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PRP療法の歴史と皮膚再生医療への応用(2)

皮膚(顔・首)領域におけるPRP療法の導入と発展

美容皮膚科での導入: 顔や首の皮膚再生目的でPRP療法が本格的に取り入れられ始めたのは2000年代後半からです。先述のように2007年頃に実験レベルでPRPが線維芽細胞増殖を促進する可能性が示唆されdermatol.or.jp、2009年にはCervelliらによる顔面へのPRP応用(脂肪+PRP混合注入)が報告されましたdermatol.or.jp日本においても、2010年に三宅らが主に眼の周囲のシワに対するPRP注入療法の症例を発表しており、これが国内での美容領域PRPの初出とされていますdermatol.or.jp。以降、国内外で**「肌の若返り(リジュビネーション)」を目的としたPRP治療が広がり、多くの美容クリニックでシワ・たるみ治療やクマ改善のメニューとして採用されるようになりました。特に目の下のくぼみやクマ(黒ずみ)**、細かいシワなどは外科的手術や定型的な美容施術での改善が難しいケースも多く、こうした部位への新たな治療法としてPRP注射は注目を集めました。

治療効果とエビデンス: PRPには血小板由来成長因子(PDGF、TGF-β、VEGF、EGF、FGFなど)やサイトカインが豊富に含まれ、これらが真皮の線維芽細胞を刺激してコラーゲン産生や血管新生を促すと考えられていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。そのため、肌に直接PRPを注入すれば自己治癒力で肌組織を修復・再生しうる理論が支持され、多くの臨床研究が行われました。例えば、30名の女性を対象に純粋PRPを顔面に2回注射したイランの研究では、6か月後に患者評価で目の下のクマや小ジワの改善を過半数の症例で認め、特にクマの改善は統計的にも有意でしたpmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov。臨床医の評価でも同様にクマや目尻のシワで有意な改善が報告されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。このように**「自己血液を使った安全な美肌治療」**として一定の効果を示す報告が蓄積され、患者の満足度が高いケースも多いことから、PRPは美容皮膚科領域で徐々に市民権を得てきました。

しかし一方で、エビデンスの質と一貫性には課題も残ります。顔面の若返り目的のPRP研究の多くは症例数が数十例規模と小さく、対照群を持たない観察研究や医師・患者の主観評価に依存するものも少なくありませんpmc.ncbi.nlm.nih.gov。2021年の体系的レビューでは、顔面若返りに関するPRP療法の有効性を評価した研究36件(患者合計3172例)を分析しましたが、その結論は「臨床的エビデンスは極めて限られており、有効性確立には更なる研究が必要」というものでしたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。また研究ごとにPRP調製法や評価指標がまちまちで、結果のばらつきも大きく、標準化された治療プロトコルや客観的評価法の確立が求められていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。実際、単独のPRP注射では有意な効果を示さなかったとする報告も散見されjournals.lww.com、特に高齢者の深いシワ・たるみには目立った改善が得られない場合もあります。そのため現在では、PRPを他施術と併用するアプローチが注目されています。具体的には、PRPとフラクショナルレーザーCO₂レーザーを組み合わせてニキビ跡治療の効果を高めたりpmc.ncbi.nlm.nih.gov、**ダーマペン(マイクロニードリング)**施術後にPRPを浸透させてコラーゲン密度を増やす試みなどがありますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。こうした併用療法はコラーゲン産生や組織再生を相乗的に促進する可能性があり、より明確な効果を得る方法として研究が進められています。

安全性と注意点: PRP療法は自家由来の血液成分を用いるため、アレルギーや重大な感染症リスクが極めて低く安全性が高い点も大きな魅力ですjstage.jst.go.jpmhlw.go.jp。日本国内で再生医療法に基づきPRP治療を提供した症例の経過報告でも、重篤な有害事象は歯科領域・整形外科領域も含め少なくとも施行5年間で報告されておらず、一定の安全性が裏付けられていますmhlw.go.jp。皮膚への浅い注入であれば副反応は注射部位の軽度な腫れや発赤、内出血程度で、組織へのダメージは極めて少ないと考えられます。ただし注意点として、過去に日本の一部クリニックで線維芽細胞増殖因子(bFGF, 製剤名トラフェルミン)をPRPに添加してしわ治療に用いたところ、注入部位のしこりや異常な膨らみといった副作用が多数報告された事例がありましたdermatol.or.jp。bFGF添加PRPは強力な効果を期待する試みでしたが、安全性の問題から現在は厚生労働省や学会も「安易に勧められない」と明確に否定していますdermatol.or.jp。そのため国内ではPRP単独で適正に調製・注入することが重要とされ、施術を受ける際も信頼できる医療機関で適切な手順のもと行われることが推奨されています。

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