―CPC(外部委託製造)を標準とする医師向け教科書原稿(凍結乾燥FDは扱わない)―
本章の目的とスコープ
本章は、PRP(Platelet-Rich Plasma:多血小板血漿)療法の婦人科応用について、医師が「制度・製造(品質)・臨床適応・安全性」を体系的に理解し、実装できるレベルの教科書原稿(本文)としてまとめることを目的とする。特に 日本国内の制度(再生医療等安全性確保法)と実装要件を最優先に整理し、その上で海外エビデンスを補完的に網羅する。
最重要の前提(本章の“扱わないもの”を先に明確化)
- 院内(ベッドサイド/院内ラボ)でのPRP調製は扱わない。
本章では、濃度(規格化)・無菌性・トレーサビリティ・QC/QA・法令対応を最大化する目的で、CPC(外部の特定細胞加工物等製造施設)への委託製造モデルを標準として記載する。 - 凍結乾燥(Freeze-dried, FD)製剤は扱わない。
婦人科領域において、FD製剤の有効性・同等性が臨床的に確立しているとは言い難く、本章の対象外とする。 - 同一患者由来であっても“製品形態”は厳密に区別する。
ただし本章の中心は **Fresh PRP(当日製造・当日投与)**である。
(PRF/i-PRF等は概念整理として触れるが、CPC委託モデルの標準運用から外れるため周辺知識として扱う)
1. 総論:婦人科領域におけるPRPの位置づけ
1.1 再生医療・補完療法としてのPRP
PRPは自己血から得られる血小板濃縮物であり、血小板由来成長因子(PDGF, TGF-β, VEGF, EGFなど)やサイトカインを介して、組織修復、血管新生、抗炎症/炎症調整、細胞増殖や遊走に関与すると理解されている。婦人科では、
- 子宮内膜環境の改善(薄い内膜、反復着床不全など)
- 卵巣機能低下に対する卵巣内投与(いわゆる ovarian “rejuvenation”)
- GSM/VVA(更年期泌尿生殖器症候群/萎縮性腟炎)や性機能障害
- 尿失禁(特にSUI)
- 外陰疾患(外陰硬化性苔癬など)
- 周術期・創傷治癒補助
といった領域で報告が増えている。
一方で、婦人科領域のPRPは、**“有望だが、標準治療として推奨できるだけの質の高い安全性・有効性エビデンスが不足しやすい”**という性格を持つ。たとえばARTの add-on としてのPRPについて、ESHREは「現時点では日常診療での使用は推奨しない(not recommended)」という立場を明確にしている。
1.2 エビデンスの現在地(婦人科全体の俯瞰)
婦人科、とくに**不妊・生殖医療(子宮内投与/卵巣内投与)**に関しては、Cochraneレビュー(2024)がRCTを集約しているが、結論は「効果は不確実(very low certaintyが多い)」「安全性データ不足」という慎重な評価である。
さらに、同レビューでは 早産リスク増加の可能性が示唆された試験もあり、妊娠成立後の安全性は“十分に語れるだけのデータが揃っていない”ことを臨床家は強く意識する必要がある。
2. 用語定義と分類:PRPの“定義”と“規格化”
2.1 PRPの定義:濃度ではなく「どれだけ投与したか(platelet dose)」へ
PRPは「血小板濃縮血漿」だが、現実には装置・遠心条件・分画・白血球/赤血球混入の程度・活性化の有無などで生物学的に“別物”になり得る。このため近年は、単に「血小板濃度が何倍」ではなく、注入された血小板の“絶対量”=platelet doseを含めて表現する考えが重要になる。
2.2 分類フレーム:DEPA分類とPAW分類
DEPA分類はPRPを標準化する提案として広く参照され、「Dose(注入血小板量)/ Efficiency(回収効率)/ Purity(白血球・赤血球混入の少なさ)/ Activation(活性化の有無)」で記載する。
PAW分類も同様に、(P)血小板の絶対数、(A)活性化の方法、(W)白血球の有無を柱として比較可能性を高める。
本章の実装方針:
CPC委託製造モデルでは、臨床現場にとって重要なのは「装置名」ではなく、最終製品の規格(platelet dose、WBC/RBC混入、活性化状態、無菌性、同定・追跡性)である。したがって本章では、DEPA/PAWの考えを用いて“比較可能なPRP”として規格化することを標準とする。
2.3 LR/LP(Leukocyte-rich / Leukocyte-poor)の整理
- LR-PRP(白血球多):炎症性サイトカインやプロテアーゼが増え得る一方、感染防御や免疫調整への寄与が議論される。
- LP-PRP(白血球少):炎症惹起を抑えたい領域(粘膜・関節・神経周囲など)で好まれることがある。
婦人科では、子宮内腔・卵巣・尿道周囲・腟粘膜など“無菌的操作が必須で、過度な炎症が望ましくない”部位に投与することが多く、理屈としてはLP設計が好まれやすいが、現時点で「婦人科はLPが優れる」と断言できるエビデンスは十分ではない(多くの研究がLR/LPを詳細に報告していない、あるいは手法が混在している)。
3. 日本の制度・法規制:再生医療等安全性確保法の実務
(※ここは“実装の失敗”が医療安全・法令違反に直結するため、臨床エビデンスと同等以上に重要である)
3.1 再生医療等提供計画:提出・審査・記録保存
再生医療等安全性確保法の枠組みでは、提供計画、委員会審査、報告、記録保存などの実務が定められている。厚労省の概要ページでは、保存期間として
- 特定生物由来製品等に類似の原料から成る特定細胞加工物等を用いる場合:30年
- 上記以外:10年
が示されている。
3.2 報告・様式(重大事態報告など)
厚労省の様式一覧には、疾病等報告書(委員会/厚労大臣)、定期報告書、重大事態報告書、重大な不適合報告書、さらに提供基準チェックリストなどが整理されている。CPC委託製造を前提とする場合でも、提供機関側は報告責任を免れないため、これら様式と院内体制は必須となる。
3.3 “委託製造”の考え方:院内で製造しないモデル
厚生局の疑義応答集(Q&A)では、例として「院内でPRPを製造し提供する場合は製造(届出/認定等)手続が関係する」一方、全量を外部に委託し、医療機関で製造を行わない場合は、医療機関が製造手続をする必要がない旨が整理され、同時に委託先が適切な製造施設であることの確認が求められる趣旨が示されている。Kouseikyoku+1
臨床的な要点:
本章では、この考え方をさらに進めて、PRPを「医療機関の手技」ではなく、“規格化された自己血由来製剤”として品質保証下で供給されるものとして扱う。これにより、無菌性・トレーサビリティ・取り違え防止・逸脱管理を設計段階から組み込む。
4. CPC委託製造モデル(本章の標準)
4.1 施設要件・契約・責任分界
CPC委託製造では、提供機関(病院/診療所)と製造施設(特定細胞加工物等製造施設等)との間で、最低限次を文書化する。
- 製造委託契約:責任分界(原料採血〜搬送〜製造〜返送〜投与)
- 品質取り決め(Quality Agreement):規格、試験、逸脱、変更管理、CAPA、監査
- チェーン・オブ・カストディ(Chain of custody):同一性保証、取り違え防止
- データ共有:ロット情報、COA(分析証明)、温度ログ、逸脱報告
- 有害事象時の連絡体制:24/7連絡、ロット隔離、回収(必要時)
4.2 原料採血〜搬送〜製造〜返送:フローの標準化
本章では**Fresh PRP(当日製造・当日投与)**を標準とする。よってフロー設計の核心は「時間・温度・同定」の3点である。
- 採血:
- 患者同意(再生医療等提供計画に基づく説明)
- 採血前の適格性確認(後述:禁忌/注意)
- ラベル(2要素以上:氏名ID+生年月日等)、バーコード化を推奨
- 搬送:
- 温度逸脱が起こり得るため、温度ロガー同梱を標準
- 受領側CPCは、受領時刻・温度・外観・封印を記録
- 製造:
- 可能な限り閉鎖系(オープン操作を減らす)
- RBC/WBC低減、分画の再現性確保
- 返送〜受領:
- 医療機関側は受領時に「同一性」「温度」「期限」「ロット情報」を確認し、受領記録とCOAを紐づける
- 投与:
- “受領→直前確認→投与→記録”の一連をチェックリスト化(付録参照)
4.3 製造工程(概念整理:本章は“院内手技書”ではない)
CPCでの工程は一般に、(1)分離、(2)濃縮、(3)不要成分低減、(4)必要なら活性化、(5)最終容器充填、(6)リリース判定、で構成される。
ここで重要なのは、「遠心条件そのもの」ではなく最終製品の規格により臨床的再現性を担保するという考え方である。
4.4 品質管理(QC/QA)と“規格”
4.4.1 platelet concentration ではなく platelet dose を中核に
- PRP中血小板数(/µL)×最終容量(mL)から **platelet dose(総血小板数)**を算出し、規格化する。
- DEPA/PAWの思想に沿って、投与される血小板量と混入細胞、活性化状態を記述する。
4.4.2 推奨されるQC項目(婦人科投与を想定)
- CBC(原料と製品):血小板回収率、RBC/WBC混入量
- 外観:溶血、凝集、フィブリン形成の有無
- pH(必要に応じて)
- 活性化状態:活性化をするなら方法を規格化(CaCl₂等)
- 無菌性の考え方:
- same-day投与では最終無菌試験の結果を待てないため、
- 工程の閉鎖性
- 環境モニタリング
- プロセスバリデーション
- 迅速微生物検出(実装可能なら)
を組み合わせた**“プロセス保証”**が現実的になる
- same-day投与では最終無菌試験の結果を待てないため、
4.4.3 ロット定義・逸脱/変更管理
- ロット=「単一患者・単一採血・単一製造バッチ」を原則
- 逸脱(温度逸脱、時間逸脱、機器異常、ラベル不整合)は投与前に必ず評価し、投与可否判定
- CAPAは提供機関にも共有し、再発防止を共同で設計する
4.5 保管・期限
Fresh PRPを標準とする以上、基本は **“当日使用”**である。
- 期限設定(採血→製造→投与までの最大許容時間)は、CPCの工程・輸送・安定性データに基づき規定する。
- 温度帯(常温/冷蔵)も含め、**逸脱時の扱い(廃棄/再採血/延期)**を事前に合意する。
5. 臨床各論:婦人科適応を体系化して教科書化
本章では、臨床応用を A 不妊・生殖医療 / B 卵巣 / C GSM・性機能 / D 尿失禁・骨盤底 / E 外陰疾患 / F 周術期・創傷に分類し、各項で「症状・用途・期待効果・限界・リスク・禁忌」を必ず記載する。なお、ART領域ではPRPは典型的に**add-on(補助療法)**であり、国際的には推奨されない(研究目的に限定すべき)という立場が強いことを、最初に明記しておく。
A. 不妊・生殖医療(子宮内投与)
A1. 薄い子宮内膜(refractory thin endometrium)
1) 病態・背景
薄い子宮内膜は、胚移植キャンセルや着床率低下に直結する実務上の大問題である。原因は多彩で、反復掻爬後、慢性子宮内膜炎、子宮内癒着、低灌流、ホルモン反応性低下などが絡む。
一般的治療(エストロゲン延長、アスピリン、ビタミンE、ペントキシフィリン、シルデナフィル等)に不応の症例が一定数存在し、補完療法としてPRPが検討されてきた。
2) 作用仮説(内膜)
PRP中の成長因子が、内膜の修復・血管新生・間質/上皮の増殖を促す可能性が議論される。ただし、どの因子が臨床効果に寄与するかは確定していない。
3) 適応(候補)と患者選択
候補:
- HRT周期または自然周期で、十分な内膜増殖が得られず、移植キャンセルまたは成績不良が繰り返される例
- 内膜厚のカットオフは研究により異なる(≤7mm、<8mmなど)
禁忌/慎重投与: - 活動性の骨盤内感染、子宮内感染が疑われる例
- 重度の出血傾向、抗凝固療法中(調整不能)
- 重度貧血、血小板減少(後述の採血基準に準拠)
日本の前向き研究(Kusumiら)では、Hb <11 g/dL、血小板 <150,000/mm³、抗凝固薬使用、妊娠などを除外としている。
4) 投与法・タイミング(CPC製剤を前提)
臨床報告の多くは院内調製PRPであるが、本章では CPC委託で規格化されたFresh PRPを同等の“自己血由来PRP”として用いる。
- 投与経路:一般に子宮内腔へのカテーテル注入(IUIカテ等)
- 投与タイミング:HRT周期でプロゲステロン開始前に複数回、または移植数日前(48–72時間前)など、研究により差が大きい
- 回数:1–3回の報告が多い(ただし標準化されていない)
5) アウトカムとエビデンス
国内(日本)
**Kusumiら(日本、前向き単群・自己対照)**では、薄い内膜(≤7mm)を対象に、HRT周期でPRPを投与し、内膜厚が有意に増加(盲検測定でも増加)、臨床妊娠率15.6%、有害事象なしと報告している。
ただし単群研究であり、胚要因や時間経過の影響を完全には除外できない。
国際(総合評価:Cochrane 2024)
Cochraneレビューは、子宮内PRPのRCTを集約しつつも、**ほぼ全アウトカムで確実性が非常に低い(very low)**と評価している。
また、早産リスク増加を示唆する試験があり、周産期安全性は重要な未解決課題である。
まとめ(薄い内膜)
- 期待効果:内膜厚の改善、移植実施率の改善、妊娠率上昇の可能性
- 限界:標準化された投与法がない、エビデンス確実性が低い、安全性(特に妊娠後)の報告が不足
- 推奨度:国際的には“routineには推奨されない”領域(研究・臨床試験としての位置づけが妥当)
6) リスク・禁忌・注意
- 子宮内操作に伴う:感染(内膜炎)、出血、疼痛、迷走神経反射、子宮穿孔(極めて稀だがゼロではない)
- PRP製剤に伴う:取り違え、交差汚染、凝集/ゲル化による注入困難
- 妊娠後:早産などの周産期アウトカムは十分なデータがなく、Cochraneでは“増加の可能性”が示唆された点を説明すべき
A2. 反復着床不全(RIF)
1) 病態・背景
RIFは定義が一定せず、胚要因(染色体異常、胚質)、子宮内膜要因(受容能、慢性炎症、癒着、血流)、免疫・凝固、内分泌など多因子が関与する。PRPは主に内膜要因の補正として提案されてきた。
2) 作用仮説
- 内膜受容能を支える分子環境(サイトカイン、接着因子、血管新生)への影響
- カテーテル挿入による機械刺激(いわゆるendometrial scratching様効果)との混在(プラセボ対照で評価が必要)
3) 適応(候補)
- 良好胚移植にもかかわらず妊娠不成立が反復し、内膜厚の問題がある/ない双方
- ただし、RIFの診断・原因検索(子宮内腔評価、慢性内膜炎、黄体補充、胚要因の再検討など)を行った上で、**“残余の内膜介入”**として位置づける
4) 投与法・タイミング
薄い内膜と同様に報告はばらつく。CPC委託のFresh PRPを用いる場合は、
- 同一患者・同一周期内でのロット管理
- 受領〜投与の時間管理(当日使用)
が重要になる。
5) エビデンス
国内(日本)
**Enatsuら(日本、後ろ向き)**は、RIF症例に子宮内PRPを行い、PRP後のET周期で hCG陽性57.4%、臨床妊娠50% と、PRP前周期(hCG陽性27.2%、臨床妊娠9.6%)より良好だったと報告している。一方で、内膜厚はPRPで増加しなかったとしており、“厚さ以外の質の改善”を示唆する。
ただし、後ろ向き・自己比較であり、同時期の治療変更や選択バイアスの影響を否定できない。
国際ガイダンス(ESHRE add-ons)
ESHREは、ARTにおける子宮内PRP投与は推奨しないと明記している(研究の質・安全性データ不足)。
系統的評価(Cochrane 2024)
Cochraneは、子宮内PRPの効果について不確実とし、ほとんどのアウトカムで確実性が低いと評価した。
6) リスク・禁忌・注意
薄い内膜と同様に、子宮内操作に伴う感染・出血などに加え、RIFでは介入が重なりがちである。
患者説明では「推奨されないadd-onである」こと、効果が不確実であること、安全性データが十分でないことを明確にし、同意取得の質を上げる必要がある。
A3. 反復流産(RPL)
1) 位置づけ
RPLに対するPRPは、報告が存在するものの、
- 病態(染色体、解剖、内分泌、免疫、凝固、慢性炎症)の異質性が大きい
- PRPの作用点が特定しづらい
- 妊娠後安全性を含むデータが薄い
という理由から、現時点では研究的介入の域を出にくい。
2) 用途(候補)
- 慢性子宮内膜炎や内膜菲薄、内膜環境不良が疑われる例への補助
- ただしRPLはまず標準的評価・治療(原因検索、抗リン脂質抗体、子宮形態、内分泌・染色体など)が優先である
3) 期待効果・限界
期待効果は“内膜の修復と炎症調整”だが、確証は弱い。Cochraneでも安全性を含め不確実性が強調され、慎重な姿勢が妥当である。
4) リスク
子宮内注入手技の一般的リスクに加え、妊娠成立後アウトカムの不確実性が最大の論点となる(患者説明の要点)。
A4. 子宮内癒着/Asherman、術後補助
1) 病態・背景
子宮内癒着は子宮内膜の基底層障害が関与し、手術(癒着剥離)後も再癒着が課題になる。PRPは“創傷治癒・再生促進”の文脈で検討される。
2) 用途(候補)
- 癒着剥離術後の内膜修復補助
- ただし、術後管理(IUD/バルーン、エストロゲン、感染予防、再評価)とセットで考えるべきで、PRP単独での位置づけは困難。
3) エビデンスの限界
婦人科領域では報告が増えつつある一方、標準化された手技・評価・長期成績が十分とは言い難い。ART add-on と同様、十分な質の研究を前提とした導入が望ましい(提供計画の設計で“研究的要素”を明確化する)。
B. 卵巣機能低下・卵巣内投与(ovarian “rejuvenation”)
B1. POR/DOR/POIに対する卵巣内PRP
1) 位置づけ:期待が先行しやすい領域
卵巣内PRPは「卵巣機能を回復させる」イメージで語られがちだが、現実には
- “卵巣予備能が増える”という強い証拠は限定的
- 採卵数が増えても胚質・出生率に結びつくか不明
という点が最大の論点である。
ESHRE add-ons は、卵巣内PRPは推奨しないと明確に記載している(RCT不足・安全性データ限定)。
2) 用途(候補)
- POR(poor ovarian response)、DOR(diminished ovarian reserve)
- POI(premature ovarian insufficiency)
ただし、適応設定そのものが難しく、研究デザインが必須。
3) エビデンス
Cochraneレビューでは、卵巣内PRPのRCTは極めて限られ、効果は不確実とされる。
一方、近年の研究として、PORに対して「採卵数は増え得るが胚盤胞の質は改善しない」といった結論の報告もある。
4) リスク・注意
卵巣は血流豊富であり、**出血・血腫・感染(膿瘍)**は重大。さらに経腟穿刺を伴う場合、抗菌薬や無菌操作、術後フォローは必須である。CPC委託製造であっても、製剤が無菌であることだけでは安全性は担保されず、手技側の感染制御が決定的となる。
C. 更年期泌尿生殖器症候群(GSM/VVA)・性機能障害
C1. GSM/VVA(腟乾燥、性交痛、灼熱感、再発性炎症様症状)
1) 背景と臨床ニーズ
GSMはエストロゲン低下に伴う腟・外陰・尿路症状の総称で、局所エストロゲンが標準的に用いられる。一方、乳癌サバイバーやAI使用などでホルモン療法が困難な集団では、非ホルモン介入のニーズが高い。
2) PRPの用途と投与法(報告の概観)
GSM領域のPRPは、腟壁や後交連などへの多点注射として報告される。乳癌サバイバーを対象とした試験では、腟管〜後交連に広く注入し、症状スコアや性機能、尿路症状の変化を評価している。
3) エビデンスの現状
- 単群パイロット試験で安全性・実行可能性が示され、症状や性機能の改善が報告されている一方、
- RCTや比較試験の蓄積はまだ限定的であり、標準治療の代替として一般化するには不足がある(とくに長期安全性)。
4) リスク・禁忌・注意
- 局所:疼痛、出血、血腫、感染、迷走神経反射
- 性感染症や細菌性腟症、カンジダなど活動性炎症が疑われる場合は、まず治療と陰性化確認が優先
- 免疫抑制状態では感染リスクをより慎重に評価
D. 尿失禁・骨盤底
D1. 腹圧性尿失禁(SUI)に対する尿道周囲/括約筋PRP
1) 背景
SUIは骨盤底支持の破綻・尿道括約機能低下が関与し、PFMT、手術(TOT/TVT等)、尿道注入材など多様な治療がある。PRPは“組織修復・括約機能改善”の補完療法として研究が進む。
2) エビデンス
- 周囲尿道PRP注射のRCTで、シャム注射より症状改善が優れていたとする報告がある。
- さらに、局所注射の前向き研究や中期追跡で改善を示す報告がある。
- A-PRPとPFMT併用が治療オプションになり得る、ただし大規模第III相が必要という見解も示される。
3) 期待効果
- ICIQ-SF、UDI-6、IIQ-7など患者報告アウトカムの改善
- 一部で効果持続が示唆されるが、投与回数・最適注入部位・適応の精密化は未確立
4) リスク・禁忌
- 尿道周囲投与:血腫、感染、疼痛、排尿困難
- 抗凝固/抗血小板薬、出血傾向、尿路感染は要注意
E. 外陰疾患
E1. 外陰硬化性苔癬(VLS)など
1) 位置づけ
外陰硬化性苔癬は第一選択が強力ステロイド外用であり、PRPは主として難治例・補完療法として報告される領域である。婦人科での標準治療の代替としてではなく、研究的に位置づけるのが安全である。
2) 注意点
- 病変評価(悪性化/上皮内病変除外)が最優先
- PRP介入を行う場合でも、標準治療(ステロイド)をどう位置づけるか、プロトコール上明確化が必要
F. 周術期・創傷治癒(会陰・腟手術・瘢痕など)
F1. 会陰裂傷/会陰切開後、腟手術後、帝王切開瘢痕
創傷治癒補助としてPRPが提案されることはあるが、婦人科手術領域では適応とデータの質がまだ一定しない。
導入する場合は、適応を厳格に絞り、評価指標(疼痛、治癒日数、感染率、瘢痕評価)を事前に規定したうえで研究的に実装することが望ましい。
6. 安全性・リスク管理(CPC委託製造を含む)
6.1 有害事象:局所手技としてのリスク
- 感染(局所〜菌血症)、血腫、疼痛、迷走神経反射
- 腟・子宮内・尿道周囲など“粘膜/無菌腔”に介入するため、感染制御が最重要
6.2 血液由来製剤としての固有リスク
- 取り違え(同一性崩壊)
- 交差汚染(オープン操作、器材再使用、環境不備)
- 表示/ロット/記録不備による追跡不能
6.3 CPC委託製造特有のリスクと対策
- 搬送遅延、温度逸脱 → 温度ログ、受領判定基準
- ロット取り違え → 二重照合、バーコード、封印
- 逸脱が起きた時の投与可否 → 事前取り決め(Quality Agreement)とCAPA
6.4 妊娠成立後のアウトカム
ART領域では、Cochraneレビューで 早産リスク増加の可能性が示唆された報告があるため、妊娠後安全性の説明と追跡は不可欠。
現時点では「安全」と言い切る根拠が十分でないため、提供計画上もフォローアップ設計を厚くするべきである。
7. 実装のための標準化(付録:ドラフト)
付録1:CPC委託契約チェックリスト(要点)
- 委託範囲(採血後の全工程か、採血キット供給を含むか)
- 規格(platelet dose、WBC/RBC、活性化、最終容量、外観)
- COA提供、温度ログ、ロット情報
- 逸脱/変更管理、CAPA、監査権限
- 有害事象時の情報連携(24時間体制)
- 記録保存とアクセス権(提供機関の保存義務と整合)
付録2:受領・保管・投与時チェックリスト(例)
- 患者ID二重照合(氏名+生年月日等)
- ロット番号・有効期限・温度ログ確認
- 外観(凝集、溶血)
- 投与直前の感染徴候確認
- 投与記録(部位、回数、使用量、合併症)
付録3:患者説明・同意書(骨子)
- 目的:標準治療の補助(add-on/補完療法)であること
- エビデンス:効果が不確実、推奨されない領域があること(特にART)
- 代替療法:標準治療の選択肢
- リスク:感染、出血、疼痛、取り違え等
- 妊娠後:周産期アウトカムが十分に確立していないこと(早産の可能性など)
付録4:逸脱/有害事象報告テンプレ
厚労省様式(重大事態報告等)に沿った運用を前提に、院内の一次テンプレを整備する。
8. 参考文献(主要一次情報:国内優先+国際)
制度・手続(日本)
- 厚生労働省:再生医療等提供計画の提出等(保存期間含む)
- 厚生労働省:再生医療等安全性確保法 申請書等様式(重大事態報告書等)
- 厚生局 疑義応答集(委託製造・院内製造の考え方)Kouseikyoku+1
PRP規格化
- Magalon J, et al. DEPA classification. BMJ Open Sport Exerc Med. 2016;2:e000060. DOI:10.1136/bmjsem-2015-000060.
- DeLong JM, et al. PAW classification. Arthroscopy. 2012.
ART(子宮内/卵巣内PRP)
- Vaidakis D, et al. Autologous PRP for assisted reproduction (Cochrane Review). 2024.
- ESHRE. Good practice recommendations on add-ons in reproductive medicine (PRP not recommended). 2023.
- Kusumi M, et al. Reprod Med Biol. 2020;19:350–356(日本 前向き単群自己対照)
- Enatsu Y, et al. Reprod Med Biol. 2021/2022;21:e12417(日本 後ろ向き)
- Barrenetxea G, et al. Hum Reprod. 2024(卵巣内PRP:採卵数増加も胚盤胞質改善なし)
尿失禁・骨盤底
- Grigoriadis T, et al. Periurethral PRP vs sham(RCT). 2024.
- Long CY, et al. Sci Rep. 2021(SUI局所注射の前向き報告)
- Chiang CH, et al. Front Pharmacol. 2022(尿道括約筋PRP)
- Saraluck A, et al. Neurourol Urodyn. 2024(A-PRP+PFMT)
GSM/VVA
- Chen AH, et al. GSM(乳癌サバイバー)単群パイロット. 2025.

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