1. PRP(多血小板血漿)の歴史
誕生の経緯と初期応用: Platelet-Rich Plasma(PRP、多血小板血漿)は、自分自身の血液から血小板を高濃度に抽出した製剤で、もともとは輸血医学の分野で開発されました。1954年にKingsleyらによって「platelet-rich plasma」という用語が初めて使用されpmc.ncbi.nlm.nih.gov、1960年代には血液銀行でPRP製剤が登場していますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。1970年代には、手術時の生体接着剤(フィブリンシーラント)として止血目的に血小板を用いる試みが行われましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。臨床応用として報告されているPRP療法の嚆矢は1980年代で、1987年にFerrariらが心臓外科手術において自己血PRP輸血を実施し、術中出血や輸血量の減少効果を示しましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。また1986年にはKnightonらが創傷治癒を促進する自家血小板濃縮物(PDWHF: autologous platelet-derived wound healing factors)のプロトコルを発表し、以後創傷治療や美容領域で応用が広がる端緒となりましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。このように1980年代から心臓外科や創傷治療でPRPの有用性が注目され始め、臨床現場でのPRP利用は1980年代には既に始まっていたといえますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
整形外科・歯科領域での発展: 1990年代に入ると、PRPは顎顔面外科や歯科領域で広く導入されました。例えば顎骨再建術で骨移植片の生着を向上させる目的でPRPが用いられた報告がありpmc.ncbi.nlm.nih.gov、歯科インプラント治療でもインプラントと骨の結合(オッセオインテグレーション)促進や骨再生のため、1990年代末頃からPRPが利用され始めましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。こうした歯科・口腔外科での成功を受けて、整形外科やスポーツ医学の分野でもPRPへの関心が高まりました。1999年にはAnituaらがPRPが骨再生を促進しうることを報告し、その後慢性皮膚潰瘍、歯科インプラント周囲の骨再建、腱治癒、整形外科スポーツ外傷への応用研究へと発展していますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。2000年代にはPRPの活性化方法(例えば塩化カルシウムやトロンビン添加)が工夫され、腱・靭帯・筋・軟骨などの治癒促進目的で盛んに研究・使用されるようになりましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。特に2005年にはヒトの腱組織におけるPRP成長因子効果に関する最初期の本格的研究結果が報告されpmc.ncbi.nlm.nih.gov、以降慢性化した腱障害や関節症に対する新たな治療選択肢として注目されます。また著名なスポーツ選手が自己治癒力を高める目的でPRP療法を受けたことが報道され、PRPはスポーツ医学領域で急速に知名度を上げましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。実際、海外では2000年前後からサッカー選手・メジャーリーガー・プロゴルファーといった競技者の怪我治療にPRPが用いられており、日本でも近年になって再生医療の一つとして注目を集めるようになっていますfujita-hu.ac.jp。
再生医療分野での拡がり: 2010年代以降、PRPの応用範囲はさらに拡大しました。形成外科・美容皮膚科領域では、皮膚の若返り(いわゆるヴァンパイアフェイシャル)や瘢痕治療にPRPを用いる試みが行われ、PRP注射後に皮膚の保水性や弾力・色調が改善するといった報告もみられますpmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov。また毛髪再生(男性型脱毛症など)にもPRPが利用されるようになり、無処理PRPや活性化PRPを頭皮に注入して毛髪密度の改善効果を示す研究結果も発表されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。脂肪注入療法においてPRPを脂肪と混合すると移植脂肪の生着が向上するとの報告も2009年前後になされ、整形外科領域の軟部組織欠損修復や美容外科の豊胸・脂肪移植で応用研究が進みましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。現在では、PRPは整形外科、スポーツ医学、形成外科、美容皮膚科のみならず、不妊症治療を目的とした婦人科や泌尿器科、眼科領域などでも研究・応用が試みられており、医療の多領域に広がっていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。このように70年以上の歴史を持つPRP療法は、再生医療の中でも比較的確立された技術の一つとして位置づけられ、今なお適応拡大と技術改良が続けられていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
2. 再生医療におけるPRPの位置付け
法的分類(再生医療等安全性確保法): PRP療法は患者自身の血液を加工して使用する治療であり、日本では**「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(2014年施行)の規制対象となりますcellprojapan.com。この法律では再生医療技術をリスクに応じて第1種・第2種・第3種**に分類しており、それぞれリスクの高い順に以下のように定義されていますcellprojapan.com:
- 第1種再生医療等: ヒトで実施例が極めて少なく未知のリスクが高いもの(例:ES細胞、iPS細胞由来細胞、他家由来幹細胞など)cellprojapan.com
- 第2種再生医療等: 既にある程度ヒトで実施例があり、中程度のリスクが見込まれるもの(例:患者本人由来の幹細胞治療など)cellprojapan.com
- 第3種再生医療等: 細胞本来の機能を活用し、大きな培養・操作等を加えないためリスクが低いと想定されるもの(例:加工を施した体細胞を用いる治療など)cellprojapan.com
PRP療法は患者自身の体細胞(血液)を用い、細胞を培養増殖させたり他人由来の材料を用いたりしないため、一般的にリスクの低い第3種再生医療等に該当しますfujita-hu.ac.jp。第3種に分類される再生医療を実施する医療機関は、あらかじめ認定再生医療等委員会の審査・意見を経て、厚生労働省に提供計画を届け出ることが義務付けられており、一定の安全管理体制の下で施術が行われますfujita-hu.ac.jp。ただしPRPの利用目的によっては例外もあり、整形外科領域の関節治療など一部のPRP技術は第2種に分類されるケースもありますcellprojapan.com。実際、2022年時点のデータでは、国内で届け出・実施されている再生医療提供計画のうち約65%がPRPを用いた技術であり、そのうち整形外科の関節疾患治療(約80%)や婦人科の不妊治療(約20%)が第2種に、歯科領域の治療(過半数)や整形外科・美容外科領域の一部治療が第3種に分類されていますcellprojapan.com。このようにPRP療法は国内で最も件数の多い再生医療技術となっており、再生医療の中で重要な位置を占めていますcellprojapan.com。なお、第3種再生医療等に分類されるPRP療法の多くは**自費診療(自由診療)**として実施されています(後述)fujita-hu.ac.jp。
再生促進のメカニズム: PRPが再生医療の一手法とみなされるのは、損傷組織の修復を促す生理的メカニズムを積極的に利用しているためです。血小板は本来、損傷部位で凝集し止血するだけでなく、α顆粒から放出される成長因子によって周囲組織の治癒プロセスを活性化する役割を持ちます。PRPには通常の血漿より高濃度の血小板が含まれており、その中から放出される主要な成長因子として、血小板由来成長因子 (PDGF)、形質転換成長因子 (TGF-β)、血管内皮成長因子 (VEGF)、表皮成長因子 (EGF)、線維芽細胞成長因子 (FGF)、インスリン様成長因子 (IGF) などが挙げられますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。これらは細胞の増殖・遊走、血管新生、コラーゲン産生、上皮化など組織修復に欠かせない作用を持つ分子であり、PRPを患部に投与することで高濃度の修復因子を局所に供給して治癒を促進しようというのがPRP療法の基本コンセプトですpmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov。実際、基礎研究レベルではPRPが関節軟骨組織で炎症性サイトカインの抑制や軟骨細胞の合成活性向上をもたらすこと、腱細胞の増殖やコラーゲン合成を促進することなどが示されていますpmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov。またPRP中の白血球成分には感染防御の効果もあり、PRPを用いることで創部の細菌増殖を抑制するといった報告もありますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。もっとも、PRP中の白血球は炎症反応を強めてしまう可能性も指摘されており(白血球含有のPRPではコラーゲン産生に偏りが生じ腱治癒の質が低下する可能性などpmc.ncbi.nlm.nih.gov)、白血球を除去したPRP(leukocyte-poor PRP)と含有したPRP(leukocyte-rich PRP)のどちらが望ましいかについては明確な結論が出ていませんpmc.ncbi.nlm.nih.gov。このようにPRPの調製法(遠心分離の条件や添加物の有無など)によって内容成分が異なりうるため、臨床効果にもばらつきが生じる可能性があります。現時点で最良の手法は定まっていませんが、患者ごとに自家血液から作製するPRP製剤の品質・濃度に変動がある点には留意が必要ですpmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
他の細胞治療との違い: 幹細胞移植や遺伝子改変細胞療法などの再生医療と比較した際、PRP療法はいくつかの相違点を持ちます。第一に、PRPは新たな細胞を体内に移入するものではなく、あくまで自己血液由来の成長因子を利用する点で、細胞そのものを移植する治療(例えば培養軟骨移植や自己幹細胞点滴など)とは異なります。すなわち、PRP療法では細胞の分化・増殖による組織再生ではなく、内因性の修復シグナル強化による治癒促進が狙いです。第二に、PRPは患者本人の組織をその日のうちに加工して再投与する自家療法であり、細胞培養を必要としません。このため他家細胞を用いるケースに比べ免疫拒絶反応や重篤な副作用のリスクが低い一方、製造管理も比較的簡便でコストや倫理面のハードルも低いと考えられますcellprojapan.com。一方で、培養幹細胞移植など高度な細胞治療では組織そのものの再生や置換が期待できるのに対し、PRPは間接的な治癒促進に留まるため、重度の組織欠損や難治性疾患に対して単独で劇的な再生効果をもたらす可能性は低いとも言えます。実際、PRPは他の再生医療技術に比べれば低リスクではあるものの、エビデンスの蓄積が不十分な新しい治療であることに変わりはなくcellprojapan.com、有効性については他の先端医療と同様に慎重な評価と比較試験が必要です。この点からも、PRP療法は再生医療等安全性確保法の下で適切に提供されるべき技術と位置付けられていますfujita-hu.ac.jp。
3. 国内外のPRP導入事例と臨床応用状況
整形外科領域での活用: PRP療法は整形外科を中心に国内外で幅広く導入されています。たとえばスポーツ整形の分野では、慢性化した腱障害(テニス肘〈外側上顆炎〉やアキレス腱炎など)や靭帯損傷、筋肉の肉離れといった怪我に対し、従来治療で治癒が遅れる症例にPRPを注射して治癒促進を図るケースがあります。近年の研究では、テニス肘や肩腱板損傷に対するPRP療法は中〜高水準のエビデンスで有効性が示されたとの報告もありpmc.ncbi.nlm.nih.gov、難治性の腱・靭帯障害に対する生物学的治療の一つとしてPRPを検討する整形外科医も増えていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。また変形性関節症(特に膝関節症)に対して関節内にPRPを注入し、疼痛緩和や軟骨保護効果を期待する治療も行われています。膝OA(変形性膝関節症)に関しては、PRP関節内注射が痛みの軽減や機能改善につながるとする研究pmc.ncbi.nlm.nih.govがある一方、対照として用いたヒアルロン酸注射やプラセボに比べ長期的な優位性は明確でないとする報告もありますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。特に進行した重度の関節症では効果が限定的で、むしろ初期〜中等度の患者でPRPの有効性が高い傾向が示唆されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。海外では既に多くの膝OA患者がPRP治療を受けていますが、治療効果については研究間のばらつきが大きく、現時点で明確なコンセンサスには至っていません。それでも、PRPは手術を避けたい患者に提供できる低侵襲の選択肢として一定の支持を集めており、欧米やアジアのスポーツ医学クリニックで盛んに施行されています。日本国内でも、膝や肘の痛みに対する自由診療のPRP注射を提供する整形外科クリニックが増加傾向にあります。
形成外科・美容領域での活用: 創傷治癒促進を目的としたPRP利用は形成外科領域でも導入されています。難治性の慢性潰瘍(褥瘡や糖尿病性潰瘍など)に対し、患部にPRPを塗布・注入して肉芽形成を促す再生治療が試みられています。また美容医療において、患者自身の血液から得たPRPを皮膚に注射してコラーゲン産生を促し、しわ・たるみ改善や肌質の若返りを図る施術(いわゆるPRP皮膚再生療法)が広まりましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。具体的には、顔面のしわ・くぼみへのPRP注入や、レーザー治療後にPRPを併用してニキビ瘢痕の改善効果を高める試みなどが報告されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。一部の研究では、炭酸ガスフラクショナルレーザー施術にPRPを組み合わせると瘢痕の改善が単独療法より顕著だったという結果もあり、複合的な再生美容治療として注目されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。さらに毛髪再生医療として、男性型脱毛症(AGA)の患者の頭皮にPRPを定期的に注射し、休止期の毛包を刺激することで発毛を促進する治療も国内外で行われていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。小規模ながらランダム化比較試験のメタ分析では、PRP療法により毛髪密度や太さの有意な改善が報告された例もあり、薄毛治療の新たな選択肢となりつつあります。ただし、効果の程度には個人差が大きく、標準治療と比べて明確に優れると断言できる段階には至っていません。美容外科では前述のように脂肪注入とPRPを組み合わせ、胸や顔面への脂肪移植の定着率を上げる工夫も行われていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。このようにPRPは形成外科・皮膚科領域でも幅広く応用されていますが、いずれも公的医療保険の適用外であり、自費診療として提供されているのが現状ですfujita-hu.ac.jp。
国内の導入状況と制度面: 日本では、PRP療法は前述の通り再生医療等安全性確保法に基づき第3種再生医療等として届け出・実施されており、2020年1月までの集計では全国で累計3,800件以上の再生医療が届け出られ、その約8割が第3種(主に歯科および整形外科領域)の治療で占められていましたjsrm.jp。この多数を占める治療の中心にあるのがPRP療法であり、特に歯科領域(歯周組織再生やインプラント周囲骨再生)および整形外科領域でPRPの提供件数が非常に多くなっていますcellprojapan.com。歯科でのPRP利用は本調査の対象外ですが、整形外科では変形性関節症に対する関節内注射や難治性腱障害への局所注射などが主な用途となっていますcellprojapan.com。これらはすべて現時点で保険適用外の自由診療であり、患者が全額自己負担する形ですfujita-hu.ac.jp。例えば国内の先進的な大学病院でも、PRP療法を希望する患者に自費治療として提供し始めている施設があり、藤田医科大学病院整形外科では変形性関節症などに対しPRP療法(約11万円/回)、さらに濃縮したAPS療法(約33万円/回)を導入していますfujita-hu.ac.jp。PRP療法を行うためには院内で再生医療等委員会を設置し安全管理を徹底する必要があるため、大病院からクリニックまで様々な医療機関が体制整備を行いながら導入を進めています。また学会レベルでは、日本再生医療学会がPRP提供計画書の雛形を公表するなどして普及と質の担保を図っておりjsrm.jp、日本整形外科学会なども研修会や講演を通じて医師への知識啓発に努めています。国際的にも、PRPガイドライン策定の動きはまだ限定的ですが、国際スポーツ医学会や形成外科学会などで症例報告や研究が多数発表され、徐々にコンセンサス形成が進んでいます。
4. PRPの有効性・安全性に関するエビデンス
有効性に関する研究: PRP療法の効果については、多くの領域で研究結果が分かれているのが実情です。肯定的なエビデンスとしては、例えば運動器領域では「PRPが慢性の腱障害に有益」という報告が複数存在します。前述したようにテニス肘や腱板症に対してPRPがプラセボやステロイド注射に比べ症状を有意に改善したとの中〜高品質の研究結果がありpmc.ncbi.nlm.nih.gov、膝関節症についてもPRP注射群で疼痛スコアやADL機能がベースラインから改善したとのデータが蓄積されつつありますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。一方で否定的または慎重な見解も少なくありません。たとえば変形性膝関節症に関する一部の比較試験では、PRP注射は対照のヒアルロン酸注射と1年後の痛み改善効果に差がない、あるいはプラセボ注射と比較して臨床転帰に有意差がみられないという結果も報告されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。また長期予後を検討した研究では、PRPの効果は数ヶ月〜1年程度で減弱しうると指摘するものもありますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。こうした相反する結果の背景には、対象患者の病期・年齢やPRP調製法の差異、比較対照の設定、評価項目の違いなど様々な要因が考えられます。実際、軽度の変形性関節症や若年患者ではPRPの効果が出やすい一方、重度の関節症(軟骨が高度に消耗した状態)ではPRPを投与しても効果が乏しいとの報告がありpmc.ncbi.nlm.nih.gov、適応の見極めが重要とされます。同様に、腱障害でもacute(急性)な損傷か慢性か、部分断裂があるかどうか等により効果に差が出る可能性が指摘されています。総じて、PRPの有効性は適応領域や患者の条件によって左右され、すべてのケースで万能ではないという点に留意が必要です。
ガイドラインや専門家の見解: PRP療法の位置づけについて、公的なガイドラインでは依然慎重な姿勢が見られます。米国整形外科専門医会(AAOS)は変形性膝関節症の治療ガイドラインにおいて、PRP療法を支持も否定もしない(推奨できる十分な根拠がない)との結論を示していますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。また米国股関節・膝関節学会や関節リウマチ学会による合同ステートメント(Hip & Knee Surgeons, Knee Societyなど)でも、現時点でPRPを含む生物学的治療を公式に推奨するにはエビデンスが不十分であり、有効性が確立されていないと報告されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。国際的な変形性関節症研究学会(OARSI)も同様に、PRPの有効性エビデンスはまだ限定的であり一般診療で広く推奨できる段階にないとしています。一方で、競技スポーツ現場や難治性の傷害治療に携わる専門家の中には、「保存的治療に反応しない慢性障害に対してはPRPを試みる価値がある」と評価する意見もありますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。美容領域でも正式なガイドラインはありませんが、脱毛症治療にPRPを用いることについて国内外の皮膚科学会で報告が増えており、「他の治療と併用することで効果を高められる可能性がある」といった前向きな見解が出始めています。総じて、PRPは有望だが発展途上の治療という位置づけであり、専門学会もエビデンスの蓄積を注視しながら慎重に推移を見守っている状況です。
安全性と留意点: PRP療法の安全性プロファイルは概ね良好です。他人の細胞や異物を使わず自家血液由来のため、免疫学的拒絶反応や深刻なアレルギーのリスクは理論的に極めて低くなりますfujita-hu.ac.jp。実際、報告されている有害事象は注射部位の疼痛や一時的な腫れ・熱感といった軽度の局所反応が大半で、通常は数日〜1週間程度で軽快します。感染症のリスクも、自家血液を用いる限り血液製剤によるウイルス感染といった心配はありません。ただし注射手技そのものの無菌操作を怠れば**細菌感染(注射部位の感染や関節炎)**を起こしうるため、施行にあたっては清潔操作の徹底が不可欠です。国内では再生医療安全確保法の枠組みにより、PRPを提供する医療機関には衛生管理や事故時の対応計画が義務づけられており、安全性確保に資する体制が整えられていますfujita-hu.ac.jp。またPRPそのものによる重篤な合併症は稀ですが、過剰な炎症反応には注意が必要です。PRP注射後に一過性に炎症が強まる「flare反応」が起こることがあり、関節内投与後に一時的に痛みや腫れが増悪するケースも報告されています。しかし多くの場合こうした反応は数日で治まり、NSAIDsや安静で対処可能です。現在までにPRP療法に起因する深刻なトラブル(例えば敗血症や不可逆的な組織障害)の報告は極めて少なく、適切な手順で行えば安全性の高い再生医療と言えますfujita-hu.ac.jp。とはいえ新しい治療法である以上、長期的な安全性についても今後の追跡調査が重要です。患者には現時点での有効性とリスク、未確定な要素について丁寧に説明し、インフォームドコンセントを取得した上で施術を行うことが求められますfujita-hu.ac.jp。
バランスの取れた情報提供: 以上のように、PRP療法は患者自身の治癒力を高める再生医療として幅広い可能性を秘めていますが、そのエビデンスは分野によって濃淡があり、効果が確立された適応もあれば依然議論のある領域も存在します。医師がPRPを扱うにあたっては、その歴史的背景やメカニズムを理解するとともに、科学的根拠に基づく有効性と限界を正しく把握することが重要です。また制度上、PRPは現在ほとんどが自由診療であり保険診療として行うには更なる証拠集積が必要な段階ですfujita-hu.ac.jp。患者にはメリットだけでなく不確実性や費用負担についても説明し、期待値の調整を行う必要があります。一方で、低侵襲かつ安全に試せる治療として、従来治療に反応しない症例にPRPを試みる価値は十分にあります。今後、国内外で質の高い臨床研究が積み重ねられれば、PRP療法の位置づけもより明確になり、適切なガイドライン整備や保険収載の是非の検討へと繋がるでしょう。再生医療が発展する中で、PRP療法はその橋渡し的な役割を果たす身近な技術として、引き続き臨床現場で重要な役割を担っていくことが期待されます。fujita-hu.ac.jp
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