PRP療法の全般的な歴史と医療分野別の展開
1950年代~1970年代: 「多血小板血漿 (Platelet-Rich Plasma, PRP)」という用語は1954年にKingsleyらが初めて使用し、当時は輸血用の標準的な血小板濃縮物を指していましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。もともとPRPの概念は輸血医学で発達し、血小板減少症の治療として血小板濃縮液が用いられていた歴史がありますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。1960年代には血液バンクでPRP調製が行われるようになり、1970年代には一般的に普及しましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。1970年代にはMatrasらが手術中の創部止血に血小板シーラントを世界で初めて用いpmc.ncbi.nlm.nih.gov、1975年にはOonとHobbsが再建外科治療にPRPを初めて応用していますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
1980年代: 1980年代になると、PRPに含まれる成長因子(Growth Factors)の存在が仮説から事実へと変わりました。血小板から放出される生物活性物質(PDGFやVEGFなど)が組織修復を促すことが確認され、皮膚潰瘍治療への有効性が示されたのですpmc.ncbi.nlm.nih.gov。1986年にはKnightonらが自家血小板濃縮液を用いた創傷治癒促進法を「自家血小板由来創傷治癒因子(PDWHF)」として報告しpmc.ncbi.nlm.nih.gov、これが現在のPRP療法の先駆けとなりました。1987年にはFerrariらが心臓手術の際に術中輸血の代替として自家PRP輸血を実施し、出血や輸血量の大幅な削減に成功していますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。このように1980年代後半から、PRPは再生医療の一手法として注目され始めましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
1990年代: PRP療法は1990年代に入るとさらに応用範囲を広げます。とくに歯科・口腔外科領域では、1990年代初頭から顎骨の再建手術で移植片の定着促進にPRPが用いられpmc.ncbi.nlm.nih.gov、後半には歯科インプラント手術や歯周組織再生にも取り入れられましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。例えば、抜歯後の骨造成や歯周病による骨欠損の治癒促進にPRPを併用する試みが1990年代末頃から世界的に報告されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。また2000年代初頭には、抗凝固剤不要でゲル状に固まる「多血小板フィブリン (PRF)」がChoukrounらによって開発されpmc.ncbi.nlm.nih.gov、歯科領域での応用が一気に拡大しました。整形外科・スポーツ医学領域でも1990年代末から研究が始まり、スペインのAnituaは1999年に骨再生へのPRP活用を報告し、その後慢性皮膚潰瘍や歯科インプラント、腱治癒、スポーツ外傷への有効性を示す論文を次々と発表していますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
2000年代: 2000年代に入ると、PRPを活性化するための手法(例えば塩化カルシウム添加やトロンビン添加)が整備され、医療現場での実用性が向上しましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。整形外科ではPRPは腱・靱帯・筋・軟骨の治癒促進や変性疾患の治療に使われるようになりpmc.ncbi.nlm.nih.gov、2005年にはヒトの腱組織における成長因子効果を検証した本格的研究が報告されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。特にスポーツ選手がPRPを治療に用いる例が増えたことで世間の関心も高まり、PRPは一般のスポーツ障害治療にも広がりましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。2009年にはPRP濃縮物が筋組織の治癒を促進することを動物実験で確認した報告も出ていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。一方で形成外科・美容医療領域では、2000年代後半からPRPが皮膚の若返りや美容目的の注入療法として注目され始めました。例えば2009年、Cervelliらは脂肪注入にPRPを混合して顔面のシワ治療に応用し良好な結果を報告しており、これが美容領域でのPRP活用の初期の例とされていますdermatol.or.jp。また眼科や泌尿器科、婦人科などでもPRPの研究利用が進み、角膜上皮障害の治癒促進や慢性難治性潰瘍、男性機能改善などへの応用例が徐々に報告されるようになりましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
2010年代~現在: 2010年代に入るとPRP療法は世界中で急速に普及し、多領域で“再生医療”の一手段として定着しました。美容皮膚科領域では2010年頃からシワ・肌質改善の施術としてPRP注入が行われるようになりpmc.ncbi.nlm.nih.gov、有名人によるいわゆる「ヴァンパイア・フェイシャル」の話題などもあって一般にも知られる治療法となりました。実際、PRPを顔面に注射すると皮膚の保水力や弾力、色調が改善し若返ったような外観になるとの報告がありpmc.ncbi.nlm.nih.gov、この時期に多くの臨床研究が小規模ながら実施されています。またPRPは男性型脱毛症(AGA)の分野でも新たな治療選択肢となり、2010年代半ばにはGentileらが非活性化PRPの頭皮注入により毛髪密度・本数の有意な増加を示していますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。さらに2010年代後半には、PRPを他の施術と組み合わせる試みも登場しました。例えば脂肪移植にPRPを混ぜることで移植脂肪の生着率を上げる研究pmc.ncbi.nlm.nih.govや、CO₂レーザー照射後にPRPを併用してニキビ瘢痕を従来以上に改善したとの報告pmc.ncbi.nlm.nih.gov、あるいはマイクロニードリングとの併用でコラーゲン束の増生がより効果的だったとの報告などがありますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。このようにPRP療法は約70年の歴史を持ちながらも今なお応用分野が拡大し続けており、再生医療の有望な選択肢として発展を遂げていますpmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
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