクリニック間で手技や添加物がまちまちで標準化されておらず、エビデンスの共有や副作用情報の集積が不十分でした。また患者側も「先進美容治療」などの宣伝文句に惹かれ十分な理解なく同意してしまう傾向がありましたbiyouhifuko.comasahi.com。一部のクリニックは自院の再生医療について「厚労省から正式承認を受けて提供している」などと誤解を招く広告表示を行い(実際は単に届け出を出しただけで行政の有効性評価はない)、患者をミスリードする例も散見されましたjsrm.jp。こうした規制の隙を突いた誇大広告や未承認医療の横行が、不適切な治療を蔓延させトラブル多発を招いた側面があります。
  • ④情報共有と教育の不足: 再生医療の急速な発展に対し、医療者・患者双方への安全教育や情報共有が追いついていない点も指摘できます。例えばPRP+FGFの危険性について日本美容外科学会など専門家は早くから警鐘を鳴らしていましたがbiyouhifuko.com、現場レベルで十分認識されず安易に導入するクリニックが後を絶ちませんでした。また海外のトラブル事例(HIV感染や失明例など)の情報が言語や国境の壁で伝わりにくく、各国で同様のミスが繰り返される傾向もあります。美容医療は競争が激しいため、新しい治療法を積極的に導入する反面、リスク情報の共有や事前検証を軽視してしまう環境がトラブルの温床となりました。

以上のように、薬剤そのものの作用から人的ミス、制度的不備まで複合的な要因が絡み合ってトラブルが発生しています。

行政対応と対策

日本および各国の行政・関係機関は、相次ぐトラブルを受けて安全対策や規制の強化に動いています。

  • 日本の対応: 厚生労働省は再生医療等安全性確保法に基づき、PRP療法提供施設に対し計画届出と倫理審査委員会の設置を義務づけています。また有害事象発生時の報告制度を整備し、必要に応じて業務停止や改善命令など行政処分を科す権限も有していますmhlw.go.jp(実際に他分野では臍帯血無届け投与での逮捕例ありjrai.gr.jp)。美容医療分野では2021~2023年にかけ厚労科研費による調査研究班が実態調査を行い、日本美容外科学会や形成外科学会と連携してガイドライン策定に至りましたmhlw.go.jpmhlw.go.jp。同ガイドラインではPRP単独療法についても**「効果はあるが血管内誤注入に注意」との注意喚起がなされmhlw.go.jp、特に問題のPRP+bFGF併用は前述の通り非推奨と明記されましたbiyouhifuko.com。さらに2024年には日本再生医療学会が「自由診療再生医療の広告に関する注意喚起」**を公表し、厚労省承認と偽る誇大広告は医療法違反であると警告していますjsrm.jp。これは具体的な事例(クリニックのウェブサイト等で誤解を招く表現)を踏まえたもので、学会として患者市民に向け異例の注意喚起を発した形です。加えて2025年には、美容医療業界団体による自主ガイドライン策定が予定されておりbiyouhifuko.com、施術名やリスク説明の標準化、未承認薬剤使用時の倫理基準などが示される見通しです。行政と学会が連携し、説明義務違反での訴訟発生という事態を重く見て再発防止に乗り出したと言えるでしょう。
  • 米国の対応: 米国ではFDA(食品医薬局)が再生医療全般の監督を強化しており、特に無許可の幹細胞クリニックや誇大広告に対して度々警告措置を取っていますfda.gov。PRPに関しては、自家血製剤のためFDA承認対象ではないものの、医療機器(遠心分離キット等)はFDAの認可を要します。また、PRPを加工した製剤を販売する場合は規制対象となり、2024年には動物用PRPを不適切に宣伝していた企業にFDAが警告書を出すなどの対応も行われましたfda.govfda.gov。ニューメキシコ州のHIV集団感染事件では、州保健局が早期に施設を閉鎖し利用者にHIV検査受診を呼び掛けるなど迅速な公衆衛生対応を取りましたcbsnews.com。その後CDCが詳細な疫学調査を実施し前述のとおり報告書を公表、全国的に「ヴァンパイアフェイシャル」の衛生管理に注意喚起しましたcbsnews.comcbsnews.com。この報告は各州の規制当局にも共有され、類似事案の有無を洗い出す契機となりました。米国では州ごとに医療・エステの管轄が異なりますが、多くの州でメディカルスパに対する監視強化が図られ、無資格者による施術には罰則が科されています。さらに、美容施術で用いる血液製剤について感染症スクリーニングや器材使い捨ての徹底などを定めたガイドラインを策定する動きもあります。民間レベルでは、患者向けに*「施術を受ける際は提供者が有資格か、使用製品がFDA認可か確認するように」*との啓発も行われていますcbsnews.comcbsnews.com。総じて米国では、規制の網をかいくぐった悪質業者の摘発と、安全確保のための標準的手順の普及という二方面から対策が進められています。
  • 韓国・その他の国の対応: 韓国では先端再生医療推進と安全管理を両立させるため、2020年に新法を制定し臨床研究段階から管理を強めました。美容領域のPRPは法律の直接対象外ながら、施術可能な施設・人員の資格要件を明確化し、美容外科医などの学会が中心となって標準手順書を作成しています。また韓国保健当局は高リスク施術(全身麻酔を伴う美容術など)に対する取り締まりを強め、2016年には未承認フィラー施術での事故に刑事措置を執った例もありますbiyouhifuko.com。PRP自体の行政指導事例は多くありませんが、たとえば韓国食品医薬品安全処(MFDS)は美容クリーム等に無許可でPRP成分を混入して販売していた業者を摘発するなど、再生医療の名を借りた違法行為への対処を行っています。欧州ではEMA(欧州医薬品庁)が関与する領域ではないため各国対応となりますが、イタリアやスペインでは美容クリニックに対する衛生検査の強化やPRP提供の事前登録制導入などの措置が取られています。イギリスでは2018年に美容医療業界に自主規制ガイドラインが提案され、その中でPRP等の再生系治療についてリスクと限界を明示した宣伝を行うことが求められました。ヨーロッパ皮膚科学会などもPRPの適応と禁忌、合併症管理に関する声明を出し、医師向け教育を進めています。各国とも基本的には**「有望だが未確立」**というPRPの位置づけを踏まえ、過度な商業利用を抑制しつつ、安全な施行とエビデンス構築を図る方向です。

考察(まとめ)

PRP療法およびFGF併用療法は、自己治癒力を利用した先端的な再生医療として期待される一方、適切に管理されなければ深刻なトラブルを招き得ることが明らかになりました。国内外の事例から得られる教訓を以下にまとめます。

  • 患者への十分なインフォームド・コンセント: 日本の訴訟例で問題となったように、患者が施術内容(添加薬剤の有無やリスク)を誤認したまま同意していたケースがありましたasahi.com。再生医療等安全性確保法でも説明義務が定められておりasahi.com、クリニック側は専門用語を避け平易な言葉でリスクと限界を説明する責務があります。今後はガイドラインに沿って、例えば**「bFGF添加により効果は高まる可能性があるが、〇%程度の患者にしこり形成などの副作用が起こり得る」**といった具体的データに基づく説明が求められるでしょう。患者側も広告の謳い文句に惑わされず、疑問点は事前に確認し納得の上で治療を選択することが大切です。
  • 安全対策と施術者の熟練: 衛生管理と正確な手技は、再生美容医療における基本かつ最重要の安全対策です。無資格スパでのHIV事故は論外としても、医療機関であっても油断すれば感染事故は起こり得ます。使い捨て器材の徹底、環境の清潔維持、採血から注射までの無菌操作順守はどの国でも厳守すべき標準ですcbsnews.com。また解剖学的知識を踏まえた注射技術の研鑽も不可欠であり、血管走行の多い部位には低圧・少量ずつ慎重に注入する、万一の塞栓症状に即応できるよう眼科や形成外科との連携体制を用意するといった体制も考慮されます。各学会で合併症管理の講習やマニュアル普及を図り、施術者の技術向上と意識啓発を続けることが重要です。
  • エビデンス構築と適正な医療提供: PRPやFGFの効果については依然賛否があります。例えばPRP+FGF併用について、有効性・安全性を検証する公的な臨床試験はほとんど行われておらず、医師ごとの経験則に頼っているのが現状ですbiyouhifuko.com。一方で一部の医師からは*「調製方法や投与量を工夫すれば副作用なく効果を出せる」との報告もありますbiyouhifuko.com。林院長のように独自のPRPFプロトコルで1000例以上を事故なく行った例もある反面biyouhifuko.com、今回問題化したケースのようにトラブルが続出した例もありますbiyouhifuko.com。今後は各症例の蓄積データを客観的に解析し、どのような条件下で有効でどのような場合にリスクが高まるのかを明らかにする必要があります。再生医療は患者ごとのバラツキも大きいため、効果が不確実な治療をさも万能のように提供するのではなく、現時点では*「効果には個人差があり、一定の失敗リスクも伴う先進治療」**として位置づけ、適応を慎重に選ぶべきでしょう。科学的根拠の蓄積に伴い、公的承認や保険適用の是非も議論されるはずであり、それまでは過度な商業主義に走らず患者の安全を最優先した提供体制が望まれます。
  • 行政と業界の協調による監視体制: 最後に、行政当局・学会・業界団体が協調して安全管理システムを強化することが求められます。日本では厚労省と関連学会がガイドライン策定や広告監視に乗り出しましたがjsrm.jp、今後は違反事例への迅速な対処(是正指導や処分)とともに、適切に取り組む医療機関を支援する仕組みも必要でしょう。例えば有害事象報告データベースの構築や、患者からの苦情を受け付ける相談窓口の設置、認定再生医療等委員会の機能強化などが考えられますmhlw.go.jp。海外でも、米国のように違法業者を摘発しつつCDCが広報啓発するモデルやcbsnews.comcbsnews.com、韓国のように法律を整備して包括的に管理するモデルがあります。各国の英知を共有し合いながら、安全で効果的な再生美容医療の発展を目指すことが重要です。再生医療は将来性の高い分野であり、その信頼を損なわないためにも、今回浮き彫りになった課題を真摯に受け止め再発防止に努めることが求められています。

引用文献・情報源(出典):

  • 【8】ヒフコNEWS『PRP+bFGF施術後しこりの訴えで美容クリニックが解決金…』(2025年1月9日)biyouhifuko.combiyouhifuko.com
  • 【19】ヒフコNEWS『PRP+b-FGFトラブルが訴訟に発展…2023年記事を振り返る』(2024年1月2日)biyouhifuko.com
  • 【21】朝日新聞『美容目的の再生医療で顔にしこり 医療法人を提訴「誤認のまま同意」』(2023年12月27日付)asahi.comasahi.com
  • 【4】厚生労働科学研究『美容医療の診療指針(令和3年度)』別紙3(2021年度報告書)mhlw.go.jpmhlw.go.jp
  • 【16】ヒフコNEWS『日本再生医療学会 美容医療シンポジウム報告』(2024年3月23日)biyouhifuko.combiyouhifuko.com
  • 【13】CBS News『「Vampire facials」でHIV感染、CDC報告』(2024年4月28日)cbsnews.comcbsnews.comcbsnews.com
  • 【11】毎日経済(韓国)『米無免許美容店のPRP施術後、女性3人がHIV感染』(2024年4月30日)mk.co.kr
  • 【18】Karam et al., “Visual Loss after Platelet-rich Plasma Injection into the Face”, Neuro-Ophthalmology, 44(6):371–378 (2020)pmc.ncbi.nlm.nih.gov
  • 【22】札幌美容形成外科(ブログ)『フィブラストスプレーの注射禁止について』(2023年)s-bi.com
  • 【29】日本再生医療学会『再生医療等の自由診療における広告に関する注意喚起』(2024年5月20日)jsrm.jp

2.3. 実際の使用法とその応用に向けた基礎と実践

2.4. 合併症・副作用と対応策

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